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 クラディウスの視線を振り切るようにして窪地を離れたアシェリアは、小屋へと戻る気にはなれず、気付けばこの森に居ついてすぐに気に入った一本の樹の上にいた。

 月の光を受けとめようと伸びをするように広がった枝も、艶めく緑の葉も、全てがアシェリアをそっと懐に抱き締めるように地上から隠していた。

 とうに日が沈んでいることは分かっていたし、彼らが小屋を出てがさがさと音を立てながらアシェリーを呼ぶ声も聞こえていた。それでも戻れなかったのは、クラディウスとの会話で引きずり出されたものが心に巣食っていたからだ。

 きらめき始めた星々を木の葉の間から眺めていると、生まれた森を出てこの世界に出てきたばかりの頃のことが思い出された。正しくは、アシェリアが初めて言葉を交し、長い時間を共にした人間のことだ。彼と過ごしたあの時から数百年が過ぎた今も心の底では分かっていたのに、自覚しようとしなかったことがある。

 彼が夜空を見上げて言った言葉。それはアシェリアが持つ、彼の最後の記憶だ。

「長い間生きると、過去ばかりが重たくなっていく」

 ぽつりと呟いた彼は、出会った時よりも皺の増えた顔をアシェリアに向けて笑った。

 ―――あまりに重くて捨てたくなる時も来るだろう。それでも、お前との過去だけは誰にもやるものか。

 昨日のことのようだった。頭上の紺碧はあの夜と変わらない。アシェリアの顔はくしゃりと歪んだ。

「あなたは分かっていましたか。いつまで経っても私があなたを忘れられなくなることを。ねえ、……シリウス」

 今の私はあなたとの過去が重い。あなたとの日々が捨てたくても捨てられない。

 アシェリアの耳には二人分の足音が近付いてくるのが聞こえていた。人間たちから、いや、シリウスの記憶から離れるために手を取った双子の吸血鬼。人間たちの手から守るという自己満足の大義名分を掲げ、幼かった彼らを利用したようなものだ。

「アシェリー」

 アシェリアが自嘲するように笑うのと、いつものように二人の声がぴたりと重なって聞こえてきたのは同時だった。見下ろせば、見逃さないというように強い光を灯した赤い目が木の下から見上げていた。

 どこにいたって見つけてしまうのだ、この二人は。暗い淵から日の当たる場所へ引きずり出されたような気がした。

「おいで」

 アシェリーが言えば、双子の吸血鬼はエルフに負けず劣らず見事にするすると大樹を登ってきた。アシェリーの元までたどり着いたとたん、両脇からがしりとしがみつくように抱き締められる。

「アシェリー、遅い」

「アシェリー、何で帰って来ないの」

「すみません。少し夜空が近くで見たくなったもので」

 じぃっと見上げてきた四つの瞳には不審の光がありありと点っていた。それを知りながら、アシェリーは抱きつく二人をそのままに地上で見るよりも近くにある月を見上げた。雲一つない空で、現れた銀色の光源は完全な円を描いている。

「長い間生きていると、未来よりも過去を見ることの方が多くなるのですよ」

 二人の柔らかな髪を撫でながらも、アシェリーの視線は空から離れなかった。

「二人にもそろそろ分かるでしょう、夜というのは過去に浸るのにちょうどいいのです。……ああそうだ、二人にも少し聞いてもらいましょうか」

 独り言のような口調に、ロワとユンの抱きつく腕の力が強くなった。まるで、過去がアシェリーを連れ去るのを阻もうとするように。






 それは、闇の生き物がまだはびこっており、人間の勢力が大陸の歴史に影響を及ぼし始める前のこと。

 アシェリアは故郷の森を出て旅を始めた。永遠を持たないからこそきらめく有限の世界は、同族の中では赤子同然のアシェリアの心をいつからか絶えず惹きつけるようになっていた。仲間の制止を振り切り、供も付けずに飛び出したアシェリアは、たった一人で山を登り川を渡り、大陸中を旅して回った。季節ごとに違った顔を見せる景色に胸を高鳴らせ、故郷の森の変化のなさを陳腐だと思った。

 そうして旅を続ける中で、ある日人間の集団と出会った。有限の生物の中でも特に寿命の短い人間は弱くてそこまで数も多くなかったから、アシェリアも人間を間近で見るのはそれが初めてだった。

 だから興味を持ってその人間の集団にこっそりとついて行った。定住の地を持たない彼らの中には女も子供も老人もいる。それを守るようにして男たちは誰もが武器を持っていた。どの人間も皆、暗い表情をしていた。日が沈めば火を焚いて一晩中消えないように見張り、それ以外の者は皆その火の傍で互いに寄り添うようにして眠っていた。

 ―――まるで世界に怯えているようだ。

 しばらく人間たちの生活を見ているうちに、アシェリアはそう思った。不安げに肩を寄せ合い、息さえ隠れるようにする人間の様子は、自分の意志で故郷を飛び出して足の赴くままに美しい世界を歩き回ったアシェリアからすれば理解できなかった。

 何に怯えているのだろう。なぜ?その疑問を解く機会はすぐに訪れた。

 夜陰に紛れ、闇の生き物が群れで近付いてくるのに、人間たちはいつまでたっても気付かない。ようやく男の一人が剣を抜いたのは、アシェリアの目が一匹一匹の細部まで見分けられる距離にまで来てからだった。

 女や子供、老人を中心に集め、男たちが闇の生物を迎え撃つ。敵は弱く問題はないだろうと思っていたアシェリアは、男たちのうちの一人が倒れ二人が倒れるのを見てこれは勝手が違うと思い直した。闇の生物の鋭い牙に爪に容易く餌食になる人間。アシェリアが想像していた以上に人間は弱かった。

 防御陣は突破され、逃げ遅れた人間の女の腕の中には赤ん坊がいた。彼女の目には恐怖があったが、それ以上に強い意志が浮かんでいた。鋭い牙が迫る中、泣き叫ぶ赤子を隠すようにして強く抱き締めた彼女。

 足が遅い。耳も目も鼻も良くない。この大陸の他のどの生き物にも、これほどの弱さはない。それでも赤子を守ろうとする思いは等しいのだと、アシェリアは知った。そして気付けば、抜身の剣を片手に人間と闇の生物が混じり合う集団に飛び込んでいた。

 エルフだ、エルフの女だ。歓声のような言葉が行きかう中、アシェリアは次々と闇の生物を切り捨てていった。

「助太刀、感謝する!」

 疲れが滲んではいてもはっきりとした声音でそう言ったのは、最も早く敵の存在に気付いた青年だった。彼の緑の瞳には怯えの色は欠片もない、アシェリアにはその理由がはっきりと分かった。いつ死を迎えるか分からないという絶望に染まった人間たちの中で、彼は生きようとする意志を誰よりも強く持っていた。

「あなたはどうやら他の人間とは違うようですね」

 戦いの後、アシェリアは緑の瞳の青年にそう声を掛けた。アシェリアがエルフであることに畏縮する他の人間たちとは異なり、青年はどこまでも横柄な態度で答えた。夢があるのだから当然だ、と。

 ―――俺は、人間が闇の生き物に怯えることなく暮らせる国をつくる。

 夢と言いながら夢ではない、それは宣言だった。言い切った青年の瞳に、アシェリアは光を見た。その光は、アシェリアが何よりも惹きつけられた、有限であるからこその弾けるような生のきらめきだった。

 数多の死体に囲まれ、流れ出た赤黒い血の池の中、アシェリアは男を見て笑った。

「……人間などただ弱いだけの生き物かと思っていましたが、なかなかどうしておもしろい。どうやら私はあなたに興味を持ったようです」

 剣に付いた血を払い落として、青年は傲慢に笑った。

「よもや智を謳われるエルフに興味を持たれるとはな。……それならエルフ、俺についてこい。お前がこれ以降永遠に見ることのできない人間の生き様を見せてやろう」

 それが、後に歴史に記される「紫水」と「建国王」との出会いだった。




 「……本当に、どこまでも不遜な人間でしたよ。けれどその不遜が誰より似合う人間でもありました。実際、いつの間にか数多の人間を組織して闇の生き物を追い払い、旅の途中で見つけた何もない平原を選んであっという間に国を建てたのですからね。今思い返してもつくづく呆れる男です」

 ふ、と微笑んだアシェリーの表情にも声にも、故人を懐かしむだけではない痛みが見え隠れしていて、それに気付いた双子の吸血鬼はまるで自分の痛みのように泣き出しそうな顔をした。けれどいまだに夜空を見上げていたアシェリーはそれに気付かなかった。

「……アシェリーはその男が忘れられないんだ」

「その人間が好きだったのね。今でも忘れられないほどに」

 囁くような双子の言葉にぱちりと目を瞬かせたアシェリーは、縫いとめられたように動かなかった視線をようやく空から離した。両脇の双子に目を合わせようとして、結局それができずに中途半端な位置で止まり、やがて手元に落ちた。

「好き、ですか。ええ、好きだったのでしょうね。彼を……愛していた、とも言うのでしょう」

 突然衝撃を受けて、アシェリーは枝の上から落ちそうにになった。何とか持ちこたえたアシェリーの耳に、くぐもった弱々しい声が届く。

「……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。アシェリーは渡さない」

「そんな人間なんか、もうとっくにいないわ」

「今アシェリーの傍にいるのは俺たちだ」

「ええ、だからアシェリーは私たちだけを見ていればいいのよ」

 両腕で抱きついたまま畳み掛けるように言葉を放つ双子に、アシェリーは苦笑した。それでも双子の言葉を嬉しいと感じているあたり、子離れできていないのは自分なのかもしれない、なんてことを心の中で呟く。

「苦しいですから離れて下さい、二人とも。それに、何を勘違いしているのか分かりませんが、私はシリウスを愛していたとはいいましたが、今も愛しているとは言っていませんよ」

 二人の頭を撫でながら言えば、潤みがちの赤い目が見上げてくる。

「あの時の私は若すぎた。自分がシリウスを愛していたことは自覚していましたが、その気持ちに向き合う覚悟が無かったのです。エルフも吸血鬼と同じように、その生涯で愛しぬくのはたった一人、私たちの言葉では《唯一 (ソーリス)》と呼ばれる伴侶一人だけです。私はシリウスを伴侶とすることができなかった。彼を愛することが怖かった。有限の生き物を《唯一》としてしまったエルフの末路はあなたたちも聞いたことがあるでしょう。純愛や悲恋の物語として今でも謳われていますからね」

 アシェリーと同族のある男は、《唯一》を亡くして気が触れた。ある女は《唯一》と共に死の世界へ旅立つことを望んだ。いずれも永遠の命を自ら棄て、断った。

「私には覚悟が無かった。シリウスを愛し、自らの終焉を受け入れる覚悟が」

 淡々とした言葉の裏で心が震えた。過去からよみがえってきたものは、ともすれば懐かしい感覚だった。

 ―――痛い。苦い。

 この感覚はどれほど時が経とうと忘れることができないのだと、悟った。

「私はシリウスから逃げました。同時に自分の想いからも。……まあ、それだけの愛だったということでしょうか」

 自問するようにぽつりと呟いてから、アシェリーは意識して明るい声を出した。

「さて、過去を見るのはそろそろ終わりにしましょうか。二人とも付き合って下さってありがとうございます。そろそろ戻りましょう、ディーンも心配しているでしょうし」

「……うん」

 小さく頷いたのにも関わらず、双子の兄妹はその場から動こうとしなかった。二人がそれぞれにアシェリーの服の端を両手で掴み、頭を腕に押し付けてきたためにアシェリーも動けなくなってしまう。俯いてしまった二つの頭にどうしたのかと声を掛けることもできず、その場に沈黙が落ちた。

 やがて聞こえてきたのは静かな声だった。

「……また、逃げるんだ」

「また、捨てるのね」

「その人間と同じように」

「今度は私たちを、捨てるのね」

 どくりと心臓が胸を叩いた。昼間のディーンと同じだ。いつか言われると分かっていたはずなのに、アシェリーは答えを持っていない。アシェリー自身が目を背けようとしていたことだったから。

 けれどこの瞬間、確かに湧き上がるものがあった。後悔。いや、それだけではない。

「……二人には、悪いことをしました。私はシリウスを忘れるためにあなたたちを育てたようなものです。ああ、ですがいつの間にこれほど情が移ってしまったのでしょうね。今の私はあなたたちが大切です。大切だからこそ、あなたたちの終わりを見たくない。実際のところ置いて行くのはあなたたちで、どうしたって私は置いて行かれる身なのですから」

 シリウスに抱いた、焼けるような想いではない。けれど双子に抱くこの想いも確かな愛情だった。アシェリーは二人のつむじにそっと唇を落とした。

「本当に、私は愚かです。愛することから逃げながら、また愛してしまった。そしてやはりまた繰り返すのでしょうね」

 その言葉は双子の問いを肯定したのと同じだった。

 依然として服を掴んでいた双子の指をやんわりと解き、アシェリーは枝の上から身を躍らせた。音を立てずに地面に着地したアシェリーの背に、双子の言葉が絡みつく。

「もしアシェリーが俺たちから逃げても、絶対に追いかけるから」

「もしアシェリーが私たちを捨てようとしても、私たちは絶対にアシェリーから離れないわ」

「絶対に」

「ええ、絶対に」

「ずっと離れない」

「ずっと傍にいるわ」

 泣きたくなるほど真っ直ぐな言葉が痛かった。彼らの言う「ずっと」は「永遠」ではない。

 ロワとユンのアシェリーへ寄せる思いを知っている。アシェリーはロワとユンを親が子を思うように愛している。それでもアシェリーには、まだ二人の死を受け入れる勇気がない。シリウスの死を受け入れられなかったのと同じように。だから二人の言葉にためらいなく頷くことができなかった。

 返事の代わりにアシェリーは小さく首を振った。

 後戻りができないところまで来ていることは知っていた。逃げ続けていてはいけない。決断しなければいけない。その時は迫っている。―――それなのに。

 クラディウスの顔が浮かんだ。今の自分ではいけないと彼に言いながら、アシェリーはどうすればいいのか分からなかった。どこへ向かえばいいのか分からない。何を選び、何を捨てればいいのか分からない。手元には永遠の時間と有限の生き物たちとの過去ばかりが残り、今が見えない。生粋のエルフからは遠ざかり、かといって有限の生物にはなれようもない。

 ―――どこまでも、愚かだ。

 分かっている。分かってはいるのだ。それでも。

「……ロワ、ユン。帰りましょう」

 こうしてまた、背を向けるのだ。




 小屋に戻ると、ほっとした表情のディーンがアシェリーたちを出迎えた。

「アシェリーも双子も戻ってこないから、きっと一緒なんだろうと思ったよ」

 そろそろ夜風も冷たくなってくる頃だろう。そう言って彼が準備していたのは温かいお茶の用意だった。さりげなく気を遣う彼の性格をアシェリーはよく知っている。日が沈んでもなかなか戻ってこない三人に気を揉んでいただろうに、彼は決してそれを表に出さなかった。

 アシェリーはハーブティーを飲み干すと、ディーンに礼を言って自分の部屋へと戻った。

 満月なだけあり、灯りをともさなくても小さな部屋の中は明るい。小机に座り、アシェリーは羽ペンを取りあげた。広げた紙に記すのは吸血鬼の知人に当てた言葉だ。

 自身の近況、ロワとユンのこと、人間たちのこと。

 さらさらとペンを走らせ、間もなく書き上げた手紙をアシェリーは細く巻いた。立ち上がって窓辺に寄れば、待っていたかのように小さな鳥が桟の上でアシェリアを見つめていた。

 《夜の鳥(ノーギス・アウィス)》。

 白い羽を持つにも関わらずそんな名がついているのは、彼らが主に夜活動する鳥だからだ。夜陰に紛れるには白い羽は目立つが不思議とこの鳥を狙う獣はいない。とても賢く、エルフが意思疎通をする生き物としては一番に挙げられる。

「来てくれたのですね。ありがとうございます」

 アシェリーの言葉にくるりと後ろを向いた小鳥は、二本足の片方を分かっているよと言うようにすいと差し出した。そこに先程巻いた手紙をきつすぎない程度にしっかりと結ぶ。

「行き先は……ええ、そうです。彼らのところへ」

 差し出した指に一度するりと顔を寄せてから、小鳥は元気よく羽を広げた。

「お気を付けて」

 ちゅい、と小さく鳴いて飛び立った《夜の鳥》は、しばらくの間その白い姿を月明かりに浮かばせていたが、やがて空に溶けていった。そこまで見送ってから、アシェリーは一つ息を吐いた。どうしようかと迷って、そっと寝台に横たわる。

 息を潜めるようにしながら天井を見ていると、やがて双子のぱたぱたという足音が彼らの部屋へと消えて行き、続いてディーンの落ち着いた足音が聞えた。何かを訴えるように少しの間アシェリーの部屋の前に佇んだ彼の気配も、やがて諦めたように彼の部屋へと消えて行く。

 目を閉じれば夜風になびく木々の葉擦れが、夜の獣が活動する音が聞こえた。

 意識を過去に沈ませれば、薪のはぜる音を背景に笑うシリウスの声が聞こえる。

 夜が更けてロワとユンがアシェリーの寝台にもぐりこんできたが、この夜アシェリーの意識は過去に捕らわれ、記憶の淵から浮かび上がることはなかった。

 エルフは眠りのかわりに過去を見る。それは過去を思い出すこととは違う。自身に眠る記憶に潜ることで、声、感触、全てがよみがえるのだ。己が抱いた感情ですら。

 アシェリーがシリウスの記憶を辿るということは、今では思い出せないはずの彼に抱いた恋情がまざまざとよみがえるということだ。―――初めて真名を呼ばれた時の、あのうずきでさえ。




 静かな満月の夜だった。闇の生き物たちも眩しいほどの月の光に恐れをなしたのか、気配を忍ばせて姿を見せなかった。人間たちも寝静まり、聞こえるのは風の音と、遠くから響く夜行性の鳥獣たちの声だけ。

 人間たちが建てた砦の上、ひっそりとした場所で同族と会っていたアシェリアは、彼らの姿を見送った後で思わず笑みをこぼした。仲間と言葉を交わしている間ずっと背に感じていた視線。隠すでもないぶしつけなそれは何とも彼らしい。

「盗み聞きですか」

 耐えきれずに小さく笑い声を立てながら振り返れば、石壁にもたれた男と目が合う。腕を組み、常と変らず尊大な態度で彼はにやりと笑った。

「隠れていたつもりはない。毎月毎月、満月の夜にどこへ行くのかとついて来ただけだ」

「答えは分かりました?」

「ああ。まさか人目を盗んで男と会っていたとはな」

 またかとアシェリアは心の中でため息をついた。ここの所、彼がこういった言い方をすることがやたらとあるのだ。

「まあ、間違ってはいませんがね。けれどそのように言われて私はどう返せばいいのやら」

 やれやれと首を振ったアシェリアは、男の視線が存外に真剣な光を帯びていることに気付いた。言葉にせずとも彼が何を聞きたいのか分かってしまう。

「……同族の仲間です。それ以上でも以下でもありませんよ」

 最近の流れでは、ここでアシェリアが答えて終わるはずだった。しかしこの日は違った。

「紫水と、そう呼ばれていたな。それがお前の名か」

 射抜くような瞳の底に灯るのは何の感情なのだろう。アシェリアは少したじろいだが、唇に笑みを乗せることですぐにその動揺を消した。

「名と言われれば名ですが、紫水は呼び名で、親しい者だけが呼ぶ真名は別にあるのです。あなたも周りから呼ばれている呼び名があるでしょう」

「呼び名ではない、シリウスは俺の名だ」

 アシェリアはぱちりと目を瞬かせた。人間は真名を平気で他人に呼ばせると聞いていたが、本当だとは思っていなかった。

「おや、それでは本当に人間に呼び名はないのですね」

「呼び名とは違うだろうが、愛称ならあるな」

「愛称?それはどのようなものなのです?」

 尋ねればシリウスは面倒くさそうに顎を掻いた。

「俺の知っている者では、……ルキウスならばルーク、アンドレならばアンディーといったところか」

「あなたの愛称は?シル、であっています?」

「ああ。……懐かしいな、そう呼ばれたのは随分と昔のことだ」

 珍しく男は目を細め、過去を懐かしむ素直な表情をした。

 確かに、思い出してみれば男のことを愛称とやらで呼ぶ者は思いつかない。ほとんどの者がシリウス様と敬称をつけて彼を呼ぶ。出会った当初は引き連れていたほんの一握りの人間にそう呼ばれていたのが、いつの間にかその数は増え、今では国をつくると言った彼の言葉が嘘にならないくらいの人間が彼の元に付き、一様にシリウス様と慕っている。それでも、配下の人間がどれほど増えようと彼自身は何も変わらなかった。生きることに貪欲で、どこまでも不遜な人間のままだ。

 けれどもしかして、と彼の横顔を見てアシェリアは思った。

 ―――彼がこんな素直な顔をしてみせるのは、私の前だけかもしれない。

「俺を愛称で呼んだ親も兄弟も、皆闇の生き物に殺された」

 彼の言葉にアシェリアは納得した。本当ならば、彼が息をつける場所を作る役目は彼に近しい者たちが担っていたはずなのだ。人間が己の矜持を大切にする生き物だということは、彼と共に過ごしてよく分かったことだった。上に立つ人間として、下の人間に素顔など見せられない。その点、人間でないアシェリアは都合がいい。そういうことだろう。

 しかしアシェリアのこの考えは、半分は正解で半分は間違いだった。この時までアシェリアは、アシェリアが彼に抱く想いを、彼がアシェリアに抱く想いを、何一つ自覚していなかった。

「愛称というのは私たちエルフにとっての真名のように、親しい者にしか呼ばせないものなのですね。親しい者、というのはその人を無条件に大切に思う者、ということでしょうか。それならばエルフと同じですね」

 うんうんと頷いたアシェリアは、ふとその動きを止めた。止めろと心の中で叫ぶ自分の声が聞こえたが、口は勝手に言葉を紡いでいた。

「―――ねえ、シリウス」

 隣で男がはっと目を見開いた。アシェリアが彼の名を呼ぶのはこれが初めてだった。彼のどこか熱を持った視線に浮かされるように、アシェリアは言葉を続けた。

「……アシェリアの愛称は、アーシャであっていますか」

 言ってしまった。けれど後悔はしないと、どこかで確信していた。

 男は少しの間を置いて、いつもの傲慢な笑みを浮かべた。

「ああ、そうだ。……それがお前の名か」

 ふわりと微笑んでアシェリアは小さく頷いた。

「おかしな話ですね。随分と共に時を過ごしたのに、自己紹介をしたのはこれが初めてですか」

「そうだな」

「十五年。人間にとって短い時間ではないでしょう?」

「エルフにとっては一瞬だろう」

 そんな返しがくるとは想像しておらず、アシェリアは言葉に詰まった。けれど事実だった。

「……ええ、そうですね」

 肯定したアシェリアの腕を、不意に熱い手のひらが掴んだ。強く引き寄せられ、視界が傾く。そして気付けばアシェリアは男の腕の中にいた。

 しばらくの間互いの体温を感じ、どのくらい経った頃か、男はアシェリアの銀に輝く髪に顔をうずめた。聞こえてきたのは今まで聞いたことがない、かすれた声だった。

「初めてお前と出会った時、俺が言ったことを覚えているか。『お前がこれ以降永遠に見ることのできない人間の生き様を見せてやる』、俺はそう言った」

「ええ」

「今でもそれは嘘ではない。だが、……お前が共に時を過ごす人間は、お前が真名を預ける人間は、俺が最初で最後にしろ」

 見上げれば、熱を増した瞳が痛いほど強くアシェリアを見つめていた。ああ溶けそうだ、そんなことを頭の片隅で思った。

「お前もそれを望んでいるはずだ。俺のものになれ。―――アシェリア」

 甘くうずいたのは心だったのか、身体だったのか。今まで生きてきた中で感じたことのない得体の知れない感覚に、アシェリアは拒否感を覚えた。

 とっさに男の腕を振りほどき、逃げようとした。しかし男の腕と声がそれを許さなかった。

「なぜ逃げる?」

 再び腕を捕まえられ、背を向けていた身体を反転させられる。両手の指に彼のそれが絡み、そのまま石の壁に勢いよく押し付けられた。軽く頭を打ち、苦痛の表情を浮かべたアシェリアを男はじっと見ていた。

「まるで処女(おとめ)のような反応だな」

 不思議そうな、けれどどこか嬉しそうな声。身体の奥、心の奥まで見定めるような視線。

 彼に殺される獲物になったようだった。今この場で、彼はアシェリアを支配していた。何も答えられず小さく震えたアシェリアに、男は熱情を隠さない声で言った。

「俺の名を呼べ、アシェリア」

 男から視線を外して唇を引き結んだのは精一杯の抵抗だった。

 十五年ものあいだ共にいたのに、目の前でアシェリアを捕える男は全く知らない者のようで。―――ああ、でも知っていたはずだろう。頭の中で声がした。彼がアシェリアを見つめる瞳の奥に灯していた感情を、伸ばす指先に宿していた想いを、その正体を。

 ―――私は、知っていたはずだ。彼と変わらぬ同じ想いだから。

 じれたように男が再び囁いた。

「呼べ、アシェリア」

「っ、シリウス―――」

 最後まで言いきらないうちに、ぶつけるような口付けが降ってきた。互いの目を見つめあったまま、唇が重なる。まばゆい月明かりは、男の恍惚の表情も漏れる吐息も隠さなかった。

「アシェリア、もう一度だ」

「シリウス」

「もう一度」

 口付けの合間、切なくかすれていく息で求められるままに何度も彼の名を呼ぶ。その度に角度を変えて唇は重なった。

「そうだ、俺の名を刻め。魂に」

 やがて唾液に濡れた唇をそのままに満足そうに男はそう言った。しかし自失の状態だったアシェリアには聞こえていなかった。

「お前が俺の記憶に捕らわれたまま永遠を生きるのなら、それも悪くない。どれほど長い時が経とうと、お前は俺のものだ」

 囁かれた言葉のとおり、彼の記憶が魂を縛る枷になると、どうしてこの時のアシェリアに分かることができただろう。

 彼は、アシェリアがシリウスと共に命を終えることを望んではいなかった。アシェリアが彼の記憶を抱いたままに生き続けることをこそ望んでいた。

 言い換えればそれは、永遠の束縛だ。




 手にすくわれる水のようにふわりと浮かび上がった意識に、アシェリーはぱちりと目を開けた。途端に記憶の海に沈んで遠ざかる故人の姿と、己が抱いた感情の一つ一つ。目に映ったのは現実の世界で、感じたのはもはや日常となっている両脇のぬくもりだった。

 目覚めさせた原因を探ろうとして、その気配がもう去ってしまったことに気付く。夕べ数百年ぶりの再会を果たしたばかりの彼の気配だった。両脇の双子を起こさないようにそっと身を起こして窓を開いたアシェリーは、昨晩《夜の鳥》が飛び立ったそこに一輪の花が置いてあることに気付いた。

 紫水花と呼ばれるそれは、アシェリーの呼び名の元になった、エルフの故郷の森にしか咲かない花だった。

 間違いなく彼がここに来たという証だった。彼は少しの間この場所に佇んで過去に沈んだアシェリーの意識をすくいあげ、花を置いてアシェリーが目覚める前に去っていたのだ。

「……クラディウス様」

 美しい楕円を描く花弁が重なりあった薄紫色の花。

 過去ばかり見ていてはいけない。そう言う彼の声が聞こえたような気がした。

 目を閉じて小さな花弁に唇を寄せたアシェリーが再び目を開いた時、心は決まっていた。

 ―――踏み出さなければ。

 例え過去に捕われたまま生きることを彼が望んでいたとしても、それではいけないのだ。

 今を、これからを生きるために。大切な彼らをこれ以上傷つけないために。

 この心に決着をつけよう。




 《夜の鳥》が懐かしい友人たちの声を携えて戻ってきたのは、満月の夜から二週間近く経った夜のことだった。

 この二週間は嵐の前とでも言うように何事もなく、静かに時間だけが過ぎていった。ディーンも双子もいつもと変わらず、追手である軍部の人間たちも特に行動を起こすこともない。ただそれまでと変わったことと言えば、毎朝アシェリーの部屋の窓に一輪の花が置かれるようになったことだけだった。

 毎日、アシェリーは月が沈み太陽が昇る狭間の時間にクラディウスの気配を感じた。しかし決して窓を開けることはなく、彼が去ってからそっと花を手に取る日々が続いた。朝の涼風に揺れる花は彼の想いを、温もりを伝えているような気がした。

 その夜、アシェリーは皆が寝静まった時間に小屋を出た。半分よりもっと欠けてしまった月の下、しばらくの間木々の葉擦れに耳を澄ましていると、それらの音に混じって翼をはためかせる音が聞こえてくる。手を差し出せば、《夜の鳥》は違うことなくアシェリーの元へと舞い降りた。その足に結んだ手紙は無くなっている。それはつまり、アシェリーが書き送った夫妻のもとへ手紙が渡ったということだ。

「ありがとうございます、ご苦労様でした」

 小さなくちばしに木の実を差し出せば、白い鳥は夢中になってそれらをつまんだ。

 ひとしきり餌をやって小鳥が満足そうに手のひらの上を飛び跳ねる頃になって、アシェリーはそっと反対の手の指先を伸ばした。すぐに跳ぶのを止めた小鳥は答えるように目を閉じ、アシェリーの指先に頭を寄せる。

 にじみ出るように指先から伝わってきたのは、昔の面影を残した顔と落ち着きを増した声。しかしどちらも固く強張っていた。

 流れ込む映像と音声に懐かしげな顔をしたアシェリーは、次第に眉を寄せて苦しげな顔つきになっていった。

「……ああ、何てこと」

 小鳥から指を離したアシェリーは思わず片手で両の目を覆った。聞いてしまったのは想像もしていなかったことだった。

「運命、などとは思いたくありませんが……星の巡りとは、ままならぬものですね」

 昔なじみである吸血鬼の夫婦が知らせてきたのは、彼らの子どもたちが人間に殺されたという話だった。

 ―――双子のことは引き受けるが、その前に人間たちに一矢報いてやらないと気が済まない。ちょうど仲間と共に我が子を殺した人間の村を襲う算段を立てていたから、そのついでに双子を迎えに行く。

 彼らはそう言っていた。ディーンが町で聞いた話は本当だったのだ。夫妻の話からすると、既に部外者が介入してどうなるという段階ではなかった。視える未来は一つ、数百年前の人間と闇の生き物との戦争と同じように、今度は人間と吸血鬼の戦争が起こるということだ。

 二十五年前には既に火種があった。人間の国にいた頃、それが燃え上がることのないようにアシェリーと一部の人間たちは手をつくしていた。しかし努力も虚しく火種はくすぶり始め、もう止められないと明確になったからこそ、アシェリーは捕えられて殺されそうになっていたロワとユンの手を取って人間の国を裏切った。それまでの繁栄の象徴とも言うべきエルフが消えたことで視線がそちらに行き、人間と吸血鬼の関係は一端小康状態に落ち着いたものの、ここへきて再び勢いよく燃えようとしている。

「むしろ、よく二十五年も持ったと言うべきですね。さて、激流を止めることはできなくても、石を投じることくらいはできるでしょうか……?」

 自分に問いかけたアシェリーの目にはっきりとした色が浮かんだ。やるべきこと、進むべき道が視えたように思った。鋭利な月を見上げて覚悟を決める。

 とその時、アシェリーの聡い耳は草を踏みしめる音を拾った。

 柔らかな背をひと撫でして小さく頷くと、小鳥はアシェリーの手のひらからふわりと飛び立っていく。それを見送ってから、アシェリーは振り返った。落ち着いた足音が近付き、体格の良い男が月明かりに浮かび上がる。

「夜の散歩ですか、ディーン」

 熊の獣人は首を振った。

「いや、アシェリーの部屋に行ったんだけど、いないようだったから」

 探しにきたんだよ。そう言ってディーンはアシェリーの後ろの空を見上げた。

「ああ、今夜は綺麗な月だね」

 裏表のない声でそう言うから、思わずアシェリーは笑った。

「ディーンが月を綺麗と言う時は、必ず三日月ですね」

「ばれてたか。……人間は満月を愛でるようだけど、僕たちは三日月が好きなんだよ。ほら、熊の獣人は必ず自分のここに三日月を持っているからね」

 喉元を人差し指で叩いて見せたディーンにアシェリーは頷いた。服の襟に隠れて見えないが、そこに白い斑があることは知っていた。

「三日月は僕らの象徴みたいなものだ。それに、僕にはもう一つ三日月に思い入れがあるんだよ」

「それは何です?」

「三日月の夜に君に拾われた」

 アシェリーの目には昨日のことのように当時の情景が浮かんだ。

「ああ、そうでしたね。そう言えばあの日も綺麗な三日月でした」

 しばらくの間二人で鋭利な月を見上げていたが、不意にディーンがアシェリーに視線を向けた。

「懐かしいな。村を追われて、殺されかけて、もう駄目だと思った時にアシェリーが現れたんだ」

「あの時のあなた、本当にぼろぼろでした」

「君を見た時、いよいよ自分は死んだと思ったよ。僕は死後の世界とやらに来たんだ、彼女はきっと天使なんだ、って。まあすぐに双子が現れて、これは現実だって思い知らされたんだけどね」

 苦笑したディーンもアシェリー自身も、この時には恐らく分かっていた。自分たちが、迫る別れの時から目を逸らすように過去を思い出していることを。

「死にかけてたのに、あの双子の言葉は今でも覚えてるよ」

「あの子たちもまだ幼かったですからね。それにちょうど冬の初めで寒かったですし。瀕死で、しかも獣の形をとっていたあなたがうってつけの防寒具に見えたのでしょう」

「『アシェリー、毛皮だ』」

「『毛皮が落ちてるわ』」

 二人して当時の双子の真似をして、アシェリーとディーンは顔を見合わせて笑った。夜空に響いた笑い声は長く続いた。けれどそれもやがて消える。虫の音がやたらと大きく聞こえて、先に口を開いたのはディーンだった。

「……あの時から、随分と長い時間が過ぎた」

「ええ」

「双子もあんなに大きくなった。僕も歳を取った。いつまでもこのままでいられないことは分かりすぎるくらいに分かっている。……それでも」

 アシェリーはディーンを見た。ディーンもアシェリーを見ていた。

 見つめ合って数拍、ようやく彼は口を開いた。

「それでも、僕は君が好きだよ。アシェリー」

 衝撃に耐えるように歯を噛みしめる。視線を外して俯いたアシェリーが紡いだ言葉は弱々しく響いた。

「……玉砕は嫌だと、言っていませんでしたか」

「うん。それでも、言わずに後悔はしたくなかった」

 顔を上げ、アシェリーは両手を握りしめた。見て見ぬふりはもうできない。

 痛かった。けれどそれ以上の痛みを彼に与えることも分かっていた。

「ディーン。あなたの気持ちは嬉しいです。けれど私は……」

「うん」

「あなたの気持ちに答えることは、できません」

「うん」

 変わらないまま頷いてから、ディーンは目を細めて笑った。

「うん、やっぱり玉砕だった。……分かっていたよ。アシェリーの心の半分は僕の知らない男が占めていて、残りの半分は双子が占めてる。どれだけ僕が入り込もうとしたって、その隙はないんだってことは、ちゃんと分かってた。……知らない男はともかく、どこまでも憎たらしいな、あの双子は」

 冗談めかして言いながら、ディーンは振り切るように空を見上げた。その横顔を見上げたアシェリーは何か言おうとしたが、結局何も言えずに口を閉じる。それを知ってか知らずか、ディーンは再び口を開いた。

「先に謝っておくよ。ごめん、アシェリー」

「何に対する謝罪です」

「こうやって僕は振られたわけだけど。でもね、振られてすっきり君を諦められるほど、僕が抱いてるのは簡単な想いではないんだよ。ここで身を引いた方がかっこいいのは分かってる。……でも、最後に悪あがきをしたいから、それに対する謝罪だ」

「そう、ですか」

 それ以外に何も言えなかった。何を尋ねることもできない。釈然としないアシェリーの顔を見て、いつも通りのどことなく裏のある顔で笑ったディーンはそのまま背を向けた。そして彼はもう一度空を見上げる。

「ああ、やっぱりいいな、三日月は。……そうだアシェリー、吸血鬼の知人から連絡は来たのかい?」

「ええ、一週間後には双子を迎えに来ると」

「そうか。これで本人たちが受け入れるかどうかは別として、双子の将来は安泰というわけだ」

 頷いて、ディーンはアシェリーを振り返った。目が合って、もう一度彼の目が優しく細められる。

「それじゃあ僕はもう寝るよ。おやすみ、アシェリー」

「おやすみなさい、ディーン」

 分かっていた。それでもアシェリーは数十年の間続けてきた、いつもと変わらない挨拶をした。

 ―――そして。その夜を最後に熊の獣人は姿を消した。






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