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魔王ちゃん観察日記  作者: カカカ
11/28

マオちゃんの異世界生活 7日目

 

 昼ご飯の後。

 居間にて。


 マオとタマが睨み合っていた。

 彼女たちの間には猫じゃらしが揺れている。


「……」

「……ニャッ」


 先手を打ったのはタマ。素早い初動で猫じゃらしに飛びかかる。


「んっ!」


 その動きに反応して、マタドールのように腕を逃す! が、その手にあったはずの猫じゃらしは、タマの肉球に押さえ込まれていた。


「むぅ! かえせ!」


 口先を尖らせながら柄を掴む。


「ふぬぬぬ!」


 そして力一杯引き抜こうと、って危ないなこれ。


 ブチッ!


 案の定、猫じゃらしが力に耐えきれなかったみたい。千切れた拍子に後頭部から畳に激突、しそうだったのを何とか受け止めた。セーフ。


「おっと、大丈夫か?」

「む……ごくろう」


 そう言って目線を逸らされた。

 ずいぶん偉そうだなぁ。


「そういう時は、ありがとうって言いましょう」

「う、うるさい!」


 ペチペチ、と二の腕を叩かれる。

 扱いがひどい。

 てか、ちゃんと良い子に育てられるかなぁ。

 少し心配になる反応だよね。


 そんな事を思う間にもペチペチは続く。

 今やリズムに乗ってエイトビートを刻んでいる。

 めっちゃ楽しそうだ。


 感情がコロコロ変わるなぁ。これはもう、細かい事を気にしたら負けなんだろうね、うん。

 そんな感じでマオとじゃれていたら、玄関から引き戸の開く音が聞こえてきた。



 ガラガラガラ



「山中フラワーです」

「お、きたきた」


 電話で頼んでいたアレが来たみたいだ。

 商店街にある生花店のお兄さんから大きなビニール袋を受け取り、一旦書斎に行ってから居間へ戻る。


 宅配サービスって便利だよね。

 でかい植物を持って帰るのはちょっとしんどいし。


「むむ。なんだそれ?」


 お、マオが興味を示してる。


「あ! まさか!」


 おっと、勘付いたのかな?そうです、これは……


「『ゆるふぇらみと』のおにくだな!!」


 ちげぇよ! てか何それ!

 たぶん異世界語だろうとは思うけど……。


「ちがうのか? なあ、ちがうのか?」


 グイグイ来るなぁ。

 この反応からすると、すごく美味しい生物のお肉……だったりするのかな?

 ちょっと気になる。


「ちなみにその『ゆるふぇ何とか』ってなに?」

「む、えーと……あれ?いえない」

「え?」


 どゆこと?


「なんか、ことばがない」


 言葉がない? 日本語で言えないってこと?

 前にクロの名前を決めた時は、ちゃんと異世界語と日本語の両方があったはずだよね。

 だとすると……あれかな。異世界にしかない物だから単語が出て来ない、みたいな。


「その『ゆる何とか』はどんな生き物なの?」

「んーと、しろくてふわふわしてて……」


 ふむふむ。


「みみがながくて……」


 ウサギの亜種みたいな生物なのかな?


「あしがにょろにょろしてて……」


 はい、すぐ気持ち悪い。


「くちがとってもおおきくって……」


 丸呑みにしてくるんですね? わかります。


「それで、めがすっごくあかいの!」

「お、おう」


 最後がやたら怖いなぁ。ウサギ要素なのに。

 まあとりあえず、やばい生物なのは分かった。

 もし異世界に行けたとしても食べたくない。


「いっちばんおいしいまものなんだぞ!」

「残念だけど、この世界に魔物はいません」


 そう言いながらビニール袋を取り外す。

 中から出てきたのは、植木鉢に入った膝丈くらいの小ぶりな苗木。


「……き?」

「これはブルーベリーの苗です」


 書斎から持って来た『ジャムのすべて〜歴史から作り方まで〜』の表紙を指し示す。

 そこにはオレンジやイチゴ、ブルーベリーの果実と瓶詰めジャムが描かれていた。


「じゃむ!!」


 心底嬉しそうに本へと飛びつくマオ。

 ワクワクが止まらないのか、小さなお尻が左右に揺れている。


 どんだけやねん。ジャム好き過ぎるやろ。


「じゃむ、つくれるのか?」

「作れるけど、そのためにはブルーベリーを育てないとね」


 生花店のおっちゃんに頼んで、既に受粉を済ませてもらっているから、あとは適切に水やりすれば簡単に収穫ができる状態です。

 あんまり時間がかかったり難し過ぎたりすると、マオが嫌になって止めちゃうかもしれないからね。

 おっちゃん曰く、品種もラビットアイブルーベリーってやつで、量も多く獲れるし比較的初心者向けなんだって。

 ジャムにするには量が必要だから丁度いいね。


「ちゃんと世話しないと、ジャムが食べられなくなるぞ」

「ふん、らくしょうだし! こんなちっちゃいやつも、いっしゅんでおおきくできるし!!」


 胸を張って仁王立ちするマオ。

 なら、お手並み拝見といきますか。


「まずは水のやり方から教えます。よく聞けよ?」

「よし、おしえろ」


 その後、縁側を降りた場所にブルーベリーを設置して、マオに水やりを教えた。


 植物にとっては食事と一緒なんだよ、と教えると真剣味が分かりやすく増した。

 ちゃんと相手の身になって考えられる子だな。

 そう思うと頬が緩んだ。




 一時間後。


「じぃー」




 二時間後。


「じぃーーー」




 三時間後。


「もう夜御飯できたぞー」

「むむむ……こっちにもってこい!」


 仕方なく縁側でご飯を食べる。

 そこそこ蚊に刺された。




 五時間後。


「お風呂入るぞ!」

「ぜったいやだ!!」

「じゃあジャム作るの手伝ってあげなーい」

「ぐぬぬぅ……!」




 六時間後。


「すぅ……すぅ……」


 鉢植えの前で眠るマオの姿があった。


 カナカナカナ、と蝉の鳴く声だけが響く。

 この子が起きている時の騒々しさが嘘のようだ。


「……まだ一週間か」


 マオが来てから、慌ただしくもぎっしり詰まった時間を過ごしている気がする。

 それは俺だけじゃなく、きっとこの子もなんじゃないかなと思ってみたりもする。今日は特にそう思った。


 出会い頭に威嚇するだけだったマオが、だれかと繋がるための努力を始めた。

 生きるためだけに食べ物を摂取していたマオに、ジャムという好物ができた。


 きっとこれからも色々なものが増えるだろう。


「……」


 異世界では上手く環境と合わなかったみたいだけど、ここでならきっと大丈夫だ。

 いや、そうなるように見守ってあげなきゃね。


「あれ?」


 ……そういえばマオもそうだけど、神様もこっちに来てるんだよね。

 そんなふらっと居なくなって大丈夫なのかな?



 〜本日のマオちゃん観察結果〜

 ブルーベリーを育て始めた。

 

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