12 第四の神獣
数日後。
俺たちは王都から馬車を乗り継ぎ、港町マリーネルに到着した。
潮の香りが漂い、活気のある声が飛び交う典型的な港町をイメージしていたんだけど。
「……なんだか、静かだな」
港にはたくさんの船が停泊しているものの、人影はまばらだ。
街全体が重苦しい空気に包まれていた。
海棲巨大生物の影響は、思った以上に深刻なようだ。
「ふむ、海沿いの町か。美味い魚が食えそうだ」
ルシアはそんな雰囲気とは関係なく上機嫌だった。
「美味しい魚……それは楽しみ」
フィーネも同じく上機嫌だ。
「海ですね。みなさんで海水浴をしませんか? わたくし、この間新しい水着を仕立てたんですのよ?」
と、リリナが嬉しそうに提案した。
……炎の鳥なのに海水浴して平気なんだろうか?
「まずは仕事だ」
俺は三人に微笑み、今回の依頼主であるマリーネルの領主の元へ赴いた。
町の端にある小高い丘の上に、領主の館がある。
「おお、お待ちしておりましたぞ、アルク殿。よくお越しくださった」
領主は丁重に出迎えてくれた。
「今回は『調査』という名目で来ていただいているが、実際にしていただきたいのはこのマリーネルを脅かすモンスターの討伐なのです」
「ええ、国王陛下からも言外にそう伝えられています」
騎士団や魔法師団の面子があるから、表立っては言われてないけど、王は目で伝えてきたからな。
かなり強烈な圧をかけて。
『分かってるよな? モンスターを倒してくれよ?』と。
周囲の面子とか立場とかに全部配慮した上で、きっちり統治していかなきゃいけないんだから、王様も大変な仕事だよな……。
事情を聞くと、モンスターは数週間前から現れるようになり、最初は小型の漁船を、今では大型の商船まで襲うようになったという。
目撃情報によると、その大きさは全長100メートルを超えている。
出現時には嵐を呼び、巨大な渦潮を発生させる力を持つらしい。
――ということは、リヴァイアサンかな?
確かモンテマでのモンスター登場時の演出が、そんな感じだったから。
つまりは――四体目の神獣に出会える可能性が高い、ってことだ。
よし、いいぞ。
俺は新たな神獣をテイムできるし、この町は救われる。
まさにウィンウィンだった。
「我々ではなすすべがありません。このままでは、マリーネルの商業は大打撃を受け、立ち行かなくなってしまいます……」
領主は深いため息をついた。
「分かりました。俺たちがなんとかしましょう」
俺は力強く請け合った。
「おお、頼もしいお言葉! さすがは神獣テイマー殿だ!」
領主の表情がぱっと明るくなる。
「では、船を用意していただきますか。モンスターの棲息場所まで向かっていただければ、後は俺たちがなんとかします」
「もちろんです。一番良い船を用意させていただきましょう」
というわけで、俺たちは領主が用意してくれた船に乗り込み、モンスターが棲息していると思われる海域に向かった。
海は穏やかだ。
青い空、どこまでも広がる水平線。
恐ろしい怪物が棲んでいるとは信じられないほど美しい海――。
「主よ、何か来るぞ」
船の先頭で見張りをしていたルシアが警告した。
「速い――」
「……真下に潜り込まれた」
フィーネが眉を寄せる。
一瞬で、か……!?
ごごごごごごおおおお……!
海がうねり、俺たちの乗る船が激しく揺れた。
まずい、真下に潜り込まれたらどうしようもない。
このまま転覆する――!
「ルシア、ドラゴンに変身して空中から船を支えられるか?」
「当然だ」
言って、ルシアの体が輝く。
一瞬衣服が溶け消えて、全裸の姿が現れた。
えっ、神獣に戻るときって裸になるの?
テイム時に【人化】するのを見ているけど、あのときは服を着た状態で出現した。
逆の場合はいったん服が吹っ飛んでから、神獣に戻るのか――。
「……今、我を凝視していなかったか?」
ドラゴン形態に戻ったルシアが、俺をにらんだ。
「い、いや、綺麗だな、って……」
「!」
「ご、ごめん! 今のナシ! つい見とれちゃって……」
「よ、余計に恥ずかしいわっ!」
ルシアが叫んだ。
「ごめん……」
俺としては平謝りだった。
でも、本当に芸術品みたいに綺麗だったな、ルシアの体――。
ルシアは空中でホバリングし、前足でつかむようにして船体を支えてくれた。
おかげで激しい波にさらされながらも、俺たちはなんとか転覆せずに済んだ。
と、
ざっっっっっばああああああああんっ!
前方から巨大な水柱が立ち上った。
降り注ぐ大量の海水。
その向こう側から現れたのは――、
「で、でかい……っ!」
全長100メートル以上というのは伊達じゃない。
モンスターというか、巨大怪獣じゃないか、これ。
深い青色の鱗に覆われた巨体。
鋭い牙が並ぶ口。
一言で言うなら竜のような顔をした巨大なサメ――だろうか。
モンテマに登場する神獣【リヴァイアサン】だ。
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