ショタおね⭐︎グリモワール
「師匠、おはようございます。今日の朝食はベーコンエッグサンドと春野菜のサラダ、紅茶にはヌワラエリヤの初摘みに、アーベライン種のミルクを用意してございます」
満面の笑顔でそんなことを言う弟子に、私は引き攣った笑顔で返した。
「あ、ありがとうレオン……でも、そこまで尽くしてくれなくてもいいのよ?何度も言うようだけれど……」
「何をおっしゃいますか。大恩のある偉大な師の役に立てるのは天上の喜びですのに!ささ、冷めないうちにどうぞ。」
私、ミレーユ・グランディアは今、齢27にもなって、15歳も年下の美少年に甲斐甲斐しくお世話をされている。
どうしてこんな事になったかと言うと、話は2年ほど前に遡るーー
▪️▪️▪️
「奴隷市場って初めてきたけど、こんな感じなのね」
絢爛なホールに、オークショニアの芝居っ気ある声が響く。
ーーお集りの紳士淑女の皆さん、よろしいですかな? 二万からまいります
「二万三〇〇〇!」
「二万五〇〇〇!」
ーーもういませんか?では、この職業奴隷は二万五〇〇〇で落札です。皆様、拍手をお願いいたします。
何故私がこんな場所にいるかというと、それは当然、奴隷を買うため……ではなくて、『準禁書』執筆のため取材だ。
『準禁書』というのは、取り扱いに注意が必要で、国によって購入者が制限されている危険な書物のこと。
例えば危険な魔導書とかね。
そう私は今、本業で冒険者ギルド所属の魔術師をしつつ、副業として『準禁書』の執筆活動を行っているのだ。
ちなみにその両方で通り名を持っている。
冒険者としては『孤高の大魔導士』で、文筆家としては『ショタスキー女伯爵』だ。
そう、『ショタスキー女伯爵』だ。
二つ名……と言うかペンネームから分かる通り、私の執筆している準禁書のジャンルは、魔導書とは全然無関係の『うっふん展開有りのショタおね小説』である!
ちなみに何故こんな副業を始めたかと言うと本業で全然稼げなかったから。
私は女にしては長身で、胸もデカく、一見すると強力な魔法使い風の外見をしている。しかも、大変貴重な全属性の適性持ちだったので、かつてのギルド登録した際に受付が大声をだして『とんでもねぇ新人が現れた!』と騒ぎになった。
ちなみに、冒険者ランクやスキルは超重要な個人情報のため、基本他人には開示しないし、されない。
そんな訳で真の実力はベールに包まれた私の正体はというと、『肝心の魔力量はめちゃんこ少なくて全属性初級魔法しか使えないザコ』である。
なので、誘ってきた上位ランクパーティーの誘いを断って一人でもそもそと薬草採取とかしていた。
しかしなんと言う事でしょう、並び立てるものがいないのだと誤解されて『孤高の大魔導士』なんて二つ名がつき、完全に引っ込みがつかなくなってしまったのである。
そんな訳で、薬草が取れなくなる冬の生活費を稼ぐために『魔術師の女性と年下男子との恋愛小説』を書いて出版社に持ち込んでみたら、編集者の目にとまった。
「でも、別に文章が上手い訳ではないんだよなぁ……このままでは売れないってキッパリ言われたし。」
私を見出してくれた有能な編集者曰く
『ぶっちゃけ、どれくらい『癖』を解放して、恥ずかしげもなくイチャラブシーンを書けるかが一番重要なんです』
とのこと。
それで真面目な私は指示されたとおりに、主人公を超絶有能な美人にして、年下男子を美少年に変更してイチャラブシーンを増やし、魔術の説明よりもショタとの濡れ場を詳しく描写してみることに。
そうして出来た本のタイトルがこれ。
『昼は聡明な師匠で最強の私ですが、夜になると美少年の弟子に理性も主導権もぜ〜んぶ奪われて負けちゃってます♡』
これがまあ売れた。わっはっは!
……大丈夫かな、この国。
そりゃあ、執筆直後の徹夜明けテンションではこりゃあきっと売れるぞとか思っていたけど、まさか本当に売れるとは。
事実は小説より奇なり。
思考は現実となる。
しかしかつてお世話になった師匠への恩義や世間体もあり、一応本業は魔術師としている。
がまあ、それはそれとして、収入的には秘密の副業の方がはるかに上である。
はっ、いけないいけない。
せっかく新作『美少年奴隷を買った私。でも夜だけは主従逆転!?』の取材に来ていたのに、ついつい空想の世界に飛んでいた。私の悪い癖だ。
反省しながら、執筆にいかすべく周囲の状況をサラサラとメモ帳に書きとめていく。あくまでも執筆のためだ。やましいことは一切ない、いいね。
そういえば、ここにくるきっかけになったのは、『ここにくればすんごい美ショタが見れる』っていう断片的な予知が突然脳裏に浮かんだからなんだけど、まだ見てないなぁ……
「それでは皆さん、とうとう本日の目玉。なんと、貴族の血の入った隷属奴隷になります!」
会場がざわついた。
それはそうだろう。執筆のために事前に調べたところによると、貴族崩れの奴隷は珍しい上に、「隷属奴隷」はめったに市場に流れないから。
なにせ、割と真っ当な労働契約を結ぶ職業奴隷と違って契約がえげつない。
具体的に言うと人権を奪われていて、奴隷印による強制力が働き、エロも暴力も拒否出来ないらしい。怖!
「10歳の男子レオン君、契約期間は15年。ご覧の通り美少年で、なんと魔力の素養もあります。それでは八万から!」
「八万三〇〇〇!」
「八万五〇〇〇!」
みるみる値段が釣り上がっていく。
まあ、作家で一山あてた私ならギリギリ買えない額じゃないけど、美少年の奴隷という属性には正直ちょっとそられるけど、買うつもりはない。ないったらない。
そう思いつつ死んだ目をした美少年をみる。
いたたまれないが、せめて少しでも優しそうな人に買われることを祈るばかりだ。
「12万!」
「おっと、これは凄い。他にいませんか?」
大金を提示したのは、見るからに悪人面の太った男だった。周囲から囁き声が聞こえる。
「おい、みろよ。成金武器商人のリョナグロ・ショタスキーだぜ」
「買われた奴隷はみーんな、契約期間が終わる頃には、見た目も中身も別人になっちまってるらしいな」
ちょっとまって!?
「他にいないようなら、これでーー」
「十五万!!!」
気がついたら叫んでいた。
現在の私が出せる、ほぼ全財産である。
オークション会場がざわつく。
「これは凄い額がでました!他にいませんか?いませんね。それでは十五万で決定でーす!」
呼ばれて壇上に上がると、拍手が起こった。
それに混じってヒソヒソ声が聞こえる。
「おい、あれ『孤高の大魔導士』じゃないか?」
「隷属奴隷なんか買ってどうするつもりだ?」
「そりゃお前……エロいことするんだろ」
「おいおいマジかよ、実は男日照りで相当溜まってたんかな」
うおおおーい?!
冤罪!冤罪です!!
男日照りは合ってるけど!
しかしこれはまずい。
まずかろう、まずいです、まずいぜよ。
だって絶対『そう』見えるシチュエーションだもんね。否定しても、じゃあそもそも何故奴隷市場にいるんだよって話になるし。
このままでは私は『男日照りでショタ性奴隷を買ったやべー女』として有名になってしまう!
正直に話す?
いや、ダメだ。小説に書いてる内容が知り合いにバレるのは恥ずかしくて死ねるし、もしも師匠にバレようものなら、物理的に殺される。
だって、主人公と美少年がキスするシーンで身長が足りない弟子が魔導書の上にのって主人公の唇を奪う展開とかあるからね!
いや、一応担当との打ち合わせ中にこの話が出た時は、『こんな罰当たりなこと書けるか!』と一回断ったんだよ?
でも、とりあえずと促されて書いてみたら、思った以上にノリノリで書けてしまったから……
えーと、どうやって誤魔化そう。
そ、そうだ!
「オークショニアさん。早速だけど、隷属契約を破棄するわ。」
「うん?どういうことですか?」
「私がこの場にきたのは、奴隷ではなくて未来の弟子を探すためなの。それが、彼。」
話しながら、星占いがーとか予知夢でみたーとかそんな設定を即興で考えて披露していく。大風呂敷を広げるのは小説家の得意分野だ(ちなみに畳むのは苦手)
会場の皆様!聞いて下さい。
私が彼を買ったのは弟子にするためです。
いやらしい目的ではないんです。
私、二次元と三次元の区別はつきますって!
そう言う感じの事をいいながら、レオン君の方を向き、告げる。
「弟子にすると宣言はしたけど、貴方の自由にしていいわよ。奴隷契約は破棄するし、嫌なら勿論、わたしの元を去ってもいいわ」
だって実際はクソ雑魚の私が教えられる事なんてないし、もし彼に副業の事がバレたらと思うと……ねぇ?
「……弟子にして頂けると嬉しいです。他にいくあてもありませんので。」
「そっかぁ、そうよねぇ。」
なら、拾った責任があるし成人するまでの面倒くらいは見ましょうか。
美少年のお世話……デュフ
◇◇◇
そんな感じで一緒に暮らし始めてはや2年。
思った以上にマルチな才能あふれる弟子に、いつの間にか私の方がお世話されるようになっていた。うう、家事下手くそでごめんね。介護よりの優しさを感じる……
しかも彼、魔術師としても規格外の才能を持っていて、魔術師としてなら既に私よりもずっと稼いでいる。
生活費は現在、すべて弟子持ちだ。
理想のヒモ生活。いやいや、いかんだろ。
「ねえ、いつも修行も勉強もすごく頑張っているみたいだけれど、そんなに無理しなくても、いいのよ?」
「いえ、早く師匠と一緒に冒険者できるレベルに達したいので。」
目をキラキラさせて言ってくるレオン。
私はというと内心で冷や汗ダラダラである。
「そう……ねえ、今のあなたの冒険者ランクっていくつだっけ?」
「先月B級に上がりました。」
「え?!すっご!」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
まだ私が指導するレベルにないからまずは自分で自由に学んでみなさい、とか理由をつけて、指導せずに放置したのにめちゃくちゃな速度で成長している。
弟子はくすぐったそうに笑っているが、非常に不味い。
だって昔、どうせ無理だと思って、『貴方がA級冒険者になれたら修行をつけるわ、そしたら一緒にクエストも受けましょう』と約束しちゃっているのだ。
そして彼、近い未来にそこまで到達してしまいそうだ。でもAランクの依頼なんて受けたら死んでしまうわ、私が。
「それに、魔導書の執筆もお手伝いしたいです。『準禁書』は、まだ読んではいけませんか?」
「……貴方にはまだ早いわ。有識者同士の会合にも、ついてきてはダメよ。」
この前の編集者との議題なんて、作中表記を『ちんちん』と『オチンチン』のどちらで統一するかだったもんなぁ。
弟子のキラキラした眼差しが絶対零度に変わる事請け合いである。絶対に聞かせるわけにはいかない。
しかしこの弟子、放置してても勝手に凄い速度で成長していくなぁ……気は進まないが、平穏な生活を続けるために、ちょっと成長速度を落とす方法を考えるべきかしら。
「ただ、最近魔術理論の構築に少々行き詰まっていまして……」
「なるほど!なら一冊本をプレゼントしましょう」
「え、よろしいのですか。」
「貴方の頑張りに、私は敬意をもっているの」
レオンの言葉は渡りに船だった。
今のわたしの言葉に嘘はない。
これから魔法に全く関係ない本を渡すが、嘘は言っていない。
気分転換は大切だからね!文脈的にレオンが魔法に関係ある本だと深読みして修行が迷走するかもしれないけど、それは『不幸な勘違い』の範疇だ。
早速私は自室に入り、本棚から「お菓子の作り方」と書かれた本を取ってきた。
買ったものの、めんどくさくなって殆ど使わなかったやつだ。
「ありがとうございます。師匠から頂いた本……大切に拝読させて頂きます」
ま、まあ私の師匠は落ちるリンゴを見て重力魔法の理論を閃いたとか言ってたし、何か彼のヒントになるかもしれないし……
本をまるで宝物のように胸に抱くレオン。
それを見る私の胸には罪悪感がいだかれる。
もしこの世界が小説なら、私は中々の悪女だね。そのうち、何かとんでもないざまぁを食らうようなやつ。
「なんてね、そんなわけないか」
弟子には聞こえぬように、小声でつぶやいた。
*****
それから半年後、私は町の外れで死にかけている。
すげー
フラグの力ってすげー
レオンがクエストで出かけている間に、『蛇蝎のゴーレン』とか言う、頭が蛇で尾が蠍の一つ目のケンタウロスみたいなクソ強魔族が襲ってきたのだ。
どうやら数百年ぶりに魔王軍が復活して、しかも何故か、私を標的にしているらしい。
街は破壊され、迎撃したA級冒険者達はぶっ飛ばされ、私は命からがらここまで逃げてきたが、流石に体力の限界だ。
「散々苦労させやがって、だが流石にもう終わりみたいだな」
「はあ、はあ…な、なんで私を狙うの……?」
「魔王様が危険を予知したらしい。今はまだ取るに足らないが、やがて自分を脅かしかねない魔術師がこの街にいると。つまり、この街最強の冒険者と言われているお前の事だろうよ。」
それ、きっと人違いです!
「謙遜するな、むしろ誇るがいい。お前の回避能力は中々のものだったぞ。」
それはどうも!
魔法がクソ雑魚なんだから回避だけは鍛えとけって、師匠に散々仕込まれましたもので!
「俺が全属性に魔術耐性のある鎧を身につけている事を瞬時に見抜き、周囲を巻き込まぬよう一発も打たずにここまで誘導してきたことには敬意を払おう」
違う違う!
そもそも私は生活に役立つ初級魔法しか使えないの。攻撃魔法は最低でも中級だから。
「せめてもの情けだ、一撃で葬ってやる。」
そういって、私に向かって放たれた火炎魔法のクソデカ火球は
なぜか着弾前に四散した。
「なっ!?」
魔族が驚いている。
「師匠!ご無事ですか!」
私も驚いた。
レオンが駆けつけてきたのだ。
「え、今の火球の分解って貴方がやったの?」
「はい!師匠から頂いた魔導書の一部を、最近やっと読み解けたんです。」
レオンが言うにはグラニュー糖を細かく砕くことを魔力に置き換えて、相手の魔術の魔素の結合をうんたらかんたらーー
なるほど、わからん!!
「なるほど、弟子も優秀なようだ。だが残念だったな、人族の扱う全ての魔術に耐性のある鎧を身につけている俺に勝つことはできん。まとめて始末してくれる。」
とりあえずレオンの魔力操作は物凄いレベルにある様だが、敵の魔族にはまだ余裕がある。
どうしようかと焦っていたら、隣でレオンが莫大な魔力を練りはじめた。
「魔導書、『美味しいお菓子の作り方』第一章。バター、砂糖、卵、薄力粉の4つの材料を、1:1:1:1の比率で混ぜ合わせるーーこれを攻撃魔術に応用すると!」
言いながらレオンは炎、爆裂、雷、風の四つの上級攻撃魔法を生み出して、融合させていく。
ええ!?なにそれぇ!
「くらえ、4属性を完璧なバランスで合体させ、極大四芒星をなして放つ攻撃魔法『カトルカール』だ!!」
「ぐおおおー!!!」
凄まじい轟音が響いた後、クレーターの中心に鎧が砕けた魔族が横たわっていた。
「す、凄いわレオン!」
いや本当に凄い。魔法は合体できるとか、私知らなかったんだけど……なるほど、『魔王を脅かしかねない魔術師』って、この子のことだったのね。
「いえ、師匠が相手を弱らせていたからでしょう。」
いや、全然ちがうけど!?
そんなことよりお怪我はありませんかと、魔族に背を向けて私の方に駆け寄ってくるレオン。やだ、ずっと年下の男の子にちょっとキュンとしちゃった。
と、その後ろでもそりと魔族が動くのが見えた。最後の力を振り絞りレオンを攻撃しようとしている。
「危ない!」
咄嗟に彼を抱きしめて反転する。
魔族の最後っ屁は、私の背中に直撃した。
「ああ!師匠!」
顔面を蒼白にするレオン。痛みはないんだけど、身体が動かない。そうか、私死ぬのか……
残念ではある。
が、最悪ではない。
ダメダメな私を慕ってくれた大事な弟子を守れたし、襲撃されたときに家が燃やされたのが不幸中の幸いだった。書棚の準禁書も焚書されている事だろう。
そんな事を思いながら、私の意識は闇に落ちていった。
◇◇◇
〜14年後 レオン視点〜
「とうとうここまできたね」
「はい、大師匠。あと一息です。」
今、僕は魔王軍の四天王を全て撃破して魔王城の前にいる。そして最後の決戦を前に必勝の決意をするため、過去を想起した。
僕は生まれた時から妾の子として奴隷の様な扱いをうけてきた。その後、紆余曲折あって本物の隷属奴隷に堕とされた僕を救い出してくれたのが師匠だ。
そして行き場のない僕を弟子にしてくれたが、僕は、全種類の魔力に適性がある師匠からしたら相当に不出来な弟子だったと思う。
師匠に出会う前は、期待する役割を果たせなければ罵倒され暴力を振るわれてきた。
それで、早く役に立てるようにならなければ呆れられて捨てられるのではないかと焦る僕。
しかし師匠は無理する必要はない、成長はゆっくりでいいし、なんならそのままでもいいんだよと言ってくれた。
そして、些細な事ができる様になるたびに、大袈裟に驚いて沢山褒めてくれた。
一生かけてこの人に恩を返そうと誓った。
しかしあの忌まわしい日。
偉大なる我が師ミレーユ・グランディアは未熟な僕を庇った結果、石化の呪いをかけられてしまった。
その解呪方法を探して旅をするうちに、僕は師匠の師匠である女エルフ……大師匠と出会った。
大師匠曰く、呪いはゴルゴン種の上位魔族が命と引き換えに使う厄介なもので、魔族の力の大元である魔王を倒さないと絶対に解けないらしい。
本来、魔王を倒す人類の希望は師匠が担うはずだった。予知能力もある師匠のことだ、きっと部屋で一人作成していた魔導書も魔王に対抗するためのものだったんだろう。
しかし、油断した僕のせいで師匠は石にされ、魔導書は全て燃えてしまっている……そこで僕は、師匠のかわりに自らが魔王を倒す事を決意した。
師匠よりも大きく才能に劣る分、地獄の鍛錬を積んで腕を磨く日々。
大師匠は
「いや、ミレーユよりもお前の方が才能あるし元々お前が勇者なんだろうけど……まあ、いいか。」
とか言っていたが、リップサービスだろう。
気がつけば僕は26歳になっていた。
石化で時が止まった師匠の一つ下である。
魔族の呪いは忌まわしい。
しかし、その点だけは悪くない。
師匠は僕の初恋で、最後の恋でもある。
かつて、素敵な大人である師匠からそう言う対象として見てもらえないのはわかっていたけれど、今ならもしかしたら……そう期待してしまう自分は浅ましいだろうか。
「しかし師匠、貴方の弟子はあの日頂いた魔導書を全て読み解き、魔導の真髄を理解しました。」
今の僕は、大師匠を超える大陸最強の魔術師だ。
今度は僕が師匠を守るなんて大それたことは言えないが、横に立つくらいはできるかもしれない。
*****
「はっ!」
あれ?
死んだと思ったら生きてる?どゆこと。
「師匠!良かった、呪いが解けたんです。」
「どちら様ですか!?」
視力が戻ると、眼前にいたのは高身長の超絶イケメン。貴族みたいな格好をして、キラキラオーラが溢れだしている。
って貴方、レオンなの!?
彼の話をまとめると
どうやら、私が石にされている間に14年も経過していたらしい。そして、彼が魔王を倒して助けてくれた様だ。
「そう……ありがとう。すごいわねぇ、レオンは」
そう言うと、感極まったのか抱きしめられた。
はわわ!自分の顔が赤くなるのがわかる。
と、そこで久しぶりに断片的な予知が見えた。
自分はどこにいるのだろう。
どうも視界がぶれている。まるで強引に何かをされているように。
『お願い、待って、待って、もう無理、許して……!』
『ダメです』
そのとき、予知の視界にレオンと自分の左手が映り込んだ。左手の薬指には、やけに存在感の強い金属の輪が嵌まっている。
「師匠」
レオンの形のよい唇が、世にも美しい低音を紡ぎ出した。
「まだまだ、夜はこれからですよ。」
背中がぞくりとするほど情熱の籠もった声。
私は不意に悟った。
事実は小説より奇なり。
思考は現実となる。
かつて私が書いた危険なグリモワール。
『昼は聡明な師匠で最強の私ですが、夜になると美少年の弟子に理性も主導権もぜ〜んぶ奪われて負けちゃってます♡』
『美少年奴隷を買った私。でも夜だけは主従逆転!?』
幸い、それが弟子にバレることはなかった。
しかしどうやら近い将来、書いた本人を主人公として、似た形で実現するみたいだ。
⭐︎登場人物紹介⭐︎
◯ミレーユ・グランディア
器用貧乏魔術師。家事は苦手。
未成年には読ませられないグリモワール作家。
◯レオン・グランディア
優秀な弟子。深い愛情で夜は獣にメガ進化。
◯師匠(大師匠)
ミレーユの師匠。長生きしている魔術師のエルフ。
◯リョナグロ・ショタスキー
武器商人。
冒険者ギルドや騎士団への武器の製造販売をしている。悪人面だが善人。お客様ファーストの商売で成り上がった商売上手。ただ、心無い人からは嫉妬混じりに成金武器商人とか言われることもある。
趣味(人助け)と実益を兼ねて、お辛い境遇にある奴隷を買って、契約期間中にマナーや道徳、商売のノウハウなど色々仕込み、契約が終われば店を暖簾分けしたりする。彼に買われた奴隷は、まるで別人の様になると評判。
魔王軍との戦いでは、彼の商会は優秀な後方支援として人類を支え、その功績から戦後に爵位を授与された。




