第14話-1 女子バスケ部合宿奇譚1 1日目 いざ合宿へ
この物語は当然フィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
オカルトなどの内容についても、世間での通例の解釈でないこともありますのでご了承ください
ついに夏休みが始まった、高校1年生の夏休みが。
今日から2泊3日で女子バスケ部の合宿も始まる。ちょっと山の奥の方に入った湖のそばにある宿泊施設に泊まって、朝から夕方まで近所の体育館を借りて練習することになってるの。
合宿する辺りは標高の高い所なので気温も低く、夏場でも過ごしやすい所なんだって。暑い学校で練習するよりは全然いいよね。
それに咲良ちゃんに聞いて調べたら景色もいい所で、温泉も引かれてるとかで疲れが取れるとかって話。
楽しみだよね。
美亜ちゃんが朝早くうちに来て一緒に駅に行くことになってる。
「おはよ、英子。準備は出来てる?」
「もうちょっと待っててね。最後のケークサレを包んでまとめてるとこだから。中に入って待ってて」
「私も手伝うよ」
食事向けパウンドケーキって感じのケークサレを作って、今仕上がった分をカットしてアルミホイルに包んでバッグに詰め込んだ。昨日までに作っておいたパウンドケーキも一緒に。
バッグを持って美亜ちゃんと玄関に向かう。
玄関で靴を履いてると大ちゃんとパパとママが見送りに来た。
「英子、三条さん、気を付けて行ってらっしゃい」
「英子、美亜ちゃん、ケガしないように気を付けてね」
「駅まで見送りに行ってくる」
「おはようございます。英子ちゃん、三条さん、見送りに来たよ」
「直くん、おはよ。ありがとね。
パパ、ママ、行ってきます」
「行ってきます」
直くんがバッグの一つを持ってくれて、空いた手を繋いで歩き始めた。手を繋いで歩くと安心できるね。
美亜ちゃんは大ちゃんの横について一緒に歩いてる。手は握ってないけど2人とも顔が真っ赤になってる。
慣れさせるために手を握らせてみる?
駅前の待ち合わせ場所に着くとすでに何人か部員が来てた。
その中の何人かが私達に気付いたんだけど、私と直くんが手を繋いでるところを見てる。羨ましいって顔の人と落ち込んだ顔の人がいる。
よく見ると咲良ちゃんがもう来ていて、来てる人の確認をしてる。
「おはよ、咲良ちゃん」
「おはよう、咲良」
「おお、英子に美亜、おはよ。宮崎くんと大輝くんを連れてくるとはねぇ。まだ、諦めてたなかった子が泣いてるよ?」
「へ?そうなの?」
「「そうそう」」
見せびらかすつもりでいるわけじゃないけど、直くんは私の婚約者なんだから誰かにあげたりしないよ?
大ちゃんと直くんは離れた所に移動してこっちを見張ってくれてる。いくら女子ばっかりっていったってジャージ姿の子をナンパしはしないでしょ。
近くを通る人が離れた所で美亜ちゃんや咲良ちゃん、美人の先輩を見て行ったりはしたけど実際にナンパしには来なかった。人数も増えてたし、直くん達の監視の目もあったからね。
「まったく、英子は婚約者連れで来るとはね。部活なんだけどね」
「え〜、見送りに来てくれただけだよ?」
「彼氏のいない人や宮崎くんと大輝くんに憧れてる人からすると目の毒だよ!」
「そんなぁ〜」
話していると先生がようやくが来た。先生は流石にジャージは恥ずかしいのか、ラフで動きやすそうなパンツスタイルだった。
それを見た先輩達がブーイングの声を上げる。せっかくの夏休みだし、部活とはいえおしゃれな格好で決めたかったらしい。私はジャージでも全然問題ないんだけど。
「みんな揃ったな。体調の悪いやつはいないか?」
「大丈夫です!」
「これから電車に乗って、それからバスに乗り換えるからな。乗り遅れたら自分で宿泊施設まで来いよ。住所は部活のチャットに上げてあるから」
「「「「「「はい!」」」」」」
電車に乗って市街地から山の方へ進んで行く。トンネルには入らず河に沿って行ってるから、河の流れが徐々に狭くなり岩がゴロゴロ転がる清流へと変わっていってる。この辺なら鮎釣りが出来そうな感じ。
1時間と少し電車に揺られると乗り換えの駅に着いた。この辺りも結構涼しい。
駅前のコンビニで飲み物を追加するべく休憩を挟んで、乗り換えのバスが来るのを待ってた。
「英子、荷物が多いよね?何入ってんの?」
「調味料とパウンドケーキかな。スイーツじゃないケークサレ食べる?
お腹空いてるなら足しになると思うけど」
「じゃあもらうわ」
「「「「「何?何それ?」」」」」
この会話を聞いてた他の人達が集まって来た。
ケークサレ……野菜やベーコン、チーズなどが入った甘くないパウンドケーキって感じかな。
食事向けなので野菜等が入って、パウンドケーキより塩味が強めになってる。うちのはホットケーキミックスを使ってるからちょっと甘いけどね。
すでにカットしてあるからそれを1つずつ渡していく。それにすぐにかぶりつき、甘いパウンドケーキとの違いに味覚がバグったのかと目を丸くしてた。
今回はベーコンやかぼちゃ、ほうれん草が入ってる。かぼちゃの甘みもあるし塩も追加したから甘じょっぱいと思う。
「美味しいね。塩味があるから夏場にいいんじゃない?」
「惣菜パンとはまた違って生地がいいね。パンよりしっとりした感じだよね」
「美味しいなら良かったです。うちでもたまにしか作りませんから、次はいつになるか……」
「そんなにレアなのか。私もちょうだい」
「キャプテン、並んでくださいよぉ」
ケークサレも争奪戦になりそう。みんな朝ご飯ちゃんと食べてないのかな?朝ご飯はしっかり食べないといけないよ?
大体一切れずつ全員に行き渡ったけど好評だった。ただ、そんなに量があるわけじゃないから物足りないかもしれないけど。
「服部、今日も婚約者くんが一緒に来てたけど、こんな時間からお前の家に来るのか?」
「そうですね、日曜なんかでも朝ご飯食べに来たりしますよ。泊まっていく時もあるから、朝起きた時からいる時もあるし」
「泊まっていくの?」
「泊まっていきますよ。小さい頃からよくうちで預かってたから3人でお風呂に入ってたりしましたし」
「……もうほんとに家族なんだ」
そんな話をしてると乗り換えのバスが到着。顧問の先生が「早く乗れよ!」と声をかけてきたので、みんな荷物をがっと持ち上げてバスに駆けていった。
そこまで急がなくてもと思うんですが……
私は美亜ちゃんとほどほどに急いでバスに乗り込んだ。
しばらくするとバスが動きだし、住宅地から別の川沿いの道を走っていく。
この先に湖があってそこから流れ出る川なのかな?渓流といった感じで綺麗な風景が窓の外を流れている。
山の木々に猿がいるのが見えたり鳴き声が聞こえたりで自然豊かな感じがいい。
40分ほど走ると湖のそばのバス停に到着。みんな急いで降りて宿泊施設に向かって歩き始める。
湖のそばでしかも山の上の方にまで来たから結構気温が低い。直接日に当たるとちょっと暑いけど、日陰はかなり涼しい。
湖の表面も穏やかで今はほとんど波が立っていないから鏡みたいに近くの山が映ってる。
何がいるか分からないけど、ルアー釣りやフライフィッシングが出来そうなだよ。
「「「「「あああ~、きれいだね」」」」」
「ここで泳げないんですかね?先生」
「水温が低いから止めとけ。それにすぐに深くなるし滑るらしいからな。何かあっても入らないように」
「「「「「はい!」」」」」
そのまま歩いてちょっと大きな建物の前まで来た。ここがこれから泊まる宿泊施設だって。
建物は2階建ての和風旅館といった瓦屋根の建物で、庭もそんなに荒れていない。
潰れた旅館とは聞いてたけど、その割には見かけは綺麗。今でも普通に旅館をやっててもおかしくないくらい。
咲良ちゃんの情報から調べた限りでは心霊マニア向けの宿泊施設になってるみたいだからもっと荒れてるんだと思ったんだけどなぁ。
その分儲かってるから管理してるとこが掃除にお金をかけてるのかも。
ただ……綺麗なんだけどなぜか全体的に薄暗く感じる……気がする。
「美亜ちゃん、何か変だよね?」
「うん、いるかな。ちょっと恨みが強そうなのが」
『ああ、いるぞ。それでもそんなに悪い霊ではなさそうじゃがな』
「神ちゃん、そうなの?」
『悪いのがいたのなら、心霊好きがここに来て何も起きんということはないじゃろ』
「ならいいけどね」
これから2泊3日何が起こるのかな?
### 続く ###