いざ探検へ!
数日後、タオルと水筒、そして自分で作ったへたくそな握り飯の入った弁当箱を手に、汚れてもいいようなシャツ姿で公也は家をあとにした。
父はいよいよ農作業に本格的に取りかかろうとしている。そのため、近所に挨拶回りをしているのだが、早速牟佐家と知り合いになっていたようだ。
今日は牟佐凪沙探検隊の、栄えある探索第一回目である。
凪沙はあの日、自信満々に秘宝があると言ったが、その証拠となるような逸話は一切語られなかった。
探検隊の活動を開始したら話すと彼女は言ったのだが、教えてくれても特に問題ないじゃないかと、公也は首を傾げていた。
公也は参加すると言ったものの、それほど熱心にやるつもりもなく、指定日である今日になるまで、家に籠もって学校から出された課題をこなしていた。
一般的な高校は出席状況により低い点数に温情をかけてもらえる場合もあるが、通信制は提出課題がほぼ全てである。ただ、テキストを読んで理解することを前提にして課題のレポートがあるためか、頑張っても出来ないという印象は一切なかった。
やむを得ず通信制に入ったわけでもない気楽な凪沙だからこそ、課題をさっさとこなして、子供でもやらない探検隊などと言い出すのだろう。公也は彼女が一つ年上の存在であることを今日も否定したくなった。
待ち合わせの学校前に着くと、すでに三人が集まって談笑していた。いつも見ていて思うことだが、あれだけミステリアスで無愛想な美月が、香琴には殊更よいお姉さんのような存在になるのが、公也には不思議でならなかった。
「あ、ハムくん、おはよう」
真っ先に声をかけてきたのは、今日も優しい顔つきをさせた香琴だった。公也が気恥ずかしそうに頷くと、凪沙が腕組みをしながら一笑した。
「ハム隊員、我々はこれからとてつもない大海原に出るんだぞ、可愛い子に微笑まれたくらいでびくびくしてちゃ、どうにもならないぞ!」
「でも私達が歩き回るの、海辺じゃなくて、基本は山よね」
「う、う……心の大海原を行くんだよ! ヨーソロー!」
冷静に突っ込みを入れる美月に、それでもボケ続ける凪沙を見て、公也はこの先に大きな不安を抱いた。この変な二人に囲まれているからこそ、常識人であろう香琴の存在がますます重要に思えた。
公也が早速疲れてきたのに気付いたのか、さりげなく香琴が声をかけてきた。
「ハムくん、勉強はかどった?」
「ああ、おかげさまで。この間の歓迎会の直後にこれやられたら、正直疲れて手につかなかったかもしれないけど、時間があったからゆっくりやれた」
彼の言葉に、香琴は良かったと言って顔を綻ばせた。
それよりも問題は、気分が高揚する危険な薬を、常時服用しているのではないかという疑惑のかかっている、危険人物牟佐凪沙である。
作業をするためなのか、ジャージで統一した美月に対し、凪沙は暑さ対策と動きやすさ重視なのか、かなりの薄手で挑んでいる。香琴ですら普段見せないような綿のズボン姿でいるというのに、凪沙の普段との変わらない様はある意味で特筆に値するだろう。そして、いつぞやの幸運に似た不運が、また繰り返されるのかと思うと公也は注意するのも面倒になってきた。
凪沙は手にした大きなシャベルをがすりと地面に突き立て、三人それぞれの目をゆっくり見つめて大きく一度頷いてみせた。
「今まで勿体ぶっていたけど、そろそろきちんとこの村に伝わる伝説を話さなきゃならないかな。いや、みんなには知る権利がある」
「まあ、堅苦しいことは抜きにして、説明しましょうか」
凪沙を遮るように、美月が手にしていた小さな鞄からメモと錆び付いた硬貨のようなものと、少し欠けた薄汚い刀のつばを見せてきた。
「これは……?」
「昔、うちの田んぼから出てきたものよ。平安時代の頃の銅貨と、刀のつば」
彼女の手のひらに乗せられたそれを、公也はまじまじと見た。刀というのは、刀身だけに価値があるわけではなく、つば自体にも品等を示す意味があると、以前本で読んだ覚えがある。
その二つが田畑から見つかったということは、本当にこの地に平家の落武者が流れて、秘宝を隠したのだろうか。だがその前提条件になる質問を、公也は口を曲げながら美月にぶつけた。
「でもさ、こんなのが見つかるってことは、誰かがもう探したんじゃない?」
「言うと思ったわ。結論から先に言うと、ここに探索隊が来たことはない」
「どうして?」
「証拠となるものが乏しかったこと、何より口伝はここじゃなく、少し離れた村を示していると思われているのよ」
その思われているという現在進行形の言葉が、公也をますます不安にさせた。
その様子を汲み取った美月が、さらりと答えた。
「うちの祖父は、独学で考古学をやっていてね。牟佐家の口伝から伝わる内容は、以前から言われてる村じゃなく、ここの方が合ってるって言うのよ」
「でも、そっちの村だって……」
「そっちの方には探索の手が入ったわ。結局何も見つかってない。だったらまだここに可能性はあるということよ」
彼女の言葉にも一理はあった。ないということは簡単だが、それと同じくらいの確率であるということも存在しているのである。
見つかるかどうかは分からないが、少なくとも凪沙と美月は本気である。ここで断るとこれから一年以上は辛い思いをしなければならない。
何もない田舎でのお遊びと思えば、これもまた面白くもなるかと公也は自分に言い聞かせ、美月に頷いた。
「ハムくんまだ信用してない感じ」
「信じる信じないより、そんな大発見をしてる自分が想像出来ないだけだよ」
「まあ、無理ないわね。でもやらなきゃ始まらないもの」
冷静沈着に思えた美月が、ここまで熱心になっているのは驚かされる。少し捻って考えるならば、美月にはその田畑から出たものと、口伝の内容で強い確信を得ているということなのかもしれない。
そんな風にやや冷めた目で見ている公也を指して、凪沙は香琴にぼやいた。
「カコちゃん、都会に毒されるとああいう夢のない人間になるんだ」
「あの、凪沙、俺のイメージを悪くするな」
「違うなぁ、ハムくんの夢のなさが悪いんだよ。見つかんないって思ってたら、見つかるものも見つからなくなる!」
「……お前はもういい。香琴はどう思う?」
「うーん、見つからないかもしれないけど、みんなで頑張ってみよう」
彼女の模範的回答に、凪沙が満足げに頷いた。
ただ、公也自身の考えと似通っている香琴が、和を尊重するのならば、ここで一人反抗しても仕方ないのも確かである。公也はやれやれと言いながら、凪沙を見た。
「手伝うから、見つかったら三割よこせよ」
「だあーっ! 財宝の分配は、前々から計画していた牟佐隊長と市原副隊長で八割と決まっているのだ! カコちゃんとハムくんは一割ずつで我慢しなさい」
凪沙の無茶な言葉を聞いて、公也はおかしげにわらった。やはり、こういう子供じみたところが、凪沙の扱いにくいところであり魅力でもあると再認識できた。
流れに任せた感じではあるが、名実共に正式な隊員になったのを痛感した公也は、美月の手にしていたメモに目をやった。それに合わせて、美月もメモを広げて見せてきた。
「元の古文のままだと分かりにくいだろうから、平文にしてある」
美月が見せてきたメモには、やや難解な文章が並んでいた。
美しき都の花桜
枝を折り握りとて果ての地では枯れ果てる
栄華も因果とまた同じ
せめてあのひとひらの桜のように
この地に思い眠らせん
広き海の見渡せる地に行き三方を囲んだ鬼を笑え
鬼は空と大地を見つめ枯葉を拾う
枯葉を集め走った先に爪を立てん
鬼の守人打ち破れば宝姿を現せむ
ぱっと見て、公也はこれといったことが思い浮かばなかった。
ヒントとなるのは広き海の見渡せる場所と、三方を囲んだ鬼という言葉になるだろう。
その三方というのが何を指しているのかもさっぱり分からなければ、鬼の守人というのも何を指しているのか理解できない。
その一方で呑気な隊長は、腕組みしながら公也の意見出しを求めているようにも見えた。
「凪沙、一つ聞いていいかな」
「ハムくん、どうかした?」
「凪沙はこれが何か分かってるわけ?」
彼が難しい顔で訊ねたにも拘わらず、凪沙はけろっとした顔で一笑した。
「分かってたら今ごろもう宝物が見つかってるよー」
聞いたこちらが馬鹿だったと公也は後悔して、彼女を無視する形で香琴と美月を見た。
香琴は考え込む様子であちこちを見つめている。一方の美月は何か妙案があるのか、この村の地図を取り出して二人に見せてきた。
「隊長があんなだから今まで言わなかったけど」
と、美月は地図の一角を指した。この村は海に面している。その海辺の辺りを美月はじっと指さすのだ。
しかしその意味するところが分からず、公也は渋い顔を見せた。
「分かんない?」
「あ……」
香琴がぽそりと声を出した。公也が覗き込むと、香琴が美月の指す場所をなぞるように、指を沿わせていく。
それは、この海辺に入り組んだ地形だった。くねった海岸線は、いくつもの絶壁を生んでいるが、その中に唯一、コの字のように三方を崖が囲んだ場所があるのだ。
崖は確かに、接触すれば恐怖でしかない。これが鬼の隠喩なのだとしたら、この付近が宝に近付くための第一段階ということになる。
「うん、香琴の言ってることが、私が言いたかったこと」
「でも、これって第一歩だよね」
「そう。この三方って言っても、ここからまた色んなところを探し出さなきゃならない」
美月の顔がふいに難しくなった。すると、横で見ていただけの凪沙が急に首を突っ込んで、考え込む美月に声をかけていった。
「お、みつきち、場所分かったんだ」
「前から推測してた場所。でもハズレの可能性もある」
「まあさ、ここか当たりかハズレか別として、一度見に行こうよ」
彼女の提案に、公也はおろか、美月さえも言葉を失っていた。しかし言い出した凪沙はいたって平然とした顔だった。
「この文章に宝物の在処が書いてあるとして、文脈だけ読んで分かるわけないと思うんだ」
「まあ……次のヒントに至るためには現場に行くべきかもね」
「カコちゃんはどう思う?」
凪沙が香琴に話をふると、香琴は少し考えたあと、素直に頷いた。
「ここが当たりかそうじゃないか見分けるためには、次の場所に行って枯葉のことを調べたらいいんじゃないかな」
「うむ、そういうこと」
凪沙の意外なリーダーシップに、公也は感心したように目を丸くして見つめていた。
隊員達に丸投げのダメリーダーかと思ったが、案外そうでもないらしい。大半の思考は美月に任せるものの、そこに行って実行しようと提案するのは、存外に勇気がいる。
意外に適材適所というのはあるのかもしれないと、公也はシャベルを握ってうきうきしている凪沙を見て感じていた。
そして、突き進む凪沙に連れられ、すぐ後ろに美月、そして少し離れたところで香琴と公也がゆっくりと目的地である海沿いの雑木林に向かっていった。
しかし、単純に雑木林と言っても、この学校の更に奥の奥に行った場所にある。単純な距離で言えば三キロ程度はあるだろう。
しかも足場の悪い高低差のある道だ。公也は慣れない自然に、次第に苛ついた表情を見せるようになっていた。
「ハムくん、タオルいる?」
しかめっ面をして、汗を垂らしながら歩いている公也に、そっと香琴が手を差し出してきた。前方の凪沙達はこの程度の自然は慣れているのか、平然と突き進んでいる。それなのに自分だけいきなり汗を拭うのが恥ずかしくなり、公也は少しして首を横に振った。
「ナギちゃん達元気だなあ」
気付けば、凪沙達は五メートルほど先を進んでいる。香琴と公也はそれに取り残されないように歩いているようなものだった。
「少し急いだ方がいいかな」
「大丈夫だと思うよ。まだ一日目だもん」
彼女に言われ、公也の中で引っかかっていた気持ち悪さが少し取れた。
普通、宝の地図などがあったとしても、見つけるのには大きな労力と時間を要する。それが自分の手番になった瞬間、今日の夕方にでも見つかっているのでないかという錯覚に陥っていたのだ。
この冒険がいつまで続くかは分からないが、今日見つかるようなことはないと香琴が言ってくれたことで、公也はほんの少しだけ安心することが出来た。
ふと前を見ると、密林を探検しているかのように、一番先に立つ凪沙がシャベルを駆使しながら道を切り開き、その後ろに地図などを広げた美月がついていた。そのやや現実離れした光景を見つめ、探検隊に強制加入させられた香琴が苦笑していた。
「ナギちゃんは道の確保してて、美月ちゃんは地図とかずっと見てるね」
「あんなことしてたら、そのうちあいつこけるぞ」
「大丈夫だよ、ああ見えて美月ちゃん、ナギちゃんより体育の成績いいからね」
香琴の言葉に公也は閉口した。人は見かけによらないと言うが、あの勉強に身をやつして運動など疎かにしていそうな美月が、野生児である凪沙よりも更に上の運動神経を持っているというのが、にわかには信じられなかったのだ。
だが現に、ちらりと下を見ただけで、すっと足をすくってくる木の根をかわし、くいと首を横に傾けて殴り付けてくる太い枝を華麗に避けるのである。運動神経もさることながら注意力も相当あるようだ。
「私はドジだから、ちょっとゆっくり行くね」
香琴は美月が軽くかわした枝木を、ゆっくり屈んで避けていく。
さすがに彼女を置いて次々進むのは問題があると公也は思い、香琴の無事を確保するため、そっと後ろに回った。
「俺もこういうとこ慣れてないから、凪沙達についてけない」
歯切れの悪い言葉で、照れ隠しの言い訳をすると、香琴はおかしそうにくすくす笑った。
「そういえばハムくんと知り合ってから、まだそんなに話してないよね」
「別に凪沙とかもそんなに話してないけど……」
「せっかくだから話しながら歩こうよ。その方が面白いよ」
香琴の促しに、公也は特に返事をしなかった。凪沙の積極性は、無理矢理引っ張られる感じがしたが、香琴の積極性は相手の自主性を重んじてくれるものだ。
凪沙と美月の少々無茶なキャラクターにあてられていたせいか、香琴の普通の話し方が公也には妙に安心できた。
「ハムくん、都会ってよくコンクリートジャングルとかいうけど、こういう山道とかと全然違うのかな」
彼女の一つ目の質問は、ある意味で不思議なものだった。公也は眉を寄せながら、首を傾げて答えた。
「多分、別物だと思う」
「そうなんだ。なんであれ、ああいう風に言うのかな」
「別にビルがたくさん建ってても、注意してればどうとでもなると思う」
と、公也は辺りに茂っている木々を見つめた。これは正しくジャングルのようで、後ろを見ると、帰れるかどうかの不安で怖くなりそうだった。
「これ、道分かってるよな?」
「大丈夫だよ。ナギちゃんとか林の中行くの慣れてるし」
ここで迷うと、狭い木々の中で、女性三人に囲まれ朝を待つ生活になるのかと、公也は冗談を思い浮かべ、そのつまらなさに自嘲した。凪沙に襲いかかりでもすれば、あのシャベルで頭が割れるまで殴られるだろう。そして何より、公也にそんな度胸があるはずもなかった。
一方、そんなよこしまなことを公也が考えているとは思っていないであろう香琴は、枝を丁寧にかきわけながら、また少し距離の出来つつある凪沙達の背を目で追っていた。
「ねえ、ハムくん」
「なに?」
「タイムマシンって、あったら乗ってみたい?」
公也は訊ねてくる彼女をちらりと見た。彼女は真っ直ぐ歩いて、当然のようにこちらに振り返るようなことはしない。
しばらく考え、公也は彼女にさらりと返答した。
「特に乗りたくない」
「どうして?」
「怖いし。タイムパラドックスとか色々」
あるはずのないものに対して、空想の恐怖を持ち出すのも馬鹿げていたが、公也は香琴が何を求めているのか理解できず、そう答えるしかなかった。
香琴は少しくすくす笑ったあと、公也に声を投げかけていた。
「私はね、タイムマシン乗ってみたいんだ」
彼女がそう言うのは特に意外でもなく、公也はそうと一言漏らしただけだった。
「色んな時代に行ってね、色んな人を見るの」
「タイムマシンに乗りたいなんて言う奴、たいてい昔に行きたいって言うけど」
「だって、ほっておいても未来には進むもん。過去に戻れる方が貴重な体験だと思うなあ」
公也は彼女が楽しそうに話す理由が分からず、首を傾げたまま口を閉ざした。
「すごい偶然の中で生きてること、タイムマシンで見たらもっと痛感するかもしれない」
「香琴の言ってることよく分からないんだけど」
「ハムくん、この間お父さんがこの村に決めたって言ってたでしょ? もしその場に私が行って、別のとこがいいって言ってたら、もしかしたらハムくんと私、出会わないままだったかもしれないんだよ」
人生には少なからず、自分の予期していないところで大きな選択肢が転がっているものだ。公也はまだそれを実感したことはないが、父がこの村を選ばずに、別の村を選んでいれば、香琴のことを知らずに違う人生を送っていただろう。
宝捜しも始まらず、この村にこんな少女達が生きているとも知らずに、人生が流れていったのだ。
公也はしばらく黙ったあと、おもむろに呟いた。
「そんなイフの話したって仕方ないって思うんだけど」
「……そう?」
「その理屈で言ったら、この村に来たせいで、別の村にいた最高に気が合う友人と俺が出会えなくなったのかもしれないし」
公也の正論に香琴が黙った。どうにも彼女らしくない言葉に、公也も責め立てているような錯覚に陥り、歯切れの悪い言い方になってしまう。
「香琴は俺が来るの嫌だった?」
「あ、ううん! そんなことないよ! ハムくん来てくれて、私もナギちゃんも美月ちゃんもすっごく喜んでるんだよ!」
「美月は喜んでなさそうだけど……」
「照れ隠しだよ。こんな田舎に住んでるのに、人見知り凄いもん」
少し話の方向をずらすと、香琴の声の調子が弾んだ。くいと首を上げると、香琴が振り向き微笑みを浮かべていて、先を進む牟佐探検隊の主要メンバー二人は、こちらを気にする素振りもなく突き進んでいた。
香琴の笑顔は柔らかく、目の前に溢れている木漏れ日を想起させた。
一瞬何かを想像したのは、勘違いだったのだろう。公也は足下を見つめながら、湿った落ち葉が身を寄せ合う地面を踏みしめた。
「香琴」
公也が呼び止めると、ふいの言葉に香琴が驚いたように目を丸くしていた。
「どうかした?」
「そのさ、まだ俺も慣れないことたくさんあるから、色々頼ることあると思う」
「いいよ、気にしなくて」
「でも、俺だってみんなに少しは色々話してもらえる人間になりたいから」
彼女は照れくさそうに横を向いた公也に、少しの間見とれていた。
それが彼のあまり得意ではない優しさだと気付くと、彼女はくすりと笑ってまた真っ直ぐ前を向いて歩き出した。
「ハムくん、宝見つかると思う?」
「どうだろうな」
「見つかったらどうしたい?」
「ん、凄い金とかだったら、それで前いた街に何泊か買い物の旅行行く」
「ハムくん、現実的すぎだよー」
答えらしい答えが出ないまま、話がわき道にそれて、香琴の笑い声が木に反射していった。彼もそれ以上追求するつもりもなく、相槌をうつように笑って、前を進む二人に遅れないように足を少し速めた。




