第04話-2 ゴールデンウイーク 釣りに2
川から誰かが上がってきた。直くんだよね?
小さい子供を連れてる。助けられたんだ。
走って直くんの方に向かったけど、直くんは私がたどり着く前に倒れた。
直くんのそばにたどり着いたけど倒れたままで意識がないみたい。仰向けにして息をしてるか確認したけど……息をしてない……
えっ?
子供の両親が子供のそばに来た。子供の方は気絶してるだけで息はしてるみたい。
そこに大ちゃんと美亜ちゃんが来た。
「直くん、息してない……」
「英子、心臓も動いてないぞ。人工呼吸と心臓マッサージだ。
美亜、受付の所にAEDがあったから取ってきてくれ」
「分かったわ」
大ちゃんが直くんに馬乗りになって心臓マッサージを始める。
「英子、人工呼吸しろ。ほっとくと直樹が死ぬぞ!」
「うん」
私は直くんのアゴをくいっと上げて、大ちゃんの心臓マッサージに合わせて空気を吹き込む。何回かやってると水を吐き出し自分で呼吸をし始めた。
大ちゃんが心臓が動き始めたのを確認して、直くんの上から降りた。
直くんが目を開けてこっちを見てる。
「英子ちゃん、なんで泣いてるの?」
「直くんのバカ〜。心臓が止まってたんだよ?もう」
「……そうなの?ごめんね?」
そのまま直くんに抱きついてわんわん泣いてしまった。
美亜ちゃんと社長さんがAEDと毛布を持ってきてくれて、子供と直くんに毛布をかけて温める。
2人共息をしてるからとりあえず大丈夫だけど、身体を温めるために釣り堀の管理棟に運ばれていった。
神ちゃんが言うには、神ちゃんの加護がいくらか効いたのとさっき見た子供の幽霊の手助けで助かったって。
子供の幽霊がどうして助けてくれたんだろう?
悪い子じゃないみたいだったけど、幽霊が人助けをするって珍しいよね?
何かいわくがあるのかな?
私も管理棟の方に向かって走った。
私が管理棟に着いた時は大ちゃんがパパ達に連絡するのに走ってた。美亜ちゃんが残って直くんを看てた。
「英子、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。直くんの心臓が止まって死んじゃうかと思った……」
「それは心配するわね。宮崎くんも英子に心配かけないようにしてもらわないと」
「でも、助けに行かずにはいられなかったんだよ。直くんらしいよ」
「もう」
美亜ちゃんが心配して言ってくれてるのは分かるけどね。でも、いつも困ってる人に手を差し伸べる直くんが好きなの。私のことも心配してくれるし。
でも、こんな風になるのはやっぱり心配なのは確かなの。
パパ達が戻ってきて、直くんが無事なのを確認して外に出た。直くんのお父さんに謝るって電話しに行った。多分直くんのお父さんもお母さんもパパ達を悪く言わないと思うけど。
釣り堀の社長さんがお茶を出してくれて、うちのパウンドケーキを食べつつ休憩してる。美亜ちゃんと大ちゃんを散歩に送り出して、静かに直くんが起きるのを待ってる。
そうしているとおじいちゃんが慌てて入ってきた。
「直樹はどうだっ?」
「大丈夫。もう心臓も動いてるし呼吸も安定してるから、温かくして様子を見てようって」
「そうか……なら良かった。はぁぁぁ」
おじいちゃんも直くんの事が心配だったみたい。そうだよね、赤ちゃんの時からうちに来て面倒を見ることが多かったから、私達孫と同じ扱いだもんね。
こんなことになるとはおじいちゃんも思っていなかったと思うけど気にしてるのかな。随分安心したって感じなんだけど。
「おじいちゃん、どうかしたの?直くんは大丈夫だよ?」
「ちょっとな、昔の事を思い出したんだよ」
「昔のこと?」
「ああ、じいちゃんとここの社長友達がこの先の川で溺れて亡くなったんだ」
……それであんなに心配したんだ。また、亡くなったりしたらって思ったのかな?
「じいちゃん達が小学生の頃にここに来てな。そいつはここで遊んだのが楽しかったみたいで、その後にご両親とこの先の河原に遊びに来たんだって」
「その時に?」
「ああ、その時に川に入って遊んで足を吊ったらしくてな、それで溺れたそうだ」
……溺れた
直くんにその子が重なったんだ。
おじいちゃんと、その子がどんな子だったか、どんな風に遊んでたかなんて思い出話をしたり、直くんがどうやって子供を助けたかを話をしていたら、直くんが起きた。
どうなったかはまだ分かってないようだった。
「英子ちゃん、あの子は?」
「大丈夫だよ。念の為病院に行ったよ。直くんは大丈夫そうだから寝かせておいたよ。
…………でも、もうあんな無茶はしないでよぉ」
「そうだぞ、直樹。英子を泣かすような無茶はするなよ」
「ごめんね、英子ちゃん。すみません、大輔さん」
直くんにパウンドケーキを食べさせて、温かいお茶を飲んでようやく落ち着いたみたいなのでベッドから起き出した。
その後はおじいちゃんに付いて直くんと歩いて、釣り堀の端の方まで来た。
そこはさっき小学生くらいの子の幽霊がいた所だった。やっぱりまだいるみたい。でも、さっきより薄くなってる。
おじいちゃんがそこにコーラをかけていた。
「おじいちゃん、なんでそこにコーラをかけてるの?」
「あいつがどこで亡くなったのか分からなくてな。釣り堀の端っこのこの岩を代わりにお供えとしてコーラをかけてるんだ。あいつはコーラが好きだったから」
見るともう枯れてしまった花なんかもある。社長さんのお供え物なのかもしれない。
おじいちゃんの目の前に幽霊の子がいる。顔が笑ってる。嬉しそう。
でも、ちょっとおじいちゃんを心配してる感じだ。もしかしたら、いつまでもその子の事を気にしてるのが気がかりなのかも。
おじいちゃんがその子の家のことを話してくれた。
その子のご両親ももうかなり前に亡くなってるんだって。その子が亡くなった後生まれた弟がいて、その弟は溺れて亡くなったりしないよう泳げるように水泳をしっかり教えたそう。
そうしたらオリンピックで金メダルを取るまでになったとか。
「そういえば、この間ここ出身の水泳の金メダリストが亡くなりましたね。ニュースで見ましたけど」
「そのメダリストがあいつの弟だ。昔イベントで会ってちょっと話したことがあるけどな」
「そんな人が地元にいたんだ」
その話をした時に水泳を始めたきっかけを聞いたんだって。おじいちゃんもその話を聞いてその子のことを思い出して泣いたらしい。
ご両親的には大成功なわけで、その弟の人も現役を引退してからは子供が溺れて亡くなったりしないように着衣水泳なんかを指導するイベントを開いたりしてたそうだ。
「もうご両親も弟さんも亡くなったしな。あいつを覚えてる家族ももういないから成仏すればいいんだけどよ。
英子、まだいるんだろ?」
「うん、だいぶ薄くなってるけどまだ居るよ」
「そうですね。僕もさっき助けられたみたいですし」
『最期にお前さんが来るのを待っておったみたいじゃぞ』
「おじいちゃんが来るのを成仏しないで待ってたんだって」
それを聞いたおじいちゃんが一気に涙を流し始めた。あまりにも突然でびっくりしちゃった。
「……まったく……俺なんか待たずにさっさと成仏すればいいのによぉ」
それを聞いたからか子供の幽霊がスッと消えていった。
「行っちゃった……成仏したみたい……」
「あいつが亡くなってからこの辺では死亡事故がなかったらしい。もしかしたらあいつが直樹の時みたいに助けてたのかもしれん。
たぶん天国に行けるだろう……」
私達は手を合わせて祈った……
そろそろ帰る時間になったから受付に所に戻ってきた。
大ちゃんと美亜ちゃんが一緒に戻ってきた。あの後は普通に散歩してたみたい。でも、直くんの救助の時は美亜ちゃんのことを「美亜」って呼び捨てにしてたよね。もう、ちゃんと付き合っちゃえばいいのに。
その後は咲良ちゃんが秀くんを連れて、パパやママと戻ってきた。咲良ちゃんは満足そうな顔をしてるからフライフィッシングを楽しめたのかな?それとも秀くんにいいところを見せられたからなのかな?
「ただいま〜」
「おかえり。フライはどうだった?」
「面白かったよ。英子のお父さんが上手く教えてくれて結構釣れた。
それよりも……」
「どうかしたの?」
何かあったかな?
「宮崎くんの救命活動をしたんだよね?マウスちゅ~マウスで」
かあぁぁぁ〜
そういえば緊急だったし何も考えてなかったぁ。別に恥ずかしくはないもん。
「英子ちゃんとは何度もキスしてるからマウストゥマウスくらいはずかしくはないよ。ねぇ?英子ちゃん」
「え?あ?ん?そうそう、何度もキスしてるからね……小さい頃だけど」
「ほうほう、もうキスなど経験済みということですな?」
「え?そうよ。キスなんかよく直くんとしてるもん」
照れ隠しで誤魔化そうと思ったのに変に見栄張っちゃったよ。直くんも否定しないし、咲良ちゃんが納得したような意地悪なような顔してるし。秀くんだけがよく分かってないんだよね。
今日は楽しいだけの釣りにはならなかった、こんなことになるとは……
直くんが溺れてる子を助けたけど心肺停止しかかったし、おじいちゃんとあそこに居た子供の幽霊の話もあったし。
あの子供の幽霊のおかげもあってか大事にはならなくて良かった。
……でも……咲良ちゃんやクラスメイトとかにからかわれそうなんだけど?
この物語はフィクションです。心肺停止もフィクションイベントです。
現実に心肺停止となった場合、すぐに蘇生したとしても病院に行きましょう。
この物語では、咲良が英子をからかうための直樹を心肺停止状態にしています。
次回は10日に間の休みを取って、11日が日曜日なので、12日に更新となります。