10.毎日お泊まり会です…
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妹、アイリス・ヴァイオレッテのやらかしから数週間。
アイリスの深夜の外出を防ぐため、夜更かしを連夜続けていたせいか疲れが溜まり、ようやく眠れるとベッドに倒れ込んだ数週間前。
毎晩私と遊ぶことに慣れてしまい、今度は何故か昔よりも距離感の近いアイリスが私の部屋へ夜中に押しかけるようになった。
「お姉様、今度一緒にお出かけ致しませんこと?」
「おでかけ?」
「えぇ!クロット街に行きたいんですの!」
最近は何故かどちらかの部屋で寝泊まりしている私たち。
今晩は私のふかふかお布団の中、うつ伏せになって上半身を起こし、子供のように足をパタパタとするアイリスの話を聞く。
今日は寝る前に髪を編み込んでもらったらしい。可愛らしいお下げがより幼く愛らしい雰囲気を醸し出す。
「クロット街…」
この子を見ているとその美貌から思考が止まるため、私はもぞもぞと仰向けになって天蓋を見つめる。
我が国、クラウンド・ノストリーノで最も栄えていると言っても過言ではない緑豊かで住宅と一緒になった中心街。
私達の暮らす邸宅から馬車で数十分。
冬以外の季節では、その時々に合わせた野菜や果物、屋台が立ち並び、若い女性から令嬢、男性たちにまで興味をひかせるアクセサリーや小物を販売するお店がずらりと並ぶ。
5方向に枝分かれする真っ直ぐな街路には、野菜や果物から防具や武器など様々扱う商店街路、テントを張りお手頃価格で食べ歩きができる屋台街路、平民から貴族まで予算に合わせて立ち並ぶブティック街路、いつだって賑やかな酒場街路、甘いスイーツが女性たちに人気なレストラン街路がある。
枝がたどり着く先の緑に囲まれた大きな中央の噴水広場は休憩場所や待ち合わせ場所として人々で賑わっている。
ノストリーノの貴族は基本、ブティックや宝石商は邸宅に招き入れるため、街へ降りることはあまりない。
そんな貴族たちまでお忍びで立ち寄るノストリーノ随一の街、クロット街。
「に、なんでまた?」
「ショッピングに理由なんていりませんのよお姉様」
フンスと鼻を鳴らすアイリスは、お姉様はもう少し御屋敷から出るべきですわと強く訴える。
暑い日差しは苦手で、これまでわざわざ外で遊びたいと思う友人もさほど居なかった。
幼い頃から仲良くしていたアルバーン公爵家のカナリヤ・アルバーンは、少々アイリスが苦手らしく、‘’友人関係を崩壊させられちゃあ困るわ‘’なんて言って、人前では仲の悪いふりをしているため、表立って仲良く遊ぶことは無い。
2人きりになれば、親友という言葉が軽く感じるほど仲良く過ごしていたけれど、あの悪夢では彼女も私から離れていったなと思い出す。
「2日後なんてどうかしらお姉様」
「えぇそうね。…え?」
「それじゃあ決まり!アランお兄様も誘って3人で行きましょうよ!」
「ちょ、っと待ってアイリス。違うの、」
そうじゃなくてと伝えようとする私を他所に、それじゃあ!なんて3秒ほどで寝息を立て始めたアイリスに項垂れる。
いいや、アイリスの話を半分以上流していた私が悪いわよね。
それに、クロット街…。
クロット街の路地裏はこの間夢で見た貧困街に繋がっていると聞いたことがある。
ノストリーノ王国の所々に存在する貧困街のひとつ、ヴァイオレッテ領地とノストリーノ最極寒の辺境に股がって存在するそこを救う。
私の生存のために必要かは正直分からないけれど、それが次の目標だ。
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