第十一章:燃ゆる学館
第十一章:燃ゆる学館
■ 発端:一通の手紙
それは、北医区のカイ学館――福祉・介護・義肢部門が拠点の一つ。
ある朝、サジの手元に、奇妙な封書が届いた。
宛名:拠点管理主任サジ・ベルネッド
差出人:不明
「人は学びを得て誇りを持ち、やがてそれを神に変える。
神が崩れる瞬間を、我らは見たい。
貴殿の光が、燃える様を見届けよう。
……月が半ばを超えるその日、我らは来る」
サジは手紙を読み終えると、無言で焼却処理し、即座にケビへ報告を入れた。
「資格屋への政治的な牽制ではありません。これは“教義的動機”を含んだ破壊工作と見ます」
「どこの連中だ」
「最も可能性が高いのは、《忌禁教義者》あるいは《記録否定派》……“知”を異端とする連中です」
ケビは即断した。
「全施設、警戒態勢へ。
防衛補助にネヘミヤを回す。
サジ、拠点防衛権限を一時君に全移譲する」
■ 襲撃:火の夜
月が半ばを超えた夜、王都北医区――
講座が終わったあとも残って勉強していた生徒8名と、宿直講師2名。
そこに――黒衣の集団が現れた。
フード、魔術封じの銀鎖。
口には祈祷の歌、手には火を放つ瓶。
異端者たちは叫んだ。
「誇りを棄てろ。知は呪いだ。神に救いを求めよ――!」
瓶が放たれ、火が爆ぜる。
だが、彼らが踏み入れたその瞬間。
《施設自動防衛起動:結界・弾斥術式・隔離壁展開》
空間が捻じれ、爆炎は建物の外周で跳ね返った。
室内にいたサジが静かに立ち上がる。
「この施設は、拠点レベルⅢ警戒状態にあります。
侵入者の行動はすべて記録され、王都防衛局とギルドに即時転送されます」
異端者の一人が叫ぶ。
「何故、知の砦が……神の火に焼かれない!?」
その問いに、サジは表情一つ変えず答える。
「――我らが主は、“知らぬことを罪とはしない”」
瞬間、背後から飛び込んできた影。
ネヘミヤだった。
「さあ、暗いところへ戻ってもらおうか。ここは明るすぎるんでね」
刃ではなく、睡眠毒付きの針。
全員、静かに地に伏した。
■ 翌日:王都全域の衝撃
襲撃未遂、資格屋無傷。
生徒たちは無事、拠点は損傷ゼロ。
犯人10名はすべて拘束、王都審問院へ送致。
これにより、資格屋への信頼は爆発的に高まる。
市民は「知の守り手」としての評価を確定
王都の貴族派は「組織化された市民教育」の影響力に戦慄
教義過激派の信用失墜
■ 余波:ケビの独白
夜。王都本拠の屋上。
ネヘミヤが静かに言う。
「おめでとう、君の“光”は消されなかった」
ケビは黙って、遠くを見ていた。
「違う。
光じゃない。これは、“光に向かおうとする手段”だ。
俺が守ったのは手段だ。――だから、まだ終わってない」
ネヘミヤは笑う。
「君はまだ、“この国”を変える気があるんだな」
ケビは返した。
「“生きていく手段”を手に入れた奴らが、どうやってこの国を歩いていくか――
それを見届けたいだけさ」




