米米虫虫
どこまでが実話で、どこからが創作かは、ご想像におまかせ致します。
2年前の夏。
ライサーというのか、一合、三合、五合、それぞれの押しレバーのついている、お米収納ボックスに虫が涌いた。
ウジ虫を小さくしたようなタイプで、やがて部屋の壁、天井にもへばりつく。
どうやら壁を伝って天井に到り、そこで羽化して飛び立つのがコヤツらの生命サイクルらしい。さっそく対応策として、唐辛子エキス等を徐々に放ち、シーズンを通して効果のあるという《除虫パッケージ》を購入し、ボックス内に吊るした。
まあまあ効いた、といったところであったか‥‥
そして去年。
‥‥虫は全滅した訳ではなかったようだ。
僕は酒飲み、日本酒も好きで、少しなら知識もある。
日本酒の米は、通常僕らが食べる米とは違う種類である。また、いい酒とは、つまり、とことん米を研磨し、残った微量の芯だけを用いたものである。その精米や研磨法にも個々の酒造メーカ、銘柄で特徴や秘密があるらしい。
だから旨い酒は、高い。
前年の虫が這いずりまわった事件(?)で、ひとつだけ気がついたことがあった。
あの、憎っくき虫は、米を食べ、糞をする。その糞は糠に似てる。米を研ぐと、虫も糞も容易に水と一緒に流れていく。
それで、十キロの米をライサーに放置した。
毎日、食べる米のためには、別に大きなペットボトルを用意した。
秋口には虫の発生も終息した。
そして今年となり、再度、夏が来た。
念願の虫が発生した。
米の中を、うようよ泳ぐ。
まさに、米、米、虫、虫。~、~。
去年と同じく、壁を伝わり、天井を這い、羽化していって小さな黒い蛾(?)になっていく。
とにかく、大量のウジ虫だった。
妻は悲鳴をあげていた。
クリープ・ショウにしか思えなかったらしい‥‥英語でクリープといえば怪物、化け物、気色わるいモノ、あと、『這う』という意味もある。決してコーヒーに入れられるものではない‥‥
壁と天井の虫は殺すことにした。
最初はティッシュで摘まみとり、台所のシンクに置いた茶碗の水に浸していた。すぐに死ぬ。
やがて数も数だし、おっつかなくなり、そのまま手でつまんだ。はじめは僕も気味わるく思ったが慣れていった。
天井の虫は、針金ハンガーでやさしく触れると落ちたので、そうして処理していった。
困ったのは、天井の虫が全部、そっくりそのまま羽化するのではなかったということだ。
十匹に一匹くらい、ミノムシのようにというか、『ミッション・インポシブル』のトム・クルーズのように、蜘蛛の糸みたいな線をツツッと吐き出して降下してきたことだ。
床に這った虫を知らずに踏むことは、僕ですらも気味悪かった。
であるから床の監視は決して怠らなかった。
それもこれも、旨い酒のため‥‥
ふたつの夏、虫に食われ、『芯』だけとなった米を、僕は新潟の新聞社に勤めてる友人のコネで、北陸の、ある酒造メーカに送った。
個性的な酒ができるのではないか?
待つこと半年。
寒い季節に葉書で結果が届いた。
『酸っぱくて、酢に近い』とのこと。
‥‥‥そう言えば、虫と格闘してた期間、ずっと妻が「虫酸が走る」と叫んでた。
オチのある話は、こころがけてはいるのですが、インスピレーション待ちというのが、もどかしいですw‥‥