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竜と巫女しりーず(仮)

ある日、異世界に召喚されて竜の巫女になりました

作者: 若桜モドキ

 気づいたら、国や世界どころか人種すら違っていた。

 そんなバカな、と思いながら周囲を見回せば、誰も彼もがあたしに傅く光景。みんな、絵に描いたようなお高そうな洋服などを着て、場所もこれなんてお城って感じの豪華絢爛さだ。

 たとえば、あたしのすぐ前に立っている彼は、とてもきれいな格好をしている。

 すぐに思いついたのは、友達がやってたスマホのゲームの王子様。

 うん、なんかそんな感じの格好だ。

 そのゲームは西洋風の異世界を舞台にした、よくある恋愛シュミレーション。攻略対象と呼ばれる彼氏候補は、王子様に貴族様に、魔法がある世界だったから魔法使い様に……。

 まぁ、そんな感じにいろいろ取り揃えているものだった、気がする。

 何せ友達が興奮気味に話すのを、ハイハイソウデスネ、と聞いていただけだったので、そう詳しく覚えているわけじゃない。ただ一つ、明確に覚えているのは――主人公の出自だった。

 件のゲームは、ゲームに興味のない層を狙ったのか、主人公は現代出身の、ごく普通の女性だった。ある日彼女は、見知らぬ世界へと召喚されてしまい、という感じのあらすじ。

 気づいた彼女は異世界の人々に、女神だったか聖女だったかと呼ばれ、崇め奉られた。

 ……そう、まさにあたしが置かれている状況に、似ている。

 崇め奉られてはいないけど、傅かれているから同じようなものだと思う。


 あぁ、夢だ。

 夢に違いない。


 あんなゲームの話を、延々聞かされていたから、夢にまで出てしまったんだ。いっそあたしもあのゲームで遊んでやろうかしら。きっと遊んでっていう、無意識からの声なんだろうし。

 ゲームなんて、ぜんぜん興味なかったけど、案外悪いものではないのかもね。

 と、もう一度目を閉じて目を覚まそうとしたところで。

「我が花嫁よ。どうかその名を教えてください」

「え?」

 そっと手をとられ、そんなことを言われる。相手はすぐ目の前にいた王子様だ。いや、王子と決まったわけじゃないけど、少なくともこの場ではトップクラスに偉い人だと思われる。

 その王子様(仮)は、きれいな茶髪だった。学校とかでよく見る黒髪の色を抜いて染めたようなものじゃなくて、本当に生まれたときからその色なんだなってわかるような綺麗な色。

 緑色の目は宝石みたいにきらめいて、あたしだけをじっと見ていた。

 握られた手のぬくもりに、あたしは覚悟する。

 これが、夢じゃないのだと。

 今は紛れも無い現実で、あたしはぜんぜん知らない世界に着ちゃったのだと。

 よくよく確認してみれば、あたしは見た目も大きく変わっていた。

 といっても髪型や背丈などは、悲しいほど変化はない。せいぜい髪の色が茶髪になり、元々茶色っぽかった目が赤みを増して色を薄め、この世界になじむような色合いになった程度。

 しかもその茶色だって、元々染めて薄茶にしてたのが地毛になっただけ。

 ぶっちゃけた話、見た目のカラーは目以外何も変わってない。そうだ、ちょっと肌の色が西洋風って言うか、薄桃っぽい色白になってたぐらい。元々白いので違いがわからないけど。

 その他、胸が大きくなったわけでもなければ、年を食ったり若返ったわけでもない。

 ただ一つだけ、決定的に違う部分がある。

 それは、頭に出現した『角』だ。

 あたしは、この世界で言うところの『竜』なのだという。そういう種族で、竜族、なんて安直な呼び名もあるのだとか。まぁ、とにかく人間によく似ているけど、ぜんぜん違う存在だ。

 その名のとおりに竜と呼ばれるものに変身できるそうで、だけどあたしはできない。

 あたしは巫女という、特別な竜だから。

 巫女は、精霊という存在と対話できる唯一の存在で。この国には長らく、巫女としての力を有する竜がいなかったらしい。竜そのものはいるけれども、それすら他国より少ないとか。

 世界のたいていの国の王族に、竜の血が入っているご時世でここの王族は少しも入っていないことを危惧した偉い人は、なんとしても王子に竜の巫女と結ばれてほしかったのだ。

 しかしいないものはいないし、竜の巫女は生まれた地など特定の場所でしか、その力を使うことができない。つまり、よそからつれてきただけでは意味がないし、希少な巫女を王族に言われたからってハイソウデスカと渡してくれるわけもない、と。

 だけど、巫女が生まれるのを待つのも無理、となったこの国の偉い人は。


「……それで、君を異世界より招いた、というわけなんだ」

「はぁ」

 異世界にいる、巫女となりうる存在をこちらに呼び、偉い精霊に頼んでその存在――つまりあたしを竜にしてもらった、というむちゃくちゃな方法を選んだ、というわけである。

 ぶっちゃけ、あたしぜんぜん関係ないじゃーん、と思う。

 巫女は王子――本当に王子だった彼、エディと結婚しなきゃいけなくて。結婚だけじゃなくできるだけたっくさん子供も生まなきゃいけないわけで。つまりすることもするわけで。

 いきなりそんなこといわれましても、あたし、まだ中学生なんですけどね。

 でも元の世界には戻れないといわれたし、竜の巫女である以上、それなりの身分の相手しか結婚は許されないというし。変なのにもらわれるのも、それはそれで問題ありだよね。

 だったら、この王子様でもいいような気がする。

 あたしだって、死にたくはない。

 結論はもう少し先でいい、と言われつつ、あたしはとりあえずここで暮らすことにした。どっちにしろこっちで生きていくしかないわけだけだから、いろいろ勉強しなきゃならないし。

「よろしく、私のかわいい巫女……」

 とか、どこのモデルか俳優かってイケメンにいわれたら、悪い気はしなかった。どっちにしろ帰れないんだったら、どっしり腰をすえてがんばるしかないっしょ。

 エディや他の騎士さんも優しいし、侍女さんもすっごく優しい。最初はこの世の終わりかと思ってしまったけれど、まぁ、何とかここで生きていけるんじゃないかなって思える。

 しかしまぁ、その日のうちに押し倒して致すのは、よくないと思うわ。

 別にいいけどさー。



   ■  □  ■



 ベッドの上で絡み合う二匹のケモノを、それはじっと見ていた。人間とかけ離れた、冷めた氷のような目で。ケモノはどちらも幼さがあり、メスの方はまるで子供だ。

 ああして夜毎絡みあうようになり、すでに二年ほど。

 何も知らずに、いいご身分だと誰かが笑う声が遠くから聞こえた。そう、メスの方は何も知らないままここにいるのだ。愛されている夢を見ている、哀れな生贄でしかない。

 いつものように『子供達』を使い、種が実を結ばぬよう呪いをかける。

 この血を統べる王族のすべてに、余すことなく。百人と夜をすごせども、あの王子に祝福の子がもたらされることは決してありえなかった。少なくとも、それの気が済むまでは。

 次にそれが向かったのは、城の敷地にある補修もされていない古びた塔。

 そこにはうつろな目をした、一人の竜が住んでいる。


 彼女は、王女だった。

 巫女だった。


 そして――王子の妃でもあった。


 普通の人間が見れば、あまりの痛々しさに目をそむけるだろう。わずかに呼吸をする動きがあるからこそイキモノだとわかるが、それに気づかねば人形のようにしか思えない。

 表情は無く、感情も無い。

 そして、心すらもう無かった。

 彼女はこの国に、あの王子に嫁いできた巫女だ。しかし見向きもされず、あの子供が現れるなりここに押し込められている。食事も与えず二年間。もう、死んだと思っているだろう。

 生きているのは、それが彼女を守ったからだ。

 けれど守れたのは生命だけで、心はついに擦り切れてしまった。それが愛らしさに目を細めた少女は、もうどこにもいなかった。それが守るべき場所が、壊してしまったのだ。

 それは泣くように目を伏せ、少女を抱き締める。

 その体内に滑り込み、砕けた心を一つ一つ拾っては、パズルを組み立てるようにあるべき形へと直していった。けれど、このままではまたいずれ世界が、彼女を壊してしまう。

 だから――壊れないように、すべてを忘れさせよう。

 幼子が、幼いながらも心を寄せた王子のこと。

 王子が彼女にした仕打ち。

 彼女が知ってしまった裏切り。

 そして彼女自身の出自すらもそぎ落とし、それは己の中にしまいこんだ。彼女の中で封じてしまえば目覚めてしまう。だから、完全に切除してやったのだ。無かったことにしてやった。

 くったりとした身体を腕に抱いて、それは塔を飛び出す。

 誰に見つかることも無い。巫女は王子との享楽に沈んでいるし、そもそもあれに姿を見せてやる気などさらさらないのだから。せいぜい、細い絹糸のような繋がりに、すがればいい。


 ――それでいいのか、メルディーナ。


 誰かが、諭すような声をそれに届けてきた。

 メルディーナという名の、人間の女に似た形をするそれがやっている行為は、それが守らなければならない土地を見捨てるに等しい行為だ。彼らの役割からすると、あってはならない。

 しかしそれは、声の主に言う。

 ――ヒト一人を壊すことを是とするならば、そのような国は消えればよいのです。

 どのようなものが、それの『土地』に住むかは、それが決める。気に入らないならば時間をかけてでも滅ぼせばいいのだ。だからこそ、腕に抱く少女の国は滅んだのだから。

 それをした声の主に、とやかく言われたくは無かった。



 これより数年後、一人の少女が王子と出会う。

 黒い髪を長く伸ばした、竜の血を持つ口の悪い旅の歌姫だ。そして王子の花嫁になるはずだった巫女を差し置き、王都周辺に住むすべての精霊を従える権力を持った巫女でもあった。

「――あんた、誰?」

 青い目を細めて王子を睨む、彼女の名前はジル。

 かつて王子の下に差し出された、亡国の王女に――その歌姫は、よく似ていた。

■王子:エディ

 国のために非情になれる王子様、17歳。

 召喚された巫女ちゃんは、一応大事には思っている。

 ジルのことをないがしろどころではない扱いをし、後に再会した彼女に復讐される。

 現在、何をしても子供ができない呪いを、高位精霊にかけられていたり。


■巫女:名前未定

 いまどきの女子中学生、15歳。

 少女漫画みたいなシチュにどっぷり使ってる、頭緩め。

 なお、この後テンプレよろしく令嬢などとバトりますがどうでもいいので端折ります。


■精霊:メルディーナ

 女性の姿をしている精霊。高位精霊という偉い立場。

 巫女嫌い、エディはもっと嫌い。

 ジルに国内の精霊をすべて従えさせえている、精霊はわりと人情的。


■少女:ジル

 元王女様で巫女でもある女の子、12歳。

 ずっと客室に閉じ込められていて、巫女登場と共に塔に閉じ込められた。

 過去の記憶すべてを改ざんされ、後に国内のすべての精霊を従える巫女として現れる。

 巫女視点からすると最大のライバル……でも長編はジルが主人公なんで、はい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気がいい [一言] 「竜の巫女は領主に嫁ぐ」を読んで一気に引きこまれました。 ――そして女王陛下の話で自慢の姉が首輪付きで何やらすごいことになってるのに引いたw 弟は見事だね。 兄…
[良い点] 設定も表現の仕方も幻想的で、一気に作品の世界に引き込まれました。 [気になる点] 少し抽象的すぎてわかりにくい部分がありました。(最後の人物紹介を読めば全部わかりました。) [一言] すご…
2013/03/07 22:46 退会済み
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