第六章:リア・グレイ、その名を呼ぶ者
第六章:リア・グレイ、その名を呼ぶ者
それは風の強い午後だった。
ケビ・ハウスの前に、一台の黒塗りの馬車が停まった。
中から降りてきたのは、官服に身を包んだ二人の男。そして衛兵六名。
彼らは名乗った。
「ヤナギ県治安局。国王勅命により、王家への反逆容疑で指名手配中の人物、リア・グレイの身柄を確保する」
宿内は静まり返った。
アリアは即座に階段を駆け上がり、ロウは剣を手に取った。ノアは気配を消し、ネヘミヤは笑っていた。笑顔のまま、指先だけが動いていた。
そして、リアは自室の扉を開け、堂々と姿を見せた。
「……来たのね。半年かかったわね、あの情報屋も」
ケビが言った。
「リア、今逃げれば――」
「逃げないわ。私は無実だから。証明するために、この場に残る」
官吏の男が笑った。
「口だけなら誰でも言える。だが王命は王命。従わねば、宿ごと王の敵と見なすぞ」
その時だった。
ネヘミヤが、静かに一歩、前に出た。
「やめておきたまえ。君たちは王命と言ったが、私は確認したよ。君たちが持っているのは**“王命風の偽文書”**だ。印章が旧式だ。……君たち、本当に正規の兵かい?」
ケビは驚いたが、男たちはもっと驚いた。
「貴様、何者――」
「ネヘミヤ=マス・アル・グラウド。ハンシ王国第二情報課所属。君たちの調査対象だった者だよ、もしかして忘れたのかい?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、男たちは逃げようとしたが遅かった。
ロウが道を塞ぎ、ノアが背後を取り、アリアの魔力が空気を冷やした。
リアは、ケビの方を見た。
「……ありがとう。でもこれで、私の居場所はもう、ここにはないわね」
ケビは言った。
「違うさ。むしろ、ここからが始まりだ」