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 人は夢を見ている時は体感がない。

 少し酸味のあるキウイフルーツが入った色とりどりのサラダを食べたとしても、酸っぱさを感じない。皮をむいたばかりの黄色がかった白いリンゴの果肉を頬張ったとしても、その食感を口の中で感じることはない。夢の中で五感を感じることはない。

 

 今、夢であるにも関わらず水に包まれている感覚を味わっている。

 光が少しずつ遠くなっていき、ゆっくり身体が深海に沈んでいく。エアがないのに呼吸ができるため、口から吐く息が泡になって水面に上がっていく。これは夢だから焦ることはないと、ゆっくりとした速度で海底に近づく自然な流れに身体を預けている。

 この流れに抗う意志の力を出すことはない。私はそのまま、意識を手放した。


 ぱっちりと目を覚ますと黄褐色の砂が眼前に現れた。

 どうやら浜に打ちあげられたのだろう、濡れた服が全身に張りついてとても不快だ。だるい身体をゆっくり起こしきょろきょろ辺りを見回した。目覚めたばかりの重い頭でここはどこだか記憶の中にある風景を探す。堤防がない代わりに海兵植物が辺り一面広がっている。港らしき場所は見えるが大きな船は見当たらない。漁船もモータがついている船ではない。

 (本当にここはどこだろうか)

 知らない景色に私は恐怖を感じ、それを受けれまいと記憶に結びつく何かを探そうとした。びしょ濡れの中敷きの靴で立ち上がりふらりと歩き始めた。


 真夏のような日差しを浴び続け、額に汗がにじむ。衣服が肌に張りついて、濡れたのは汗なのか海水なのか分からなくなってしまう。遠くの方に見えた港が大きくなってきた。あともう少し歩いたら、ここがどこなのか、日本までどのくらいかかるのか尋ねられる。残り少ない力を振り絞って港へと歩みを進めた。

 ようやく港に着いたが、どうやら様子がおかしい。船はモータがついた小型の船ではなく、櫓と呼ばれるくの字型の棒が銅の間に置かれている。レーダがついた小型漁船なんてものは存在しない。

 私の服装が明らかにおかしいため、町の人々は遠巻きに様子を伺っている。麻を基本とした衣服をまとっている彼らから見て私は棉やポリエステルを基本とした藍色の服を着ている。異質な存在であることは確かだ。日本で誘拐されて、どこかに運ばれている時に運よく脱走できたのかと思えてきたが、誰かに殴られた感覚や旅行中にとんでもない人に騙された記憶もない。そもそも私は未成年であり、一人で海外旅行なんて行ける稼ぎもなければ、経済状況ではない。

 しかし、私が住んでいる部屋よりも粗末な小屋ばかり建っている。ドアはなく薄茶色の暖簾が掛かっているだけで強風が吹けば部屋の中が見えてしまうようなものである。


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