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SPECIA  作者: うらら
3章 侵略者との邂逅
9/25

episode3-2

「……全員揃ったな」

 当日、ルカに聞かれて、五人が頷く。俺とリサ以外はそれぞれ装備をしていて、俺達もルカに連れられて装備のやり方を教えてもらった。

 応急処置用の道具、リサは銃弾、例のバッヂ型の通信機器、そしてそれぞれの武器。思っていたよりも身軽で、俺は驚いた。

「これだけでいいの?」

「盾とかそういうのはまた別で持っていくしな。訓練着に着替えろ。ああ、あと防弾チョッキも忘れないで着用してよ」

 防弾チョッキでなにか防げるのか?と俺が訝しむと、「少なくとも防御ABがかけられてるから、付けてるだけでもちょっとはマシなはずよ」とリサが言った。おれはふと思い出したことを尋ねる。

「そういえば、リサは他の人のABとかが見えるの?」

「ああ……一応ね。物にかかってるのとかもわかるよ。AB量が多いからかもだけど、何となくわかるんだよね」

 そういえばハコも同じようなことを言っていた……と思い出して、ハコに聞く。

「ハコ! お前、見えるんだろ! じゃあリサのAB量もわかって……」

「分かってたよ。でもお前に伝えるメリット別にないかと思ってな。リサも隠したがってたし」

「んまぁ結果的にバレちゃったんだけどね」

 ハコのことはもうリサも見える。俺は気になっていたことを聞く。

「じゃあ俺のAB量とかもわかるの? ハコの力のせいでまだ正確なのはわかってないんだ」

「……わかるけど」

「AB量の数値を測定する時、自分の手から出力するから、その日のコンディションとかでもAB量は左右されるんだろ? なら、もしかしたら俺も扱いかたが下手なだけで800とか……」

「……ないわね。まぁでも確かにあなたの言う通り、『今のあなた』が出せる数値よりも『昔のあなた』が出していた数値よりも、今私が見てる量の方が高いと思うわよ」

 分かりやすく言うとねー、とリサ。

「『培われた実力や才能』と『本番で出せる力』っていうのは違うって話。100の力を持っているとしても、緊張したら80ぐらいしか出せないし、逆に波に乗っていると120ぐらい出せることもあるでしょ? そういうこと。私が見てるのは『本来持っている力』のほう」

「! ってことは本来は俺にはもっと力が……?」

「とはいっても平均ぐらいだけどね。今のあなたは初心者だし、昔のあなたは下手くそだったから、まぁそんなもんかなって感じ」

「……500位ってことか?」

「大体ね。具体的に数値として見えるわけじゃないけど……。まぁAB量は努力で増えることもあるし、そもそも今から実力を上げたらそのぐらい……500ぐらいなら、すぐに『本番での力』として出力出来ると思う」

 500……少し希望が見える。全力が350ぐらいかと思っていた俺には朗報だ。もしかしたら、ハコの力を使わずとも……いやそれは無理か……。

 そしてまたふと疑問が湧いた。……どうして『ジン』はそんなにABを扱うのが下手だったのだろうか……。

「早く着替えろ!」というルカの怒号を受け、防弾チョッキを急いで着用した。訓練着はジャージのようだが、しなやかで破れにくい。戦いに向きの服なのだろう。

 俺やリサが着替えると、ルカが「よし、じゃあワープポイントに行くからな」と言って歩き始める。みんなは特に疑問を持っていないようなのだが、俺は困惑して、前にいたアリア先輩に質問した。

「ワープポイントってなんですか?」

「ああ。私たちは今中心都市都市付近にある『特殊学校』にいるでしょう? でも、そこから『外側』に近いところまで移動しなきゃいけないんだけど、それだとコストも時間も無駄にかかるじゃない。だから、『外側』近くの『軍本部』っていう所までここから飛ばしてもらうの」

「そんな技術まで発展してるんですか……」

「勿論テクノロジーの力もあるんだけど……これは、ABの再利用って方が近いかな。訓練室の仮想敵に排出されたABを再利用して、移動するエネルギーにしている……らしいよ」

 ABという超常現象的なものから高度なテクノロジーまでが共存しているのはなんだか不思議な感覚にさせられる。どちらを、というわけではなくどちらも採用しているのか。

「あと、ここから中心都市……分かる? あの超デカいビルのことね……へのワープポイントもあるわよ。警備が厳しいから、選抜隊が使えるところだけにね」

「! そ、それって俺たちが使っちゃだめなんですか?!」

 中心都市へ行く手がかりが掴めた気がして、アリア先輩にそう食い気味で聞いたが、アリアはいやいや、と言った。

「そう簡単には本部には行けないのよ〜……でもまぁ、合法的に行く手段は幾つかあるわ」

「それって……?」

「まず一個目。これが現実的かな。『侵略者を一体でも倒すこと』。自分の力でやったことが認められれば……つまり、その『侵略者』を倒したMVPだと認められれば、中心都市に行って本部に報告しなきゃいけないの」

「本部?」

「さっきの軍本部は『外側』の近くにあるって言ったけど、さっき言ったのは『侵略者対策本部』よ。軍への指示も、私達への指示も、そこから出しているからね」

「なるほど……」

「まあ、あとは『中心都市にいる人間に許可、または招待を貰う』……これも不可能じゃないだろうけど……」

「えっ? 不可能じゃないんですか?!」

 俺が前のめりになると、うーんとアリアが言った。

「……出来れば『アレ』は使いたくないんだけどねぇ……まぁルイやルカに相談してみるわ」

 アレ?

「着いたぞ」

 言われると、そこは小さな、暗い殺風景な部屋だった。そこに眩く光る大きな水晶の球のようなものがあって、周りにはたくさんのコードが繋がれてあった。

「これに触れるとワープできるから」

 ルカはそう言うと、それに触れた。すると、彼女の体はみるみる間に消えていく。俺が唖然と見つめていると、アリア先輩、リヒトと続く。俺とリサは顔を見合せたが、リサが言った。

「私も使うのは初めてだよ」

「そうなの?!」

「噂には聞いたことあったけどね……」

 そう言いながら、彼女も恐る恐る水晶に触れ、消えた。俺も……と思いそっと手を伸ばして、その冷たい水晶に触れると、視界が急に眩しくなった。そして、体全体が引っ張られるのうな心地がして……。


「……お、来たな」

 気がつくと、ワープ先……『軍本部』とやらに着いていた。皆がほっとした顔で俺の事を見ている。リヒトはさして興味もなさそうだったが。

「……どうにか……」

 言いつつなれない感覚に心臓がバクバクしている。リサも俺と変わらず青い顔をしている。初めての感覚というのはどうにも心臓に悪い。ハコは「ビビってたな〜お前」などと横から茶化してきた。

「ここから戦闘区域まで歩くぞ。『外側』に出るのは私とジンだ。アリアさん、リサとリヒトは頼みます」

「はあい」

 アリア先輩がなんとなく気の抜けた返事をする。リヒトが言った。

「ルカはピストルでしょ。わざわざ『外側』に行く必要なくない?」

「万が一のとき『DELETE』をジンに発動する必要があるからな」

「別にルカが行かなければ、侵略者とジン以外に犠牲になる人はいないわけじゃ__」

「ジンに死んで欲しいような言い方だな。……そんなつもりじゃないのは分かっているが、誤解されるぞ。そもそもジンが死んだら本末転倒だ、選抜隊でわざわざ保護する意味が無くなる」

 リヒトは黙って、俺の方を睨んだ。その鋭い目を見ていると、誤解でなく俺に死んで欲しいように思えるのだが……。マリンと同じように俺を歓迎していない……ということだけは確かなようだった。

「というわけだ……少し今からは辛い光景になるかもしれないが、慣れろ」

リサと俺に向かって深刻そうにそう言ってルカは歩き出した。俺たちが目覚めたのは学校にあったのと同じような暗い小部屋だ。ドアを開けてそこを出ると、そこは広い橋のような場所だった。俺たちはどうやらそこに設置してある、プレハブ小屋から出てきたようだった。それよりも驚いたのは……目の前には軍人の格好をした大人が多くいて、その人たちが何かに向かって銃や弓を放っていたことだった。

バン!という破裂音がどこかで聞こえたかと思えば、ズバババと連射している音などもする。耳を塞ぎたくなるようなその音も然ることながら、目の前で鮮血を噴きながら倒れていく男もいたり、「救護要請を!」と近くで無線で話している女の人がいたりした。リサはその光景を見慣れてはいないのだろう。青い顔をして口を抑える。どうにかして吐くのは堪えたようだが、俺も吐きたいぐらいに凄惨な光景だった。

ルカは重々しく口を開いた。

「……アリア達は比較的安全な場所からの援護が任務だから大丈夫だ。きっと死ぬことはない……だろう。だが油断したらすぐに命を落とすと思え」

 アリア達、とわざわざ言ったということは俺とルカは……そうではないのだろうか。冷や汗が額を伝うのを感じた。アリアが言った。

「とりあえず指定位置までリヒトとリサを連れていくわね。指定場所は?」

「ああ、E-63番射撃地です。そこにいる人達と交代してください」

「分かった」

 そう言うと、アリア、リヒト、リサは俺たちとは別れて橋を渡っていった。俺はルカに言う。

「……俺たち……学生の援護が本当に必要なんですか……?」

「ああ。というか、ここにいるヤツらよりも下手すると私たちのほうが実力は上かもしれない。……勿論私たちは実戦経験を積んでいないけどな。とはいえ学生の中でもトップレベルだから、そこらの新入り隊員よりは強いだろうな。だからわざわざ学生に手伝わせるんだ」

 ルカは周りの戦闘員に気を使ったのか、かき消されそうなほど小さな声で返した。彼女によると、将来隊員は特殊学校に通っていたならばなることができるそうだった。だから実力もピンキリ、質より近頃は量が中心だと。

 ルカが前を歩いていくのについていくが、俺は未だに皆が何と戦っているのかを認識できずにいた。どうやらここは橋というよりは『壁』に近い作りで、皆が向いて戦っている方向が侵略者のうじゃうじゃいるという『外側』、その反対側が人間たちのいる『内側』なのだろうと推測した。俺たちが今いるのは壁の上、ということだ。歩いている場所から外側は見ることができなかったが、ある程度歩いたところで、ルカが言った。

「下に降りるぞ」

「?! どうやって……」

「梯子だ。このへんの外側の壁に梯子がかかっている。」

 たしかに外側ギリギリまで歩くと、どうにか降りられそうな古い梯子があった。ただ、下を覗くとわかる。数十メートルは有るであろうこの壁の高さから命綱なしで降りるということに、俺は怖気付く。

「……ここから降りるんですか?」

「もちろんだ。降りていても防御ABの応用版……隠密ABが梯子自体にかかっているから狙われることは無いだろうな。着いてこい」

 そう言うとルカは躊躇なく梯子に掴まってするすると降りていく。俺が固まっていると、ハコがまた茶化す。

「まーたビビってんのか。意外と度胸ねぇな」

「うるさい、というかハコは怖くな……怖いわけないか、浮けるもんな」

「そ。蹴っ飛ばしてやろっか?」

「……要らない」

「というかお前も飛翔AB使えるじゃん。ビビるな。行け」

 ハコに言われて、恐る恐る降りる。極力下を見ないようにゆっくりと降りていく。どのぐらいの時がたったか、やっと下に着いたと思ったら、ルカが怖い顔をして睨んでいた。

「……遅い」

「……ごめんなさい……」

 はあ、まぁ落ちたりしないだけ上出来か、と怖いことをルカがサラッと言う。落ちることやっぱりあるんだ……。

 周りには、人は居なかったが、上から銃の音はよく聞こえてくる。ただ、煙のせいで侵略者とやらはよく見えない。下は固い土で、荒野のような景色が広がっているのは何となくわかった。

「行くぞ。今回は近接だ。確かそろそろ……」

「お、ルカ!」

 そうフランクに声をかけて現れたのは髭面の男性だった。その筋骨隆々さに若干慄いていると、その男は言う。

「こいつ、新入りか?」

「はい。今回はこの人も一緒に戦います」

「へえ、よろしくな! ……と、あんまり話してる暇はないな。行くぞ」

「はい」

 ルカも髭面もそう言って飛翔ABを使うが、俺は驚く。三人で?ルカが補足する。

「少人数の方が身軽だからな! 早く来い!」

「はっ、はい」

 そう言って俺もどうにか飛翔した。


 銃撃の音が近くなっているのを感じてルカと髭面に着いていくと、ルカが言った。

「……そろそろかな。ジン。前見ときな」

 え?と思い

 え?と思いながらも進んでいると……『其れ』は唐突に視界に現れた。心臓が止まるほど驚くのがわかった。

 『侵略者』が目の前にいるのはひとめで分かった。其れは、大きな円柱の形をしていた。つまり、生き物の形を成していない。驚くべきは、その円柱には無数の……眼が着いていた。小さく無数にあるその目を、それぞれをぎょろぎょろと動かしていて、俺の背筋は気味の悪いものを見てぞっと毛が逆立つのを感じる。「何回みても気色悪いな……」とルカ。それの周りを、沢山の隊員が飛び回るのが見えた。それぞれが攻撃を繰り出しているが、『侵略者』は目から素早くバリアのような壁を出して円柱を守っていた。

その目のひとつから光線が出たのを視認した。すると、隊員の一人が血を噴き出して倒れる。きっと光線が当たったのだろう。俺は唾を飲み込む。……これだけの人数を相手にして、なおノーダメージなのか……と。

ルカがポツリと言った。凄惨な光景を見てだろう。

「これホントにB?」

髭面は答える。

「Bだな。正確に言うと『侵略者k-58』だ」

「侵略者って種類があるんですか?」と俺が聞く。

「ええ。どれも気色悪い」

 とルカが答えた。

「とにかく行くぞ」

 そう言って髭面が武器を取りだした。槍だ。

「うってつけね」とルカ。俺は質問する。「どうしたらこいつを殺せるんですか」と。

「……こいつは、目を全部潰すか円柱を切り刻めば死ぬわ。素早い移動とかはしないけど、光線と防御が厄介。見て、今二割ぐらい潰れてるでしょ」

 ルカの言う通り、一面にびっしりついている其れの目は八割ほどはぎょろぎょろ動いていたが、二割ほど、もともとは目があったのだろう黒い空きが見えた。

「……なるほど」

「……とりあえずやるしかないわね!」

 そういうとルカはピストルを取り出して、バキュンと一打ちした。バリアで防がれるも、直後にもう一打ちすると、隣の眼を撃ち抜けた。

「こんな具合ね。残り2000はあるはず」

近くで槍を用いて髭面が戦っているのを見て、俺は我に返った。これを倒せばいいのだ。途方のない数に目眩がするが、やるしかないのだろう。ハコに俺は言う。

「頼むぞハコ!」

「あいよ」

 俺は剣を取り出した。ゆっくり見る機会がなかったが、持ち手が銀の綺麗な剣だ。それを握る手に力を込めると、それは白く光った。そして直後……黒い光に変色した。あの測定の日以来にみるその黒い光に、心臓がざわめく。

「……行くぞ!」

 そうハコに言って、助走をつけた。俺は『侵略者』の目を切りつけようとする。勢いよく向かって切りつけようとするが、バリアで勢いよく跳ね返された。もう一度……と立て直そうとすると……そのバリアが、パリンと音を立て割れた。

 ……割れた?

 バリアが割れた直後、侵略者も予想外だったのだろうか、俺に向かって数個の光線を浴びせてきた。おれは慌てて剣を振ろうとするが……意味がなかった。出そうとするも防御ABは間に合わない。

 ここで、死ぬのだろうか……。

 そう思って思わず目をつぶったが……一向に死ぬ気配がなかった。なぜだ?と思って目を開けると、ルカが目の前にいた。慌ててこちらに向かってきたのだろう。

「お前……なんだその力は!? 今何が起こったか分かったのか?!」

 ルカに聞かれて、おれは驚く。何が起こったか……?

 唐突に、ハコが笑った。なぜ笑ったのか分からず、俺は驚く。ハコが言った。

「あっははは、まさかそう来るとは」

「……ハコ! お前力のこと何か知ってんだろ?!」

 最初に暴走した時はぐらかされたのを思い出して、俺が詰寄ると、ハコは首(なのか?)を振る。

「いーや。俺は人間が力を使った時のことなんて知らないよ。俺の力は元々『ちょっと強い攻撃AB』ぐらいのもんだったんだ。だからお前が使おうと多少力が強化されるぐらいだと思ってた……が、今のは明らかになにか違った。よな? ルカ」

 ルカが神妙な顔で頷く。俺は流れが読めずハコを見つめると、ハコは教えてくれた。

「……お前は、今『光線を斬っていた』。コイツらが使う防御も攻撃も、人間の使うABとほぼ仕組みは一緒だ。つまり、この力をお前が使うと……『AB由来の攻撃、防御を破壊すことができる』力になるらしい。面白い! 最高だよ、ジン」

うららです。

1日遅れの投稿です。今日もう1話出したいところ。

やっとジンの……ハコの?力について書けそうです。しんどいしんどい。

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