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SPECIA  作者: うらら
5章 錯綜、そして挫折
16/25

episode5-1


 旭の改まった様子に、俺とルカは顔を見合わせた。ただごとじゃない。ふっと彼の顔が苦しそうに歪んだ。

「俺は……いや『俺たち』は今まで嘘をついてました」

「嘘……?」

 ルカが困った様子で聞き返した。なんにも思い当たることがないのだろう。はい、と旭。

「俺たちは……王……桜の父を殺したのは誰かを知っているんです」

「えっ……?!」

 俺たちが驚くと、旭が本当にすみませんでした、と頭をさげる。

「どうしても……言い出せなくて」

「どういうことだ。殺害があったから内乱を警戒して……」

「本当は『そういうことになっている』だけです」

 そう前置きして、旭が話し出した。

「……ただ……言えませんでした。……だって王を殺したのは……」

 心臓が鳴る。

「……湊だから……」

 がたっと音がした。ルカが立ち上がったのだ。その顔は青ざめている。

「……そんな! そんなことが許されるわけ__」

「彼には……『その記憶』だけが……全く無いんです」

「……記憶がない?!」

 俺は思わず反応してしまった。俺と同じようにハコみたいなやつと契約しているのか?、そう思っていると、ハコが見透かしたように否定した。

「いや、それはないな」

「え?」

「そういう感じがしない。単純に脳にショックが加わったことによって一部の記憶が消えただけだろうな」

「わかるのか? そんなことが」

「……いや、勘だが……。でも多分俺や俺みたいなやつは関わってないぞ」

 旭も頷く。

「多分それで合っていると思う。あいつは殺害の動機と、その時の記憶がすっぽり抜け落ちているんだ。……だから現状あいつは誰かに危害を加えようとしていない。犯罪者の湊じゃなくて、その前の湊……その精神状態ってことだ」

 ルカが怖い顔でギロっと睨んだ。旭はそれに怯んだような表情をする。少し間を開けて、ルカがため息をついて、言った。

「……それでもあいつ……湊が人を殺したことに変わりはないだろう。説明してもらおうか。もし私たち、ひいては特殊学校やこの地区の人に危害を加えたら……」

 少し言葉を切って、ルカは凄む。

「お前らをタダで帰す訳にはいかなくなる」

 旭はいたたまれない顔で俯いた。そして力なく頷く。

「……俺たちが悪いんです。……説明はします。とりあえずそれを聞いていただけますか。」

 俺とルカが静かに頷いたのを確認して、旭は話し出す。

「……俺と桜、そして湊は、幼なじみでした。俺は捨て子だったので、七つぐらいのころ施設からSP地区の今の家に移ってきました。すると、そこで武道の家の湊と……その時は知らなかったのですが、王家の桜がいたんです。

俺たちは家が近かったこともあって、三人でこっそり集まって遊びました。遊びという名の戦いごっこですが。俺の家は芸の一家だったのですが、そこでは裏方しか任されませんでした。他の二人も同じようなものです。湊は腕こそ認められているもののやはりABが使えないことがハンデになっているし、桜は王家の女ということでマナーの教訓は壮絶だったらしいのです。特に……男尊女卑的なところが、実は王家であったらしく、桜は虐待を受けていました。俺たちはしばらくそれを知りませんでしたけど。王家にいることは成長していくにつれ分かりました。彼女が監視の目を盗んで俺たちと遊びに来ていることも、徐々にわかってきました。でも、俺たちの関係はずっと変わらず、三人で一緒に過ごしたり鍛錬を積んだり、あるいは依頼で妖……侵略者を倒しに行ったりもしていました。

俺たちが虐待を知ったのは最近です。つまり……数週間前。もしくは一ヶ月ほど前でした。SP地区のこともあって王家は殺気立っていました。その事もあって、王の機嫌はとんでもなく悪かったのでしょう。彼女の腕に痣があるのをたまたま俺たちは見てしまったんです。……彼女は否定しましたが、虐待の推察は容易に建てられました。俺たちはそれを確かめて証拠を突きつけるために、王家の家……つまり城です。城に忍び込みました」

「そんなことできたの?」と俺が聞くと、旭が答えた。「まぁ似たような遊びもしたことがあるし、ABやスペシアの使い方を工夫すればできるよ」と。

 彼は一息おいて続けた。

「それ自体は容易でした。王の部屋にたどり着くのは少しだけ困難でしたけどまぁどうにでもなりました。俺たちが耳を澄ませると、『痛い、やめて』と声が聞こえてくるのです。桜の声でした。か細いその声に俺たちは気が気ではいられなくなり、ついに部屋に突撃しました。

そこには凄惨な光景が広がっていました。調度品は無惨に散らばって、部屋は豪華絢爛のはずなのに暗く思えるくらいでした。桜は王である彼女の父に胸ぐらをつかまれてぐったりとしていました。彼女の頭からは血が流れ出ていて、顔も腫れていた。あれだけ強力なAB、スペシアを持っていながらそれを行使するような気力もないようでした。頭の血が引いていくのを感じました。現場を見られた王は青ざめてこちらを見ていました。彼がなにか言おうとするや否や、彼の首は床に転がり落ちていました。

……湊が剣を振るっていたのです。彼の手もなにもかも血で汚れていました。俺と桜が状況を上手く読み込めずにいると、彼はバタンと突然倒れました。現実から目を背けるように倒れたのです。キャパオーバーだったのでしょう、俺たちは慌てましたが、彼を裁くようなことをしたくありませんでした。俺は固まってしまったけれど、俺だって同じことをしていたかもしれません。彼は桜を助けたい一心でやってしまったことには代わりがないのでしょうから。

俺たちは回らない頭と呂律でのろのろと話し合っていました。このまま正直に全てを言うべきか、それとも……。そんなことを話していると、寝そべっていた湊が唐突に起き上がりました。そしてこう言ったのです。

『……ここ、どこだ? これってどうなってるんだ……?』と。

桜の虐待のことから殺害までを、湊は一切合切忘れているようでした。その事を察したのでありましょう。桜はさっと返答しました。

『……私たち三人で部屋に入ったら、お父様が……誰かに殺されていたの』

と、大嘘をつきました。真っ赤な嘘です。俺は桜がなんでそう言ったか、痛いほどにわかりました。……自分を守ってくれた彼をみすみす処刑するなんてことができるでしょうか。

彼はあっさり信じました。ただ自分の記憶がないことには疑問を持っているようだったので、俺たちはその時湊の気が動転していたということにしました」

「……それが湊のためになるとでも?」

 険しい顔つきでルカが尋ねた。旭は首を横に振る。

「そんなわけは無いです。ただ……記憶が無いのに処罰される彼の気持ちを考えたとき、俺たちはそうするしかなかった。そしてもう止まれなかったんです」

 想像してみた。俺が記憶を無くして目を覚ました時に、もし心当たりのない罪をかけられていたら……。考えただけでもぞっとする。自分がしたとどうやっても思い出せない罪を、自分のために背負うことになるのだ。

 旭は重々しくまた口を開く。

「俺たちは二つ、決め事をしました。一つは、彼の記憶が戻ったらきちんと罰をうけさせること。そしてもうひとつは、もしまた同じようなことを彼がしたら……俺たちも責任を取ることです」

 責任を取る。その言葉の重さにぞっとした。つまり彼らは……彼を殺して共に死ぬつもりだというのか。友人のために。覚悟の深さに慄いていると、ルカが苦しげな顔をして口から言葉を出す。

「……なぜそれを言う。それを言えば私たちに処分されるかもしれないのに! お前たちが守ったものが仇になるかもしれないぞ?!」

 最後は怒鳴り声に近くなっていた。はい、と旭が言った。その声はハッキリとしていて迷いがない。

「この行動は俺のエゴです。俺があなた達に……受け入れてくれたあなた達に不誠実だと思って言ったまでのことです。もちろん桜にもあなた達に言うということは言っていません。いくらでも処分ならしてください……俺を」

 あくまで自分一人の処刑に留めようというのか、と俺は驚く。それだけで済む確証もないが、その度胸に俺は感服してしまい、思わず口を挟んでしまった。

「……処分なんてするわけ__」

「ジン、黙れ」

 ルカに一喝された。俺が黙ると、厳しい口調で続ける。

「ジンの一存で決められることじゃない。ジン、とりあえず今聞いたことは誰にも言うな。私が最終決定を下す」

「ルカだけが聞いたわけじゃないだろ」

「分かってるのか?! 場合によっては処刑どころじゃない、地区同士の戦争にもなりかねない、WI地区の滅亡にも繋がりかねない! 三人とも相当な実力を持っているのはお前もわかっているだろう? もし湊がまた我を忘れたら? 逆に処刑してSU地区との軋轢が産まれたら?! どう責任を取る! 記憶を失ったジンにその決断は正しくできはずがないでしょ?!」

 ルカが一気にまくしたて、息を荒らげた。もっともである。「……悪い、言いすぎた」とルカが言ったが、彼女はまだ続けた。

「……どうにしろ私に任せてもらいたい。私が次期隊長だ。旭、それでいいよな」

「確認なんて大丈夫ですよ。……なんであっても受け入れます」

 そう言いながらも彼の瞳には鋭い光が宿っていた。それは暗に湊と桜の処刑を許さないと言っているように思えて、俺は目を逸らした。ルカがはぁ……と今日一番深いため息をついた。

「また厄介な……」

 空気が重くなる。俺はいたたまれなくなり、とりあえず口を開く。

「……そろそろ、俺は訓練に……」

そう言った瞬間。ドタドタ、と慌ただしい足音がドアの外から聞こえてきた。何事か、と思う間もなく怪我をしてボロボロのリサが扉を勢いよくあけた。ルカがガタッと席を立つ。ただ事ではないと察知したのだろう。リサは半泣きで、叫ぶように言った。

「アリアさんと桜ちゃんが……っ!」


 混乱状態のリサを宥めながら大体の話を聞いた。どうやらA級侵略者どころの実力ではない……S級に近い其れだったらしい。最初は反撃もほぼせず、これはいける、と思った次の瞬間、変形して白い……おそらく攻撃AB由来である、斬撃の光を発したらしい。リサは元々のAB量が多く、とっさの防御ABの出力で充分間に合った。タイガはその時たまたま建物の陰にいたことで難を逃れられた、剣使いの二人も、ルイ先輩が攻撃の予兆を察知して湊ごと防御で守ったことから、その四人は無事だった。しかし、アリア先輩は展開が間に合わずに重傷、桜は防御AB自体は展開できたものの衝撃で頭を打って気を失ってしまったという。少なくとも桜は命に別状はないらしいが……。

「アリアさん、骨も折れちゃって、出血量もすごくて……っ! いま病院にいて、ルイ先輩とタイガはそっちにいます。桜ちゃんは湊がさっき救護室に……」

「作戦本部は何をしている!」

 ルカの怒号が飛んだ。本当に、さっきの旭のときよりもさらに怒っているようだった。

「広範囲攻撃でアリアさんの骨がどうこうなるレベルはAランクなんかじゃない! Sランク以上だ!あいつらは目が節穴なのか?!」

「それが……未確認のものだったらしく……」

 はあ、とルカが嘆く。「それでもなんとなく察しがつくだろ……」と呆然と呟いて、腰が抜けたようにソファに座り直した。リサが続けた。

「……とりあえずそいつ自身は残ったメンバーでどうにか……撃破したようです。私たちは前線から下げられましたが、最新兵器の活用で……」

「そもそも技術があるなら最初からなぜ使用しない」と旭が鋭い声で言った。とてつもなく苦しそうな表情だ。リサはええと、と説明する。

「コストがすごくて、A級までにそんな兵器バンバン使ってると破産どころじゃないの。だからって兵士を使うってのもどうかとおもうけど……対処自体は今できてるからそれでいいだろってなっちゃって」

「……本末転倒だな。民衆を守るためのはずなのに……」

 旭がぼそっと嘆く。普段なら自分たちの存在意義が分からなくなるのでそんな台詞はご法度だが、そんなことを突っ込める人はいなかった。皆同じことを思っていたのだろう。ルカが言う。

「……リヒトとマリンに伝えてくる……」

 声が震えているようだった。俺はいたたまれない気持ちになる。桜はともかくアリア先輩に関しては……自分のひとつ上の先輩として慕ってきたのだろうから、そういう反応になるのは至極当然とも言える。

「俺は……桜んとこ行ってきます!」

 旭も真剣な顔で出ていった。部屋には俺とリサが残されていた。リサは重い声色で呟いた。

「……とりあえず、着替えてくる。……ジン」

「……何?」

「私、何も出来なかった……」

 そう悲しげに呟いて、ドアの外に消えていった。バタンと音がして、俺はやるせなさで、小さく縮こまった。


うららです。

10万字ぐらいかと思っていたのに気がつけば7万文字です。あと3万で終わる気はしないのでがんばってどうにか収拾を付けます。

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