サブ章:群像劇 ― 灯の行方
サブ章:群像劇 ― 灯の行方
※この章ではケビは前面に出ません。
彼が育て、送り出した人々が、それぞれの道で“社会の変化”を起こしていく群像劇形式です。
登場人物たち
◆ ユーナ=リス(元娼館出身/福祉資格取得)
現在:北医区の介護施設「ほほえみ庵」副主任
性格:冷静で実務型。内心に深い怒りと母性を併せ持つ。
物語:
かつて売られた少女たちが、年老いて居場所を失っていた。
ユーナは施設で、彼女たちを「労働者として」ではなく、「人間として」扱う場所を築いた。
ケビの言葉を覚えている。
「奪われた者ほど、“返す”ことができる」
彼女は、やがて“福祉の革命児”と呼ばれる存在になる。
◆ オルド=ゼッツ(元傭兵/簿記・不動産資格取得)
現在:東工区の貧民街で、元冒険者向けの共同住宅を管理
性格:粗野で実直。酒好き。だが人望がある。
物語:
元冒険者は、足を折れば捨てられる。
剣を握れぬ者には家も仕事もない――それが王都の現実だった。
オルドは自分の“数字の力”で、傭兵仲間を集め、小さな“住宅連帯”を作る。
「ケビが言ってたんだ。“知識で生き直せ”ってな」
税も払う。契約も守る。暴力も使わない。
だが誰も、オルドの仲間を“いらない者”とは言えなくなっていった。
◆ カリュス=ディエル(貴族の庶子/秘書検定取得)
現在:第三王子派の残党貴族家に仕官
性格:冷徹・論理型。表向きは従順だが、内面には炎。
物語:
カリュスは最初から知っていた。資格屋を出た者に、王家は警戒の目を向けている。
だが、だからこそ“内側”から変えると誓った。
「革命は、まず報告書の中に潜むのだ」
彼は、腐敗貴族の帳簿から不正を暴き、冷静に敵の信用を崩していく。
誰も気づかぬ形で、王都の“常識”が変わっていく。
◆ ティミア(元浮浪児/精密部品製作免許取得)
現在:魔導時計職人見習い→独立
性格:明るくひょうひょうとした天才肌。だが「物」には本気。
物語:
ケビが配った教科書の最後にこう書いてあった。
「世界は変えられない。でも“時計”なら、お前にも作れる」
ティミアは真似から始めた。だが、独自の仕組みを持つ“潮時計”を作り出し、
やがて王都ギルドの制式時間計測に採用されるまでになる。
それは――“浮浪児が王都の時間を刻む”ということだった。
ケビの逃げ道
一方、主人公ケビは――
王都の政治戦にも、英雄の立場にも乗らなかった。
サジとネヘミヤに全運営を委ねたあと、王都を一時離れている。
表向きは調査遠征。だがそれは“表舞台から降りる”という意思でもあった。
リアは彼に問うた。
「なぜ、あんなにもったいないことをするの?」
ケビは笑って言った。
「俺が道を示す者なら、どこかでその道を“自分で選ぶ奴”が出てきてほしいんだ。
……その時、俺は道端にいればいい。指差さずに」
最後に
「逃げた」と言う者もいた。
だが、残った者たちは口々に言う。
「違う、“灯”を持ったまま去っただけだ。
戻ってくる時、俺たちがどこまで光を繋げられるか――
きっと、それを見に来るんだよ」