2−3 二回戦(1)
第3球技場近くでロジャー・ヘイスティングが待っていた。
そして第3球技場用のクラブハウスに連れて行かれる。
休憩室の一つを与えられ、武器を装備する。
制服の上着を脱ぎ、ベストとスカートの間に白帯を締める。
そして村正を鞘ごと帯に差す。
ここで今日やる事を整理する。
相手の攻撃を村正で防御し、
ヘイト・インジケーターを増やしながら相手への攻め方を考える。
ヘイト・スラッシュは多分斬り上げか斬り下ろし、
横薙ぎに斬る事があれば漣斬りの使用を考える。
相手が魔法師で遠距離攻撃主体なら無限手裏剣の装備を考える。
…ちょっと嫌だな。
ニンジャマスター(笑)と呼ばれる呪いの装備だ。
大体、手裏剣を使った場合、どうやってケリを付けるか…
最後はヘイト・スラッシュになるのだろうか。
騎士がノックの後に扉を開ける。
「時間です。」
そうして、第3球技場で私を待っていたのは、
小柄で大人しそうな顔をした女の子だった。1年?
「両者はそれぞれ魔法防御を施され、致命傷を受ける事はない。
但し、累積した傷と出血で死亡する事はあるが、
神聖魔法で蘇生する事は可能だ。
その場合はダメージの回復・再調整に数ヶ月時間がかかる可能性がある事を
覚えておく事。
両者、覚悟は決めたか!?」
「はい。」
「はい…」
私も今回は声が出たが、相手の女の子も小さい声ではっきり言った。
大人しいだけじゃないのだろう。
「それではここに魔術姫トーナメント2回戦を執り行う。
両者見合って…fight!」
間合いは20ft程で始まった。
相手の女の子は魔法行使を補助する杖を持っていたから、
ファーストショットは彼女が打つだろう。
私には確かめないといけない事があったから、
彼女に先に魔法を打たせたかった。
そう、村正の自動防御は魔法攻撃にどの程度効果があるのか、
という問題があったのだ。
距離もあるし彼女の声が小さいから呪文は殆ど聞こえなかったが、
杖の前に水球が出たので
彼女が最初に選んだのがウォーターボールだと分かった。
正眼に構えた村正が、直立したそうに動いた。
右手だけで村正を掴み、直立した村正の刃先と逆側の棟に左手を当てて
防御時に吹き飛ばされるのを防ごうとする。
村正の刃先を飛んでくるウォーターボールにぶつける様に調整した。
村正の近くに飛んできたウォーターボールは、
見えない壁にぶつかったように四散した。
うん、必ずしも刃先を魔法にぶつける必要はなさそうだ。
彼女は続けてウォーターボールを打ってくる。
飛んでくる魔法生成物に村正を向ければ、
村正の刃先付近にあると思われる不可視の防御障壁にぶつかって
弾ける様だ。
彼女は一定間隔、つまり呪文の長さだけタイムラグを開けて
ウォーターボールを打ってくる。
懲りないなぁ…
これ、前進して良いかな?
盾の様に村正を正面に立てて、
少しずつ彼女に近づく。
焦った顔をした彼女は詠唱速度を速めて魔法を打ってくる。
ウォーターボールを。
最初の頃と比べて半分の時間でウォーターボールを打ってくる。
凄いぞ、この娘。
私より魔法の才能あるよ、絶対。
と、余裕のある事を考えられるのは、
打ってくるのが所詮はウォーターボールだからである。
当たってもそんなに痛くないし。
そういう訳で段々と前進し、
10ftに近づいた時に彼女の攻撃が変わった。
小さい唇がむにゅむにゅ、と動くと、
縦長の水の固まりが私に向けて生成された。
え、もうウォーターランスが使えるの!?
5ftに伸びた水の固まりが前進…しようとして弾けた。
私の足とスカートに水がかかったよ。
びっくりしたけど、破壊力は無かった。
スカートが濡れる被害があったけど。
むにゅむにゅ。
もう一度彼女は細長い水の固まりを生成した。
そして、今度も進まずに弾けた。
また足とスカートが濡れた。
何の嫌がらせ?水をかけるのが目的!?
もっと近づこうとして気付いた。
足元をぬかるみにするのが目的なんだ!
水たまりが出来て滑りやすくなっているし、
何度も前進・後退を繰り返せば足元がぬかるんでくる。
結構、策士だ、この娘。
何も考えずに突っ込むと何が出てくるか分からない。
後退して相手の様子を見る事にする。
また、のんびりした詠唱でウォーターボールを打ってくる。
ウォーターボールは威力は無いが牽制にはなるし、
多分、こちらの足元を濡らせて動きにくくするのが目的だ。
しかもウォーターボールは魔力の消耗が少ない。
入学したてで1年後半の魔法がもう使える優秀な彼女なら、
2人の間に水たまりを作っても余裕で他の魔法が使えるのではないか。
憶測だけど。
この間合いでは他の手を晒すつもりはなさそうだ。
水が散乱している前面を迂回して接近しよう。
サイドステップして小走りに近づく。
ウォーターランスを予想して近づこうとするが、
今度は地面の水を利用してウェーブの魔法で私の側面を叩こうとする。
水量が少ないから村正で防御出来るが、
なるほど水をばら撒く訳だ。
村正の魔法防御はウェーブに向けたまま、
横を向き彼女に右回し蹴りをしようとするが、
格闘系の技を察した彼女はすすっと後ずさった。
…何というか、普通の女の子の身のこなしで、
特別何かと戦い慣れたという感じではない。
それでも避けられてしまうのは…
悲しいかな、私も普通の女の子の身のこなしなので、
先が読めるのだ。
ただし、後退した彼女の周囲に水は無い。
だから前進して今度こそ村正で斬りつけようとするが、
「…ウォーターウォール」
小声で彼女が呟いていた呪文は、
水壁を作るウォーターウォールだった。
ちょっと待て!
10ftの高さと幅って何!?
1年上期の魔法能力じゃないでしょ?
これを迂回して接近して良いの?
彼女の周囲に水を撒かれたら、
それを利用したウェーブによる横撃を受ける。
本気の突進までサイドアタックは避けた方が良い。
出ないと全周水を撒かれて前進出来なくなる。
だから、逆に水を撒かれた方に足を踏み入れ、
突進する。
彼女も、もう偽装の必要は無いと考えたのか、
本気のウォーターランスを打ってくる。
村正の防御壁で防ぐが…
さっきの3倍の水量のウォーターランスを
ずっと速度を上げて打ってきた。
村正を握る手に圧力を感じる。
くそう…相手はまだきっと次の手が残っている。
大人しそうな顔をしているが、
一回戦を勝ち抜いた水魔法の実力は本物だ。
村正の無い素の私だったらあっと言う間に溺れてしまう程、
魔法の実力の差は離れている…
魔法戦。
でも片方は剣士(素人)。
普通に考えれば一方的ですが。
せめてもの救いは、
二回戦くらいまでは1年生同士の戦いという事。