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宝の手がかり?

 潮風が遠くから流れてくる。森の香り、海の香り。調和していなくて、公也にとって気持ちが悪いものだった。

 相変わらず凪沙と美月はシャベル片手にあちこちを掘り回していた。あとで埋め直さなくてもいいのか、とも公也は思ったが、どうせこんなところで穴を気にするような人間はいないだろう。そもそも、この村に住んでいる人間自体が少ないのだから。

 公也は「手伝えることある?」と作業前に一度訊ねていた。だが二人から帰ってきた言葉は「今は特にない」だった。男手のはずなのに、期待されていないというのも、多少悲しい話である。

「みつきち、何かめぼしい目印ある?」

「今のところない感じ。地図で見るのと現場に来るのはやっぱり違うわ」

 二人の働く姿を、香琴は嬉しそうに眺めている。二人は汗を滴らせながら、ひたすらあてもなく土を掘り返している。それは若干病弱そうな香琴を刺激するのかもしれないと、公也はふと考えた。

 ふと香琴がリュックを下ろし、その中から紙コップと水筒を取りだした。

「ナギちゃん、美月ちゃん、飲み物」

「お、気が利くねえ」

「スポーツドリンク用意しておいたの。暑いから熱中症に気をつけなきゃいけないし」

 公也も後ろから付いていき、背負っていたリュックからタオルを数枚取り出し、彼女達に渡す。

「あー疲れてる時の水分、これこそ生きてるなあって感覚だよ」

「ま、人間水分がなきゃ三日で死ぬし。とはいえ香琴、ありがとう」

 美月が香琴を褒めると、彼女は嬉しそうに頬を緩めて俯いた。威勢良く動いていた二人も、休憩を欲する程度には疲労していた。

 しかし、ここへ来てしばらく経つのに、まだ何ら手がかりらしい手がかりは見つかっていない。三方の鬼とは一体何なのか。そもそも、美月の最初の推測がはずれである可能性もある。

 公也が腕組みをしながら考えていると、凪沙がわざわざ彼に近づき、顔をのぞき込んできた。

「ハムくん、ないって顔してる」

「いや……あるかもしれないけどさ、俺達だけで見つかるの、これ」

 公也が難しい顔をすると、すぐさま横から美月の言葉が飛んできた。

「お役所にでも頼んで大々的に調査してもらった方がいいって思ってるんでしょ。でもそれだったら私達の取り分ないじゃない」

「そう、これは自分たちの手で掴む宝くじ! ハムくんも諦めたら駄目だぞ!」

 俗な話が出てきたな。公也はそれを口に出さず、香琴に振り返った。

 この蒸し暑さが堪えているのか、白い肌に汗が浮かんでいる。それでも彼女は笑顔を絶やさずに、美月や凪沙の行動を見つめ続けている。

 仲がいいのも分かる。二人にとって、妹のような存在なのだろう。だが、ここまで疲弊するのに、付いてくる理由も公也にはよく分からないものだった。

 香琴はいつも笑っている。感情を爆発させることもない。不思議な少女、言ってしまえばそれだけなのだが、公也にとって、それは気になって仕方のないものだった。

「さて、休憩も充分取ったし、次頑張ろうか」

「ねえ、凪沙」

「どうした、みつきち」

「地図を見てて思ったんだけど、ここ、海に近いでしょ。ということは地盤が固い部分が多いってこと。もし埋めてあるなら、もっと柔らかい山間の場所を選ぶと思う」

 美月の提言に、凪沙が深く頷く。確かに岩合の場所では、深く埋めることなど出来ない。

 凪沙は海沿いに進もうとしていた足を止め、山中側へと歩き出した。

 こんな所に何かあったら、今頃大騒ぎになってるだろう。公也はまだ、彼女達の意欲的な行動に対し、肯定的な視線を向けていなかった。

 すると、突然美月が立ち止まった。凪沙も驚いた様子で振り向く。

「ねえ、ここから見える景色、おかしいと思わない?」

 美月は海辺の方を見つめていた。海辺にはクロワッサンのように、岩がせり出している。そして、左方にも同じような形が見える。

 美月が地図を広げた。そこには、先日図書館でメモをした、過去の地形のメモもある。

 過去の図形では、丁度、彼女達が立っている位置に、木が鬼の角のように、歪んで生えている。

「これってもしかしたら……もしかするかも! みつきち、やるなあ!」

「まだ可能性の段階よ。早く掘る作業に移りましょう」

 美月が冷静に言葉を返す。凪沙はいち早くシャベルを手にして、辺りを掘り散らしていく。こうなると、自分一人サボるわけにもいかない。公也も香琴に「疲れた時に飲み物頼むな」と声をかけ、家から持ち出してきたシャベルでそこらを掘り出した。

 何分掘り続けただろうか。十分という短い単位ではない。三十分か、四十分か。もしかしたら一時間は超えたかもしれない。

 公也の腕は、すでに悲鳴を上げていた。当たり前の話だが、掘り進めていくうちに、地中はどんどん堅くなる。そして疲労のたまった筋肉では、わずかな量を掘るのでさえ、腕が痛む。

 それでも彼は地面を掘っていた。それはもはや根性という言葉ではなく、意地というものだったのかもしれない。

「ハムくん、大丈夫? ちょっと休憩して飲み物とかどう?」

 顔をしかめながら地面を掘る公也に、香琴がそっと訊ねてくる。だが公也は無言で首を横に振り必死に地面を掘った。

 ない。

 ない。

 見つからない。

 そもそも、十メートル四方を掘り尽くして、一つの宝箱を見つけるのさえ、無謀な行為なのに、この広大な山奥から何かを見つけるなど、馬鹿げた行為としか言いようがない。

 こんな馬鹿なこといつまで――

「あっ!」

 突然、凪沙が大声を発した。美月も香琴も、そして公也もそちらへ振り返る。

 凪沙はしゃがんで、土を一生懸命どけていく。

「凪沙、何があったんだ!」

「これ」

 と、彼女が見せてきたのは、さび付いたクッキーを入れるような缶だった。

 どうせ誰かが捨てたものだろう、とは誰も思わなかった。こんなところで、こんなものを地中に捨てる人間などいない。

 さび付いた缶は軍手をした手でも中々開かない。苦心している凪沙の脇で、美月がそっと「貸して」とその缶を奪い取った。

 そして、地面において、缶の蓋の口にスコップの先端を差し込んだ。テコの原理で、強引に開こうという目論見である。

 それでも缶は中々開かない。錆が癒着して、一つの形になっているとも言えた。

「持って帰って、何とかしてみる?」

「家の人間にバレたら私達の目論見が崩れるでしょ。ここは気合いを入れて……!」

 と、美月がわずかに出来た隙間に、力強くシャベルの先端を差し込む。

 ガチリ。

 そんな音が響いた。蓋が開いて、その中を明らかにしていく。

 昔の銅貨、そして小さな紙切れ。それを凪沙と美月、香琴、公也の順に回し読みしていく。


 財宝、ここにあり。

 しかし、この広大な地には銅貨しか見つけることが出来なかった。

 私の寿命はもう長くはない。

 出来れば、この缶を見つけた者に、発見してほしい。

 ただ一つ注意がある。

 財宝を見つけた者は不幸に見舞われる。

 それだけは確かなことだ。

 だから私は、口を閉ざした。

 進むも引くも自由。人生に幸あれ。


 年寄りめいた言葉と、筆で書いた達筆な文字は、缶の中という場所に支えられていた為か、錆が若干ついていたものの、綺麗に読めるものだった。

「まさか……本当に財宝ってあるのか……」

 公也が呆然と呟く。すると凪沙が笑いながら彼の後頭部を軽く叩いた。

「最初からあるって言ったよ。ハムくん、信じることって大切なんだからね」

 彼女の言葉に、公也はわずかながらに頷いた。一方、美月はリュックから赤いテープを持ってきて、それをそこらの木に貼りだした。

「美月ちゃん、何してるの?」

「これ、次に探索する時に目印になるでしょ。多分ここら辺が一番怪しいと思うから」

 そうして淡々と、美月はテープを貼る作業に勤しむ。

 その一方で、香琴は困ったような笑顔で、公也を見つめていた。

「財宝があるって凄いね。でも……不幸になる、呪われるっていうの、ちょっと怖いかな」

 そんなの、先に探した奴の妄言だろう、と公也は言いたくなった。だが何もなしにそんな言葉が出るわけもない。盗掘者には得てして不幸が訪れるとも言う。

 こればっかりはどうしようもない。公也は澄み切った青空を仰ぎ見た。

「よし、今日は収穫有り。みんな、家に戻るぞ!」

 そうして、牟佐探検隊の、初の成果を手に、彼らは山を下りていった。

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