6.可愛い妹ではあります!
美しい白銀も、儚い雰囲気も、どこか虚ろなその瞳も、あなただけの持っている、あなたの美しさだった。
その美しさが、どうしても欲しかった。
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誕生日から早数日。
そもそもアイリスが遊びに行かないよう説得しようかと思ったけれど、そんな仲でもないというか…。
アイリスは昔から、何故か私を敵視するような態度が多かった。
それはもう、会う度に何かイヤミを言われるし、新しいドレスはほぼ全てアイリスの手に渡ったし、宝石商の持ってくる宝石は全てアイリスが先に選んだ。
私が先に何かする、それだけで彼女の何かに触れるのだ。
そんな私が、なんの証拠もなく私の名前で夜遊びはやめてー!なんて言えるはずもない。
ということで、まずは今更ながらアイリスと仲を深めてみよう大作戦である。
夜遊びなんだから外に出るのは夜だろうし、よし夜に押しかけよう!
作戦なんてものもなく、単純脳で当たったもん勝負。
決めたらその日から決行だと、毎日、毎日アイリスの部屋へ押しかけた。
ある日はカードゲームを持って。
ある日はダンスの練習。
ある日はお気に入りの御本を十数冊。
ある日はこっそり懐に隠し持っていた甘いお菓子。
ある日はアイリスへお気に入りのアクセサリーをプレゼント。
こうしてアイリスとの仲を深めるために奮闘しつつ、なんとかアイリスが夜に屋敷から出るのを防ぎ続けた。
「アイリス?」
そしてまたある日の晩。
今日はアイリスとお気に入りのオルゴールを聞こうと意気揚々と歩き出す。
いつもよりアイリスの部屋へ向かうのが遅くなってしまったからと急いでいれば、マントを被った人がアイリスの部屋から出てくるでは無いか。
危ない危ない、私が来ないからって今から夜遊びに行くつもりだったな?なんて半分呆れながら、こんな時間にどうしたの?なんて白々しく声をかける。
しかしどうにも様子がおかしい。
アイリスが私をさほど好きじゃないことも、敵視していることも理解しているけれど、私の呼び掛けを無視したことは無いのだ。
全くどうしたものかと1歩近づいた時
「お姉様?」
背後からのアイリスの声に振り返る。
あぁなんだそんな所にいたのかなんて思って0.数秒。
アイリスに向けていた顔をもう一度マントに向けてみる。
どう考えてもアイリスと違う体格、大きさ。
侵入者…?
その言葉が頭をよぎった途端、アイリスの手を取ってとりあえず走る。
それ以外できることが思いつかなかったのが本音だ。
「お、お姉様?!なんですの?…というか、なんか着いてきてますけれど?!」
「えぇ、えぇ、分かってます!あなた一体部屋に何を連れ込んでいるの!?」
「なっ!なんてはしたない質問を!」
はしたないのはあんたでしょうが!!!大声で叫んでやりたい気持ちを飲み込んで、今は走るしかない。
ただ一つ言おう。
御屋敷でのほほんと重たいドレスを身にまとって生きている私たちが、男であろう相手から走って逃げるなど無理なのだ。
後ろから小さく聞こえたアイリスの悲鳴と、踏み出した足が前に進まなかったことから分かる、アイリスが捕まってまった。
もう咄嗟だった。
正直に言うと何も考えていなかった。
なんなら怖くって目も開いていなかった。
思わず、アイリスの手を握っていなかった手を振りあげて振り下げる。
ゴッッなんていう鈍い音と、男の声。
恐る恐る目を開けてみれば、捕まっていたはずのアイリスは私に抱きついているし、マントは床にころがっている。
伸びきった私の右手にはそこそこ重量のあるオルゴール。
「…あらぁ」
私に抱きつくアイリスのおおきな泣き声で、ようやく衛兵やら執事やらメイドがやってくる。
なぜこうなっているか、正直何も理解出来ていないけれど、この状態じゃ話せないだろうアイリスの背を撫でながら、屋敷の侵入者に追いかけられたことを伝えた。
アイリスがごめんなさいと謝っいるから、多分何か知っているんだろうけれど、私の胸の中で肩を震わせて泣くアイリスが、なんだかいつものおしゃまな彼女と違っていて、唐突な愛おしさにとりあえずいいや、なんて。
泣き止んだらじっくり聞いてやりますわ。
泣き疲れて私のネグリジェを掴んだまま眠るアイリスを撫でる。
こうして見ると、ただの可愛い妹なのだ。
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