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魔王ちゃん観察日記  作者: カカカ
25/28

マオちゃんの異世界生活 21日目

 

 縁側に座って麦茶を一口。

 庭の上に切り取られた空はいやに青くて、分厚い雲が面白いほど速く流れていく。

 風雲急を告げるって感じの……って使い方合ってるかな?

 まあ何にせよ、今の気分にぴったりの落ち着かない天気だなぁ。


「みてみて!」


 嬉しそうな声に引かれて眼を向けると、ブルーベリーの苗に新芽が生えかかっていた。


「でた! けど、はずれー」

「外れ?」

「ぶるーべりーじゃない!」

「あー」


 まあね。気持ちは分かるけどね。


「でもたのしい!」

「おっ、そうか。良かったな」

「うん!」


 本当に良かった。自分で何かを育てる経験が、ちゃんとマオにいい影響を与えているみたいだね。


「ふーた、マオちゃん、そろそろ行くよー」

  「筋繊維が……一本一本が……くぅぅう! いけるか? 商店街まで歩けるか、わたし?!」


 玄関の方から籐子と勇者の声が聞こえる。

 これから商店街で作戦会議なんだけど、何故か俺たちも呼ばれてるんだよね。

 新鮮な意見が欲しいんだとか。

 まあ商店街に縁のある若者なんて、俺たちもぐらいだしなぁ。

 でも。もしも勝負に負ければ、店主の人達がずっと守ってきた場所が全て無くなる訳で。その喪失感とかを思うと、こう、話が大きすぎて、ちょっとプレッシャーだったり……。


「ころっけ、まもるよ!」

「はは……うん、そうだな」


 難しく考えても仕方ないか。

 これからも木村屋でお肉を買いたい。気持ちの所在は多分、それで良いかな。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて。まずは状況の確認から始めるぞい!」


 丸山飯店の赤と黄色が目立つ室内で、早越さんの仕切る声が響く。

 誰が持ち込んだのか、中華屋に似合わな過ぎて違和感を放つホワイトボードに、今回のデパートとの勝負方法が列記されてゆく。


 思ってたよりルールはシンプルだった。来週日曜日から再来週の日曜日までの一週間、デパート全体と商店街の全店舗で売り上げ額を競うらしい。

 ……うーん。

 結構、いやかなり厳しいんじゃないかなぁ。

 分かっていたことではあるんだけれどね。


「さて、今のままでは勝てない訳じゃが、なにか案のあるやつはおらんか?」


 そこからの会議はすごかった。カオスな意味合いで。

 活発に意見が出てはくるんだけど……いまいち打開策というには物足りない。

 ご近所まわりが来てくれるように声かけするとか、一週間安売りセールをやるとか、おじいさんおばあさんの家まで移動販売を始めるとか。

 確かに効果はありそうなんだけど、なんか、こう、ぱっとしない。

 みんな地域に根ざした案なんだよね。確かに効果はあるだろうし、普段なら悪くはないんだけど……。


「おい風太、おまえはどう思うんじゃ」

「インターネットとかSNSで目立つ個性をつけて、いつもは来ない人を呼ぶとか」

「確かにご新規さんが増えなけりゃ、勝ち目はないじゃろうな。……じゃがそれはデパートと同じ戦法。似たような方向性では二番煎じになってしまうわい」

「う、確かに」


 相手の真似をしたところで、後発だと情報を拡散させる時間が少なくなる。たった一週間で、一から企画して、しかも同等以上に拡散させる、ってのは無茶だよね。


「「……」」


 発言が止まってしまった。そりゃそうだよね。ご新規さんが簡単に増えるなら、もっと前から実行しているわけで。そうなっていれば、そもそもぽっと出てきたデパートなんかと勝負することもないわけで。

 改めて不利な戦いだってことが身にしみる。

 ねっちゃりと靴底がへばり付く店内で、誰しもが項垂れていた。


 黄桜さん以外は。


 異世界で親衛隊長を務めていたらしいと彼と、そのオタク仲間たちが一瞬ニヤリと笑う姿が視界の隅に写り込んだ。

 何だろうか。なにか打開策でもあるのかな?


 案の定、彼らは重苦しい空気を裂いて立ち上がった。


「おっほん。ではここで情報を一つ」


 何事かと視線を集める中、黄桜さんが真面目な表情でそう切り出した。

 早越さんに了承を得てホワイトボードに二つの数字を書き込み始める。

 そこに示された値には十倍以上の差があった。

 何の数字なのかな。


「これは商店街とデパート、それぞれ一週間分の総売上額だ」


 丸山飯店がざわつく。


「あくまでも参考値だが、大凡は合ってると思うぜ。 さて、これをなんとかするには……来客数と一人あたりの購入価格を積算で五十倍にする必要がある」


 ざわめきが加速する。目標値が明確になったことで明確な差を突きつけられる。


「……無茶だ」 


 誰かの呟きが耳に届く。小さな声にもかかわらず、それはよく響いた。

 耳朶に染み渡ったその悲嘆を噛み締めて、水を打ったように静まり返る店内。

 そんな中、待ってましたとばかりに黄桜さんが口角を上げる。


「果たして、そうかな?」


 何かを凄い事をやらかしてくれる。

 ついそんな期待を膨らませてしまう、大胆不敵な笑顔だった。




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