episode7-2
「……リサ?」
「ああ、おはよう。ジン」
その朝、例の応接室に集まった俺たちは、今年度最後の会議をしようとしていた。三年が卒業して、年度が変わる最後の日のミーティング。なのだが……リサの様子がいつもと違っていた。具体的に言うなら……。俺は堪えきれず聞く。
「……髪型どうしたの?」
「え? これ変?」
「いや……」
髪型がいつものツインテールじゃなかった。訓練や任務の時のようにポニーテールにしてある。あまり見慣れないその状況に俺が違和感を覚えていると、その髪の髪ゴムに気がついた。よく見るとそれは……俺が旭から貰った組紐とそっくりだった。
「それ、貰ったの?」
「うん」
「誰に?」
「……湊!」
少しそっけなく答えられた。どうやら湊は振られた訳では無いらしい、となんとなく察しが着いた。俺がにっこりと微笑むと、リサは「何よ!」と噛み付く。
そんな会話をしていると、マリンが入室した。あ、と俺は思い出して彼女に話しかけた。
「ま、マリン昨日はごめん。色々……」
「……なんですか? ジンさん……」
ギロリと睨まれる。ひ、と俺が声にならない声を発すると、その場にいたタイガがフォローに回ってくれた。
「まあまあ、マリン。ジンにも悪気があったわけじゃないでしょ……まあまあ馬鹿だけど」
「それはそうだね。馬鹿だよ」
リサもうんうんと頷いている。昨日から引き続いてあまりにも酷い言われようである。一向に治らないマリンの機嫌をどうにか取ろうとしていると、ルカが入室してきた。
「皆揃っているな。……アリア先輩もルイ先輩もあの三人もいなくなったら妙に人数が減ったように思えるな」
「寂しいのー?」
タイガが茶々を入れると、ルカは咳払いをした。否定はしないらしい。そしていつもの凛とした表情を作って言った。
「明日から学校全体が長期休暇に入ることになる。冬が厳しいからな。……が、私たちのやることは変わらない。学校の警備と任務、そして訓練だ」
WI地区の冬が厳しいということは、なんとなく授業やらで聞いていた。もともとそういう土地柄らしい。が、やはり侵略者は現れるようで、その度に戦闘はある、と聞いた。
基本的に侵略者との戦いに関しては、短期決戦、という訳では無い。もちろんそういうケースもあるが、基本的にはじわじわと戦力を削いでいって、徐々にこちらの戦力を増していく、一週間ほどかかる長期戦である。その終盤に呼ばれるのが俺たちだ。
「ま、いつも通り気を抜かず……ってことだな」
リヒトがそう言うと、いや……とルカが返す。
「今回はそのばかりでもない。……SP地区からの援助要請が来た。我々にもその声がかかることになったんだ」
「SP地区……!?」
全員がざわつく。半壊状態とは聞いていたし前々から覚悟はしていたものの、俺たちに来るのか、と驚く。
「……ただ、全員に行ってもらう訳にもいかないから、今回はこのようにシフトを組んだ」
そう言うと、ルカがメモをみんなに見せた。みんながそのメモを注視する。俺も読んでみると、次のように書いてあった。
『学校に残る ルカ ジン リヒト マリン
SP地区援助 リサ タイガ』
「……なぜ私たちは援助なのでしょうか?」
リサが質問すると、ルカがああ、と答える。
「任務が起こった時、最低でも一人二人学校に残る人間が必要だから、この人数配分になった。タイガは去年から選抜隊にいたから、リサも分からないことがあったら聞きやすいだろう。あとは、リサのAB量は援助の現場でも使えると判断した」
「ああ、なるほどな。実力不足とかじゃないんだ。良かったな、リサ」
タイガが余計なことを言ってリサは少し不機嫌そうになる。ルカはなだめるように言った。
「援助期間は二週間だから、その間に色々知れることもあるだろうし、いい経験になると思う。あっちで侵略者が出たらどうにかしなきゃいけないし……」
「……そういえば、SP地区は内乱が起こってから全然出ませんよね、侵略者」
マリンが呟いた。そこなんだが、とルカ。
「どうやら何かしらの相関があるようだ。今、中心都市のほうで色々調べてはいるようだが、如何せんサンプルが取れないらしくて……」
「そりゃそうだ。侵略者のサンプルだから」
リヒトが吐き捨てるように言った。ルカは言う。
「とにかく、侵略者を殲滅するのに協力することが私達の仕事だ。だが他の仕事も沢山ある。それら全てを、休み中も怠らないように……ああ、だが多少の休みの申請は出しておくことだな。実家に帰ったりもするだろうし、休まないと限界が訪れる。……早めに出しておくこと。以上」
とルカが言って、その場は一旦解散になった。
「ルカ!」
「ジン、どうしたんだ」
解散したあと、廊下を歩いているルカを呼び止めた。俺は昨夜から考えていたことを聞く。
「どうにかして中心都市に入れないかな? ……行かなきゃいけないところがあって」
「……分からないが……何の用かにもよるんじゃないか」
そう言われると思って、返答は考えてあった。
「俺、旭に聞いたんだ。俺たちが一緒の施設で育ったって……。もしかしたら、そこに行けば何かわかるかもしれない」
「……! そんな繋がりが……いやまあ、珍しいことでは無いが……」
ルカはぶつぶつと何かを言って考えた後に、よし、と言った。
「どうにかねじ込んでみる。記憶を戻せるに越したことはないからな」
「ほんと?! ありがとう!」
俺はほっと一息ついた。本当はその上に行きたいなど言ったら行けないことは分かっていたから、とりあえず施設を見てみようと思ったのだ。俺が承諾してくれたことの感謝で思わず手を握ると、すぐにルカに振り払われた。
「汚いものみたいだろ!」
俺が憤然としてそう言うと、ルカが軽く睨んできた。
「前も言ったが距離が近い! マナーがなってない!」
「なんだそれ、別に友達なんだからいいだろ」
そう言うと、既に踵を返していたルカがピタリを足を止め、少し間が空いた後に言った。
「……友達は私にいない」
そう言うと足早に去っていった。……友達だと思っていたのは自分だけだったのだろうか。少しどこか様子のおかしいルカを呼び止めようとすると、後ろから強めに肩をつかまれた。
「……ジンさん……」
「うわあああ!」
余りの禍々しいオーラに俺は驚いてしまったが、その声は明らかにマリンだった。何か用だろうか、またなにか怒られるだろうかと身構えていると、硬い声でマリンが言った。
「……色々酷い態度取っちゃってごめんなさい」
「え」
「別に、いいんです。ジンさんが『ジンクス』を知らないことなんて分かってましたし……で、でも」
そう彼女は一回言葉を切って、続けた。
「そんなとこでルカさんとイチャイチャしないでください! このデリカシーなし男―っ!」
「え……えええ?!」
俺が唐突に言われたそれに驚いていると、とんでもない勢いでマリンが去っていった。
「……一体なんだったんだ」
俺がそう思わずつぶやくと、ハコが「お前いつか誰かに刺されるぞ」と言った。
俺がそのまま教室に入ると、レイジがよう、と挨拶をしてきた。つい先日会ったばかりなのに、なんだか久々に会ったような気がする。昨日から忙しかったからだろうか。
「昨日はお疲れだな! お前らも出てたんだろ?」
レイジが屈託なくそう聞いてきた。ああ、と俺は頷く。
「色々あって疲れたよ……後輩の子には嫌われちゃうし、他にも__」
旭のことを漏らしそうになって口を噤む。あまり言ってはいけない、となんとなく分かっていた。……なにか間違えたら、取り返しがつかないかもしれない、と。
「あ、そーいや隊長のドレス姿見たん?! めっちゃ美人だよな、めっちゃ怖ぇけど」
「……あ、うん、見た。綺麗だった」
「ひゃー! いいなあ、俺も来年見れるのが待ちきれないわ!」
そう言って、レイジは言葉を切って続けた。
「……でも、隊長もやっぱすげぇよなあ。なんせ__」
「ジン! なんか落としてるよ」
俺が慌てて後ろを振り向くと、リサがそこに立っていた。俺がとんでもなく驚いていると、何かを彼女はひょいとつまみあげた。その手にはメモを持っている。……それは、昨日小箱に入っていたものだ。うっかり持ってきてしまったようだ。
「なにこのメモ……暗号?」
「なんでリサがここに?!」
「選抜隊も元々のクラスに今日は行かなきゃダメなの。あれ、知らなかった?」
「そ、そうなの……?」
「これ……図書番号?」
図書番号。耳慣れない言葉に俺とレイジが顔を見合わせる。
「知らない? 図書館の本にはそれぞれ番号とアルファベットが降ってあるのよ。例えば医学ならCとか、5000番台がここ1年以内の本とか、細かくね」
「そ、そうなのか……?」
俺ははっとする。図書館を使い慣れている様子である彼女なら今分かるのではないか、と。
「こ、これ、なんのことかわかる?」
するとリサは少し顔を顰めて答えた。
「さすがにわかんない。捜してるの? ……にしては、何、最後の数値。25.5って。番号は整数でしか振られてないのに」
「……じゃあちがうのかな」
うーん、とリサが考え込んで答えた。
「いや、さすがになにか関連してると思うよ……。というか、これがなんだか知らないで探してるの?」
「い、いやぁ、何が何だか」
なんでそんなもん持ってるの、と聞きつつリサは深堀りしない。はあ、と彼女は軽くため息を着いてこう言った。
「仕方ないから、今日終わったあと図書館着いてくよ」
「……前も思ったけど、なんか詳しいね」
俺が言うと、リサは肩をすくめる。
「……少し、調べることがあったからね」
俺も深堀りしない。
レイジは一人で「俺も行こうかなー、暇だし」とどこか呑気に呟いていた。
「2396-28-A-25.5。とりあえず検索かけてみたけど、やっぱり無いみたい。とりあえず25探しておく?」
図書館の機器で検索をかけていたリサが俺にそう聞く。俺が「頼んだ」と言うと、手早く調べてくれた。
「……にしても、あんまり見ないなあ。9年前の4月ごろ書かれた、宗教の本。作者番号……25だっけ」
「そうだね」
「じゃあかなり有名なはずだよ」
「この小説おもしれぇ!」
レイジがきゃっきゃと後ろではしゃいでいて、周りの人々に注意されている。俺たちは顔を見合わせて苦笑した。
リサが先導して歩くと、ずらりと難しそうな本が陳列してある、図書館の隅っこにある大きな本棚で止まった。分かってはいたが、背丈よりもずっと高い本棚だ。
「宗教関連はここ……だけど、げっ、だいぶ高いとこにある」
リサがげんなりした表情で言うと、レイジが言った。
「飛翔AB使おうぜ。そっちのが早い」
俺たちは浮きながら上に行った。リサは場所の検討は着いているらしかったが、ああ、やっぱりと言った。
「最上段。手に取る人少ないでしょうね、この辺難しいし端っこだし、高いから」
「とりあえず見てみるか」
例の番号の本を見てみると、『悪魔と天使大全』という名のなんとなく胡散臭い本だ。いや、実はほんものの悪魔がいるほうが胡散臭いかもしれないが。
最後の数字が26番の本もあったので、そちらも見てみると、「正しい祈りの捧げ方」だそうだ。どちらも普通の宗教本らしいが、中をパラパラとめくってもよくわからない。
「……この本を借りてみろってことか?」
「……さあ?」
でも、とリサ。
「この本、前に読んだことはあるけど何もたいしたこと書いてなかったよ」
「マジかよ、ほんとになんなんだ?」
俺とリサが頭を捻っていると、なあなあ、とレイジが言った。
「25.5ってことは、25と26の番号の間だろ?」
「ええ。その順番ごとに並べられてるわ」
リサが頷く。
「ってことはここに……あった!」
先程あった本と、その本の間を探す。と、その間に紙が挟んであった。あ、と思い返す。その紙の質感は、例のこの本を探すために使ったメモの質と全く一緒だったからだ。その紙がひらひらと下に舞い落ちそうになり、俺は慌ててそれを拾う。
「そこに、なにか書いてあるんじゃないの?」
「なにか……」
きっと『あの場所』の行き方だったりするのだろう。そう思って恐る恐る紙を開いてみると……そこにはただ、四桁の数字が書かれていた。
『2105』
その数字の意図することが分からず、俺がまた首を傾げると、リサがえぇ、と言った。
「何よこれ。ジン、ミステリー好きの彼女でもできたの?」
「そういうんじゃないけど……ごめん、着いてきてもらっちゃったけど……結局意味なかったな」
「宝探しとかじゃないのかよー」
レイジだけなんとなく呑気な感想だ。これが手がかりと言ってもいいのかどうか俺たちはわからず、なんとなく気まずい雰囲気になって、その場は終わった。
うららです。お久しぶりです……!
テスト期間に入るand軽いスランプに入っちゃったのでテスト期間終わるまで更新しないかもです、ご了承ください
もしかしたら短編とかは描くかもしれない……?です!




