20.声が届きません
嗅いだことのない香り
見たことのない色
感じたことのある憎悪
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石で無造作にできた段差を上がる。
ララはあれから何を考えたのか、何を感じたのか、あれ以上の詮索はなかった。
「出口だわ」
階段の上、段差がなくなり光が増えたそこを見て、好奇心と不安が混ざり合う。
緊張で痛む心臓を無視したくて、グッと掌を握りしめて、死ぬよりマシだと言い聞かせる。
ララと2人、出口を塞ぐ石をズラしてみる。
地下を歩いていたからか大きな光に見えたそこは、実際にはそれほど明るくなかった。
というか、
「暗いわね…」
「ここは昔からずっと暗いままです」
真っ暗なわけじゃない。
そりゃまだ夕方なんだから、暗いわけがない。
ないのに、夕方とは言えないほの暗さに寒気を覚える。
傾き始めていた太陽は分厚い雲によってどちらにあったかすら分からない。
地下を通ってきたから余計に、方角のひとつも分からないのだ。
大きな障害物が何処までも私たちを取り囲む。
肌寒さはここの不気味さからか、辺境に近いからか。
あの夢で流行った疫病は、まだ蔓延していないと思うのだけれど。
「お嬢様?…もう道はわかりましたし、帰りましょう?」
「どうして誰もいないの?」
私の少し後ろから声をかけるララの言葉を聞こえていないふりをしてそう問いかければ、少しの沈黙。
「…いますよ。気配を消して、あちらこちらから私たちを伺っているんです」
「そうなの。それじゃあ声をかけてくれるまでそこらへん歩きましょうか」
「えぇ?!ほ、ほんとに言ってるんですか?!お、お嬢様、帰りましょう?お嬢様のような方がいていい場所じゃ…!」
「そんなに大きな声を出さないの。…ここも、ヴァイオレッテの領地なんだから」
ほんの少し歩いただけで、霧のせいで入り口は見えなくなる。
肌寒さと、いわれてみれば感じる視線に身震いしたところで、誰かが前に立ちはだかる。
暗い髪の毛は黒ではない。
深くぼろ付いたフードを被り、首元の大きな襟元のせいで目元も口元も見えない。
背丈からは年齢は推定できない。
こちらを見ているのかどうかも分からない。
前に立たれては進むこともできないのだから、立ち止まる私の前に普段は絶対に主である私の前に立たないララが私をかばうように立つ。
何を考えているのか、何を見ているのか、じっと動かないその人から目を離せない。
引き込まれるような、そんな雰囲気のある相手をしばらく見つめていれば「おい」と声を掛けられる。
ララじゃない。
少し低くてどこか芯のある、冷たい声。
「そのまま振り返って出ていけ」
「あなたはここの人ですか?」
「無駄話はしない。早く出ていけ」
「お話がしたいの。ききたいことが…」
「そんな格好したって俺らにはわかる。ご貴族様が俺たちを馬鹿にでもしに来たか?」
話はできない。
はなからこちらの話を聞く気もない。
話そうとしたところで声すら届かない。
そうしてしまったのも、こんな風に思わせてしまったのも、私たちなのだ。
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