↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/43

8−3 決勝戦(1)

 土曜の試合は午後からで、午前中の授業は休みになった。

朝食の席で両親は一言も喋らなかった。

或いは何かを感じていたのかもしれない。

それでも、娘がファイナリストだと誰かに知られるのは

娘に対する死刑判決に等しいから、

黙っていてくれるのかもしれない。


 昼前に出かける私に、父は二人の護衛を付けてくれた。

次に顔を合わせる時、

一度撲殺された後に蘇生した私は別人になっているかもしれないから、

これが親として最後の情けなのかもしれない。


 学院内スタジアムの控室に向かう。

同じ1年同士の対戦だが、私は今回も青のベンチだ。

つまり、運営までも私に期待していない。

忍者装束に着替え、帯に村正を差す。

「時間です。」

呼び出しの騎士に従い、

青ベンチを出てスタジアムの中央に向かう。

向かいの赤ベンチから歩いてくる人物は、

赤いミニスカートのドレスを着ていた。

その下に赤いストッキングらしきものを履いていた。

え、この世界は中世風だけど、ナイロンがあるんだ?

ああ、そうか、むかしはシルクのストッキングだったのか。

そして頭には顔面上半分を隠すベールをしていた。

赤ゴスロリ女…転生者としか思えない。

口の端を微妙に上げて笑みを浮かべている様に見える。

そいつの持つ武器は石斧では無かった。

巨大なモンキーレンチだった。

3ft弱もあるモンキーを女子高生が持てるとは思えない。

そいつの腕はドレスの袖に包まれてなお細く見えるのだ。

そんな細腕でその質量を持てるとしたら…

チートの元々の意味である『インチキ』しかあり得ない。

それを言ったら私の相棒である村正もインチキ級の武器なのだが。


 スタジアムの中央には3人の騎士が立っており、

大きなメガホンを持つ一人が大声で告げる。

「青の選手!サムライ・プリンセス!」

それはスタジアムの観客に選手の紹介をする言葉だったが、

今の私には死者の名前を告げている様に感じた。

「赤の選手!アン・パットナム!」

もうバレているのに本名を名乗らないところに

むしろこちらの名前がそいつの本質を表していると思われた。

メガホンが告げる。

「国王陛下・王妃陛下・殿下のご入場です!

 全員、ご起立をお願いします!」

天幕を張った観覧席に高貴な方々が現れる。

この胸糞トーナメントを行う権力者達だ。

顔だけ敬意を表するが、腹の中では侮蔑しかない。

「全員、ご着席をお願いします!」

全員が着席して、いつもの説明がされる。


「両者はそれぞれ魔法防御を施され、致命傷を受ける事はない。

 但し、蓄積した傷と出血で死亡する事はあるが、

 神聖魔法で蘇生する事は可能だ。

 その場合はダメージの回復・再調整に数ヶ月時間がかかる可能性がある事を

 覚えておく事。

 両者、覚悟は決めたか!?」

「はい。」

「はいよ。」

そいつの返事に覚悟は感じられなかった。

学生が教師にふざけて答えている様な感じだった。

ここで両者は20ft離れた待機線の前に移動した。

「それではここに魔術姫トーナメント 決勝戦を行う。

 両者見合って…fight!」


 最初、そいつは一歩も動かなかった。

私は半歩ずつ近づいていった。

準決勝同様、そいつが魔法を使う兆候は無かった。

そいつはにやにやと笑いながら私が近づくのを待っていた。

余裕と言えば余裕なのだろうが…

やはりインチキの匂いがした。

魔法絶対防御などの特殊機能を持つのか、

物理防御も含むものなのか…

私にもそろそろ村正の間合いというのが分かってきた。

だから、あと半歩で刃が届くというところで一度止まった。

そいつは相変わらずにやにや笑いを続けていた。

そんな顔はさておき、一度、相手のスイングを見たいと思った。

だから、村正を振らないでその間合いより近づいた。

そいつは動かなかったが、

そこで私が静止しつづけると

ため息をつき、

モンキーレンチを右から左に振った。

予備動作がなく最大速度になったと思うくらい、

いきなり動いた。

モータの様に初速と終速が変わらなかった。

それでもシンディさんの青龍偃月刀に比べれば十分遅かった。

だからバックステップで避けられた。

その威力が起こすヘイト値はあまり高くなく、

シンディさんに比べればインジケータの増加量は少なかった。

思ったより威力が小さい?

あのサイズのモンキーで叩かれれば間違いなく骨折するのに?

あのモンキーの硬さを確かめる必要がありそうだ。

もう一度先ほどの距離に立ち止まる。

ベールの下の眼差しが苛立ちを示した。

相手の振り始めに合わせてバックステップし、

村正の切っ先でモンキーを舐めるように薙ぎを放つ。

金属を削る様な音がしたが、

前回のデヴォンシャー家の盾の様な紫電は発生しなかった。

つまり、モンキーに防御魔法の機能は無い。

あの赤ゴスロリに防御能力があると?

一度バックステップで仕切り直しの後、

再度同じ間合いに立ち止まる。

軽侮の表情で薄ら笑いを浮かべたそいつが

またモンキーをスイングする。

村正をモンキーの軌道の上に移動させ、

奴の右袖を舐める様に斬るが…

刀が通らない!

押し戻された村正から強い摩擦を感じながら振り下ろす。

奴の袖は切れていなかった。

そして、ヘイトインジケータはモンキーのスイング分しか増えなかった。

つまり、奴の服に対する攻撃は、

攻撃とみなされなかった。

ヘイトインジケータは互いの攻撃・防御に反応して増えるのだ。

物理攻撃無効化!?

いや、前回は魔法も無効化したんだろう。

つまり、あの服または本人に物理・魔法無効化の機能がある。

…それって負け様がないじゃないか。

運営の赤ベンチ扱いと良い、

このトーナメントは最初から勝者が決められていたのではないか!?

出来レース、正に生贄の255人…

畜生…

エイプリルも、ドミニクさんも、シンディさんも、

そしてクレアお姉ちゃんも、

皆、未来の王妃に箔を付ける為の生贄だったなんて…

……

………

せめて、意地を見せよう。

あのモンキーは攻撃可能だ。

あれだけでも何とか削ってみせよう。

ヘイトインジケータが一杯になるまでは頑張るんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。