双彗星
登場人物
海月 慧華高校2年。
海月 遊星中学2年。
那須 兼一医者。
季節は冬、12月後半。
病院の診察室。那須が座っている。
「海月慧華さん、どうぞ」
慧華、入室。
「どうぞ、久しぶりです」
「先月ぶりですね、那須先生」
慧華、腕を捲る。夥しい傷跡。
「失礼します。…相変わらず、ですが経過は順調…なんですかねぇ」
「どう、なんでしょうか」
「と言われても僕も探り探りなんですよ。一方通行みたいですし」
「…ですよね」
「むぅ…とりあえず今回も痛み止めと塗り薬は出しておきますから、また1ヶ月後に来てください。あぁでも、その間に悪化したらすぐに来てくださいね」
「いつもありがとうございます」
場所は移り変わり人通りが少ない路地。この時期なのに洒落たイルミネーションの一本も置かれない、細く暗い路地。雪は積もっていた朝に比べれば大分溶けたが、まだ幾分か残っている。制服にロングコートの遊星、同じく制服に厚手の上着の慧華。
遊星、光の薄い目で虚ろに足元を見つつ歩いている。見かねて、慧華が声をかける。
「どうしたの遊星、最近ずっと思い詰めたような顔してんじゃん」
「…別に」
「別に、じゃないでしょ。最近だいぶ、切る回数増えてるでしょ」
「…別に。いつも通り、だよ」
「……ふぅん」
「…姉さんこそどうしたの、手袋出し忘れてたじゃん」
「そ、それは、その、…一昨日転んだときに汚しちゃって、そのまま上着に入れっぱなしだったというか…」
「はぁ。洗濯くらいちゃんと出してよ」
「ハイ」
しばし間。
「…って、私の話はどうでもいいの!今は遊星の話!!」
「…そのどうでもいい姉さんのおかげで、僕今手袋ないんだけど」
「それは、その…ごめん」
「まあいいけど。それで、何を聞きたいの?」
「…なにか悩みでもあるんじゃないの?」
「…ないよ」
「はい出た遊星の『…ないよ』。絶対あるでしょ」
「…あって、どうするの」
「どうするって、…話聞いて、私にできることなら何でもやるよ?」
「…いい」
「何で…」
「姉さんにはわからないよ」
「…は?」
「姉さんが知らない世界の、姉さんが体験したことのない話。だから、姉さんにできることも、してほしいことも何も無い」
「何言って…」
「ほら、着いたよ」
見上げれば、すでに家の玄関の前だった。
遊星が鍵を開けて、 慧華とともに中に入る。
玄関には埃一つない写真立てと、その前に花瓶が一つ。
「「ただいま」」
「「おかえり」」
発したのは無論自分たちの声であり、帰ってくるのも自分たちの声である。
閑散とした八畳程の部屋。家具も最低限しかなく、この季節にはひどく冷えるだろう、フローリング剥き出しの床。
「姉さん、この後バイトだよね」
「そ、6時から」
遊星、時計を見る。
「あと一時間…ご飯、食べてく?」
「ん…頼める?」
「わかった」
簡単に夕食を済ませ、慧華はバイトに出る。
遊星、明日の朝食の分の米を炊飯器にセットして、布団に入る。
「…姉さんには、わかってほしくないよ」
翌朝。何やら作業をしている遊星。腕を抱えた慧華が出てくる。
「…おはよう」
「あ、姉さん。おはよう」
「…」
「どうしたの?げっそりしてるけど」
「…ううん、なんでもない」
「そう、ならいいけど」
「今日何時くらい?」
「何が?」
「帰り。今日午前授業でしょ」
「あぁそういうこと。今日は休む」
「そ。じゃあ鍵持ってかなくていいのね」
「一応持ってってよ…」
「わかってるわよ。私今日バイト直行するから夜ご飯はラップしといて」
「了解」
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
慧華、家を出る。
遊星、左袖を捲る。夥しい数の青痣と切り傷刺し傷。青黒く膿んだものも多くある。
「…こんなの、姉さんに見せられるわけ無いだろ」
遊星、ポケットからカッターナイフを取り出し、左腕に振り下ろす。
学校から帰ってきた慧華。ドアを開け、急に腕を抑える。
「ただいま。ッ痛ッ!?」
慌てて遊星、出てくる。
「あ、おかえり姉さん。腕、どうしたの?」
「…なんでもないよ」
「そう?ならいいけど」
「あんたこそ、その腕。どうしたのよ、血ィ出てるじゃん」
「あぁこれ、これは…そう、さっき包丁でちょっとやっちゃってさ」
「そ。今日はバイトないから、ゆっくりしててよかったのに」
「練習というかなんというか…」
「にしたって気をつけなさい」
「ハイ」
「ねえ遊星」
「なに?」
「イルミネーション、見に行かない?」
「いいよ面倒くさい」
「だめ。今年も行くよ」
「…はい」
「…はぁ。こんなの毎年見に来ても変わんないよ」
「それがいいんじゃないの」
「…ふぅん」
「「「ハハハハハハハハハ!!!」」」
突然、複数人の笑い声。声の持ち主を察してか、遊星の身がすくむ。
「それであいつが…」
「ばっかじゃねぇの!」
「「「ハハハハハハハハハ!!!」」」
「あれ、遊星じゃねえの」
遊星がビクリとする。
「なわけねぇよ、あいつみたいなみすぼらしい奴が、人様の前で歩けるわけねぇ」
「違いない」
「「「ハハハハハハハハハ!!!」」」
遊星、一連の流れをビクビクしながら聞いている。
慧華、遊星の手を掴み走り出す。
「帰るよ」
だいぶ走ったようだ。目の前に踏切が見えている。いつも帰るのとは違う道。
息を切らした慧華が問う。
「あいつら、なんなの?」
「…クラスメイト?」
「遊星のこと、あんな言い方」
「事実だからね」
「だからってあんな…」
「だから言っただろ?姉さんにはわからないんだって」
「え?」
「姉さんが知らない世界いいや寧ろ知らなくて良い世界の、経験したこともないようなことだって、言ったよね?」
「…」
「姉さんは、口に延々水を流し込まれたことはある?」
「は?」
「刃物で腕を切られたことは?腕じゃなくてもいい、制服でもカバンでも教科書でも」
「…ない」
「気がついたら自分のものがなくなってた経験は?殴られ蹴られ棚に押し込まれ見世物にされたことは?」
「ない。さっきから何の話してるのよ!訳分かんな…」
「全部僕が受けてきたことだよ?学校で」
「ッ…」
「もっっっと色々あったけど、まぁそれはいいや」
「遊星…」
「ほら、帰るよ」
歩き出す二人。慧華が踏切をわたる。警告音が鳴り始め、柵が降りる。踏切内には遊星一人が残されているが、慧華は気づかない。遊星は何故か満足そうに慧華に声を掛ける。
「慧華姉さん」
慧華が弾かれたように振り向く。遊星は泣きながら笑って言った。
「さよなら」
踏切に猛スピードで電車が突っ込む。グシャッという、何かが潰れるような生々しい音。宙を舞う鮮血。慧華の顔にベタリと貼り付いた血。そして突如襲った激痛に、慧華の意識はかき消された。
遊星、目覚める。病院のベッドの上。体を起こそうとした瞬間、全身に激痛が走った。何事かと思い自らの身体を見下ろす。腹や腕にはギッチリと包帯が巻かれており、足も綿飴のようになっていた。おまけに視界がやけに狭く偏っている。触れてみて、右目にも包帯が巻かれていることを知った。
「あぁ、そうか…」
何かを悟ったように天井を見上げる。シミ一つない、無機質な白い天井。
「僕は…死ねなかったのか」
「正解」
急に横からかけられる声。しかし姉のものではない。
目をやると、やつれやさぐれた細身の男が立っていた。白衣を着ている。医者か。
「急に喋って悪かったね。僕は君の手術を担当した、那須兼一というものだ。どこにでもいる、しがない外科医だよ。君たち姉弟以外にとっては」
「…どういう、ことですか」
「そうだな、何から話したものか…」
「というか、姉さんは学校ですか」
「ん?あぁ、君の姉の、海月慧華かい」
「そうです、僕の姉の、海月慧華です。姉さんは今どこですか、無事なんですか」
「彼女は今、ICUにいるよ」
「…は?」
「うんうん、君の反応は至って正常だ」
「待って下さい、ICU?それは何ですか?何かの…略称?というかそもそも今は昼間だ、姉さんが学校以外の場所にいるというのは、一体どういうことですか!?」
「まあまあ落ち着きたまえ。君のお姉さんはICU、所謂“集中治療室”にいる。君と一緒に、この病院に搬送されてきたんだ」
「…は?」
「君と、全く、同時に、この病院に、救急搬送されてきたんだ」
「…待って下さい」
「あぁ待つよ。悩むのは若者の特権だ」
「何で姉さんが僕と同時に搬送されているんです?僕は電車に轢かれたんですよね?」
「あぁ、間違いない」
「でもその状況で姉さんはどう考えても安全な場所にいた。僕がそこに立たせた。なのに何故姉さんまで搬送されているんですか!?」
「そんなに一気に聞かれてもなぁ」
「答えて下さい!何がどうなっているんです!?」
ここで那須は一息つき、急に神妙な顔つきになった。
同時に、彼の周りの空気がピリッとひりつく音が聞こえたかのようだった。
「落ち着いて聞いて下さい。あなたのお姉さん、海月慧華さんには、“痛覚共有”という症状が見られます」
「…痛覚、共有?」
「最近話題になり始めた、新しい病気です。まあ病気と言っていいのかは分かりかねますが。正式名称は“共感性痛覚異常”、私はその症状から分かりやすく痛覚共有と呼んでいます。私も初めて見ましたよ。痛覚共有は、人の傷が文字通り“痛い”んです。実際に神経が接続されているわけではないんですが、痛覚が共有されることにより、対象の傷の痛みが伝播します。そして彼女の場合はあなたが対象で、少々特殊でした」
「…対象?特殊?」
「あなたの左腕の傷を見ました。ひどい自傷でした」
「そう、ですね」
「お姉さんの左腕には、全く同じ傷が見られました。すべての傷が、完璧に、再現されていました」
「…は?」
「私も信じられませんでした。ですが、君を手術する都合上、一度君の体を傷つけなければならないんです。あ、これはご理解いただけますか?」
「理解も何も、もう切ったんでしょう」
「話が早くて助かります。まあつまりは…君を切るときに、彼女のお腹も切れたんです。現在進行系、リアルタイム、切ってすぐにというより切りながら」
「な…」
「信じられないでしょう?ですがこれが事実です」
「…だったら、姉さんは今…」
「安心して下さい、眠っているだけです。傷の状態が君と同じだったので並行して手術しましたが、恐らく傷は埋まっているはずです。ですが彼女の場合は、精神的なショックの方が大きかったのでしょう。体は生きているのに、まるで脳が応答しないんです」
「…脳、死?」
「厳密にそうと定義できたわけじゃありませんが、少なくとも現時点では復活されていない、ということです」
「…どうすれば…」
「はい?」
「どうすれば姉さんは目覚めるんです!?僕は何をすればいいんですか!?なんでもします、僕にできることなら何でもします!」
しばし間。
「一つだけ、あるといえばあります。ですが…」
「教えて下さい」
「………ぞう」
「はい?」
「脳と心臓を、…半分移植します」
「…半分?」
「ええ。右脳左脳それぞれ半分と、心臓半分を、お姉さんのそれらと縫合します。これにより、君の体とお姉さんの体を…」
「統合する…と?」
「ええ」
「わかりました。やってくだ
「ですが、私にはそれはできません」
「…はい?」
「私には、その手術を行う権限がありません」
「…何故?」
「お姉さんが拒んだからです」
「…姉さんは今、会話可能な状態ではないと、先程あなたが言ったのでは?」
「ええ、今はそうです」
「だったら何故?」
「生前、と言うのは不吉ですが。お姉さんが、私宛に遺書を遺しています」
「…遺書?」
「まあまだお亡くなりになってはいませんが。お姉さんがお亡くなりになる、もしくはコミュニケーションが取れなくなったときに、意識を復活させるための統合手術の手段があることは、事前にお話していました。しかしお姉さんはそれを拒んだ」
「…どうして」
「あなたを殺したくはない、と。あなたの未来を奪ってまで私は生きたくないと。そう仰りました。貴方たちは酷く凄惨で苛烈な人生を送っておられる。でも貴方たちの目から、心から。光が失われたことはなかった。少なくとも私が見て聞いていた印象はそんな感じでした。…しかしお姉さんは違うと仰った」
「…違、う?」
「最近、貴方の目から光が失われていると。自傷行為に走り、それでもなお止まらないほどに、…病んでいる、苦しんでいると。彼女は左腕を見せてそう訴えてきました。君は彼女の症状を知らなかったからできたのでしょうが、きっと彼女が背負っていた傷は、想像以上に、深く多かったんですよ」
「姉さん…」
「とまあそういうわけで、私は何もできないということです」
「…僕が…」
「はい?」
「僕が、姉さんを苦しめていた、と?」
「ええ」
「僕が踏切に飛び込まなければ、姉さんはまだ笑っていられたと?」
「ええ」
「つまり、僕が全部悪い、と?」
「…ええ。残酷ですが」
「…姉さんの遺書が作られたのは、いつですか?」
「えー確か、三年ほど前だったかと」
「…悪いね、姉さん。僕の勝ちだ」
「どうしました?」
「遺書って、作られた時間がより今に近いほうが適用されますよね?」
「ええ」
「僕も遺書があります。まあまだ死んでないですが。毎日更新してます」
「ほう」
「僕はそこに書き続けています。『全ては姉さんのために』」
「…つまり?」
「手術をしてください」
「…なるほど、姉さんのために、ねぇ」
「ええ。僕は姉さんのためなら何だってします。命を擲ってでも」
「だがこの手術の成功例はない。実際に行った例すらないだろう。なんせ…」
「そんなことをするような事態にならないから。本人が我慢するあるいはお互いが理解しているため、瀕死になる機会がそもそもない。まして、自傷を背負うこともほぼない」
「そう、だから極めて稀な例なんだよ。僕としては、まあ言い方はあれだが、もう少し経過観察していたいんだ。今君に死なれるのは困る」
「ですがそれで姉さんが助かるのなら、僕は何だってやります」
「…わかった」
「ありがとうございます」
「全く君は、最低で最高の弟だね」
「ええ。僕は最低の弟ですよ」
「お姉さんには、何と言えばいいかい?」
「『全ては姉さんのために』。これだけでいいです」
「…お別れの言葉としては、少々過激じゃないかい?」
「いいんです。僕が言いたいのはそれだけですから」
「…わかった」
慧華、目覚める。ベッドの横に那須が座っている。
「良かった、意識は戻ったみたいだね」
「え、那須さん?…おはようございます……?」
「…もう夕方だよ」
「あはは、そうですね。…遊星は?」
「ん?」
「遊星は…無事退院できましたか?」
「…」
「…先生?」
「…ハハハッ、遊星君も、大変な仕事を押し付けてくれたね!」
「遊星に…何かあったんですか?」
「…わかっているくせに」
「…はい?」
「自分の心に、聞いてみたらどうだい?」
「心?」
「僕が言えることはこれだけだ。後は自分の目で確かめてほしい」
「え?」
「…遊星君に、会いたいかい」
「はい」
那須、慧華の右手をとり、左胸へ移動させる。
「…これが、遊星君だ」
「…はい?」
「以前話したことがあっただろう。感覚共有縫合手術。あれを君に行った。用いたのは遊星君の脳の後ろ半分及び心臓の左半分。これを君の該当臓器と入れ替えた」
「…ってことは、遊星は…」
「そういえば、伝言を預かっていたんだった」
「え?」
「『全ては姉さんのために』だそうだ。いい弟さんだな」
「…私」
「ん?」
「私、遊星を殺してまで生きたい世界なんてない!」
「だから何だって言うんだ!」
「…先生?」
「目覚めたときの遊星君の眼球は濁りきっていた。あれは世界に絶望し、人に失望し、生きる目標を失った人の目だ。わかるかい?彼はもうこの世を諦めていたんだよ」
「でも、だからって」
「だからって死ぬことはないって?あぁ確かにそうですね。でも所詮僕らは他人だ。遊星君ではない。だから彼の心を正確に読み解くことはできないし、僕らが何を言ってもそれは推測の域を出ない。だが、だがしかし。縫合手術の話をした途端、彼の目は輝きを取り戻した。わかるかい。それは彼が貴方を助けられると思ったからだ」
「でも、私は」
「私はそんな命ほしくない、と?残酷だが結果が全てだ。彼は君に命を託した。ならば、その分まできっちり生き抜くことが彼への餞になると思わないかい?」
「…」
「それに、ここからは僕の弱音になるけれど。…僕は正直見るに耐えなかった。定期検査に来る君の表情も、意識が戻った遊星君の絶望感も。だからせめて君の中で」
那須、涙を拭き息を整える。
「せめて君の中で。安らかに眠らせてあげては、くれないだろうか…?」
「…………わかり、ました…」
しばし間。
「…僕は医者を辞める」
「え?」
「君たちを救う方法は他にもあったはずだ。ふたりとも生きて帰る、とまでは行かなくても、少なくとも遊星君を殺さない選択もあったに違いない。けれど僕は何もできないまま、こうして最悪の結果を招いた。これは僕の失態であり、僕の落ち度だ。そして医者を辞めるのは僕の自己満足でしかない。けれど、僕がこのまま何もしないのは、耐えられないんだ。罪滅ぼし、と言えば過言だね。結局自己満足さ」
「…先生」
「どうした?」
「…遊星は、本当にここにいるんですか?」
「…ああ」
「もう、触れ合うことはできないんですか?」
「ああ。…だが、君もわかっているだろう。それより遥かに深く繋がっている、と」
「…はい。共感がなくなったからといって、私は独りじゃない。でも、…もう遊星と口喧嘩できないんですね」
「楽しかったですか、その日々は」
「…はい、とても」
「そうか、なら、遊星君にもそう伝えておこう」
「え?」
「実は僕には、生まれつき癌があってね。持って後一ヶ月と言われているんだ」
「…え?」
「だがまあ、それまで必死に足掻いてみせるさ。処刑台に登る日はわかっていても、その前に首を括るようなバカには、なりたくないんでね」
「ふふっ、何ですかそれ」
「僕の地元の伝承だよ。死ぬまで必死に足掻けって。…昔は無駄だと思ってたんだけど」
「案外、悪くなかったんですね?」
「ああ。君たちを見てきて、心からそう思えているよ」
「…先生」
「ん?」
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
病院の一角にある那須の自室。那須が電話をかける。
「あぁもしもし遊星君かい?上手く行ったよ。お姉さんは元気だ。…今から帰るよ。…あぁ、そうだ。牛乳を買っておいてくれないか。今日はシチューにしようと思うんだ。…うん、じゃあまた後で」
那須、電話を切り、天を仰ぐ。湿度の高さから若干カビが生えてそのまま放置した、純白には程遠い薄汚れた天井。
「…僕も失念していたよ。切った半分が余っているなら、半分ないところにねじ込めばいいなんて。全く、この世界の神ってのは、ひどいやつだ。僕にあんな手術をさせるとは。あれは人道に反しているだろう。いや、人道以前の問題か…(何かブツブツ言う)…っと。そろそろ帰らねば。遊星君に怒られてしまう」
那須、扉に向かう。電気を消す。
「…また明日も頼むよ。僕にはこれしかないんだから」
扉が閉じられ、やがて病院全体の電灯が落ちる。
夜空に一つ、薄紅く輝く星。
その横を、星が二つ。流れていった。
初投稿です。幼い頃から下手の横好き程度でしかない趣味を引きずり、こうして書き上げてしまいました。
拙いところも多々あるとは思いますが、読んでいただけた方は是非感想等いただけると励みになります。




