或る勇者一行の憂鬱
「……勇者。ついに資金が底をつきました」
白いローブ姿の女が財布らしき空袋を逆さに振っている。当然のように中からは何も出てこない。鎧に身を包んだ騎士は叫ぶ。
「バカなっ! あれほどあった旅の資金がこんなに早く底をつくはずがない!」
「事実です。受け入れて資金調達の策でも考えてください」
白いローブ姿の女、このパーティでヒーラーの役目を一手に担っている彼女は、ヒーラーらしからぬ冷やかさで勇者を突き離した。勇者はがくりとひざを突く。
「金貸しから借りるのは、どうだ?」
「貴方の名前が明記されたブラックリストが商人ネットワークに流れてしまっているので限りなく不可能ですね」
「どうしろって言うんだ……」
勇者の目には闇しか映らず、希望のきの字も見えない。うなだれる勇者の肩を今まで口を開かなかった黒ローブの女、いや少女がポンポンと優しく叩いた。
「頑張って稼ぐんだよー?」
勇者は立ち上がって激昂する。
「てめぇっ! 良くもぬけぬけと! お前が勝手に買ってた龍の瞳、幾らしたと思ってるんだ!!」
「えー、知らないよー。ていうよりボクに感謝すべきでしょー? 勇者を何度死体になるのを防いだことかー?」
「ぐっ!? しかしなぁ、最悪『生命の泉の水』でも俺の死は防げたろう!」
ちなみに生命の泉の水とは、人間の治癒力と治癒速度を限界以上まで高める至上の霊薬である。ただし、デメリットとして寿命が縮むと言われているため意外と安価である。
黒ローブの女、魔女はきゃー、と間延びした悲鳴を上げて今まで沈黙を守っていた騎士姿の女の背に隠れた。
「助けて~」
「あの、勇者。弱いものいじめは、良くないと、思う」
「ちげぇ! 俺は金のありがたみを分かっていないそいつに説教をだな」
女騎士は俯いた。
「ごめん、勇者。わたしが、あなたをちゃんと、守れないことに問題が、ある。お仕置きならわたしに……」
女騎士は前髪の間から縋るような視線を送る。しかし、何故か頬が赤らんでいた。
「てめぇMじゃねぇか! 何を期待してやがる!!」
「……お仕置き」
「ねだってんじゃねぇよ!? もーいい! てめぇらのことは放置だ!」
「らっきー。お咎めなしだー」
「うぅ……。放置なんて、ヒドい」
魔女は浮かれ、女騎士は落ち込む。見事に対照な二人だ。
「勇者。人を責めてばかりいますけれど、最も反省すべきは貴方なのですよ」
「は? 俺?」
ヒーラーは人差し指を立てて勇者ににじり寄る。勇者はその迫力に負けて後じさった。
「貴方が補給担当の子を適当に選ぶから、物資を例え割高でも現地で仕入れざるをえなくなったんですよ!?」
「それは……」
「勇者様~、大変ですぅ~」
ててて、とトロそうな金髪の少女がかけてきて、
「へぅ!?」
勇者の目の前で見事に転んだ。
「えぅ、ひっく。また干し肉腐らせてしまいましたぁ~」
勇者は深くため息をついた。
「……すまん。冒険者ギルドに行って仕事探してくる」
「……私はこの子に説教しておきます」
ということで、勇者はギルドに職探しに、ヒーラーはメンバーの統制を図るのだった。
勇者の超短編シリーズ第一弾(続くかどうかは分からない)! いかがでしたでしょうか。
今回は……キャラの書きわけの研究ですね。それぞれの登場人物にそれぞれ全く違うキャラを当てたんですが、どうだったでしょうか?
一応、続編も考えちゃいますが、これは反響次第ですね。というわけで、感想や評価募集していまーす




