第十三章:帰還 ― 火の中の灯
第十三章:帰還 ― 火の中の灯
■ 王都、再び揺れる
第七王子ナインが制度を凍結し、行政代行を宣言してから十日。
街は安定し始めていた――表面上は。
だが地下では、依然として旧王子派が工作を続けていた。
資格屋は「知の信仰」とまで言われ、一部では“新たな宗教”と誤解され始めていた。
サジはそれを見て、沈黙した。
ネヘミヤはただひとこと、こう呟いた。
「あの男がいないまま、この空気は保たない」
■ 風が変わった日
王都南門。
警備兵が警戒していたその朝。
旅装の男が一人、門前に立っていた。
黒い外套、六連星のペンダント。
剣も杖も持たず、だが、その姿に兵が息を呑む。
「ケビ・ユーンソン……!本物……!」
彼は答えない。ただ、封印されたギルド通行証を見せる。
「……通してくれ。俺は、“今の王都”を見に来た」
■ 資格屋本部・再会
屋上。
サジが膝を折って報告しようとするのを、ケビは片手で止めた。
「報告はいらない。ここを守ったのは君たちだ。感謝する」
サジは頭を垂れる。
「……王都を、引き渡しますか?」
「いや、違う」
ケビは正面を見つめて言った。
「王都に、“任せる”んだ。俺が担ぐのは、責任じゃない。“権限を放す責任”だ」
■ ナインとの対話
第七王子ナインは、民間服に身を包み、ケビと向き合った。
「帰ってきてくれて、本当に助かった」
ケビは静かに言う。
「助けに来たわけじゃない。見届けに来ただけだ」
「それでも、あんたがいると、この国は前に進める」
ケビは考える。そして、初めて口にした。
「王じゃなくていい。だが、“制度”だけは、俺が引き渡す形にする。
王家が壊れたあと、人が生きるための道筋を、“学び”が作れるなら――
俺は、もう一度だけ立つ。だが、それで終わりにする」
ナインは頷いた。
「それで十分だ」
■ 最後の準備:制度設計と譲渡
ケビは、サジ・ネヘミヤ・ユーナ・オルド・カリュス・ティミア――
各部門の代表者たちを集め、告げた。
「“制度”を譲る。だが、これは剣と同じだ。
正しく持たなければ、人を殺す。
これを“運営する責任”は、君たちのものになる」
皆が静かに頷く。
この瞬間、王都の行政は王家ではなく――市民の中の有志たちに手渡された。
■ 王城での最後の会談
王都中央、玉座の間。
ケビは王座の前に立った。
座らなかった。
「俺はここに座らない。
座っていいのは、奪わなかった奴だけだ。
選ばれなくていい。ただ、手を差し出せる奴が座るべきだ」
その言葉が、やがて王都の“新しい憲章”の一節となる。
■ ラストシーン:そしてまた、灯を手放す
翌日、王都から一人の男が去った。
名も告げず、記録も残さず、ただペンダントの光を少しだけ落としながら。
だが王都のあちこちで――彼の残した「選べる場所」が、生きていた。
時計工房、福祉施設、料理屋、資格屋。
そして何より、人々の心の中に――
「知らなかった」では済まさずに、「知ったからこそ選ぶ」姿勢が、根を下ろしていた。
一応の完




