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1−2 トーナメントの内容

 入学式はまともなものだった。少なくとも乱入バトルは無かった。

知り合ったエイプリルの話を聞くと、東の地方の男爵令嬢だった。

私は北の領地を持つ子爵家の娘で、王都と北部しか知らなかったから

東の外れの魔獣の話が恐ろしかった。

辺境は魔獣退治に労力を取られる様で、

農業生産の人手の確保との両立が難しいとの事だった。

そんな話をして互いの侍女を侍らしながら途中まで一緒に帰った。

この王都では治安が良いし、学院は貴族街に接していたから、

送り迎えに侍女が来るものの、

馬車での送り迎えは王家と公爵家以外は遠慮するのが普通だった。


 夕食の席で3年の姉に魔術姫トーナメントについて尋ねてみた。

「ねぇ、お姉ちゃん、

 今朝、入学式前に急に喧嘩みたいな事を始めた人達がいて、

 近くにいた人が言うには魔術姫トーナメントっていうらしいんだけど、

 知ってる?」

姉どころか両親まで笑っている。

「イブは何も知らないんだな。」

親が教えなければ、普通そんな事知らないよ。

姉は説明してくれた。

「王太子が2年の時に、

 公正を期す為に監視の下に女生徒を対決させるのよ。

 女生徒256人をトーナメント方式で戦わせ、

 それで勝ち残った女生徒を王太子の婚約者にするというのが、

 ここ200年の王太子の婚約者の正式な決定方法なのよ。」

「それは公正なの?

 腕力勝負でしょ?」

「今日は魔法を使って無かった?」

「最後に強化魔法を使ったらしいけど、

 基本は錫杖で殴って倒しただけ。」

ここで父親が口を挟んだ。

「錫杖で倒したって事はボーレット家のご令嬢かな。

 四強の一角なんだ。」

「四強?」

「そう。

 デヴォンシャー公爵家の令嬢、

 レノックス公爵家の令嬢、

 ボーフォート侯爵家の令嬢、

 そしてボーレット侯爵家の令嬢が王太子妃に最も近いと言われているんだ。」

「出場者は全員決まっているの?」

「もう決まってはいるだろうけど、

 出場者である事を明かしてしまうと、

 公爵家や侯爵家の寄子の出場者に露払いされてしまうから、

 殆どの出場者は名を明かさないよ。

 四強以外では8伯が参加を噂されているけど、

 四強程の強さはないと言われているんだ。

 彼女達を含め、公開で戦ってしまうと戦法を知られて倒されてしまうから

 普通は参加を明かさないね。

 ちなみに参加者は現役女生徒の希望者の中で身元に問題のない者と

 王家側が現役女生徒の中から選んだ者になる。」

「でも、試合をしたら分かってしまうでしょ?」

「だから、本命以外が不利にならない様に、

 週末まで勝負をしなければ、

 秘密の会場で騎士の立会だけで勝負が出来るんだよ。

 組み合わせは大会運営側が決めるのだけれど。

 そうすると二つ名だけトーナメント表に書かれるんだ。」

「トーナメント表?

 どこかに貼ってあるの?」

ここで姉が口を挟んだ。

「大講堂に貼ってあるの。

 毎日早朝に昨日までの試合結果を書き込んでいるわ。」

「ところで、負けた人はどうするの?

 学院に顔を出しにくい気がするんだけど。」

「敗者の殆どは病院に入院するから、

 実質休学ね。」

ひぃ、と思わず声が出た。

「学生同士なんでしょ!?入院するほど傷つけるの!?」

「一つは王太子妃の椅子がかかっている事、

 もう一つは貴族同士の繋がりもあるから、

 多少傷ついても試合を続行するし、

 無理して少しでも勝者を傷つけようとするのよ。」

「そんな…」

父親が声をかけてくる。

「イブは優しいな。

 でも、時には相手を叩き潰さないと、

 報復される恐れがある。

 貴族同士の争いは厳しいものがあるんだよ。」

ええええ、それで良いの?

逆に禍根を残すと思うんだけど…


 と言うことで、多少は情報が手に入った。

前世の記憶が薄く思い出されるまで、

この家族が私の全てだった。

前世の記憶はもう曖昧だ。15年も現世で生きてきたのだから当然だ。

前世の名前は水無月 瑤、大卒で大企業の子会社に入社して2年目だった筈…

ゲームなんてスマホゲームも含めてやった事がなかった。

むしろ緩い異世界恋愛小説を読むのが好きだったから。


 部屋に戻ってやるべき事をやらないと。

仮想コンソールを出して情報が欲しいのだけど…

アレを言わなきゃ駄目かな…

意を決して言ってみる。

「ステータス・オープン!」

しーん。

何も出ません。

せっかく恥ずかしい気持ちを振り切って言ってみたのに!

仮想コンソール…

胸の前に現れたよね…

その辺で右の人差し指で右スライド、左スライド、上スライド、下スライドなど

ジェスチャーをしてみるが、何も起こらない…

人差し指と親指で斜めに広げる動作をする。

出た!

ステータス・ウィンドだ。

「魔術姫は僕の花嫁part2

 プレイヤー名:イブ・バークリー

 左腕装備:なし 

 右腕装備:なし

 服装備 :なし

 収納  :村正lv1

      無限手裏剣lv1

      忍者装束lv1」

ちょっと待て!

私のステータスはないの!?

…VRゲームだからか。

本人の素の体力が勝負なんだ…

前世は部活動なし、現世も令嬢としてダンスの練習くらいしかしてない…

絶望的じゃないか…

別に王妃になりたくなんかないけど、

大怪我しない程度の負けで済ましたいんだけど…

ゴロゴロ地面を転がって気絶する自分を想像する…

仕方がない。

道具任せだ。

道具の説明を読む。

「村正lv1

 特殊機能:自動防御

      ヘイト値を満たすと特殊攻撃が出来る

      lv1:ダッシュ斬り」

自動防御はありがたいけど…特殊攻撃はダッシュ斬りか…

斬撃を飛ばしてくれると良かったんだけど。

「無限手裏剣lv1

 特殊機能:無限に手裏剣を投げられる」

それだけ!?素人が投げても当たんないよ普通!

ダーツ舐めんなよ(関係ない)。

「忍者装束lv1

 特殊機能:防御+5」

+5って何!?

素の防御値が私の筋肉なんだよ!?実質ほぼゼロなんだよ!?

しかも忍者装束なんて着て対戦したら、

一生「忍者かぶれ」「ニンジャマスター(笑)」って

言われ続けるんだよ!?

絶対ヤダよ!!!


 つまり、村正一本で戦う事が決定した。

仮想コンソールの中で村正を右の人差し指で右腕装備の場所に

ドラッグアンドドロップする。

足元に白帯と鞘に収まった日本刀が現れる。

…装備されるんじゃないのか!!!!

帯を腰に巻く。そこに鞘を差し込む。

左手で鞘を掴み、親指で鍔を少しだけ押し出す…

右手で抜いてみる。

長い剣だが反りがあるので何とか抜ける。

剣道の素振りって何かで見た事がある…

それを真似てみる。

ベースボールグリップで握れば良いよね?

右手を上、左手を右手の下に添えて剣を握る。

左足を前に、右足を後ろに、

前に踏み込んで上から下に剣を振り下ろす。

右足に体重を戻して体を後ろに戻しながら剣を振り上げる。

それを何度か繰り返す…

重さをあまり感じない。

ゲーム装備だからね。

ステップは分からないけど、野球のバッターみたいに横に振ってみる…

右バッターのベースボールグリップだから、右から前に振るのはスムースに行くが、

左から右に振るのは何だか力が入らない…

途中で握り直すとか無理だから、基本は上から切り下ろすか右から前に薙ぐかだ。

攻撃方向まで決まってしまった。

悲しくなってきた。

せめて魔法の杖で10種類くらい攻撃と防御の魔法が使えれば、

そんなに酷い負け方はしないだろうに…

さすが妖刀・村正だ。

持ち手を呪ってくれる。

…そうして、週末がやって来た。

 村正が呪ってる訳ではなく、

本人が無力なだけですね。


8/17 トーナメントの説明を少し追記しました。

8/28 4強→四強と直しました。

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