後日譚:灯のその先で
後日譚:灯のその先で
王都セイレム。
時代は移り、かつての石造りの建物の多くは、光を通す魔導ガラスへと置き換えられた。
五常寺院は今や博物館となり、
資格屋は国家認定の「国民教育庁」へと昇格し、
通りには時計が並び、義肢も魔導で自在に動く。
そして、ある丘の上――
そこに、今も風にたなびく木造の建物が残っていた。
愛研究所
門の前の碑文は風化していたが、かすかに読めた。
「愛とは、選び、守り、続ける意志である」
■ 新しい語り部
ある日、ひとりの青年がそこを訪れた。
名は、レム=ハヴィル。
若く、学者で、かつて“伝道師ケビ”に出会った祖父の記憶だけを頼りに、この場所にたどり着いた。
中は静かだった。
書庫には数千の聞き取り記録、旅先での対話、スケッチ、地図、報告書、そして――ケビの私稿。
青年は研究所の管理人に問うた。
「この人は……何をしようとしたんですか?」
管理人は微笑み、こう言った。
「“答え”を配ったんじゃない。
“問い”を配って歩いたんです。
答えを持った人が、自分でそれを伝えていけるように、ね」
青年は、ケビの旅の軌跡を辿る旅に出ることを決めた。
■ 全国各地の“ケビの残響”
ある農村で、“ケビが作った簡素な遊具”を使って今も子どもたちが遊んでいる
沿岸都市では、義肢をつけた漁師が「昔、愛の伝道師が作った図面だ」と誇らしげに語る
山間の村では、“愛について語る夜の集会”が毎月開かれている
貧民街では、「この紙を読んだら変われた」と言う帳簿のコピーが額に飾られている
■ 最後に
青年は旅の終わりに、ひとつのことに気づく。
ケビという人物は、いまや誰の記録にも、正確には残っていなかった。
王都の記録庫にも、彼は“資格屋創始者”として名前だけが載っている程度だった。
だが――
人々の暮らしの中に、彼の“問い”だけは、生きていた。
■ 愛研究所・書庫の奥
最後の場面。
研究所の書庫、最も奥に封じられた一冊。
『ケビ私稿・最終巻』
開かれた最後のページに、こう記されていた。
「愛は、残らない。
愛は、渡される。
そして、それが渡された先で、また“選ばれる”。
それだけだ。
……それでいいと、今は思う。」
筆跡は震えていたが、力強かった。
【完全終幕】
ケビ・ユーンソンの物語
光は彼の中にではなく、彼が触れた人々の中に生きていた。