4 第二の神獣
冒険者ギルドに登録して一週間が経った。
俺とルシアは、依頼を次々とこなして金を稼いでいる。
ゴブリン討伐とか、薬草採取とか……地味な仕事ばかりだ。
ルシアの力は強大だけど、けっこう魔力を消費することが判明したのだ。
だから、とりあえずは省エネで簡単な依頼をこなしつつ、彼女の燃費をよくしたり、効率よく魔力を摂取できる方法を考え中だ。
まあ、食っていく分には困らないだけの稼ぎはあるので、その辺りはのんびりやろうと思っている。
が、ルシアは若干不満そうだった。
「むぅ……主よ、いつまでこんな雑魚狩りを続けるのだ? もっとこうバーンと派手な仕事がしたいぞ」
「まあまあ、肝心なところで魔力切れなんてことになったら目も当てられないだろ? もうちょっと今のままでやろうよ」
俺はルシアをなだめる。
「つまらん……むむ」
まあ、竜神の末裔にとっては刺激の足りない生活かもしれないな。
俺だって、可能ならドカンと稼ぎたい気持ちはある。
うーん、そろそろ次の手を打つときかな。
俺には、モンテマのゲーム知識がある。
この世界のどこにどんなモンスターがいるか、どんなイベントが発生するか、大体は把握している。
俺のユニークスキル【絶対服従(神獣限定)】を活かして、次の神獣を仲間に引き入れる。
そうなれば状況は大きく変わるだろう。
神獣自体は超レアモンスターなんだけど、いちおう出会えそうな場所が何カ所かはある。
もう少しこの世界に慣れてから行こうと思っていたんだけど――そろそろいいかな?
嘆きの森――。
初心者冒険者が足を踏み入れるには危険すぎると言われている場所だ。
ゲーム本編だと、ここには五十体を超える【オーク】の群れや【ルーンゴーレム】、【ファイアブレイダー】など強力なモンスターが多数生息している。
さらに神獣クラスのモンスター――伝説の魔狼フェンリルもいるのだ。
きっと、この世界にもフェンリルが生息しているはずだった。
エンカウント率は低いが、絶望的というほどでもない。
根気よく探せば、きっと出会える。
そして出会うことができれば、俺のスキルでテイムできるだろう。
とはいえ、相手は神獣だ。
当然、強大な攻撃能力を持っている。
もし不意打ちなり、先制攻撃なりを受けて、テイムする間もなく殺されてしまったら――。
いや、そのためにルシアが仲間にいるんだ。
ここは一つ、思い切って挑戦してみよう。
ルシアを信じて。
そして、俺のスキルを信じて――。
俺たちは森の中を進んだ。
うっそうと木々が茂り、昼間でも薄暗い。
まして夜になれば真っ暗闇になるので、昼の間に決着をつけたいところだ。
「ルシア、周囲を警戒してくれ。この森のどこかに神獣――【魔狼フェンリル】がいる」
「ほう、フェンリルか」
「知ってるのか?」
「当然であろう。我と同格の魔狼だ。さすがの我も正面からの戦いでは必ず勝てるとは限らん」
と、ルシア。
「俺が【テイム】を決めれば、そこで勝利確定だ。でも不意打ちや先制攻撃を受けるとまずいからな。そのときはルシアに防いでもらいたい」
俺は彼女に説明した。
「その隙に俺が【テイム】する」
「不意打ち……か。それは問題なかろう」
ルシアが言った。
「えっ」
「狼とは誇り高い動物だ。そして奴はその狼を統べる魔狼――不意打ちのような汚い真似は決してせん」
ルシアがニヤリとする。
「奴の戦いは常に正面からの正々堂々の勝負と決まっておる」
「……もしかして、戦ったことがあるのか?」
「ある」
ルシアが言った。
「七度戦って、我の二勝二敗三引き分け――奴は強いぞ」
「ルシアと同等の戦闘能力、か」
確かにゲーム内でもフェンリルは強いって噂を何度も聞いたな。
俺自身はフェンリルにエンカウントしたことが一度もなかったから、それ以上の情報はなかったわけだけど――。
俺たちはさらに進んだ。
途中、凶暴そうな魔獣に何度か遭遇したが、ルシアが威圧を放つだけで逃げていった。
さすが神獣だ。
「ふん、我が一緒でよかったな、主」
ルシアはドヤ顔だ。
「お前一人ではすぐに殺されていただろう」
「はは、ルシア様様だよ」
微笑む俺。
と、その時だった。
「……クゥン……」
微かに、獣の苦しそうな鳴き声が聞こえた。
今のは――。
「……クゥン」
また、聞こえた。
空耳じゃない――。
「ルシア、行くぞ!」
「うむ!」
俺たちは声のする方へ急いだ。
茂みをかき分けると、少し開けた場所に出た。
そして――いた。
「あれは……!」
巨大な銀色の狼が、地面に設置された狩猟用の罠にかかり、ぐったりと横たわっていた。
その体毛は月光のように輝き、神々しさを感じさせる。
間違いない、伝説の魔狼フェンリルだ!
「怪我しているのか……?」
見つけたのは嬉しいけど、そこは心配だった。
ぐるるるる……!
フェンリルが牙をむき出しにして唸り声をあげる。
傷ついているとはいえ、その迫力はすさまじかった。
「ふん、手負いの犬が」
ルシアが一歩前に出て、【竜の威圧】を放とうとする。
「待て、ルシア」
俺はそれを制した。
「こいつは俺がテイムする」
ただ、【絶対服従(神獣限定)】を発動させるためには、相手に俺の意思を認識させる必要がある。
俺はゆっくりとフェンリルに近づいた。
フェンリルは警戒心を露わにし、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
だが、罠にかかった足が動かない。
傷だらけの足を見て、哀れみの気持ちが湧いた。
「俺はお前の敵じゃない。仲間になってほしいし、その傷を治したいんだ」
「クゥン……」
フェンリルが俺を見つめる。
神獣なのに、どうしてこんな罠にかかったんだろう?
それも、テイムした後に聞いてみよう。
「だから――」
俺はフェンリルの澄んだ蒼い瞳をまっすぐに見つめた。
「仲間になるんだ、フェンリル」
――瞬間。
俺の体から、淡い光が溢れ出した。
【絶対服従(神獣限定)】のスキルが発動したのだ。
「グ……ガァァァァッ!?」
フェンリルの巨体が激しく震え、スキルに抵抗しようとしているのが分かった。
神獣クラスの存在だ、そう簡単には屈しないだろう。
スキルの光がさらに強くなる。
フェンリルの抵抗が弱まっていくのを感じた。
「ク……ゥ……」
やがて、フェンリルの体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
そして、まばゆい光がフェンリルの全身を包み込んだ。
「成功……したのか?」
俺は固唾を飲んで行方を見守る。
光が収まると、そこには――。
「ん……」
銀色の長い髪に抜群のスタイルを持つ、クールな雰囲気の美女がいた。
狼だった時の面影を残す、美しい蒼い瞳。
服装は民族衣装を思わせるもので、露出は少ないが体のラインが強調されてセクシーだ。
頭からは狼の耳が、腰からはフサフサとした尻尾が生えていた。
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