gameoverでも地球は廻る
「ごめん。別れよう。ウチはこれから部活も忙しくなるし、勉強も二年になってからしんどくなって、とても会う時間作れへん」
メールの文面を見た時、気が動転しそうになった。ごめん、別れよう。その文字を見ただけで心拍数が跳ね上がる。嘘だ。悪い冗談だろ?
ケータイに表示される時間は0・15分。唐突の文面は、俺を部活による眠気を一蹴した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
叫んだ。何故か叫びたかった。下から母の五月蝿い! との声が聞こえたが、関係無い。それどころではない。
落ち着け、まずは深呼吸だ。ゆっくりと息を整える。
確かに、最近部活の予定が合わずに会えなかった。ーは吹奏楽部のコンサートのせいで、俺は部活の試合のせいで時間が合わなかった。
だとしてもだ、何で「最近時間ないよね笑?」の一文の後にこんなガチな文章が送られて来たんだ?
ケータイに、「待って、状況が飲み込めない」と打ち込み、そこで意識が手の動きを止めた。ケータイを切る。
電気を消す。本当は何で? とか、意味が分からないとか送りたい所だが、ダメだ。焦っている時に感情に流されては。余計に状況を悪化させる。ここは一先ず落ち着こう。よし、寝よう。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス精神。羊を数えるんだ。そう、数えている間に就寝できるさ。よし、1.2.3.……100
あれ? 3桁に達しちゃったよ? 大丈夫? なんて心配したが、2000まで無心で数える頃には意識が、消えていた。何気二千まで行く俺は凄いんじゃないか。関係ないか。
混乱が冷め、窓辺からの朝日で意識が醒めた。同時に昨日の事が頭に過る。
「違うな。あれは夢だろう。だってなぁ、四ヶ月も付き合ってそんな急にケンカした訳でも無いのに……ねぇ?」
可笑しい。全く、怖い夢だ。正夢だけにはなってくれるなよ。と、ケータイを見る。
「今は部活と勉強に集中したいの」
「おふっ!」
電源を付けた瞬間、その文字が目に入った。LINEの名前にはしっかりと『ー』と入っている。いや、違う違う。見間違いだな。クラスに似てる名前の奴居たじゃん。そう、 阿弥陀如来くんからのLINEだよこれ。そんな人がいた気がする。バレーとかしたらめっちゃ強そうだな。バスケでも良いな。伝説のフンフンフンディフェンス出来るよ。
何て現実逃避をしている間もなく、落ち着かないままで、学校へ行く準備をした。
無論、勉強などやる気にならない。全てが机に突っ伏し50分が過ぎる。
六時間目、移動教室の時に数学の時間阿未とすれ違った。目があったのは一瞬で、彼女は気まずそうに、逃げるように目を逸らした。
目を逸らすのはいつもだ。大抵の場合、彼女は恥ずかしそうに下を向いてしまう。けれど今日のそれは明らかに違う。早足で阿未は通りすぎてしまった。
声を掛けるなど論外。文面からも感じていた感情、それが彼女本人から見て取れてしまった。曇り空の微弱な光は、去って行く阿未の影も残さない。残ったのはだだ、気持ち悪い胸の蟠りだけだ。
その日の放課後。吹奏楽の女子、友人の松本さんを捕まえた俺は相談に乗って頂こうとした。彼女と話をする為、別れ話を取り消す為にどうしようかと悩んだ俺には、その容貌からも天使のように思えた。
「じゃあ、スタバ奢ってくれない? え? 60円しかない? 意味分かんないんだけど」
そう言うと松本さんは足早に駅の方向へ僕の元から去ろうとする。よく考えたら友達でも無かったな。訂正、ただの悪魔だ。松本クソビッチが。
が、その足がピタッと二、三歩歩いた所で止まる。いかにも鬱陶しいと言うような視線をぶつけてくる。
「悩んだって仕方ないよ。相手が終わりと思ったら終わり。関係が治ったとしてもそれは現状維持なだけ。少し別れが遅くなるだけだよ。だから、諦めな。じゃっ!」
最後に小悪魔っぽく、あざとい笑顔でそう言い残し、今度こそ松本さんは駅に向かい歩いて行った。
自宅へ帰りにベッドに転がり込む。とりあえずだ、困った時は『yahoon!』の知恵袋だな。
彼女との寄りの戻し方で俺は検索をかける。
「彼女に別れて話しを切り出されました。好きなんです。別れたくありません。どうしたらいいですか?」
素晴らしい! これこそ俺と同じ状況だな。来いグットアンサー!
指でフリックして回答を見る。
『回答→それはもうどうしようもありません。二人の関係なんですからどちらかが別れようと言った時点で終わりなのです。潔く諦めましょう@松o修造』
「嫌だ! 諦めてたまるかよ! ってか修造よ! 口癖は諦めるなだろう! 何でそのペンネームにした!」
しかし、その言葉はやけにしっくりと胸に落ちた。納得したくはない。けれど確かにそうだ。これは二人の問題で、ーが嫌と言うのに、どうしようと言うのだ。それは只の押し付けであり、自己満足であり、阿未に対して。いや、『ー』に対してだから。
俺の気持ちを押し付けるなんて事は出来なかった。
翌日。特に彼女への返信はしない。最後に相談したのは親友の和人だ。
教室は窓を閉め、クーラーが効いいる。蝉の声がやけに五月蝿い。
「もう一度話してみろよ。彼女がどう思ってるかしっかり確かめて、それでも無理なら仕方ない」
あっさりと、和人は言い放った。
「いやっ、でもさ……そんなの」
「彼女は今も、お前のことが好きなのか?」
そんなの、そうに決まってるだろ。いや、そうであって欲しいと願っているのだ。分からないのだ。彼女の気持ちなんて。初めて俺は彼女の事を何も分かってないんだなと、自覚出来た。
LINEを開く。文明はシンプルに。ただ、5時に教室前へとだけ打った。相手からは分かったとだけ、返事が来た。
10分遅れて彼女は来た。黒髪のツインテール。白く綺麗な肌に大きな目。少し子供っぽさが残る顔立ち。間違い無く可愛いと言えるだろう。
「話って?」
いつ以来だろうか。直接彼女と面と向かって話すのは。空はゆっくりと夜へ向かって行く。空が黄金色に色づいていた。
「会えなくてもいい。俺は『ー』が好きだ。それじゃダメなのか?」
一呼吸、間が開く。彼女が視線を落とした。
「それって……付き合う意味あるのかな?」
この瞬間、分かってしまった。阿未は俺の事が好きじゃないのだ。全ての疑問も、悩みも、綺麗に頭から消えていく気がした。全て思い込みだったのだ。いつからだろうか。いつから彼女は俺の事を好きじゃなくなったのか。
いや、そもそも、彼女は俺の事が好きだったのだろうか。
彼女にとっては、友人の延長線だっかのかもしれない。形だけで、気持ちは無かったのかもしれない。そんな気がした。分かってしまった。それ以上の言葉はいらない。
何もしてなかったのだ。ただ、好かれていると思い込み続けていただけだった。LINEされる文字の表面をなぞるだけで。
「うん。別れよう。今まで、ありがとう」
それだけ言って、俺はその場から消えた。
恋とは何だったのか。空は茜色に染まり、雲や、山を色付けていく。帰り道の電車でただぼおっと考えていた。だだの自己満足か。これは。まるで、関数のように、軸同士が交わるように。それが始まりで、それが終わり。そこからは交わる事は無く離れて行くだけ。付き合う。その行為の後に俺と阿未の距離は近くなってたのだろうか。
なっていなかったな。
気付けば電車は終点で、空は暗くなり、茜色の空は黒に塗りつぶされている。
帰ろう。帰って寝てしまおう。いずれ消える。この気持ちも、この胸の痛みも。分からないモノ全て忘れてしまおう。今はそれしか出来ない。
終わってみれば簡単な話だ。恋した女性と近づいて、優しさで付き合って、でも彼女は三ヶ月で自分の気持ちに気がついた。だから別れた。
俺は全部忘れようと、ベットに倒れ込んだ。
そして三日後、自転車で帰る俺は、帰り道に手を繋ぐ、『ー』と和人を目撃した。
一度足を止め、次の瞬間、和人へ向け俺は自転車のペダルを踏み込んだ。
短編、書いてみました。上手くない文です。
それでも、読んで頂けてありがとうございした。
感想、評価ありましたら是非お待ちしております。