7 高難度ダンジョンに挑む
ルシアに続き、フィーネもテイムした俺はギルドでちょっとした有名人になっていた。
「おい、見たか? あれが噂のテイマーだぜ」
「あんな美少女二人を連れやがって……」
「うらやましい……!」
「しかもFランクのくせに、とんでもない実力だってよ」
「おいおい、女も実力も兼ね備えてるってか? まったく、やってらんねー」
ギルド内ではそんなヒソヒソ話が飛び交っている。
羨望と嫉妬、やっかみ、そして敬意……様々な声にはポジティブなものもあれば、ネガティブなものもある。
まあ、いちいち気にしても仕方がない。
当面、俺の目標は生活基盤を作ること。
俺自身と二人の神獣が幸せに暮らしていけるように。
「おはようございます、アルクさん」
カウンターに行くと、セリアさんが挨拶してきた。
なんとなく、俺は引き寄せられるように彼女のカウンターに移動する。
別に受付嬢は担当制ではないので、どこのカウンターに行くのも自由なんだけど、セリアさんの視線から『私のところに来て』という圧を感じたのだ。
そのセリアさんは、前にも増してキラキラした目で俺を見てくる。
「脈ありだな、主……」
ルシアが耳打ちした。
「脈あり? そうかなぁ……」
「明らかにこの女の目は主に恋するそれではないか!」
と、ルシアの声が大きくなる。
「えっ、恋する……?」
セリアさんは頬をピンク色に染め、俺をチラチラと見た。
えっ、本当に脈ありなのか……?
セリアさん、美人だからなぁ。
胸も大きいし。
「今いやらしい目をしたぞ、主」
フィーネにツッコまれてしまった。
「主よ、いつまでもニヤニヤするな。早く次の依頼を選ぶのだ」
ルシアはルシアで俺の服の袖を引っ張り、急かしてくる。
「ええと、じゃあお勧めの依頼はありますか?」
「その前に――一つ説明をさせてください」
と、セリアさん。
「説明?」
「アルクさんとルシアさんの一週間の実績が目覚ましく、早くもランクアップが決まりました」
「えっ、冒険者ランクが上がるんですか?」
「お二人ともFからEに上がります。状況次第では、Dに上がるのもそれほど遠くないと思いますよ」
言って、セリアさんはにっこり笑った。
「お二人とも昇格おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
言ってから、俺はハッと気づいた。
「あ、そうだ。彼女も冒険者登録したいんですけど――」
フィーネに関しては、冒険者ギルドに来たこと自体が初めてだ。
「私も冒険者になるのか?」
「ああ、パーティの一員だろ」
俺は彼女に説明した。
「主がなれと言うならなろう」
「じゃあ、なってくれ。一緒に冒険しよう」
俺はにっこり笑った。
「一緒に――」
フィーネがつぶやく。
「了解した」
その口元にかすかな笑みが浮かんだ。
フィーネは今日登録したばかりなのでFランクだ。
「三人になったし、俺とルシアはランクが上がったし、そろそろ本格的なダンジョンにも挑戦していきたいんです」
俺はあらためてセリアさんに相談していた。
神獣が二人もいれば、多少難易度が高くても問題ないだろう。
「ふむ、冒険者といえば、ダンジョン! 腕が鳴るな!」
ルシアはやる気満々だ。
「主の命令とあらば」
フィーネは対照的にクールな表情だった。
「そうですね……Eランク二人にFランクとはいえ、アルクさんたちのクエストの様子を見ていると、すでに上位の冒険者クラスの力があると思います。現状のランクで難度がある程度高いダンジョンをお望みであれば――たとえば、これはどうでしょう?」
セリアさんが差し出したのは『炎熱の洞窟』の攻略依頼書だった。
「あー! 『炎熱の洞窟』か!」
俺は思わず声を上げた。
名前の通り、溶岩地帯が広がるダンジョンで、生半可な冒険者は返り討ちに遭うことから『初心者殺し』なんて呼ばれているらしい。
モンテマでは、序盤の難所として有名なダンジョンだ。
「よし、目的地は決まった! 『炎熱洞窟』だ!」
即決だった。
俺たちは準備を整え、炎熱の洞窟へと向かった。
岩肌は赤く変色し、洞窟の入り口から強烈な熱気が漂ってくる。
うん、ゲームのビジュアル通りだ。
「それにしても……暑い」
ゲームじゃ、そういう熱までは体感できないからな。
こうしてダンジョンの前にいるだけで汗だくになる。
「私の力で涼むか?」
言ってフィーネは【氷雪】のスキルを発動した。
「おお、涼しい!」
俺は歓喜の声を上げた。
まるでクーラーのようだ。
「ふん、この程度の暑さで。主はたるんでいるのではないか?」
ルシアは平気な顔をしていた。
まあ、お前ってドラゴンだもんな。
フィーネに関しては【氷雪】の力を持っているから、そもそも熱への耐性があるんだろうか?
ともあれ、俺たちはダンジョン内に進んだ。
洞窟内部は、まさに灼熱地獄だった。
壁からは常に熱波が噴き出し、あちこちにマグマだまりがあって、ごぽごぽ……と怖い水音を立てていた。
「とにかく進もう」
俺は二人に言って、どんどん先へ進んでいく。
「主よ、迷いなく進んでいるが……道は合っているのか?」
「適当に進んでない?」
疑わしそうにたずねるルシアとフィーネ。
「大丈夫だって。ゲーム……いや、えっと事前に調査したところによると、この先にはボス部屋があるはずだ」
実際はゲーム知識によって道筋はだいたい分かっているんだけど、ゲームのことはまだ内緒だ。
実際、このことを誰かに明かしていいのか、俺には分からない。
最悪の場合、俺が転生のことをバラした結果、俺だけじゃなく周囲にまで被害が及ぶような『何か』が訪れるかもしれない――。
俺たちはさらに進んだ。
途中【ファイアオーガ】や【マグマゴーレム】といった炎属性の魔物に遭遇したけど、ルシアのブレスとフィーネの爪撃であっという間に蹴散らした。
「やっぱり、二人ともさすがだな」
並のモンスターと神獣じゃ、勝負にもならない。
しかも、こっちは二人だ。
フィーネは足の傷が治ってなくて本調子とはいかないけど、それでも十分に強い。
「当然であろう」
「主の指示通りに動くだけ」
二人とも頼もしいし、ダンジョン内はだいたいのルートが分かってるし、攻略が楽で助かる。
と、思ったそのときだった。
「きゃあああああっ!」
前方から、女の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!?」
俺たちは声のした方へ急いだ。
開けた場所に出ると、そこは広大な溶岩湖が広がるエリアだった。
「あれは――」
湖の中央に小さな足場があり、そこで数人の冒渉者が追い詰められているのが見えた。
屈強そうな女騎士に魔法使いや僧侶らしき数人のパーティだ。
彼女たちは、溶岩湖から現れた巨大なリザードマン――【ラヴァリザード】の群れに囲まれていた。
「くっ……このままでは……!」
女騎士が必死に剣を振るっているが、多勢に無勢だ。
仲間たちも魔法などで応戦しているが、じりじり追い詰められている。
足場は狭く、落ちれば灼熱の溶岩。
まさに絶体絶命だ――。
「まずいな……!」
「主よ、どうするのだ?」
「助けるぞ」
ルシアの問いに俺は即答した。
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