episode7-1
遅刻投稿ごめんなさい……!!!!!!!!!
俺たちはそれぞれベッドに腰掛けて相対した。……昔会ったことがある。施設……。驚いたけれど、正直納得出来ることも多かった。
自分から全く『家族』の気配がしないこと。誰に聞いても家族に対してのことは聞いたことがないと返される始末。それが施設で育ったから、というのならそれは妙に納得のできることだった。旭は口を開く。
「さっきも言ったけど……俺たちは昔、施設にいたんだ。俺がいた、ってことは前言ったけど。七つぐらいまでだな。だから覚えてないとは思っていたけど、まさか記憶ごとなくなってるなんてな」
旭はそう言って苦笑した。俺は頭をかく。
「ごめん。俺全然覚えてなくて……なんにも」
「そうだろうな。それは仕方ないよ」
「というか、なんで最初に言ってくれなかったんだよ」
「ごめんごめん、確証が持てなかったんだ。君が俺の知ってるジンそのものだって。だから変に混乱させたら悪いって思って」
「こっちは手がかりを探してるとこだよ。どんな手がかりも必要だ」
はあ、と俺がため息をついた。それで、本題だ、と彼が言う。俺は姿勢を建て直した。
「俺がお前にあげたもの、ここにあるか?」
「……あげたもの?」
「やっぱり何も覚えてないか。小箱だよ。花の装飾が入ってる……」
はっと俺は息を飲む。そしてハコに聞く。
「……それって!」
「間違いなく『アレ』だな」
覚えていないどころか。焦って起き上がって小箱を拾いに行く。……あの、鍵のついた小箱の事だろう。手がかりがあるのかと思って俺は彼にそれを見せることにした。
と、彼はおお、これこれ、と言って慣れた様子で……その木箱の部分部分をスライドさせていく。そんなことができたのかと驚くと同時に、何をしているか分からず俺は驚いた。
「それ……何してるの……?」
「ああ、これはからくり箱って言うんだ。俺の今の養父が持ってきてくれたのを君にあげたんだ。あの時君に開け方は教えておいたけど、もう記憶ないって言うんだからね」
「つまり……?」
「この箱は今俺だけが開けれるってこと。特殊な順番でしっかりスライドさせないと開かないんだよね、これ。鍵とか要らないで開けられる、SU国の技術だよ」
どうやら鍵穴はダミー、この開け方が正しいようだ。かちゃかちゃと動く手元を見て俺は感心する、と同時に、この中に……と心臓が跳ねた。
半ば諦めかけていた記憶を……取り戻せるかもしれない。その期待に俺の胸は今までにないほど高まる。ハコもへえ、と言った。
「こりゃまた……偶然も起こるもんだなあ……」
「ハコ。……この小箱の作りについては知ってたの?」
「いやあ、それがさっぱりだな。……もしかするともしかするかもしれないな」
俺たちが固唾を飲んで見守っていると、旭があ、と声を漏らす。
「終わったな。八十六回回せば空くぞ」
「……これ、もう開けられるの?」
俺が聞くと、旭が頷く。俺が手を掛けると、たしかにその小箱は空くようだった。俺が慌てて開けると……中から白い光が俺たちの目を貫く。衝撃に目を瞑った。
……と、目を開けると……。そこにはホログラム映像が映し出されていて、心底驚いた。あとから聞くにはどうやら技術としては一般的らしい。そしてその画面に写っていたのは。
「……俺?」
そう。俺……いや、俺の顔をした人間が……もっと言うと、記憶を無くす前の俺であろう『ジン』の姿がそこに映っていた。前髪が今より長く、真剣な顔をしてこちらを見つめていた。心臓が脈打つ。あれが……俺だった人だ。
画面に写っている彼は、こちらに話しかける。どうやら、自分の部屋の中のようだった。
『あー……声も映像も届いていることを祈っています。この映像を見ているのは旭……もしくは俺でしょうけど』
旭のことを知っている。記憶を失う前の俺であることは確定だ。画面の中の『ジン』は言葉を続けた。
『俺が今生きてるのか……生きていても今と同じような感じなのかは分かりませんが、俺は今から中心都市に行ってきます。もし旭が見ているのなら……覚えているよな? 『あの場所』だ』
「……『あの場所』……に?」
旭がガタッと立ち上がったあと、そう呟いた。あの場所……あの場所?俺が怪訝に思っていると、えーっと、と『俺』がまた言う。
『もし誰かその他の人や……俺自身で、なにかヒントを知りたい人がいるのなら……【あの場所】を探してみてください。今俺の身に何が起こってるかは分からないので、こういう言い方にしておきます。あと、この箱の中にもヒントの片鱗ぐらい入れておきましたから、それもよろしく。……旭。お前が見ているのなら頼りになる。頼むから、俺の意志を……継いで欲しい』
じゃあ、と唐突に切られた。……あの場所。ヒント。……箱の中!とりあえず俺たちは箱の中を覗く。と、中には紙切れが一つ、ころんと転がっていた。ルーズリーフに書いてあるようだ。取りあえずそれを覗いてみると。
『2396-28-A-25.5』
なんの数字か分からず俺たちは顔を見合わせる。うーん、と二人で唸った。とりあえず俺は旭に聞く。
「リピートとかはできないの?」
「ざんねんながら、無理だろうね。操作方法も分からない」
「それに、色々聞きたい。『あの場所』ってどこだ? まさかハコも知ってんのか? ……なあ、旭」
「そうだな……悪い。俺も今まで忘れてた。でもあの場所……っつったって……なんで今更そんな……」
「旭」
「分かった。……とりあえず施設についてお前は詳しく知ってるか?」
旭にそう聞かれて俺は首を横に振る。旭が昔そこで育った……そして俺も。そういうことしか聞いていない。そうだよな、と旭は頷いた。
「俺たちは生まれた直後に全員一律で中心都市に検査しに行くんだよ。そして親が引取りにくる……っていうのがまあ普通だな」
それで、と旭は言葉を続けた。
「色々な事情で自分の子供をちゃんと引取りに来ない人もいる。そういう子供達を育てていく……っていうのが中心都市にある『施設』だ。多分……自分の子供を責任取って育てられない人よりも中央の方で育てた方がいいってな算段だろうな」
「……なるほどな……」
その説明に納得がいった。そのまま旭は話を続けた。
「そして、子供がいなくて欲しい人にきちんと引渡したり、そのまま育ててこういう学校とかに入れるんだ。少なくとも虐待的なことはない……至って普通の、寧ろ良心的な施設だったように思うよ」
俺は学校にそのまま入れられたのだろう。とりあえずなんとなく背景はわかる。
「なるほどな……それで、俺と旭はなんであんなに仲良さそうだったんだ。地区も違うって言うのに……」
「さっきも言ったけど、俺が引きとられるまでは一緒に施設で育っていたんだ。その中でもジンとは特に仲が良かったんだよ。それはよく覚えてる。俺はあんまり社交的なタチじゃないけど、お前が仲良くしてくれたからな」
「……あの場所ってなんだ?」
そう聞くと、彼は肩を竦めた。
「中央都市の中にある抜け道のこと。そして……そこに繋がる空間」
「抜け道……?!」
「まあ、俺たちは小さかったから。普通の人間が通れないような隙間を見つけてってことだよ。あんまりおぼえてないけどな。そこでよく遊んでた。そして、今画面に映ったお前はそこのことを言ってる」
「その抜け道を探せってことか?」
俺が旭に聞くと、うーん、と唸られる。
「その道は、施設の先生に俺たちが行ってることがバレて、危ないから行っちゃダメって言われたんだよ。実際、ちょっとしたら閉鎖されてた」
「それってどういう場所だったんだ」
朧げだけど、と旭が前置きをして教えてくれた。
「……沢山のカプセル? とか、機械みたいなものが並んでて……その中に赤ちゃんがいっぱいいたんだ。後で先生からは産まれたばかりの赤ちゃんの検査のための部屋だって教えられた」
検査室。そりゃ危ないだろう。……そこに行けということか?何故……。俺が頭を捻っていると、旭が肩を竦めた。
「んま、最後の一回しか入れなかったんだけどな。それまでは抜け道を探検して秘密基地みたいにして遊んでただけだよ」
「でもじゃあ、なんで俺はそこに行けーなんて言うんだよ。何があるわけでもなさそうだし見つかったらまずそうな……」
「行ってみて確かめろってことじゃないのか」
横からハコが口を挟む。……こいつ。俺はハコに詰め寄った。
「お前、旭が俺と友達だったこと知ってたんだろ。なんで黙ってたんだよ」
「いつかは知れるだろうな、と思って。そもそも旭は何回か言おうとしてたぞ」
え、と旭の方を振り向くと、旭は苦笑している。……なるほど、それは俺が悪いのかもしれない。
俺はうーん、と聞く。
「お前……ハコは、そこについては知ってるんだよな? 俺の記憶が分かるってことは」
「まーあ一応な。でも言わねぇぞ」
やはり手強い。俺は容赦なく舌打ちをかます。全くハコは底意地の悪い。
旭が少し黙りこくったあとに話を再開した。
「ジン。俺は……少し危険だと思う。何があるかわからない。記憶を持っていた時のお前がなにをしようとしてたかも不鮮明なままだ」
「それでも……やるしかない。俺は、俺のことが知りたい。それはずっとそうだ。……最近、思い出さなくても……と思ったこともあったけど」
ぐっと拳を握りしめた。自分自身の思いを確かめるように。
「……俺は、エゴだとしても……俺のことが知りたい。そして、俺がしようとしていたことを、今の俺が良いと思う限り、全うしたい」
旭は少し固まって、ふっと笑みを零した。
「……小さい頃から変わってないな」
「え? いや、だいぶ違うって言われるんだけど……」
「それは高校の話だろ。俺が言ってるのは……ほんとに小さい頃の、根っこのお前は変わってないんだな、ってことだ」
「……そうなのか」
旭は微笑む。その微笑みはなぜか少し悲しそうだ。
「……まっすぐだよ。羨ましいほど」
「……あさ」
俺がなにか声をかけようとした時、ガチャっと音がした。湊が帰ってきたのだろう。俺はあわてて小箱を隠す。湊を信用していない訳ではなく……下手に扱いたくない、という思いが勝ったからだ。
湊は少し疲れているように見えた。心做しか、顔色も悪い。
「……ただいま」
「湊? 大丈夫? 顔色悪いけど」
俺が聞くと、湊はきょとんとした顔をした。
「え? 僕そんな顔してるの?」
「だいぶ」
「してるな」
旭と頷き合う。あーあ、とハコは俺と旭に耳打ちする。
「……リサ嬢に振られたんじゃねぇの」
二人であー、と声を上げると、湊は怪訝な顔をする。とりあえず俺たちは菩薩のような笑みを浮かべて彼に話しかけた。
「……大丈夫だ。いい糧になるよ」
「……ジン?」
「若いうちに失敗しておくべきっていうよな」
「旭? なんの話してんの二人? え、おい……怖いんだけど……」
俺たちが湊の肩を叩くと、湊はげんなりとした表情を浮かべた。
翌日……起きると、もうそこに旭と湊の姿はなかった。一瞬なにかの敵襲かと疑ったが、朝早く出発したと納得する。机の上に、紐が一本置いてあった。……例の、狐面の組紐だ。俺は驚いてそれを見つめた。よく見るとそのそばに置いてあるメモに走り書きしてあった。
『俺のABを込めておいた。何かの時のために使えよ。__旭 P.S.色々ありがとう! またどこかで。__湊』
赤く、キラキラと光る組紐。俺はそれを見つめて、三人に思いを馳せた。……俺のために、一つ、置いていってくれたその紐を、握りしめた。
「……またどこかで会えたらいいな」
「会えると思うぞ。二度あることは三度あるって言うし」
旭との再会を仄めかしているのだろう、ハコはそう言った。珍しく優しい言葉に聞こえて、俺がぎょっとした顔をすると、ハコは無い目で睨んできた……ような気がした。
窓の外をみると、まだ少し暗い。……星がキラリとかがやいて、朝日が登っていっているのが見えた。
俺は紐をぎゅっともう一度握りしめて、手首に付け直した。朝陽に反射して、キラキラと輝いた。
うららです。全力遅刻投稿です。
ほんの少し核心に近づいてきましたね。楽しんで読んでね




