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SPECIA  作者: うらら
2章 友人だったヒト?
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episode2-1

「リサ?」

 次の日、リサはどこか具合が悪そうに見えた。俺も寝不足だったけれど。昨日は夜遅くまで入隊の本を読んでいたからだ。ハコにちょこちょこ意味を教えて貰いながらだけれど。だから朝の選抜隊のミーティングに遅刻してルカに頭を叩かれてしまった。強めに。だがリサの目は腫れていてクマもあった。俺よりも酷い精神状態に見えて、思わず心配の声をかけると、リサははっと気がついてにっこり笑う。

「どしたの!」

「なんか寝不足? 大丈夫?」

「えっあっそう? ちょっと勉強してたからかなぁ? ごめんね心配かけて!」

 手をひらひらと振って大丈夫そうに笑うけれど、大丈夫そうに見えない。俺は心配になって、救護室に行くか聞こうと思ったけれど、ハコが横から俺に囁きかけた。

「昨日からどうしたんだろーねーこの子。失恋とか?」

 しつれん……!と悔しくもハコに盲点を突かれた。確かに失恋なら泣きはらすし寝不足にもなるだろう。それか昨日のレイジとの言い合いか……。でも、それだけでこうなるとはあまり思えない。いや、分からないが。とにかく下手なことは言わない方がいいと俺は踏んだ。

 お昼ご飯を食べようとリサと食堂に向かうと、レイジが近づいてきた。

「……昼……一緒いいか」

「は? 何で? 取り巻きふたりは?」

「取り巻き言うな! ……あいつら俺がお前いじんの辞めるっつったらつまんねぇってどっか行きやがった。お前のせいだお前のせい、責任取れ」

「……ひとりが寂しいだけでは__」

「うるせぇ!」

 なんだか……可愛らしい。俺のせいで確かに一人なら可哀想だから一緒に食べてもいいな、と思った……が、ただ問題はリサだ。リサもレイジに散々嫌なことを言われただろうし、なにより昨日のこともあるし、寝不足なら尚精神状態もさほど良くないはずだ。おずおずとリサの方をみると、リサは冷ややかな目でレイジを見つめていた。

「……あなたが来るなら、私他のとこで食べる」

「はぁ?! ごっごめん悪かったって! でも昨日のことについては本当に知らな__」

「いいから。ジンもレイジと食べてなよ。私他の子と食べる」

 さっとリサは他のクラスの彼女の友人目掛けて行ってしまった。あらら、と思っていると、レイジが思いのほか本気で落ち込んでいる様子が目に入った。

「……リサにもずっと悪いことしてたもんな……」

「おいレイジ?! 大丈夫かお前、柄じゃないにも程があるぞ」

「うるせぇ俺は繊細なんだ!」

 嘘だろ!というツッコミはとりあえず置いておくとして、とりあえずいつになくしおらしく大人しいレイジの話を聞くことにした。

「……俺、お前のこともリサのことも確かに見下したみたいにして笑ってたんだよ。実際俺も偉いような気がしてた。でも昨日リサに言われて、もしかして『ジン』は俺が色々言ったことが嫌になってなんか……飛び降りとかしようとしたんじゃないかって不安になって……もしそうなら取り返しのつかないことを……」

 本当に初日の生意気さが嘘のようなしおらしさだ。でかい図体を折りたたんで椅子の上に体育座りまでしている。染めてある金髪も元気なくみえるし、頼んだハンバーガーにも手をつけていない。本当に反省しているようだ。俺はうーんと唸ってレイジに言う。

「俺……『今の俺』は別にいいんだよ。お前に変なこと言われたのも一回しかねぇし。でも確かに日常的にってなると……『過去の俺』はともかくリサはだいぶ参ってたかもな」

「だよなぁ……はぁ……」

 結構本気で凹んでいる。確かに過去のこいつが悪いのはそうだが、少し可哀想になってきた。あの二人に逃げられたことで、報いを受けたような気もする。というかコイツは実はただの小物じゃないかという疑念すら湧いてきた。

 しばらく黙々とご飯を食べていると、あっ?!とレイジが叫んだ。

「お前それなんだよ! そのバッヂ! 気づかなかったわ、それ選抜隊のじゃね?! なんでお前が付けてんの!」

「声がデケェよ!」

 悪い悪い、とレイジがボリュームを落とす。実際周りの人の目が一瞬こちらをむいて、すぐ元に戻った。ひとまず安心する。記憶喪失も三日経つと俺への周りの興味も少しずつ薄れてきたようだった。人の噂なんて七十五日も続かないもんだ。

「……実は」

 と昨日の流れをかいつまんで話すと、レイジがまた叫び出しそうだったので今度は俺が慌ててレイジの口を塞ぎにかかった。もごもご、と何かを言って、レイジが音量を抑えて俺に言った。

「お前まじか! 留年間近からの大出世じゃん! やべー!」

「そんないいもんでも無いよ。今日も引っぱたかれたし」

「でもやべぇ! まじか! すげぇ!」

 IQが低すぎる反応を返された。俺は苦笑する。まぁたしかになぁ、とレイジが言った。

「スペシアを発現したヤツらって大体優秀だからな。今までの発現したヤツら、『全員』選抜隊入りしてるぜ。まぁスペシアなくても入れることもあるけどな。お前のも結局スペシアだったんだろ?」

 あはは、と曖昧な返事をしておく。「確かにあの黒いやつバカ強そうだったもんなー」とレイジは独りごちていた。俺は密かに納得する。なるほど、0.1%の発現率と言う割に周りにスペシアを持つ人が多いと思ったら、選抜隊「だから」か、と。

 と、バッヂが振動する。誰かから通信だろう。

「あーあー、マリン、ジン、聞こえてるか」

タイガの声だ。耳に直接声が入ってくる感じがして驚く。マリンが「こちら大丈夫です」と言ったので、俺も慌てて「こちらも」と言った。一緒にいるレイジがあ?どうした?と俺に聞いたことから、通信の内容は聞こえていないとわかる。

「朝のミーティングで伝えそびれた、今夜の作戦についてだ。今回問題になっているのは『中央都市』への侵入者がいるということだ。さらに俺たちにとって問題なのは、恐らくこの学校の生徒だということだ。見つけたら即刻捕縛を__」

「タイガさん、中央都市の警備はどうなっているのですか? 私たちが出る幕ではないのでは……」

 マリンが言う。確かに、中央都市、お偉いさんが集まるというだけあって警備もきちんとしているはずだ。しかしタイガは困ったような声を出す。

「丁度侵入者が現れた日に故障してしまってな。修復まで一週間ほどかかると」

「その侵入者は何が目的なんですか?」

 俺が聞く。タイガは言った。

「カメラは付いているから、それを確認すると、特に何かを盗んだ形跡も何かをいじった形跡もないそうだ。それに、現時点では中に侵入せず外からの観察を徹底的に行っているらしい。今日奴が中に入るかは不明だが、そろそろ動く可能性もある。昨夜は、一応ルカがこっそり観察していたらしいが、どうやら警備システムの配置などを確認していたらしい。捕まえようと試みたが、勘づかれて逃げられたという。何かをしようとしている事に間違いは無いし、そもそも深夜に宿舎を抜け出すことは規則違反だ」

 なるほど、と納得する。何をしようとしているかは分からない「うちの生徒の侵入者」の確保という訳だ。それにすばしっこい。タイガが続ける。

「正直俺も一昨日の時点では、指示を出されたとはいえ、ルカがなんだかんだ言って昨日の段階で捕まえられると思っていたからな……。ルカでも一人だと捕えられないということだ。ただ俺達も選抜隊……一人は怪しいが……だ。逃がさないよう、細心の注意を払って向かおう。いいな」

「はい」

 俺とマリンの声が被る。その様子を見ていたレイジは、ハンバーガーをむしゃつきながら「なんかすげーね」とあまりにも適当な感想を残した。


 深夜一時。俺は少し緊張していたし、眠気に耐えていた。昨日も徹夜気味だったのだ。一日は耐えられるとはいえ、さすがに二日目はしんどいんじゃないかと不安になる。ハコが俺の前にひょいと現れて言った。

「眠そうだな」

「寝るこたぁないと思うけどな」

「今日のお嬢さんみたいな顔してるぜ」

 お嬢さん……リサのことか。言い回しが少しおじさん臭い俺はふと思い出して、ハコに尋ねる。

「なぁハコ、この間言ってた記憶を取り戻す方法ってなんだ?」

「諦めてなかったのか」

「そりゃそうだろ。早く解決させたいよ」

 ハコはうーんとうなる。

「……言うだけなら簡単だ。記憶を無くす前の俺と、お前の間で決めた『あるもの』を探し出したら良い」

「あるもの……?」

「ああ。俺とお前の間で、何か決めているはずなんだ。分かりやすく言うと、『ダイヤモンドを見つける』を条件にすると取り決めたなら、お前がダイヤモンドを視界に入れた時点で記憶が蘇るってことさ。この条件がないと『記憶』の契約はできないんだ」

「! じゃ、じゃあハコ、それを探し出すから教え__」

「無理だ」

「何でだよ!」

「俺も、その『条件』に関する記憶だけは失っているんだ。それに、その条件は簡単に見つけられるものだと意味がないから、探し出すのにも苦労するはずだ。俺もお前も、その条件を知らない時点で探し出すなんて不可能に近い。だから難しいと言った」

「……そうか……」

 ま、お前は今の状況を受け入れた方が多分早いぞ、とハコが言った。俺はハコに苛立って足を掴もうとするも、するりと避けられた。ハコが驚いた顔をする。

「おいどうした!」

「逃げ足の早い……さっさと俺の記憶を言えるだけ吐け!」

「あぁ?! こっちは契約で勝手に言う訳にはいかな」

「知ったことか!」

逃げるハコをドタバタ追いかけていたら隣の部屋からドンドンと大きめのノックをされた。どうやらうるさかったらしい。ごめんなさい!と心で思う。少し落ち着いた。息を整えながらハコに言う。

「……お前逃げ足はえぇな……」

「まぁそもそも物理攻撃効かないけどな。というか俺には触れねぇよ」

 本当か?とハコの頭をつつくも……その指はすり抜けてしまった。

「……なら早く言えよ……無駄に体力使っただろ……」

「なんか滑稽で」

「お前なぁ……」

 はあ、とため息をついた。どうやらハコは俺に記憶を教える気もないらしい。やはり自力でどうにかするしかないのだろう。……まずは「あるもの」とやらを見つけなければいけないのか……。先が長そうだ。

「……」

「なんだジン、まだ記憶諦めてないのか。」

「そりゃあそうだろ」

「まっそれもそうか。でもお前が望んだんだぜ」

 ……過去の自分はなぜ力を欲したのだろう。本当にレイジの挑発のせい? いや、リサの話を聞く限り少なくとも表面上は意固地になっている訳でもなかった……。

 思い立って、自分の部屋を漁ってみることにした。この部屋は『昔のジン』のときから変わっていないはずだった。もしかしたら、なにかヒントがあるかもしれない。漁っていると、引き出しの奥になにか引っかかっているのがわかった。取り出してみると、それは小箱だった。……鍵付きの。

「……なんだこれ」

「さあな」

「おい教えろよ」

「だから……」

 契約で、だろ。分かりきった展開だ。とりあえずハコに白い目を向けておいた。柔軟な対応が大切だというのに。

木製の頑丈そうな小箱だった。装飾が凝っており、椿の模様が入っている。サイズは手のひらより少し大きいほどだったが、何が入っているかはわからない。振ってみても音もしなかった。鍵を壊すことはできないかと無理やり引っ張ろうとすると、「多分そんなことしたらお前死ぬぜ」とハコが横から口を挟んだ。俺は驚く。

「死ぬ?」

「俺は物や人にかかっているABなら基本的に『見える』からな。というかある程度の実力以上の奴らは大抵そうだぜ」

 新たな事実だ。しかし無理やり開けると死ぬ……とは。

「これは誰が掛けたかしらねぇが強力な封印ABだな。鍵を使わねぇと多分解けねぇぞ。スペシアか何かの類だろう。ただ」

 ハコが言う。

「俺の記憶に『こんな木箱はない』。ということは……」

「『見つけなきゃいけないあるもの』がこの中にあるとかか?」

「……可能性は否定できない。なんなら高いかもな。俺もお前もこの木箱のことを知らなかったんだからな」

 何にしろ、手がかりかもしれない。その事実に俺は沸き立つ。しっかし、とハコが言った。

「こんなわかりやすいとこに置いとくかねぇ」

「そのための鍵だろ?」

「……まぁそれはそうだな。何にしろ鍵が手がかりになるんだろうな」

「希望が見えてきたな! とりあえず部屋を探してみる。鍵が分かりにくい所にあるかもしれない」

 しかし、その後どれだけ探しても鍵は見つからなかった。電球の中まで見てみたが、それらしきものは見当たらなかったのである。見つかったのは、授業のノートや、アルバム、私服、訓練服などだけだった。

「ミニマリストすぎるだろ」

「そんなに物が必要な環境でもないからな」

「……というか時間!」

 はっと時計を見ると、一時五十五分。そろそろ出ないと間に合わない。

「とりあえず出よう」

「言われなくても着いてくしか出来ないんだよ」

「……? そういえばなぜ俺とずっといるんだ?」

「契約がそうなんだよ」

 契約契約。「柔軟性が無いやつは社会でやっていけないぞ」と先程思ったことをそのまま口にすると、「余計なお世話だな」と言われた。

 急いで向かいながらハコのことを見てみると、相変わらずの黒い正方形の頭だ。この中にもなにか入っていたりするのだろうか、分解したらわかるのだろうか、と物騒なことを考えていたら、ハコに「……お前は一体なにを考えているんだ?」ととても訝しげな声色で尋ねられ、「なんでもない」とお茶を濁した。

うららです。

レイジがアホで楽しいです。

書くペースが落ちてきました。まずい。

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