第14話-3 女子バスケ部合宿奇譚3 1日目 幽霊、出る?
キャプテンを始め3年生が涙を流しながら弁当を食べ終え、私と美亜ちゃんで作って来たパウンドケーキをみんなに出してゆっくり休憩を取った。
さっき話してた廊下の軋む音のことは、パウンドケーキを食べることでいくらか忘れてくれたみたい。これで午後も練習に集中出来るんじゃないかと思う。
「服部、三条、ケークサレもだけどパウンドケーキありがとな。
合宿の間のご飯は期待してるよ」
「せっかくの合宿ですからね。美味しいご飯を作りますよ。ね、美亜ちゃん」
「はい、頑張って作ります」
「頼むよ」
お昼休みも終わり練習を再開した。
午後は3on3でオフェンスとディフェンスに分かれて連携の強化を図るんだって。
その後は紅白戦をすることになってる。練習試合のスタメンの選抜の参考にするそう。ただ、みんな出れるようにはするって言ってた。
練習してると体育館の入り口に、うちの先生ともうちょっと年配の先生と3年生らしい人が入って来たの。
明日の練習試合の学校の人かな。
先生がキャプテンに向かって手招きして呼ばれていった。
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女子バスケ部のキャプテン 佐藤です
今日は合宿に来ています。2泊3日、みんなで共同生活しながらバスケの練習です。
でも、強豪校でもないし、学校も普通の公立なんで部活に力を入れているわけではないので、合宿は修学旅行的な感じです。
ただ、前回は顧問の先生の無策で食事もまともに取れず、地獄の合宿となってしまいました。
しかし、今年は服部、三条が入部してくれたおかげでバスケの戦力もアップし、食事面も大幅に改善されそうで泣くほど嬉しいです。
今は宿泊施設の近くの体育館で練習中ですが、明日の練習試合の相手が挨拶に来てくれました。
先生は先生同士で話しているので、私は相手校のキャプテンと話しをすることに……
「明日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。こんな所なんで対戦相手が少ないんで、こちらも楽しみです。
ただ……」
「ただ……何か?」
「湖のそばの旅館に泊まってるんだよね?」
初対面だしかしこまってたのが少し口調が緩んだけど、あの宿泊施設に何かあるのかな?
「そうだよ。あそこに泊まることになってる。綺麗だし温泉も出るからいいよね。
それに……今回が食事も大幅に改善されるし……
あそこって何か問題があるの?」
「食事の方は知らんけど……
あそこって出るって有名な旅館で、頻繁にそういうのが好きな人が来るとこなんだけど」
「は?何それ?聞いてないよ?
安くていい所借りれたってうちの先生が言ってたけど」
マジ、何それ?何も聞いてないけど?
今回は服部達のおかげで食事に困らなくてすむと思ってたけど、そんな落とし穴があったのか?あの先公……
「出るんだって、子供の霊が。それにラップ音とかポルターガイストとかあるらしくてかなり怖い目に遭ってるらしいよ?」
「マジ?」
「うん、大マジ。だから実際どうなのか聞いて来いってうちの部員から言われたんだよね」
「今日着いたばかりだからなぁ。今のところ廊下で軋む音がしたけどって話くらいだな。誰もいないからどうなってんの?って」
「それならいいけど、明日試合にならないとかになってないといいんだけどさ」
そんなヤバそうなとこ借りたのかよ?あいつ。夜に絞めてやらないとダメだろ、これは。
でも、そういえば服部と三条はそっち方面も詳しいらしいって、2年の藤井が言ってたけどどうなんだ?
後で聞いとこ。
「一応今年そういうのに詳しい子が入ったから大丈夫……だと思いたい」
「まあ、気を付けて。何かあったらここに連絡して。最悪泊まるとこはどうにかするから」
「助かるわぁ〜。じゃあ、明日は練習試合楽しみにしてる」
「こっちも楽しみにしてる……でも、気を付けて……」
「……」
最後に握手を交わして帰ってったけど、そんなにヤバいのか?
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キャプテンが練習試合の相手のキャプテンと話をしばらくしてた。
結構仲良くなったのかな?
強豪校のあそこのキャプテンとも仲が良いし、コミュ力が高いみたい。
3on3でオフェンスとディフェンスの練習を休憩時間までした。
どうオフェンスに対応するか考えながらディフェンスするのか頭を使わなきゃいけないから大変。試合も今はディフェンスは先輩達がメインで指示をもらうことが多いから、自分で考え指示するとなると難しい。
来年はもっと試合に出ることが増えるだろうから、ディフェンスの指示ももっと上手くならないとね。
で、休憩時間になったんだけどキャプテンがポツリと話し始めた、重要なことがあるって。
「……あの宿泊施設……出るってさ」
「「「「「え?マジですか?」」」」」
「ああ、有名な心霊スポットらしい。ネットで調べたけどすぐに出てきた」
「「「「「誰だよ、こんなとこ選んだの!」」」」」
「はい!私が選びました」
咲良ちゃんが元気に声を上げてる。私も美亜ちゃんも知ってたけど。
回りから「えっ?」ってちょっと絶望が混ざった顔で見られてる。
「安くて体育館が近くにある所ってオーダーだったんで。
ついでに肝試しも出来ればお得かと」
「「「「「お得じゃねぇ!!」」」」」
「一応霊障とかは出ていないので大丈夫ですって」
「そうですよ、心霊スポットツアーの人達に問題は起きてないから」
「服部と三条は霊感あるから大丈夫かもしれないけどさ、うちらは霊感ないんだぞ!」
霊感があったって別に祓ったり出来るわけではないからね?
美亜ちゃん自体基本的に視えたり感じたりするけど、中学時代まで避けてきただけ。
私の場合は、神ちゃんが憑いてるからまだ悪いものは祓ってくれたりするけど、私自身には特別な力はないもん。
「霊感あったっても視えたり感じたり出来るようになるだけで、別に被害がなくなるわけじゃないですよ」
「そうそう、私も美亜ちゃんもマンガやアニメみたいに祓い屋のような特殊能力はないですから」
「「「「「じゃあどうすんのよ!?」」」」」
「様子見するしかないんじゃ?」
様子を見るしかありませんよね?
他の泊まってたお客さんに霊障があったとかそんなにヤバいのがいるのならともかく、そんな話が出ていないんだし本当に肝試し感覚で様子見で。
休憩も終了して、今度は終わりまでメンバーを入れ替えながら紅白戦を行った。
レギュラーや1年、2年入り交じり、ポジションも関係なく交代させていくので、その時に誰かが仕切ってポジションを調整させる。
ゲームメイクを誰がするか、それに従って対応していけるか、試合中の急なメンバーチェンジにも対応出来るような練習だった。
私も普段はポイントガードだけど、シューティングガードやスモールフォワードもこなした。センターやパワーフォワードは身体の出来てる先輩に勝てなかったからすぐにチェンジさせられたけど。
みんな結構ハードな練習をして終わった。「出る」って話を忘れようとしてたみたい。でも、落ち着いたら思い出すんだよね。
荷物を片付けて掃除をしてから体育館を出る。
「さあ、帰りもランニングだ。先生は下りが多いんだからバテないで帰って来て下さいよ」
「うるさいよ」
「先生、放っておいて行くぞ」
「「「「「はい!」」」」」
行きと同様にランニングしながら宿泊施設に戻る。もう先生がいなくても帰れるから遅れ始めても無視することになってる。
走りながらキャプテンが宿泊施設の出るアレについて話し始める。
「服部と三条ってほんとに視えるんだよな?あそこってどうなんだ?」
「一応視えるし感じますよ。あの建物にはいるのは確かですね」
「ただ、そんなに強い霊はいないと思いますよ、少し恨んでる霊はいますけど」
「止めてくれぇぇ、本当にいるのかぁぁ」
「服部達はここの話を聞いた時になんとも思ってなかったみたいだけど、それは視えるから?」
「いえ、期末試験のテスト勉強してる時に咲良ちゃんに吐かせましたから、事前にネットで調べてきました」
流石にあまりひどいところだと先生に変更してもらわないと危ないしね。
それほど問題がなさそうだと思うからこのまま来ました。
「「「「「早く言ってよぉぉ」」」」」
「キャプテンは先生に聞いて知ってると思って」
「あの先公……もう服部と三条が頼りだからよろしくな、ご飯の件も」
「幽霊については100%の保証は出来ませんけど。ね、美亜ちゃん」
「うん、最善は尽くします。ご飯の方は全力で」
3年生の先輩達はご飯の件では気分が舞い上がってるけど、幽霊の件でかなり落とされちゃってる。なんというかご愁傷様。
なるべく大きな被害が出ないようにはするつもりなので合宿を楽しんで下さい。
### 続く ###




