夢の中での出会い
私の名前は樋口 美穂。
大学の4年生で文系の学部に通っている。4年生ということもあり、進路も決まり、講義もほとんどない。本当は学費を払っている以上、たくさん講義を入れた方がいいのだろうが、どうしてもやる気が起きないでダラダラしてしまっている。
毎日、家でダラダラしているだけなので最近寝つきが悪い。忙しかった1~3年生のときは、ベッドに入ったらすぐに熟睡していたのに……
……明日は久しぶりに友人と会うのに全く寝られない
今、何時?
5:00! もう朝じゃん! 8:00には準備しなくちゃいけないのに!
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「おーい! 美穂ー! こっちこっち!」
「お待たせー! 明日香ー! 久しぶり!」
「全然待ってないよー! 行きたいカフェあっちみたい!」
「おっけー!」
- カフェ
「「このケーキ可愛い!!」」
2人で運ばれてきたケーキへとカメラを向ける。
「写真いっぱい撮らなきゃー! そういえば、美穂と会うのいつぶり?」
「んー、夏に会って以来だから2ヶ月くらいぶりかな?」
「もうほんとに寂しかったー!」
「私もー! そうだ! 明日香、はい! 誕生日プレゼント!」
「ありがとー! 覚えてくれてたんだね!」
「もちろんだよー!」
「じゃあ私も! 美穂の誕生日には早いけど次いつ会えるかわからないし、渡したかったから!」
明日香がピンク色の液体が入った香水瓶のようなものをくれた。
「これは? 香水?」
「ふふふ。実はそれ寝る前に枕に吹き付けるとよく眠れるって噂の香水!」
「この間、通話したときにあまり寝れてないって話してたからオススメ!」
「……! ありがとう! 早速今日の夜から使ってみるね!」
「ぜひ! 私も使ってみたんだけど、香水っていうほど強い香りしなかったし、良い夢みれたから美穂の睡眠不足が解消されればいいな!」
この日は明日香とカフェを出て、映画を観て、ディナーを食べてと充実した1日だった。
「じゃあね美穂ー! また遊ぼー!」
「うん! 今度は旅行とかも行きたいねー!」
「いいねー! いいねー! また連絡するね!」
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- 帰宅後
お風呂にも入り、あとは寝るだけ。
(そういえば明日香が良く眠れる香水をくれたっけ。今日は疲れてるだろうから眠れるだろうけど、良い夢見れるらしいし使ってみよう!)
シュッ シュッ
ふんわりと優しい薔薇の香りが広がる
(良い匂い……深く眠れそうだな)
気がつくとどこかの中庭に立っていた。
(ここは……夢の中か。明晰夢ってやつかな。こんなにはっきり意識がある夢は初めてだな。)
「そこにいるのは誰?」
目の前にある建物の上あたりから声がかかる。
「え! そちらこそどなたですか?」
上を見上げてみても太陽が眩しくて顔が良く見えない
「……僕の夢の中に人が出てくるのは初めてだ」
「すいません! あまり良く聞こえなくてそちらに行ってもいいですか?」
「…! 僕が行こうか?」
「いえ! すれ違っても困っちゃうので、私が屋上へ行きますね!」
「わかった!待ってる」
私は建物の中に入り、階段を探す。この建物の中にはあの人以外に人がいなそうだ。新築の病院のような場所で新しい建物の匂い、そして消毒液の匂いがする。
病院といってもホラーの定番のような不気味な気配はせず、全体的に明るい日差しが建物内を照らしている。
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屋上に続く階段を発見した。この先にいる人はどんな人なんだろうか。夢だし自分の理想が詰め込まれた人とか芸能人とかがいるかもな。
ガチャ
「えっと……こんにちは? さっき下から話しかけてたものです」
「こんにちは。はじめまして」
ドアを開けた先に立っていたのは、儚いを体現したような綺麗な男の人だった。
「すみません……夢の中の人にいうのは変ですけど……あなたは誰?」
「僕も自分の夢の中だと認識しているんだけど……」
互いに困った顔を向け合う。
「じゃあ私たちの夢が繋がってしまったのかもしれませんね笑」
「そうかも笑」
「では何かの縁として僕の自己紹介をしようかな」
「涼宮 透といいます。22歳です」
「私は樋口美穂です。同じく22歳です」
「同じ歳か! ますます不思議だね」
「はい。あのいくつか質問が……」
ブーブーブー
携帯のバイブだ。気がついたら自分の部屋のベッドの上だった。
窓のカーテンの隙間から漏れる光が朝を知らせている。
「不思議な夢だったな……良い夢かって言われると疑問だけど、あの場所とあの人は心地良い感じだったな」
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また今日も何もない1日が過ぎた。なんでダラダラしてるだけなのに時間はあっという間なのか。
なんとなくまた会える気がして香水を振りかける。
シュッ シュッ
……まさかね
目が覚める。ここはあの夢の病院のベッドの上?
(昨日は屋上で夢が終わったはずなんだけど……まぁ夢だから色々あるか。あの人はいるだろうか。)
病室の窓が空いてるようで外からの気持ちいい風が吹き込んでくる。病院のどこかに薔薇があるらしくその香りがする。
ずっと病室にいても退屈なため、あの人を探しつつ院内を探索してみる。
ロビー、広々としていて誰もいないと少し寂しさを感じる。
診察室、様々な道具が机の上に置かれている。
ここらへんは自分が体調不良のときに行く病院で見かけたものと同じようなつくりになっているものが多い。実際にこの病院に来たことはないが。
そもそもこの病院は実在するものなのだろうか? 住所が書いてあるらしきところは靄がかかったように読めない。
ナーススティション、何やら書きかけのメモがたくさんある。だけれど医療関係に詳しくないので意味がわからないものが多い。
院長室、ここは入るのが勇気がいるが、夢なんだから自由でしょ! と入ってみる。
ガチャ
院長室の椅子に彼が座っている。
「驚いた。昨日ぶりだね」
「透さん! えっとそうですね!」
「透でいいよ。タメ語でいいし」
「じゃあ透くんで……タメ語はがんばります! 私のことも美穂で」
「うん。じゃあ美穂って呼ばせてもらう。
でもまた会えるなんて驚いたよ。ずっとこの夢では1人だったから」
透くんは少し寂しそうに笑った。
「透くんはここの夢をよくみるの?」
「うん。ずっと」
「そうなんだ…この場所知ってる場所なの?」
(ずっと…?)
「いや、覚えはないんだけどずっとここにいるんだ。この夢を見始めてから現実に戻れてないんだ」
「えっ!?」
「僕自身は夢だと思っているんだけど、こんなにここにいるってことは別世界にきてしまっていると思い始めたんだ。そんなときに君が現れた。
美穂には現実ってある? ………この質問変だね笑」
「私は昨日、屋上で透くんと別れてから現実の自分の部屋で目覚めたよ」
「そうなんだ……もしかしたら美穂もだんだんとこの世界に囚われてしまうかもしれない。
そんな辛い思いをする前にこの世界に来るのはやめた方がいい。
といっても、この世界に無意識で来てしまうなら対策のしようがないんだけど」
その話を聞いて、香水のことが頭をよぎった。
「……実は友人にもらった香水を使うとここに来てしまうんです」
「そうか。ならその香水はもう使わない方がいい」
「いえ! まだ使います」
「どうして?」
「私と透くんではこの世界に来ている流れが違うし、私がこの世界に囚われてしまうことはないと思う。それにずっと透くんを独りにしてしまうとわかっていて、放置なんてしない」
「いや僕のことは忘れてくれて構わない。慣れてるからね」
「いいえ! 諦めない!」
目が覚める。自分の部屋だ。最後の言葉は透くんに届いたのかな。
この不思議な香水について明日香に聞いてみよう。
プルル……プルル……
「もしもーし」
「明日香? 急にごめん。今暇?」
「暇だよー! どうかした?」
「あの香水について聞きたいことがあって。……そういえば明日香はどんな夢見たの?」
「私ー? えっとね、自分の家で真っ白のワンちゃんと遊ぶ夢だったよ! 香水使うと毎回そのワンちゃんが出てくるんだよねー。すごく人懐っこくて可愛いんだよ!」
「そうなんだ……その夢の中で変わったことある?」
(人によって見る夢は違うんだ……)
「んー何かあるかな……。あっ!私の家に薔薇の花は植えてないはずなんだけど、夢の中だけ薔薇が咲いててその香りがすることかな!」
「その情報助かる! ありがとう!」
(あの薔薇の香りに何かあるのかも!)
「でも急にどうしたの? 何かトラブル?」
「いやずっと同じ場所の夢を見るからどうしてかなって」
「なるほどね! それは私も気になってたんだよね。そうだ明日、この香水を買ったお店に一緒に行かない?」
「行きたい! でも明日香、仕事大丈夫なの?」
「大丈夫! たまりまくった仕事を片付けたばかりだし、最近上司に早く帰れって急かされるし笑
あ! ごめん。仕事終わりになっちゃうんだけど大丈夫?」
「大丈夫! じゃあ明日いつもの駅前で!」
明日香との通話を切って考える。
あの薔薇の香りは何かしらの作用があるみたい。何かを伝えようとしているのかな。
シュッ シュッ
「また来たの?」
「びっくりした!」
今度私が目を覚ましたのはナーススティションの中だったらしい。声をかけられ目を開けたら、透くんがカウンター越しに立っていた。
「美穂が現れる瞬間を目撃したのは初めてだ。レアだな」
「ゲームみたいに言う笑」
「ある意味、ゲームみたいなものじゃない?
それにしても結局ここに来たの。どうして?」
「昨日も言ったとおり透くんを独りにしないため!
私はちゃんと戻れてるし、透くんが現実に帰る方法も探さないと!」
「放っておいていいって言ったのに……
美穂はお人好しだね。」
透くんはそう言ってふんわりと笑った。
(やっぱり慣れてるっていっても独りは寂しいよね。)
とりあえず手がかりを探すために、院内を2人で散策することにした。
「僕も最初に来たときに色々見てみたけど、特に解決に繋がりそうなことはなかったよ……」
「改めて見てみることで変わってることがあるかも!」
「……!そうだね。」
「くっ……! 私に医療知識があれば、このメモが解読できるかもしれないのに……」
美穂は明らかにこの現象に関係ない、看護師のメモと思われるものを凝視していた。
透はそれをちょっと馬鹿だなぁと思いつつ、久しぶりに楽しいという感覚から美穂を優しく見つめていた。
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院外に出ると、最初に美穂が現れた中庭の奥に薔薇がたくさん咲いているのが見える。
「あの薔薇に何か関係があるかもって友人と話してたんです!」
「そうなの?」
「うん! それにここに来るための香水が薔薇の香りだし気になってたの。」
2人で薔薇に近づく
一面が薔薇で覆われているにも関わらず、薔薇の香りはくどくなく、優しく2人を包む。
(この薔薇が原因だとは思うけど、どうしても悪いものだと思えない。)
ふと美穂が一輪の薔薇に触れる。
ピチチ! ピチ!
外からスズメの声がする。
私、いつの間にか戻ってたんだ。
やはり薔薇に触れたから?とりあえず今日は明日香とお店に向かう日だ。
「やっほ! 先日ぶりだね。仕事終わりまで待ってもらってごめんね」
「大丈夫だよー! 私はまだ働いてないし、時間の融通もきくからさ」
「ありがとう! あの香水を買ったお店はここから少し歩いたところにあるの!」
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「……ここ?」
「そうだよ! ちょっと外観怪しいけど入ってみたらすごく綺麗だから! いこいこ!」
「うん……」
明日香に案内されてついたお店は、古びた建物で一見するとお店には見えない建物だった。明日香に続くように恐る恐るそのお店に入る。
「え! 綺麗……」
店内は外観からは想像できないような内装だった。至るところに用途がわからない道具が積んであるが、それぞれが雰囲気を邪魔することなく存在している。
どこからかオレンジ掛かった光で照らしているようで、まるで古い絵本の世界に入ったようだった。
「美穂! あそこに店員さんっぽい人がいる」
明日香の視線の先に、おばあさんが座っている。
「すみません。お伺いしたいことがあって……」
「運命の香水のことかな?」
「運命の香水?」
「あぁ。あなた方が使用しているピンクの香水のことだよ」
(何も話していないけれどわかるなんて!)
「えぇ。私たちそれについてお聞きしたくて」
「このお店を出てすぐに自分自身にその香水を振りかけてごらん」
「もちろん起きた状態でだよ」
おばあさんがニヤリと笑った。
2人でお店を出て、それぞれ自分に香水を振りかけた。
ふわり
薔薇の香りが漂ってくる。左の道からだ。
「ねぇ明日香。薔薇の香りがしない?」
「えぇ! する!」
「左の道から!」 「右の小道から!」
「「えっ!?」」
「違うところから香ってくるなんて……」
「ねぇ美穂? それぞれ匂いをたどってみない? 何もないかもしれないけど、何かありそうな予感がしてる」
「私も同じこと考えてた。じゃあたどってみよう!」
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・
明日香と分かれて、匂いの方へ歩き出した。
何度も曲がったり、階段を登ったり、電車に乗ったり、ずいぶんと遠くに来たような気がする。
気がついたら自分の実家がある地域の近くに来ていた。
そしてたどり着いたのは夢で見たあの病院。
(ここ……夢で見た病院だ。私が住んでいたころはここら辺に大きな病院はなかったから知らなかったんだ。)
ロビーまで来たはいいが、どうしよう。
なんとなくだけど、透くんはここに入院しているんじゃないかと思う。
「すみません。面会ってできますか?」
「はい。どなたに面会されますか?」
「涼宮 透って方は入院されてますか?友人なんですが」
「……はい。されてますね。5階501号室です。これ入館証です」
「ありがとうございます」
(やっぱりいた。)
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コンコン
「失礼します」
「どうぞ」
美穂が病室に入るとベッド脇に女性が座っていて、ベッドには透が眠っている。
「えっと……どなたかしら?」
「あっ……えっと透くんの友人で……お見舞いに」
「そうなの! ありがとう。私は透の母親です。透とはどこで友人に?」
「……あの頭がおかしいと思われるかもしれませんが、夢で彼と会って友人になったんです。それで夢に閉じ込められていると知って私にできることがないかと思って来たんです」
・・・
やはり頭がおかしいと思われたかもしれない。お母様が黙ってしまった。
「あの……すみません。一度透くんの顔だけ見たら帰ります。」
「違うの! 黙ってしまってごめんなさい。正直信じられないけれど、あなたの顔は嘘をついているようには見えないわ
それに……透は本当はもう目覚めていいはずなのに目覚めなくて……ずっと何も表情を浮かべなかったの。
でも最近、何回か笑顔を浮かべるようになって……きっとあなたと夢で会っていたんじゃないかしら」
お母様は疲れたような笑顔でそう話した。
「そう……なんですね。顔見てもいいですか?」
「もちろん」
私はベッドに近寄って彼の顔を見る。まるでただ寝ているだけのように見える。
ふと鞄に入れていた香水が気になった。取り出してみると香水が淡く光っている。
(これって! 使えってことかな)
病室で香水をふるのは良くないだろうが、緊急事態だからしょうがない!
シュッシュッ
「えっ! 急になぜ香水!?」
「すみません! これが彼と私を繋ぐものでなにか起きるかもと!」
すると彼のまつげがふるえ、緩く目が開いた。
「「……!」」
「あれ? 美穂? また来たの?」
「違うよ。あなたを連れ出しに来たの」
思わず涙が溢れそうになる。
「透! 目が覚めたの!」
お母様は涙が止まらないみたいだ。
「あれ?母さん……!
……美穂が夢の中から連れ出してくれたんだね」
・
・
・
あの後は大変だった。原因不明でずっと起きない患者が目を覚ましたということで、入れ替わり立ち替わりお医者様や看護師さんが病室を訪れた。
- 屋上
私は誰もいない病院の屋上で考えていた。
結局あの香水は透くんが起きた騒ぎのうちにいつの間にかなくなっていた。明日香と行ったお店も後日訪れると跡形もなく消えていた。
あの日、明日香の方では匂いの先には空き地があり、衰弱した子犬が捨てられていたらしい。急いで連れ帰り、現在は明日香の家の新しい家族になったらしい。真っ白の子犬だそうだ。
そして明日香もまたあの香水はいつの間にか消えていたらしい。
ガチャ
「美穂!」
「透くん! 具合はどう?」
「もう平気。今は様子見のために入院してるけど、もうすぐ退院できるらしい」
「良かった……」
彼とは良い友人になれた。夢の中という不思議な出会いだけど。
「僕、考えてたんだ」
「なにを?」
「どうしてずっと目覚めなかったのかなって。
事故にあって、一時は命の危機があったとはいえ身体的には完全に治っていたんだ。
やっぱり僕は自分自身で目覚めるつもりがなかったんじゃないかって。」
・・・
「何か辛いことがあったわけではないけど、少し人生に退屈してたんだ。
でも夢の中で君に会って、君と色々なことをしてみたいって思ったんだ」
「私も何もない人生に退屈してた。でもあの居心地が良いけれど、何もない夢の中で過ごしていたら辛かった。
だからこの少し退屈だけれど、色々な出来事がある世界で透くんと過ごしたいって思ったの」
「……僕たち似た者同士だね。」
「えぇきっとそう。
とりあえず退院したら一緒に映画でも観に行こ!」
「うん! 美穂……僕を連れ出してくれてありがとう」
……どこからか赤い薔薇の花びらがとんできた
評価してくれたら嬉しいです(^^)




