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紫色の青春〜俺の青春は、少し血の混じった紫色だ〜  作者: ハルキカク


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7/10

第二章2 背徳の黄金週間

廃ビルの窓を割った、あの乾いた音。

 そして、腕の中で感じた沙紀の体温と、俺の中に残った微熱。は、連休前の浮ついた空気に満ちた教室に戻っても、俺の脳裏から離れようとしなかった。

 翌日から、暦の上ではゴールデンウィークが始まる。

 終礼の後、三角さんが「良い休日を」とクラス全員に微笑みかけていた。その純白の輝きは相変わらず眩しかったが、今の俺には、その光がどこか遠い場所にあるもののように感じられた。

 帰宅後、俺は自分の部屋で、返却された古いカメラを手に取った。

 現像された写真は、沙紀の手によってこの世界のどこかへばら撒かれた。俺を縛る鎖は、理屈の上ではもう消えたはずだ。

 この連休、彼女からの呼び出しを無視して、また元の「無色」な日常に戻ることだってできる。

 それなのに。

 スマホの画面が震え、彼女の名前が浮かび上がった瞬間。

 俺の心臓は、恐怖とは別の、名付けようのない感情で跳ねた。


ゴールデンウィークという、世界から隔絶された日々。俺の日常は完全に沙紀によって塗りつぶされていた。

 俺の足は放課後……いや、この連休中も、吸い寄せられるように彼女の隣へと向かっていた。

「ねえ、真白。次はあそこ」

「……またかよ」

 呆れ混じりに応えながらも、俺は彼女が差し出すスプレー缶を受け取っていた。

 高架下のコンクリート。誰にも見られないはずの死角に、俺たちは「自分たちの印」を書き殴る。彼女と俺のインクが混ざり合う。

傍観者だった俺が、今や街に傷跡を残す当事者へと成り下がっている。

 だが、その背徳感は、不思議なほど心地よかった。


 連休の中日、夜の帳が下りた頃。俺たちは街外れの高台にある公園にいた。

 街灯の届かない芝生の広場からは、眼下に眠る街の灯りが、宝石の屑をぶちまけたように輝いている。

 何もできず、ただ日が暮れていくのを眺めるだけの連休。それが、彼女といるだけで「特別な日」へと変わっていく。

 俺は芝生の上に寝そべって、ただ見えない雲に手を伸ばしていた。

「……ねえ、真白。一本、ちょうだい」

 錆びついたブランコに座っていた沙紀が、俺のポケットを指差した。

 俺は無言で、安っぽい青い紙箱を取り出す。中に入っているのは本物の煙草じゃない。砂糖とココアで固められた、子供騙しの「シガレット」だ。

 俺は一本抜き取って自分の口にくわえ、さらにもう一本を沙紀に渡した。

 彼女は俺のすぐ隣まで顔を寄せ、指先で俺のくわえたそれを支える。彼女は自分の分に火を点ける真似をする代わりに、俺が口にしている「煙草」の先に、自分の「煙草」をそっと重ねた。

 シガーキス。

 本来なら火を分け合うためのその仕草を、火の灯らない砂糖の塊でなぞる。

 

 沙紀の顔が、吐息が触れるほど近い。

 彼女はそのまま、空っぽの肺からゆっくりと息を漏らした。

 その不確かな吐息は、夜の静寂しじまにすっと溶けて、窓のない夜の向こう側へと消えていった。

 

「……俺たちはいつまで、こんなことをしているんだろうな」

「いいじゃん。認めてしまえばいいのに」

 沙紀はシガレット越しに、俺の唇に微かな圧をかけた。

 本物の火は点いていない。それなのに、重なり合った砂糖の棒を通じて、彼女の胸にある熱が俺の中に流れ込んでくるような錯覚を覚える。

 

 揉み消すたびに、胸に火が灯る。

 そんな、厄介で消えない甘ったるい硝煙。

「気付いちゃったんだ。私は、ずっとこのままでいい。真白と一緒に、この靄の中にいたいんだよ」

 沙紀はシガレットを噛み砕くと、甘ったるい匂いを残して、意地悪く、けれどどこか寂しさを残して笑った。

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