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完璧冷徹旦那様はもうイヤなんです!〜やり直し人生、次は死にたくありません!〜  作者: 星海 羽流
第2章.私に救えるものがあるならば…!
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14.絆されそうになります

あなたは私を苦しめる原因のひとつになった。

あなたは私から彼を奪うひとつになった。

あなたは私から何もかもを奪うひとつになった。






あちらこちらから聞こえる声。

どこを見ても笑っている人々。

空腹を刺激するいい香りや、花の香り。

清々しい天気の中、爽やかな風がつきぬける。



ここはクラウンド・ノストリーノのもっとも栄える中心街、クロット街。





「まずは何からしましょう!」





これまでならばアランお兄様の腕から離れなかったーというかそもそも私を外出に誘わなかったーアイリスが私と腕を組み歩き始める。



あの悪夢的な人生でも、再び16歳を始めてからも、人とこんなにもくっついて腕を組むことなんてなかったから、どこか不思議なような、違和感のあるような、それでもその温もりに安心してしまいそうな、複雑な気持ち。





「そんなに慌てては淑女らしくないわ、アイリス。

まずは何か食べましょう?」





家族で朝ごはんを食べてからはや5時間。

お昼は外で食べると言ったアイリスの宣言通り、家では昼食を食べていないため、3人ともそれなりにお腹がすいているはずだ。





「お昼は屋台にしたいんですの!3時のおやつは人気のカフェに行きましょうよ!」





にこやかに、子供らしい表情を見せるアイリスに、微笑んで、ただ分かったわと答える。

正直クロット街のことはよく分からないから、言われるがままに行動するのが身のためだ。



悪夢では私なんかに1度も見せたことのなかった無邪気な笑顔を輝かせながらアイリスが歩く。

あそこにどんな人がいるだとか、あそこの売り物がどうだとか、アイリスの話を聞きながら、私は頷き微笑み続ける。




あの日からアイリスの私への対応は180度変わった。

何がアイリスをそこまで変えたのか、正直分からない。

これがアイリスの演技じゃないとするならば、アイリスは気に食わなかった私の何を許せるようになったのだろう。

これがアイリスの秀逸で完璧な演技ならば、次は何が待っているのだろう。





「お姉様は好きな食べ物などございますの?」



「私?…うーん、どうでしょう。美味しい物はみんな好きだから」





それじゃあ私のオススメを紹介しますわ、楽しそうに輝いた瞳で私を見る。


キラキラとしたその視線が嫌いじゃない。



アランお兄様はさすが慣れてらっしゃるのか、私達の駆ける様子を見ながら着いてくる。




てりてりと輝くラム肉の串焼き、1口サイズのパン、ノストリーノの土で育つ顔くらい大きなじゃがいもをスライスして揚げたもの、瑞々しい野菜を炒めたもの。

ノストリーノらしく美味しいものを3人で分けながら沢山食べた。


初めてだった。

こんな風に美味しいと思ったものを分け合って、歩きながら、話しながら食事をする。

楽しかった。






「…それ、可愛らしいわね」



「え?!あ、そ、そうですわね!でも私はこんなチンケな…」





アクセサリーの売っている屋台。


私たちの普段つけているようなアクセサリーとは値段も質も違うのだろうけど、綺麗な石や宝石に見立てたビーズがバランスよく配置された可愛らしい輪っかをじっと見つめていたアイリス。


日々つけているものへの誇りからか、身分相応のものでないと思ったのか、アイリスが少し頬を染めて私の言葉を否定するのを無視して、私は店主に話しかける。



白色に淡い桃色。

太陽の光に反射する綺麗なそれを、アイリスの腕にかけた。





「…え」



「今日は貴族じゃないんでしょう?」





微笑んでそう答えれば、でも、と言葉を続けようとする。





「あなたは可愛いから、どんな物でも…そうね、道端に落ちてる石だって、あなたの元では宝石に見えるわ」





だから大丈夫、ブレスレットをひとなでして、アイリスに答えれば、少し恥ずかしそうに、「言い過ぎですわ!」なんて。



本音だもの。その言葉は飲み込んだ。

嫌に聞こえるだろうか。

妹に誕生日以外で送るプレゼントが高価な宝石でもなく、街の屋台のブレスレットだなんて、酷かっただろうか。

少しの後悔、後できちんとしたものを買ってあげよう。


そこまで考えてから思うのだ。

私は何もかも奪われたのに?


絆される。


あの時のことが本当に悪夢ならば、この人たちはあの時と違うのではないか。

そんな生易しい考えがよぎる。



いいえ、私が動かなければ、繰り返しは起きていた。


絆されては行けない。



ぐっと拳を握りしめた時、少し冷たくて固い手が、握りしめた私の手にそっと触れた。





「リリスは手のひらに爪を立てる癖でもあるのかな」



「…無意識でしたわ」





アランお兄様の声にハッとして手を離せば、ジーンと血の巡る温かさが手のひらに戻ってくる。



手袋が触れたから冷たく感じたのかとぼんやり考えていれば、お兄様は微笑んで、「昔からだよ」なんて苦く笑いながら自分のつけていた手袋をそっと私にはめた。






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