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タイムボムくんの事

〈様式美守る老舗の汗しとゞ 涙次〉



【ⅰ】


 今回は、久し振りに谷澤景六話。

 木嶋さんが持つて來た仕事は、漫画原作。テオ(=谷澤景六)には二回目の仕事である。(前作は『天才ももんが・アイ!!』。これは、この「なろう」版に先行する、「現代詩フォーラム」版『斬魔屋カンテラ!!』に書かれてゐる。)

 原作とするのに当たつて、谷澤作品の中から、モデルとなる作を撰ぶ。『着物の星』ではだうか、と云ふ事であつた。先祖傳來の呉服屋を守り、晴れ着専門ではなく日常着としての着物を取り扱ふ、一青年の物語。作画担当はタイムボム荒磯(ありそ)と云ふ奇妙なペンネームの若手。あの『OIしんぼ』の作画・A. H.氏の内弟子であつた、と云ふ期待の新人だ。



【ⅱ】


 荒磯には、もう一つ、語り草となるであらう特徴があつた。何と【魔】出身なのである。しかもその事を隠さず、世間に公開してゐる。オープンゲイならぬ、オープン【魔】である。これは流石に對等な仕事をするには、【魔】慣れ、と云ふものが必要で、それで、(本人のたつての望みの主でもある)谷澤に話が持ち掛けられた、と云ふ譯だ(谷澤が猫である事に危惧の念を抱かないのは、【魔】ならでは、である)。勿論、理由はそれだけではなく、谷澤の『着物の星』が、如何にも漫画にしてくれーと語り掛けて來るやうな作品であつたので、と云ふ事もある。掲載先は、詩の出版社として知られる幻思社がこの度立ち上げるコミック専門誌「cure」。社運を賭けての一大プロジェクトなのである。



【ⅲ】


「タイムボム、つて何処から付けたの?」‐テオが問ふ。「ラモーンズの曲から取つたんですよ。ベースのDee Deeがリードヴォーカルを執つてゐる曲で、下手つぴなんだけど、僕は好きなんです」パンクロックには一家言あるテオ、それには感心頻り。「あのプリミティヴさが堪らんよね」なんて、早々に仲良くなつてしまつた。で、H.氏のところを出て來た譯は? ‐「ま、いろいろあつたつて事です」‐「あ、さう」これには本当は深い理由(わけ)があるな、と思つたテオであつたが、漫画原作者・谷澤としては、そこで口を噤まざるを得ない。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ぢんぢんと耳を攻め入る耳鳴りは太古の荒磯思ひ出させる 平手みき〉



【ⅳ】


 だが、その「いろいろ」の内譯は、すぐにバレた。或る日、金尾が一味の金庫を開けようとして(もちろん、所用があつての事である)、金庫が安置してある「相談室」に入ると、(結界は解かれてゐた。これも谷澤の仕事の為、である)荒磯がぼーつと金庫の前に突つ立つてゐる。しかも、金庫の扉が開いてゐるではないか!



【ⅴ】


 すぐに荒磯は、じろさんに依つて捕縛された。金庫の中身は、と云ふと、特に損害はない、との事。これで、先の職場を追ひ出された理由、明らかになつた。荒磯は、金庫の№が分かつてしまふ、しかもそれを開けたくなる、と云ふ困つた性癖を持つ、謂はゞ「金庫番【魔】」だつたのである。

 特に金錢的被害が出なかつたので、縛を逃れる事が出來たのだが、本人、「あちやあ。またやつちまつたなあ」と頭を掻いてゐる。

「テオ~」カンテラはテオに、お叱りの體勢。「あーそれよりも木嶋さんかー」カンテラ、思ひ直したのだが、「斬らないで下さいね。僕の大切な仕事仲間なんです」‐「本人次第だよお」‐カンテラは、漫画界とは魑魅魍魎の棲む世界であるなあ、と思つたとか。



【ⅵ】


 木嶋さんの丁重な詫びもあつて、その件は深追ひ無用となつたのだが、結界はテオの書斎以外には、張る事となつた。「谷澤先生、だうも濟みませんでした。この通りです」深々と頭を下げる、荒磯。「タイムボムくん、水臭いよ。最初から教へてくれゝば良かつたのに...」‐「いや、また再發するとは思はなんだ、で」‐「木嶋さん、カネ、幾らか用意出來る?」‐「?」‐「いや、カンテラ兄貴に祓つて貰ふのさ。タイムボムくんの畸癖を」‐「!!」



【ⅶ】


「畸癖を祓ふ? まあ、良からう」‐カンテラ、するり拔刀し、荒磯には兩手首を重ねさせ、それに、恰かも斬る如く、刃を撫で付けた。「しええええええいつ!!」血が滲んだ。

「さあ、これで手癖の惡いのは祓つたよ」‐荒磯、テオ、木嶋「有難うございます!!」木嶋さんの方から、禮金が支払はれた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈アスファルト燃えて裸足が熱過ぎる 涙次〉



 これを以てして、天下の名作漫画、『着物の星』の創作秘話とする。相變はらず、タロウに吠えられつゝ、荒磯は打ち合はせにカンテラ事務所を訪れる。だが、手に職あるつて、脱【魔】の為にも宜しいとは‐ これからはタイムボム荒磯、カンテラ一味の仲間です。よろしくねー!! 



PS. 『美味しんぼ』の花咲アキラ先生、並びに小学館ビッグコミック・スピリッツ編輯部の方々、大變ご迷惑をお掛け致しました。勿論、フィクションですので... 大目に見てやつて下さい! 永田拝。



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