1 ゲーム世界に転生、世界最強の神獣美少女をテイムする
「……どこだ、ここ?」
目を覚ますと、見知らぬ部屋だった。
古びた木でできた部屋。簡素なベッド。
「俺は、確か――」
記憶を整理する。
俺は……そう、連日の残業でヘロヘロになって、それでも大好きなモンスター育成ゲーム『モンスターズ・テイマーズ』――通称モンテマ――のイベント周回をしていたはずだ。
「……って、なんだこれ!?」
部屋の隅にあった小さな鏡を見て、俺は驚愕した。
そこに映っているのは見知らぬ少年の姿だった。
年齢は――10歳くらいか?
柔らかそうな金髪に碧眼のめちゃくちゃ可愛らしい男の子だ。
「……いやいやいや、俺は平凡なアラサーサラリーマンだぞ!?」
わざわざ口に出してみたが、現実は変わらなかった。
鏡の中には、あいかわらず可愛すぎるほど可愛い男の子が映っている。
これが――俺……!?
と、そこで俺はハッと気づいた。
「もしかして、こいつってアルクじゃないか……?」
アルク・リッツ。
モンテマに出てくるキャラクターの一人だ。
職業はテイマー。
ただし、主人公と一緒に冒険に出ようとするものの、まともなモンスターをテイムすることができず、結局村で彼の帰りを待つというモブキャラに過ぎない。
「えーっと、これってまさか……」
異世界転生?
俺はモンテマの世界に転生して、アルクに生まれ変わったってこと?
信じられない話だけど、そう考えると納得できる部分もある。
俺は連日深夜残業が当たり前のブラック企業に勤めていたんだ。
もしかしたら、体が限界を迎えて過労死したんじゃないだろうか?
そして、このモンテマ世界に転生した――?
「まじかー……」
そういうことなら、まずは現実を受け入れるしかない。
逆にそう考えることで、混乱していた気持ちが少しずつ落ち着いてくる。
そう、大事なのはまず現実を受け止めること。
現実を、受け入れることだ。
「で……アルクか」
どうせなら主人公がよかったな。
アルクって顔は可愛いけど、しょせんモブキャラだしなぁ……。
前世では不遇な人生を送り、今世でもパッとしない人生を送るのかなぁ……。
転生早々に憂鬱になってきた。
「そういえば――アルクのステータスって見られるのかな?」
ここがモンテマ世界なら、各キャラにはステータスが設定されているはず。
まあ、モブキャラにまでそれがあるかどうかは分からないけど――。
「見てみるか……【ステータスオープン】」
こういう話で定番の台詞だ。
すると、目の前にゲーム画面そのままの半透明のウインドウが出現した。
「おお、出た!」
俺は思わず叫ぶ。
そして画面に目を凝らした。
そこには――、
名前:アルク
職業:テイマー Lv.1
HP:30/30
MP:15/15
筋力:5
体力:6
敏捷:7
魔力:4
器用:8
運:10
スキル:【テイム】Lv.1、【モンスター鑑定】Lv.1、【絶対服従(神獣限定)】UNIQUE
「うーん……やっぱりパッとしないステータスだな。いかにもモブって感じ……」
俺は肩を落とした。
レベルが1しかないから仕方ないけど、とにかくステータスが低い。
テイマーなのに魔力が4しかないし。
「いや、これはアウトでしょ……」
俺は思わずつぶやいた。
これでは弱いモンスターすらテイムできるかどうか。
「ん……?」
ふと、スキル欄の最後に見慣れない文字があることに気づいた。
【絶対服従(神獣限定)】UNIQUE
「ぜったいふくじゅう……しんじゅうげんてい……?」
なんだこのスキル?
「UNIQUEってことは、ユニークスキルか? モンテマにはそんなスキルなかったはずだけど……」
もしかして、と思った。
「転生特典ってやつか!?」
期待に胸が膨らむ――が、すぐに『あること』に気づいてガックリした。
「神獣限定?」
モンテマにおいて【神獣】というのは伝説上の存在だ。
レア中のレアモンスターで、俺はゲーム内で一度だけ見たことがある程度だった。
ちなみにテイムして仲間にしようとしたけど、あっさり失敗した。
神獣テイムは超難易度なのだ。
だから、神獣を絶対に服従させるスキルというのはすごい――といえるけど。
「肝心の神獣に遭遇することがまずないんだよな……」
まあ、ものすごく運よく神獣に出会えたら、また話は変わってくるか。
そのレア中のレアである神獣以外には、俺のテイムはほとんど用をなさないと見ていいだろう。
ああ、どうせなら【経験値100倍】とか【全属性魔法習得】とか、そういう分かりやすく最強のスキルを得たかった。
「……嘆いても仕方ない、か」
俺は気持ちを切り替えることにした。
神獣テイムは――あまりにも低確率の話だから期待しない。
まずは自分の力で、この世界で生きていく術を探っていく。
まずは生活の基盤を固めないと、な。
アルクの家を見回すと、わずかな食料と金があるだけだった。
ちなみにアルクは両親を亡くしており、近隣の人たちにお世話になりつつ、自活していた。十歳なのにえらい!
当面の食い扶持を稼ぐため、俺は薬草類の原料採取に向かうことにした。
初心者テイマーでもできる、数少ない稼ぎ手段だ。
――というわけで家の近くにある森に入り、ゲーム知識を頼りに薬草を探す。
幸いゲームに登場する薬草類はどれも特徴的なビジュアルだったので、見分けるのが容易だ。
「お、これは煎じると『回復薬草』になるし、こっちは『マナポーション』の材料になるな」
その辺りの知識は一通り頭に入っている。
順調に薬草類の原料を集めていくが、気が付くと森の奥深くまで来ていた。
ちょっと深入りしすぎたか……?
「っていうか、帰り道はどっちだっけ……」
まずいぞ、迷子だ。
薬草類の採取が順調すぎて、つい調子に乗って進み過ぎた――。
「早く戻らないと……!」
今はいいけど、夜になると森の中には魔獣が出てくるのだ。
「それはアウトだよな……」
魔獣とエンカウントしたら俺なんて一たまりもない。
うろうろ……うろうろ……。
焦り出すと、かえって道に迷ってしまう。
分かってはいても、じっとしていたら永遠に森を出られない。
進むしかない――。
「まずいまずい……どんどん道が分からなくなるぞ……」
迷子あるあるだった。
進めば進むだけ、ドツボにはまる。
かといって、立ち止まることもできない。
俺の焦りは最高潮に達していた。
「どうしよう――」
祈るような気持ちで道を探し続けていると、
きらきら……。
前方にある茂みの奥から、虹色の光がもれていた。
「なんだ……?」
俺は茂みをかき分け、光源に向かう。
あの光には妙に惹きつけられる何かがあった。
呼ばれているような気さえした。
あの光は、俺を求めている――。
さらに進み、開けた場所に出たところで、俺は虹色の光を発していたものに出会った。
「卵……?」
卵は高さ3メートルくらいで、結構大きい。
表面には複雑な文様が描かれていて、単なる動物の卵とは明らかに違う雰囲気があった。
「っていうか、これって――まさか」
ごくりと喉を鳴らす。
まさか、これって……!
「見覚えがあるぞ……!」
急激に興奮が湧き上がってくる。
そうだよ、間違いない。
モンテマの隠しゲリライベントで超低確率で入手できる激レアドロップ品――。
「【神獣の卵】じゃないか……!?」
信じられない気持ちだった。
まさか、こんなに都合よく見つかるなんて。
それとも、これも俺が持っているスキルの効能なんだろうか。
偶然か。
それとも出会うべくして出会ったのか。
いや、そんな運命論的なことはどうでもいい。
俺はおそるおそる卵の表面に手を触れた。
温かい――。
内側から、どくん、どくん、と力強い鼓動を感じた。
卵の内部には間違いなく命が脈動している!
ならば――、
「【テイム】!」
俺は高らかに叫んだ。
神獣限定だという俺のテイム能力、上手く作用してくれよ――!
そんな祈りが通じたのか、
ぴしっ……ぴき……ぱきん……っ!
卵にヒビが入っていく。
内側から虹色の光がさらにあふれる。
「いいぞ、出てこい……!」
ぱりんっ!
ついに卵が割れ、中から小さな影が飛び出した。
虹色の燐光をまとった赤い竜だ。
大きさは手のひらに乗るくらいの可愛らしいサイズだった。
プチドラゴンってところだろうか。
きゅうん。
俺の手にちょこんと乗り、愛らしい態度で俺を見上げてくる。
「この感じは――【テイム】成功だな! やったぞ!」
超レアモンスターである神獣を、俺は手なずけたんだ。
と、赤い竜が俺の手から離れ、空中でまばゆい光を放つ。
なんだ――?
やがて光が収まると、そこには竜ではなく一人の女の子が立っていた。
赤い髪をツインテールにした十歳くらいの可憐な少女だ。
額からは小さな角が生え、耳はエルフのように尖っている。
そして背中からは竜の翼が生えていた。
「【人化】……?」
「ほう? 勝手に【人化】させられたということは――貴様が我の主か」
彼女は俺を見て、ふんと鼻を鳴らした。
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