23 決戦
そこは巨大な広間になっていた。
中央に祭壇があり、周囲には無数の蝋燭の明かりが薄闇を照らしている。
「あいつは――」
祭壇の前には、やせこけた老人がいた。
狂信的な光を宿した双眸が、俺たちをにらみつける。
「来たか、裏切り者。そして神獣テイマーと王国の騎士よ」
老人は憎々しげに言った。
「我こそは『黒の爪』を束ねる教主――ゾルダン」
こいつが教団のボスか!
「我らの教義は誰にも邪魔させん。お前たちが『闇の獣』と呼ぶ『原初の獣』――我らが破壊神様をこの地に降臨させ、すべてを『無』に帰す!」
「そういうのいいから……」
「しかる後、この地には新たな『再生』がもたらされ、真なる理想郷が誕生するであろう!」
「あー……『無』に帰すってことは、お前も死んじゃうんじゃないのか?」
「はあ? ワシは新たな世界を生み出す仕事がある! 例外として生き残らせてもらう!」
「えっ……?」
そういうの、アリなの?
「当然だろう。人類が絶滅したら、新たな世界に誰もいなくなってしまう」
ゾルダンは当たり前のような顔をして語る。
「ワシと……選りすぐられた若く美しい女たちだけは生き残る。そして、新たな世界でハーレム……じゃなかった、新人類創成のための集団として生きる!」
「お前……まさかハーレム作りたいだけなんじゃ……」
「な、何を言うか! 確かにハーレムは男の夢! だがワシの目的はもっと崇高なるものだ!」
ゾルダンが力説する。
が、その姿はもう欲望まみれのジジイにしか見えなかった……。
「ま、どっちにしても」
俺は奴を見据え、
「『闇の獣』の復活を止めて、この組織を壊滅させるっていう目的に変わりはないけどな」
「奴はできれば生け捕りに」
カインが言った。
「無理なら――斬る」
「了解。みんな、いくぞ!」
俺はルシアたちを振り返る。
「愚かな……。もはや儀式は止められぬ」
ゾルダンは両手を広げ、朗々と叫んだ。
「我が身に宿れ、破壊の神よ――そして我が遠大なる理想郷のため、すべてを『無』にするのだ! さあ、新たな世界で我がハーレムの幕開けだ!」
「お前、今はっきりと『ハーレム』って言ったじゃないか!」
「う、うるさいうるさーい!」
叫びながら、満面の笑みを浮かべたゾルダンの体黒い光に包まれていく。
その体があっという間に光の粒子と化し、祭壇へと吸い込まれていった。
こいつ――まさか、儀式は終わる寸前だったのか!?
復活のための宝具がなかったのに……!
「くくく、宝具は破壊神様復活の成功確率を高めるためのものに過ぎん……!」
祭壇からゾルダンの声が響いた。
「本来なら宝具を備え、万全の状態で儀式を行いたかったが……お前たちが来てしまった以上、仕方がない。ワシは賭けに出ることにする……!」
ごごごごごご……っ!
祭壇全体が激しく震動する。
「くくく、もうすぐだ――破壊神様は我が身に宿り、復活なされる」
「させるか! みんな、祭壇を最大火力で攻撃!」
「【火炎ブレス】!」
「【爪撃】!」
「【聖なる浄化】!」
「【瀑布の竜撃】!」
四人の神獣少女がそれぞれの属性の攻撃を繰り出し、祭壇に叩きつける。
普通なら跡形も残らないレベルの破壊エネルギー――。
「効かない!?」
けれど、光に包まれた祭壇はビクともしない。
「まずい、出てくる……!」
ジュディスがうめいた。
その言葉通り、
ぴき……ぴき……ぴき……。
祭壇の表面に無数の亀裂が走ったかと思うと、次の瞬間、内側から弾け飛んだ。
もうもうたる黒煙が立ち上る。
その向こうから、全身の毛が逆立つような禍々しい気配があふれ出していた。
「来る――!」
俺は半ば無意識に叫んだ。
本能が、最大級の警報を鳴らしていた。
「みんな、備えろ!」
俺はルシアたちに警告した。
現れたのは人間によく似た別の何かだった。
黒いモヤ――禍々しい瘴気を全身にまとい、全身が黒ずくめの人型。
顔があるべき場所には、ブラックホールを思わせるすべてを吸い込むような漆黒が渦巻いていた。
「くくく……はははは……はーっはっはっは!」
ゾルダン――といっていのだろうか――が哄笑した。
「手に入れたぞ、絶対の力を! 我が身に破壊神様が降臨なされた!」
「くっ……」
俺は無意識に後ずさっていた。
違う。
あれは、さっきまでのゾルダンとはまったく違う――。
本能的に感じ取っていた。
――殺される、と。
「大丈夫だ、主」
恐怖に囚われる俺を、ルシアが背中から抱きしめる。
「ルシア……」
「我らがいる。みんな、主を守るために戦う」
「さあ、指示を」
「わたくしもがんばっちゃいますわよ」
「あたしもあたしも~」
「私だって」
「私も戦おう、アルク殿」
フィーネが、リリナが、ライムが、ジュディスが、カインが――。
俺の周りに集まる。
そうだ、俺にはみんながいる。
そして俺自身も――。
「みんなで、立ち向かおう」
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