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SPECIA  作者: うらら
2章 友人だったヒト?
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episode2-3


 どうやら昔の夢を見ているようだった。リサ……こと私は、寝苦しい一室の床で、支給された硬い布団を被って寝ていた。同い年で次期隊長……それも歴代の中でも優秀だと噂のルカが、「贅沢は言うなよ。これしかないし、お前は処分待ちの身なんだ。我慢して」と言っていた。それが分からないほど馬鹿ではなかったが、さすがに丸三日ほどろくな睡眠を取っていなければ、体も重く疲れていた。だからすぐ眠りに落ちたが、寝心地が悪く、夢を見ていたのだ。


幼い頃からなんとなく、人よりAB量が多いのだろうという自覚はあった。しかも年々他の人との差が開いているように思えた。中等部、高等部があり、その中でも募集人数が少なく、才能の塊のような人しか入れない……倍率が最も高い初等部には楽々と入れた。そのお陰で両親も喜んだし、私も自信がついていた。AB量が人よりはるかに多い……そのことは最初こそ自信に繋がったが、徐々に精神を蝕んで行った。年齢が上がるにつれ、周りの視線も、ABを適切に操る自信も、なくなってきていた。級友にも羨む口調で幾度も同じようなことを言われた。

「リサはいいよねえー、なんにもしなくてもABが多いんでしょ。ずるい」

 AB量というのは、才能の指針でもあり、努力の指針でもある。メンタルや訓練によってAB量をある程度増やすことは可能なのだ。ただ、その事が生まれつき私にとっては必要なかった。喜ばしいことだと思われることも多いが、そんなことはない。膨大に増えていくAB量を、自分自身が適切に扱えなくなってきていた。……所謂実力不足である。

 努力が追いつかない。妬みや、やっかみ、嫌味さえも年に連れて増えていく。それに加え、AB量は徐々に徐々に増えていった。ABが中等部一年の基準である300を優に超える、790という数値を出した時に、私の心は折れた。

 AB量を制限する、という誰も教えてくれないような事をするのには訓練が必要だった。数値はぶれたり低くなることがあったが、それでも普通の成績ぐらいになれた。周りからは「弱くなった」と言われたりもしたが、別に良かった。誰も私が制限しているということに気が付かないことは、居心地がよかった。

「リサって……ABの量を制限してるの?」

高等部に上がって、私のAB量が極端に高かった時代など、誰も忘れ去っていた。そんなある日、唐突にそう尋ねたのは、訓練班が一緒になったジンだった。あまりそれまでは話したことがなく、私も無難に日々を過ごしていたが、唐突に聞かれたそれに大いに驚いた。ジンは高等部から入ってきて、何も知らないはずだった。私は悟られぬよう、笑った。

「なんでそんなことする必要があるの、そんな訳ないじゃん」

 そう答えた声は、上ずっていた気も、刺々しかった気もしたけれど、それを隠すほどの余裕はなかった。そっか、とジンは言う。記憶を失ってからのジンは、邪魔だからか前髪を分けているけれど、その頃のジンは前髪を長く下ろしていた。だから、瞳の表情を読み取れなかったが、軽い口調で言った。

「昔……本で、無理にAB量を制限してる人のAB量のブレについて読んだことあってさ。気のせいならごめん」

「……いや……」

 私は何も言えなかった。だけれど、彼の瞳には、何が映っているんだろうと興味が湧いた。私の力を見抜いた彼は、一体……。

 それからというもの、私はジンとつるむことが多くなっていった。ジンは特に無愛想ではなく、普通に仲良くなっていた。周りからはジンのABの扱い方が下手だからか、からかわれたりしたけれど、私は気にとめなかった。それに、恋愛的な面で色々言われることもあったが、私にも……ジンにも、全くそんなつもりはなくただ興味深く思って、一人の大切な友人として接していた。ただ、私はジンにも、やはりAB量のことは言えないでいた。ジンは分かっているのかもしれなかったけれど、どうしても言えなかったのだ。

 レイジたちが私たちをからかうようになったのは、高等部二年に上がってからだった。レイジは中等部から入ってきたので、根が悪い人でないのは何となくわかっていたけれど、それでも不快なものは不快だった。恐らくジンもそうだったのか、少しずつジンの元気はなくなっていった。私の前では気丈に振る舞うけれど、ふっと暗い顔をすることが増えた。私が心配していたある日、彼は私にこう言った。

「リサ。もしかしたら、僕、暫くいなくなるかも」

 そんなことを言うので、私はどうしたのだろうと心配して、どうして、どこに行くの、としつこく聞いた。するとジンは観念したようだった。

「……中心都市の方に、ちょっと用事があるんだよ。大丈夫。多分何もないから。ちょっとリサに言っておこうと思っただけで」

「中心都市……?! 行けないんじゃないの?! というか何をしに……」

「……僕は、強くなりたいんだ。今より、ずっと」

ジンはそんなことを嘯いた。私はもう何も言えなった。相変わらずよく見えないその瞳に、なにか、強い光が宿っていたような気がしたのだ。私は、彼を黙って見送ったのだ。

……二日後、帰ってきたジンは、もう『ジン』ではなくなっていた。

 私は後悔した。奇妙な力を出し、今までは相手にしていなかったようなレイジなんかとも仲良くしようとする。別人になってしまったジンは何も知らず、何も気が付かなかった。仲良くしようと努めてこそいたが、彼は彼ではなくなっていた。私も自分のありのままなどは出しようがなく、調子が狂った。このままだと、元に戻すことは多分無理だろうと思った。私の友人は、どこかへ消えてしまっていたのだ。

最後の強くなりたい、という発言を思い返した私はレイジが原因だと考えた。それに、どうして中央都市に行く必要があったのか、探らないといけないと思った。だから私は警備装置がたまたま故障していると聞いて侵入を決行しようとしたのだ。それに、レイジにも問い詰めた。言い訳ばかりで何も得られなかったが。

 ……私は、私の友人を取り戻したかった。唯一秘密に気が付きつつも、深堀りもしなかった心優しい友人を……。


 自分の涙が頬を伝っていることに気がついて、目が覚めた。外の明るさから察するに、早朝だろう。そっとルカが顔を覗き込んでくる。私の供述次第で、なにかしらの処分が下されるだろう。そもそも本来はAB量の虚偽報告さえもしてはならない。ルカはゆっくり口を開く。

「……なにか事情があるのだろう。顔を見ていればわかる。困っているのなら、話してほしい。……力になれる……かもしれないから。」

ルカはその後は特に促しもしなかったが、私が大体の事情を観念して説明した。真剣にルカは聞いてくれた。その後、彼女は言った。

「……そうか。わかった。……これは一つ提案なのだが」

「?」

「……お前も選抜隊に入隊しないか?」

「……んっ?」

 私は思わず間抜けな声を出してしまった。ルカが言葉を続ける。

「こちらとしてもジンについては……そしてあの悪魔については色々と探りたい。そのために中央都市への潜入が必要だというのなら、肩書きは持っていた方が安全だろう。それに実力も申し分ない。こんど容量の多いものでもう一度測ってもらうが、AB量がそれだけあるなら選抜隊にもついていけるだろうな。だから__」

「待ってください、その、処分とかは」

 ルカはきょとんとしてああ、と返事した。

「確かに侵入も虚偽報告もあるが……例外的処置だ。ジンにも同じようなことをしたばかりだが、仕方がない。それに元々お前は勧誘すべき人材だった。AB量はさることながら戦い方も、センスがある。……まぁ、こういう柔軟性も軍には必要だ。」

 ルカの寛大な処置に、私は涙目になる。それに、私を……認めてくれたことも。それが、こんな時だと言うのに、どうしようも無く嬉しく思えたのだ。ルカが私に、鋭い声で言う。

「……入隊の意思は? こちらとしては別に罰を受けてもらってもいいんだぞ」

「……はい! 入隊させていただきます!」

 私は、涙を拭って、精一杯の力強い声で彼女の思いやりに応えた。ふっとルカが笑う。朝の眩しい光が、応接室に差し込んで、それは未来を暗示しているようにも思えた。



「……で、リサの入隊も決めたと」

「ああ。何か悪いか? タイガ」

俺たちが眠い目をこすりながら朝のミーティングに出ると、驚くべき決定をルカから告げられた。呆れたような声でタイガが言うのを、さらりとルカが受け流していた。

「……悪いとかじゃなくてだ、ジンのことと言い……いやあれは俺らもいたけど。なんかこう、全体的になんだかんだ甘いよな」

「そんなことはない。適材適所だ」

 むっとした顔でルカが言う。はぁ、とタイガがため息をつく。マリンはにこにこと言った。

「私は賛成ですよ! 今回『は』ちゃんと実力あるみたいだし!」

「……俺に言ってる……?」

 俺が尋ねると、それにはマリンは答えなかった。無視されたことに若干凹んでいると、リサが言った。

「……私は実力不足で……足を引っ張ったらごめんなさい」

 タイガがため息をついて、一転、少し明るいトーンで答える。相変わらず表情はあまり変わらないが、顔以外のところでは感情が出やすいやつだ。

「そもそもこの組織以外かなりイレギュラーだからな。足引っ張るなんて皆だ。決定がもうされたなら、俺はもうどうこう言う気はないよ。ですよね、『現隊長』」

 現隊長、と呼びかけられたのは細身で短髪の男だった。俺はあまり話したことも話したこともなかったが、多分三年のようだ。そして……現時点での『隊長』。彼は少し柔らかな口調で言った。

「問題ないよ。今年度からの決定は基本的にルカに任せてるし」

「てことだから、いいでしょ」

 全員が頷いた。よし、とルカが言った。

「ジンの初任務も一応終えたことだから、新人二人には今日から本格的な訓練に混じってもらう。リサは明日からは授業時間もこちらへ来るように。ジンはまだそれは必要ない。それでは、他に連絡ある者……いないな。では、解散」

 解散した直後、俺はリサを呼び止めた。聞きたいことがあったのだ。

「リサ! 今日の話……俺のためだったの?」

「……」

 俺が聞くと、リサは少し眉をひそめた。なんだ?と思っていると、リサは少しつっけんどんな態度で言った。

「貴方のためじゃない! 本物の『ジン』のためよ! あーもう最初から思ってたけど、やりづらいことありゃしない! 私は貴方じゃなくって、『ジン』のためにあんなことしたんだからね?!」

「ええ?! でもそれって俺の為じゃない?!」

「違う! 断じて違う! そして俺の為って言い方やめて、なんか嫌!」

「ひどい!」

 嫌われていたのだろうか、と少し落ち込んだ。そもそも今までのふわふわした感じとだいぶ違って驚くし、少し怖い。ただ、しばらくすると、はあ、とため息をついてリサは言った。

「……あなたの事が嫌いな訳じゃなくて、調子が狂うだけ。早く元に戻って欲しいってだけなの。……今まではなんというか、接し方分かんなくって猫かぶってたというか……」

「……そうなんだ。ごめん、なんか、俺で」

「今のジンが悪いわけじゃないよ。こっちの都合」

「……ねえ、リサ。良かったらさ」

 ん?とリサは返す。

「前のジンのこと、教えてくれない? 思い出した時、少しずつでいいから。俺も、『ジン』って奴のことについて、気になるんだ」

 きょとん、という表情をリサがするけど、リサは軽く吹き出して応えた。

「わかった。でも思い出したらね。急に言われても分かるもんじゃないから」

「……! ありがとう!」

 俺がそう言うと、リサは微笑んだ。今まで何度も見たはずなのに、初めて、リサの笑顔を見るような気がした。

リサが荷物を取りに行くために、俺と別れると、ハコが話しかけてきた。

「おー、青春だねぇ〜」

「からかってるつもり? ならそんなんじゃないよ」

 俺は、リサのジンに対する感情についてそういう、からかう対象になるようなものは読み取れなかったからそう答えた。ハコは少し黙った後言った。

「お前……女の子に興味とかないのか?」

「はっ?」

「いや、少しぐらい勘違いしそうなモンだけどなぁ、と思って……。そういやあのお綺麗な隊長さんにもそんな緊張してなかったし……。記憶なくしたのとなんか関連してんのか……? と」

「いやいや興味ないとかそういうわけではなくってな?! まぁ今は確かにそんな余裕ねぇけど、自分のことでいっぱいで……でもゼロとかいうわけじゃないよ?!」

「ふぅん……まぁ、お前の恋愛事情になんてそんなに興味無いけどな!」

 ワハハと笑って俺の肩に座る。なんなんだこいつは。ふと思って、ハコに聞いた。

「……なあ、前の俺って誰か好きな人とか……」

「内緒だ」

この話題なら、と思ったが、さすがにべもない。ちっと舌打ちしたが、「まぁ別に言ってもいいか。察しは着いてるかもしれないが、残念ながら彼女はいないぞ」とちょっと腹が立つ言い方をされて、どういう意味だ、と言いなから、俺は自分の教室に向かった。


うららです。

よかった!更新できた!

さあそろそろ設定を固めなきゃまずいですね。がんばります

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