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SPECIA  作者: うらら
1章 或る悪魔と記憶喪失
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episode1-4

「……で、今処分待ちってこと?」

「そうだね」

 教室に戻ると、もう放課後だった。残っていた数人は白い目、もしくは怖がっているような表情を浮かべてこちらを見てきたので居心地が悪かったが、リサが待っていてくれたようで、ほっとする。ハコのこと以外をかいつまんで話すと、リサは驚いていた。

「選抜隊のことだからすぐに処罰するかと思ってひやひやしてたよ、停学とかなったらどうしよーって」

「……あの、選抜隊ってそもそもどういう組織なの? イマイチ分かってなくって」

 リサはああそうか、と言って、説明してくれた。

「学校の中でのいざこざを解決したり、侵入者との戦いにインターン参加したり。学校と戦いの最前線にいるような感じかな。下手すると先生たちより権力あるの」

「そんなにすごい人なの?」

「そりゃそうよ。この学校入れただけでも相当って世間的には言われてるのに、その中でも実力が超トップクラスなの」

 あーあ、弱いからなー私、とリサが自嘲的に呟いた。下手な発言ができないような気がして黙ると、そんなに気を遣わないでいいよーと言われてしまった。申し訳なくなってしまった。ハコが横でケタケタ「コミュ障め」と言ってきた。うるさい。

「大丈夫だよ、だってあれ事故でしょ! きっと選抜隊の人たちも__」

「おい」

 後ろから、三人組のリーダー……今はそいつだけだったが。が、また話しかけてきた。リサは途端に警戒した顔になった。俺も少し気を引き締めた。

「……何?」

「お前さっきのアレなんだよ」

 そうえば、と思い出す。こいつは一応俺を止めようとしてくれたのだ。少し癪だったが一度お礼を言うことにした。

「さっきは悪かった。止めてくれてありがとな」

「?! やめろ気色悪い! そうじゃなくてだ、お前あれは何なんだよ! スペシアなのか?!」

 思いのほか慌てている。お礼を言われ慣れてないのだろうか。少しおかしくなるが、笑いを抑えた。

「……それが、俺も分からないんだよ。暫く使わないように選抜隊に念押されたけどな」

「勿体ねぇな、あれの威力とんでもなかったから磨けば武器になると思うぜ」

「……えっ?」

「なんだよ」

 かなりリーダーかまともな事を言っていることに驚いた。同時に、認めてくれているのか……?という疑念が湧いてくる。

「……なんでもない。ありがとう」

「何がだよ! あークソやりづれぇなテメェ! 記憶なくしてからマジでやりづれぇ!」

「ところで名前は?」

「聞けよ!」

 リサが横から「レイジだよ」と言った。おい!とリーダー改めレイジがリサに矛先を向ける。

「レイジか。俺はジンだ」

「知ってるわクソボケ!」

 自己紹介をしたら跳ね返された。そりゃ知っているはずだ。けっと吐き捨てて「次また暴走させたらぶっ飛ばすからな!」と捨て台詞を吐いてレイジは帰って行った。

「……レイジってあんまり悪いやつじゃ無さそうだな」

「そう? 私あんま好きじゃないなぁ、あーいう人」

 リサがレイジにかなり冷ややかだったので、俺は苦笑した。


 そのあとすぐ先生から案内された所によると、どうやら寮制らしかった。学校の校舎から数十メートル離れた寮に案内される。同室の奴がたまたまいないらしく、一人部屋だった。まあまあ広い部屋にふたつのベッド。一人なのは少し寂しい気もした。俺は疲れていたのか、夜ご飯を食べ共同の風呂に入った後、すぐに寝てしまった。濃い一日だった。


 朝目覚めると、ドアのポストに手紙が入っていた。

『お前の処分が決まった。放課後、校舎正門にて待て。__ルカ』

 ルカからだった。殺されることは、どうやらなさそうだが、停学などは充分有り得る。俺は記憶を取り戻したいし、自由に動き回れなくなることは避けたい。動悸が少し激しくなるが、すぐ落ち着いた。修羅場を一日で何度もくぐり抜けたからか、少し心も安定しているようだった。ハコが横から話しかけてくる。

「はぇー、さすが決断が早ぇな」

「そんなもんだろ」

「いーや、先延ばしにしがちだぜお偉いさんは」

「そういうもんか」

「そういうもんよ」

「……というかお前のせいだからな?」

「……」


 放課後。俺が出口へ急いで向かうと、そこにはルカがいた。

「遅かったな」

「……まだチャイムなって一分も経ってないと思いますけど」

「そうか、私たちとは時間割も違うからな」

 まぁまぁ呑気な会話だな、と思った。似つかわしくない、この緊張すべき場において。

 この間と同じように、どういう原理かいまいち分からない中庭に偽装されている建物に入り、またもや応接間に通された。

 そこにいたのは、アリア、タイガ……の他にも、三人の選抜隊だ。一気に身が縮こまる思いがする。圧がすごいのか、少し手先が震える。それほど張り詰めている緊張感だった。

 ルカが言う。

「お前の処分は__」

 心臓が高鳴る。ハコは伸びなんてしている。他の人たちの表情も妙に重いものに見えて、嫌な想像は加速する。

「__選抜隊での保護観察・及び仮加入である」

「……は?」

 予想外の「仮加入」のワードにそんな声が出る。その場にいた一人にギロリと睨まれて少しビビると、ルカが続けた。

「お前の能力は特殊かつ使いこなせたら強力だと判断した。こちらで特訓を受け鍛錬を積むことによって上手く利用しようと言うわけた。お偉いさん方には新たなスペシア発現者を見つけたと言っておいた」

「なるほどねぇ、そういうこと。でも実際は俺の影響もちょっと心配したでしょ?」

 ハコが飛び出てルカに聞いた。この間いた三人の顔は張り詰める。他の三人はその様子を見ていたが、ルカが少し間を空けて答えた。

「……正直、そういう側面もある。悪魔なんかが取り憑いている男を下手に処分して祟られたり危害を加えられてはことだから」

「結果オーライらしいぜ〜ジン」

 ハコはうるさいが、まぁ確かにハコのおかげといったらおかげなのか……?と騙されそうになる。いや良くない。

「というわけだ。ただ本来の選抜隊と違い、授業の間は普通クラス……2-Bの授業を暫くは受けてもらおう。朝、放課後に特訓や任務を行ってもらう。いいな」

「? 選抜隊は違うんですか?」

「選抜隊はこの間のお前が起こしたような学校内での事故を防ぐためのパトロールや、別メニューの訓練があるからな。基本普通クラスとはいないんだ」

 へえ、と言うとアリア先輩が続けた。

「それとー、はいこれ」

 そう言うと、小さなバッヂを俺に手渡した。星型の、金属製なようだがどう使うか分からない。俺がそれを眺めていると、アリア先輩は言う。

「これはね、胸に付けたら通信機器の役割を果たすの。誰に通信したいか言うだけで読み取ってその人に通信を送れるスグレモノ。とは言っても選抜隊の中だけだけどね。あっ、制服については暫くはそのままでいいよ。仮入隊だからね」

「……すごい技術ですね」

「そう?」

 アリア先輩はきょとんとする。大人っぽく賢そうなだが、稀に子供のような表情を見せる人だな、と思った。ルカが言う。

「貴方には一応だが選抜隊に入ってもらった以上、きちんと任務をこなしてもらわなきゃいけない。それに特訓もせねば、その不安定なままじゃだめだろうし。実力を測るためにも、経験は積むに越したことはない。そこで、初めての任務を貴方たちに任せようと思う」

 そう言うとルカは咳払いをして、ある紙をおもむろに取り出し、読み上げた。

「ジン、タイガ、マリン。お前らには今日未明に起きた侵入者騒動について解決してもらう」

 侵入者?侵「略」者ではなくて?と飲み込むまもなく、タイガと、きっとマリンであろう、長い髪の女性が「はっ」と敬礼した。俺もそれに倣う。

「詳しいことはタイガに後で説明する。決行は二日後の午前二時だ。午前二時、我が学び舎の正門前に集合するように」

 また、はっと敬礼する。本当に軍隊に近い組織なことを実感し、冷や汗が伝う。

 その後、俺は一度返された。分厚い入隊についての説明書と共に、明日までに読んでこいと言われた。まだこの世界の常識も怪しいのに……と思うが、仕方ないのだろう。

 そういえばリサがまた待ってくれていると言っていたことを思い出して、教室へ向かうと、教室から争う声が聞こえた。そっと除くと、そこにはレイジとリサがいた。

「……だから、違うっつってんだろ!」

「そんなことどうして言えるわけ?! あなたがジンを__」

 俺の話?そう思って一歩下がると、足がもつれて転んでしまった。その物音におどろいて、二人が俺の方を向く。リサがつぶやく。

「……ジン……戻ってきてたの……」

 先程まで叫んでいたからだろう、リサの頬は赤くなっており、興奮して話していたことが伺えた。その相手であったレイジもレイジで、青ざめていた。なかなか状況が読み込めず困っている俺を横目に、リサが言った。

「あなたが否定しても、私が絶対に真実を突きつけてやるわ」

「だから、ほんとになんの事だよ? 落ち着けよリサ__」

 肩を揺さぶろうとしたレイジの手を、リサは引っぱたいた。「触んないで!」と叫びその場を後にする。俺がぽかんとしていると、レイジが俺に言った。

「……なんなんだ、あいつ?」

「……二人とも、俺がどうとか言ってたけど、どうしたんだ?」

 さあ、とレイジが言う。

「たまたま二人で教室にいたらさ、リサが怒り出して。リサは、俺がお前を記憶喪失にした、って言うんだ。意味わかんねぇよ」

「……! 心当たりないのか? 本当に?!」

「ああ。まぁ確かにちょっとイジったりはしてたけどよ……それが原因ってことか?」

「……俺も分からない」

「……でも俺も悪かったな。流石に度が過ぎてたわ。悪い、これからは控える」

 珍しくレイジのしおらしい様子を見て、やっぱり根が悪いわけじゃない、と咄嗟に思い、レイジに話しかけた。

「レイジ、強いんだろ? 今度俺に上手いABの操りかた教えてよ!」

 言うと、レイジは驚いた顔を一瞬見せたかのように思ったが、舌打ちをして、背を向けた。やっぱり急だったか?と思っていると、レイジは立ち止まって、ボソボソと言った。

「……ガチで暇な時な」

 そう言うと、レイジは早歩きで行ってしまった。ハコが笑いながら言った。

「あいつも、素直じゃないめんどくせぇガキだねぇ」

 俺はふっと笑った。

 右も左も分からない世界に放りこまれたけれど、なんとかやっていける兆しが、ほんの少しだけ見えた…

気がした。

うららです。

一章終わりました。まだ先は見えないけれど、大体十章ぐらいのイメージです。

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