第八章:セイレム潜入
第八章:セイレム潜入
■ 王都の顔と裏面
ハンシ王国の中心、白都セイレム。
高さ数百尺の魔導塔が天を貫き、五常寺院が中心広場を取り囲む。
王宮と魔導院、王立ギルド支部、各家の大使館――文明と権力のすべてがここに集まる。
だがそれは、表の顔に過ぎなかった。
路地の奥には、密告屋、偽印職人、魔獣売買、名もなき処刑場。
王都とは、権威と闇が同居する都市である。
ケビは、そんな町を初めて目にした。
「……華やかさより、息苦しさの方が強いな」
「それが、ここだよ」ネヘミヤが言う。「見える光の分だけ、影は濃い」
■ 作戦の分割
宿に落ち着いた翌朝、ケビたちは作戦会議を開く。
法廷に臨む表ルートと、敵の裏工作を妨害する裏ルート――二手に分かれて行動する。
◎ 表ルート(証拠と正面対決):
ケビ
リア
ディル(証拠魔法師)
ネヘミヤ(警護・情報対応)
→ 王宮の「審問院」で公式証言と証拠の提出。
→ ディルの魔法による【記録再構築】を法廷で実演する予定。
◎ 裏ルート(敵対勢力の暴露・防衛):
アリア
ロウ
ノア
→ 王都内でリアを追い落とそうとする王族派の工作員を監視・排除。
→ 過去に消された証人や隠された記録の残骸を探す。
■ 王宮・審問院
大理石と青晶石で構成された荘厳な建物。
中では既に“芝居”が始まっていた。
審問官たちは冷たくケビたちを迎える。
問われるのはリアの経歴、逃亡の経緯、王命の偽造――
そして最も核心に迫る一問が放たれる。
「では、なぜ、真の王命が発せられなかったと主張できるのか?」
そこで、ケビがディルに目配せする。
静かに立ち上がる老魔法師。
「今ここで示そう。“記録”は残っている。私が再び“視せる”」
ディルは指先を掲げ、魔方陣を起動する。
光が広がり、空中に文字列と映像が浮かび上がる――
それは、王の本命が出される直前、“第三王子派”の手により印章がすり替えられる記録だった。
証拠は本物だった。
法廷の空気が変わる。
審問官の一人が震えた声で言う。
「これは……このままでは、王家の内乱になる」
■ 裏路地の闇
その頃、アリアたちは裏手の市場にいた。
魔道具屋に潜んでいた密偵を炙り出し、消された証人――王宮書記の隠し家にたどり着く。
ロウが扉を蹴り破り、ノアが逃げ道を塞ぐ。
震える老人は、かつてリアの無罪を記録していた“記録補佐官”だった。
アリアが優しく言った。
「証言してくれるなら、安全は私たちが保証する」
老人は頷いた。
■ 遠くから見ている“別の目”
そして、すべてが動いていたことに気づく者がいた。
セイレムの最上層、王宮塔の上に立つひとりの男。
金髪、黒衣。第三王子派筆頭、ヴァルター=リヒト。
「ケビか……なぜ、ここまで来れた?」
その瞳には、焦りではなく、興味が宿っていた。
■ 章末・決戦の前触れ
夜。ケビたちは再び宿に戻った。
リアは、少しだけ涙を見せた。
「ここまで……来られるとは思わなかった。でもまだ終わってない」
ケビは頷いた。
「終わらせよう。次は、敵の“中心”に触れる番だ」