第16話-2 田舎に帰ろう-2 電車に乗って。そして雑談
さあ、今日はひいおじいちゃんの家に遊びに行く日だ。
咲良ちゃんがうちに来るのを待ってから出かける。美亜ちゃんはもう昨日から泊まってたから今一緒に朝ご飯を食べてる。
「ママ達は後から車で来るんだっけ?」
「うん、そうよ。用事があるからそれを済ませてから行くよ。夕方には着くはずだから夕ご飯はよろしくね」
「分かった。でも、ひいおじいちゃんの所に行ったら、いつも私達が作ることになってるけどね」
「ふふふ、それが服部家のしきたりだからね」
「嘘ばっかり」
ひいおじいちゃんの所ではママ達がゆっくりするために、男の人や若い人が作ることになってる。今回は私達がだよね。
大伯父さんの頃からそうなってるらしくてそのためにパパや私達が料理出来るように仕込んでるんだとか、嫌じゃないからいいんだけどね。
「美亜ちゃん、今日の夕ご飯は大ちゃんと直くんが作るから」
「手伝った方が良くない?」
「いいのいいの。去年もそうだったけど、基本大ちゃんと直くんかパパが作るから」
そんな話をしてたら直くんと秀くんが来た。それからしばらくしてから咲良ちゃんが来た。
「おはよ、英子、美亜。2泊3日よろしくね。
英子のお母さん、よろしくお願いします」
「咲良ちゃん、あんまり気にしなくてもいいからね。気楽にね」
「そうよ、自分の実家くらいに思ってゆっくりしてね」
これでみんな揃ったから出かけよう。
クロはリュックタイプのケージに入れて連れてるよ。
「パパ、ママ、先に行ってるよ~」
「気を付けてな。ちゃんと秀くんの面倒を見るんだぞ」
「それは咲良ちゃんが担当だから大丈夫」
「「「「「行ってきま〜す」」」」」
「行ってらっしゃい」
咲良ちゃんは秀くんと手をつないで私達の前を歩いて行ってる。ただ、顔がニヤけていて子供を拐ってるように見えなくもない。
私も直くんと手を恋人繋ぎでつないで、大ちゃんと美亜ちゃんは横に並んで歩いてる。大ちゃんも夏なんだからもうちょっと積極的になればいいのに。
途中和菓子屋に寄っておやつを調達して、しばらく歩けば駅に着く。
切符を買って改札を通るけど、咲良ちゃんは自分で切符を買うのは初めてだってはしゃいでた。秀くんに切符の買い方を教えてもらって喜んでる。というか蕩けてる。
合宿のと時も電車を使ったけど、切符は先生が買ってたから自分で買ってないんだよね。
この辺だと大体の人が車で移動するから、交通系ICカードを使う人ってほとんどいないから切符なんだよね。
合宿の時とは別路線なんでホームも違う。お城が高い位置から間近に見えたりして見晴らしがいい。
「電車って滅多に乗らないからなんか興奮するんだけど」
「咲良、この間合宿に行く時に乗ったじゃない」
「いやあ、その時は秀くんがいなかったからね。なんかこう愛の逃避行?って感じで」
「それは妄想が過ぎると思うよ」
「ははは」
ちょっと待ってると電車が来た。
中に入ると、ボックス席なんで咲良ちゃんと秀くんは私達の隣のボックス席に一緒に座ることに。
しばらくして電車が動き始める……
電車は東の方に向け市街地を走ってる。この辺りはまだ高い位置を走ってるから街が遠くまで見渡せる。
電車に乗って街並みを見ると東側はどんどん開発されて駅前より繁華街って感じになってる。小さい頃は田んぼがいくつかまだあったけどもう全然ない。住宅地だった所も商業施設になって、結構高いマンションが建ってる。
なんとなく寂しい。
どこもいずれは変わっていくんだけど変わるのはやっぱり寂しい。
そんなことを思ってると次の駅に着いた。
ここの近くにある遊園地にプールがある。今度みんなで行くのはここだ。
おじいちゃんおばあちゃんが学生の頃に出来た遊園地で、プールは流れるプールやウォータースライダーがあって今もこの辺りでは人気のプール。
冬はアイススケート場になるので冬場も人気の遊び場だったり。
パパ達はデートでアイススケートには来た事があるけど、プールには行ったことがないって言ってた。パパも男なのに水着姿のママを見たくなかったのかな?
「咲良ちゃん、直くん。今度みんなで行くのはここでいいんだよね?」
「そうだね。この辺だとここが1番だよね~」
「うん。一応ケーキの試食メンバーで都合のいい奴にも声をかけてあるけど4人くらい来る予定。な、大輝?」
「ああ、行けない奴らが悔しがってたな」
「これで男子が委員長だけにならなくて良かったね」
「秀くんは来ないの?」
「その日は秀が学校のキャンプに行ってる」
「くぅ、せっかく私の水着姿でメロメロにしようかと思ってたのに」
「……橋本さん、止めて。秀の将来が心配になる」
そんな話をしてると電車が次の駅に向かって走り出す。この少し先辺りから周囲に建物が少なくなり山の間をに走って行く。
この市街地は周辺を山に囲まれてるので、市街地を過ぎると少し寂しくなる。
それでも見える国道のそばには民家があり、山の斜面に家を建ててる人もいたりするので途中に駅がある。
その駅に停車した……
「この辺はちょっと寂しいけど田舎って感じはしないね」
「咲良ちゃん、駅の近くは寂しいけど北側の山の向こうは凄い住宅地だよ。高校もあるし」
「え?そうなの?なんで知ってんの?」
「パパが高校時代、土曜の午後は毎週のように山の頂上付近にある友達の家に遊びに行ってたから」
「英子のママを放っておいて遊びに行ってたの?ひどくない?」
「その辺は最初に約束で決めてたんだって。元々先に遊んでたらしいからね。でも、土曜遊んだ後や日曜は一緒だったんだって」
「ああ、それなら納得するかな」
パパの友達の山田さんの実家があって何度か行ったことがある。大叔父さんも付き合いがあったらしいから。
山の頂上辺りに家があって、坂道から下を見るとず~っと下まで家があったのを覚えてる。家だらけの風景が凄かったんだよね。
パパはその頃、自転車でそこを駆け下りて遊んでたって言ってたけど、私はそんなことで出来ないね。大ちゃんや直くんは好きそうだけど。
この辺りも人が少ないのかと思えばちょっと場所が変わると住宅が多かったり。
でも、ここからは結構寂しい感じになってくる。
次の駅に向けて電車が動き出す。
この先は寂しい感じの所を進み、トンネルに入る……トンネルの先には海が見える。
「おお、『トンネルを抜けると雪国だった』的な感じですな。いい感じに海が見えていいねぇ」
「駅からも海が近いよ。港があるから見に行ってみる?船も出てるから他の島にも行けるよ?」
「いいね、でも今日はいいや。来年辺りその島に泳ぎに行ってみる?秀くんも一緒に」
「兄ちゃん、海に泳ぎに行きたい!」
「来年の話だぞ。それにお前の貞操が狙われてるからな?」
「貞操って?」
「なんでもないんだよ、秀くん。お姉さんがいろいろ教えてあげるだけだから」
「そうなの?ありがとう」
「「「「…………」」」」
海が見えればすぐに駅に着くので、話してる内にもう着いちゃった。
駅のホームに降りる。でも降りた人は私達以外には数人。あんまり栄えてる町じゃないんだよね。
改札を通るとちょっと古めかしい作りの駅舎の中が見える。英代おばあちゃんが学生の頃に改装されたとかで、見た目にプラスして随分いい雰囲気になってる。
咲良ちゃんはそんなこの駅舎の雰囲気が気に入ったみたい。
「いい雰囲気だね、この駅舎。地元の駅のようなコンクリ作りの特徴のないのよりはいいよね」
「そう?昔は駅前もこんな感じの建物が多かったらしいね。今はバスのロータリーになっちゃってるけど」
「もったいないなぁ。倉敷とかの美観地区ってことで残せば観光客が来たかもしれないのに」
駅を出てロータリーを見ると咲良ちゃんがちょっと寂しそうな顔になってしまった。さっき話していたとはいえ昔の風景を期待してたのかも。
ここからはバスに乗って行くんだけど、その前にお昼ご飯にしよう。ちゃんとパパから軍資金を頂いてるんだよね。
「ちょっと早いけどお昼ご飯にしようか。咲良ちゃん、何食べたい?」
「みんなが食べたいものでいいよ」
「咲良ちゃんはお客さまだから咲良ちゃん優先でいいよ」
「それじゃあ……秀くん、何食べたい?」
「ハンバーグ食べたい!」
「じゃあハンバーグの美味しそうなお店で」
「いいの?海鮮丼とかのお店もあるよ?」
「いいのいいの」
ということでハンバーグの美味しそうなお店を探す。
いつもは海鮮料理のお店に入ってたから、いざハンバーグのお店となるとどこにあったか思い当たらない。
周辺を歩いて捜索してるとお肉の焼けるいい匂いがしてきたので、みんなでそっちに向かった。
「おお、なんか美味しそうな雰囲気じゃない?英子、美亜」
「そうだね。期待が高まりそうなお店の雰囲気だよね?秀くん、ここでいい?」
「うん、ここがいい」
「じゃあ、ここで決まりだね」
見た目がいい感じに煙で燻されたような木材で組まれた店構えがなんとも美味しそうなハンバーグやステーキが出てきそうな雰囲気。期待感が高まるね。
中に入るともっと期待が出来そうです。当たりの店かな?背中のケージでクロが騒いでるし。
席に案内されてみんなでハンバーグやステーキを注文し、お腹いっぱい堪能した。
直くんたちと別のテーブルに分かれたこともあって、咲良ちゃんがこそこそと女子だけで話し始めた。
「美亜ってもう何回か英子のひいおじいちゃんの家に行ってるんだよね?」
「今回で3回目だけど」
「緊張しない?
友達の親戚の家とはいえ好きな男子の親戚の家でもあるんだからさ」
「するに決まってるでしょ!今日も緊張してるよ!
皆さん、私を家族みたいに扱ってくれて親切にしてくれるけど他人なんだから」
「ひいおばあちゃんもみんな、もう家族って思ってるよ。美亜ちゃんが大ちゃんのお嫁さんなるって思ってるからね。
ママもそうやって将来のお嫁さんとして高校の時に連れて来たんだから」
「服部家、そうやって嫁を確保してるのか……」
服部家ではいつもそうというわけじゃないからね?
パパの時がそうだっただけで、おばあちゃんの時は普通に結婚の挨拶に来たのが先だから。
この話は美亜ちゃんもママやひいおばあちゃん達から以前に泊まりに行った時に聞いてる。だからいつも緊張してるのは知ってる。
それもあって駅前で食事して少し落ち着かせてから来るようにってママから言われてる。自分が経験したことだから。
でもまだ美亜ちゃんの顔が赤くなってる。大ちゃんのお嫁さんって言われるのはまだ恥ずかしいみたいだね。
もう大ちゃんはいつになったら告るのかな?もう美亜ちゃんのお父さんにもママが根回しもしてるから本人も回りの人も反対しないのに。
しばらく雑談して美亜ちゃんの緊張が少し解れた頃に、お店を出て駅前に戻た。
### 続く ###