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よっしゃー、今夜の試合は盛り上がるぜー

作者: 浅賀ソルト

 今度の試合はギリシャってことで俺は気合いを入れていた。友達のグルギッチに誘われて長距離遠征することになったのだ。

「盛り上がるだろうなー。楽しみだなー」と無邪気にわくわくしていた。

 グルギッチが、「盛り上がるぞー。すげえぞー」と応えていた。

 俺はグルギッチとノリが違うことに気づいていながら、気づいていないフリをしていた。

 全体の集合時間、集合場所の前に、近所でグルギッチやその仲間たちと集合したとき、ちょっと気づいていた。全員がユニフォームを着ているのはサポーターっぽいのだが、靴がゴツく、頭や顔を守ったり覆うための道具を持っていた。両手の得物も、鳴り物やタオルだけでなく、発煙筒や花火、さらにはただの角材のようなものまであった。

 自分がナショナルユニフォームにタオル、靴もただのスニーカーというのとえらい違いだ。

 そこの8人の中で——全員男である。サポーターなんてそんなものだ——一番背が高くゴツい男が、「あれ、グルギッチ、ちゃんと説明しなかったのか?」と言った。

「いや、説明したつもりでしたけどね」

「まあ、しょうがないから、お前のものを貸してやれよ」

「はい」

「じゃあ、行くか」

 というわけで俺を含む9人が車に乗り込んだ。車というのがまた営業車どころではなく、ミニバスで、頑張れば20人くらいは乗れる代物だった。

 車に乗るときにみんなが次々に「うぃーい」などと歓声を上げた。何人かは酒を飲んでいて既に出来上がっているようだった。

 ちょっと過激なサポーターとそもそも騒動を起こすのが目的となっていてサッカーなどどうでもいいフーリガンとの区別はつけにくい。最近は取り締まりが厳しいので一目で分かるような特徴はしていない。普通のサッカーファンと同じ格好をしている。待ち合わせ場所でもミニバスの中でも、みんなと会話して自己紹介しても、一応、サッカーの話では通じたし、まったく興味ないというわけではなさそうだ。

 サッカーの話ができればなんとかなる。

 とはいえ、移動しつつミニバスであとからピックアップされて増えていくグループを見ても、サッカーという感じではなかった。

『あの試合は楽しかったな』の意味がちょっと違うのだ。

 まあとにかく最終的にほぼほぼ満員となりながらも酒を飲みながらアンセム歌いつつ車内で盛り上がってくると楽しいことは楽しい。この世にこれより楽しいことがあるのかってくらいだ。クロアチアに栄光あれ!

 道を移動していると、周りに似たような大型車が増えてきた。運転手はしきりに携帯で何か話していて——完全に前方から目を離してチャットの文字を見ていることもあった——あちこちと経路上で集合の相談をしているようだった。

 隣の車から身を乗り出した連中が「うぃーい」と手を振ってきた。手に酒瓶を持っている。

 俺は同じく酒瓶を持ち、窓から身を出して「うぃーい」とやった。

 隣の車は全員が窓から手を出した。足も一本出ていた。さらに歓声をあげた。

 俺達もそっち側の窓から全員が顔を出して歓声をあげた。

 前後の車の人間も顔を出して叫び声をあげた。顔に受ける風が気持ちよかった。

 俺達はそれから定期的に歓声をあげあった。

 どちらかが急いでいるなんてことはなく、どこまでも一緒に走り続けた。目的は一緒だった。

 誰かが大麻ももってきてたので、酒と大麻をきめて俺達一団はギリシャへと向かった。

 国境に来た。

 俺は気づかなかったが、運転手や一部の人間は国境では緊張していたようだ。検問で停められたときに強行突破するためにトラックや大型バスを先頭にさりげなく集めていた。しかしどうやら何事もなく入国できた。

 俺はもう上機嫌で、「来たぜギリシャ~」と騒いでいた。

 ふぅ~。うえーい。

 近くの車でテンションの上がった奴がもう発煙筒をたいていたが、ベテランに車を停められていた。すぐに通りすぎたのでその後がどうなったかは分からない。

 俺は、発煙筒くらいいいじゃねえかと思わなくもなかった。こんなときなんだし。

「ロブリッチ、お前にも花火渡しとくわ」友達のグルギッチがそう言って自分のバッグからいくつか打ち上げ花火を取り出して渡してきた。「今日は盛り上がろうぜ」

 俺はそれを受け取り自分のバッグに入れつつ、「ああ!」と言った。

「あとこれも渡しとく」小型のナイフだった。「ギリシャの奴らにもやべーのがいるからな。念の為だ」

「え、マジなのか?」

「ああ、俺は2本もってるからな」グルリッチはそう言ってもっとでかいナイフを取り出して見せた。「前もやばかったんだ。お前は無防備だろうと思って予備ももってきた」

「そうだったのか。サンキュー」俺はケースに入った小型ナイフも自分のバッグに入れた。そして俺は窓から手を出すと車体をばんばんと叩いた。「よっしゃー、行くぜー」


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