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SPECIA  作者: うらら
4章 遥々狐たち
14/25

episode4-3


 悪い夢を見た。


 手には血がべったりとついていた。闇が自分のことを飲み込む感触がする。「嫌だ」と叫ぶが、それは止まらない。

闇の向こうに『二人』が遠のくのが見えて、必死に追いかけようとするけれど、足が動かない。必死に手を伸ばす。


「待っ……!」

 ……飛び上がって目が覚めた。夢だったようだ。心臓がバクバクと脈打つ。外を見やると、朝焼けの色が綺麗に見えた。早朝のようだった。



「……寝起き悪いんだね、湊……」

「まぁいつものことだよ」

 もうそろそろミーティングの時間なのにまだ寝ている湊に旭が蹴りを入れて強引に起こした。大丈夫か、と思うけれど、旭は「こいつ、こうでもしないとダメだから」と言った。湊は「ひどい!」と言っていて、なんだか愉快な目覚めだった。


「……ということで……一応三人の留学……?を許可することになった」

 なんだかボロボロのルカがそう言ったのを見て、俺は思わず突っ込む。

「昨日何があったんですか?! 皆なんかボロボロですけど」

 ルカだけではなかった。リサと俺以外の全員のクマは酷く、髪の毛のセットもいつもよりちゃんとしている人が少ない。マリンがぼそっと言った。

「……あの後結構遅くまで話してたんで……。ルカさん、その後も仕事やってたしほとんど寝れてないんじゃ……」

「……ホントにいいんですか?」と桜が不安げに聞いた。昨日のやりとりが効いているのだろう。ルカが答える。

「最終的には意見が長期的なメリットを見据える方針で合致したからな。しばらくの間はこっちで……」

 そう言いながら、ルカは目眩を起こしたようにふらつく。俺は慌てて駆け寄るけれど、彼女はすぐに体勢を建て直した。あまりにも危うい。

「ルカ! 頼むから寝てくれ!」

と俺が言うと、「そういう訳には……」とルカが首を横に振る。

桜はあの、と言った。

「ご迷惑をおかけしますが……よろしくお願いします!」

 その実直なお礼に、少し空気が和らいだ。俺も安心した。どうにか隊の空気が戻ったように思えたのだった。

 そういえば、と湊がリサに話しかける。

「そういえば応接室に限らず床で寝るのダメだね、悪夢見る」

「……え、どんなの……?」

「……致死量のパスタを食べる夢……?」

「それは悪夢……なのかな……?」

 リヒトはむすっとしているし、アリア先輩は「まぁみんな白熱してたもんね……私はもう途中から眠かったけど……」などと言っていて、人数が増えたことも相まってか完全にカオスである。

 俺はとりあえずほぼ寝ていないというルカに寝ろと説得した。他のみんなよりも明らかに疲れているのだ。無理もない。遊びにも行って戦闘もして……からの徹夜だ。体力がいくらあるとはいえども中々のキツさだろう。

見かねてルカを救護室に連れていくと、ルカが言った。

「……お人好しだな、お前も」

「まぁ……。ルカにはいつもお世話になってるし」

「昨日のことだが……リヒトはああ言ってたけど……そんなに気にするな。貴方は頑張ってるよ……まぁ多少実力不足は否めないけど」

 俺はルカがフォローしてくれたことに驚く。そういうことをするタイプだとは思わなかったのだ。ただ、俺は反論しておく。

「……でも、あいつの言う通りです。大丈夫です! 実力つけて黙らせますよ」

 そう言うと、ルカはふっと笑った。そしてそのままうとうととしだしたので、俺は退散した。ルカのまともな笑顔を見れて、少しだけ嬉しかった。


「なんか大変だったらしいなー、選抜隊」

 レイジが教室でそう声をかけてきた。俺は驚いて返した。

「なんで知ってるの?」

「噂だぜ。ひっさしぶりに逃げられたとかなんとかで」

 そっちか、と少し思う。よかった。SU地区との交流のほうはバレたら少し荒れそうな事案だった。とはいってもそちらが漏れていいものかはわからないが……大丈夫なのだろう。

「……まぁな。というか消えられたというか」

「なにそれ。怖いし大変だな……。あ、リサは元気?」

「元気だよ。訓練頑張ってる」

「あいつにもお前にもマジで悪いことしたよなぁ……。はあ」

 レイジはちゃんとリサに謝ってからもよく罪悪感を覚えているようだった。良い奴だよなぁ、なんだかんだ……と俺は苦笑した。……しかし。

 俺が力を欲した原因が本当にこいつにあるのか?とも思ったのだ。確かに、レイジのいい所を知らなければそうかもしれない。だが、本当に……?疑念が増す。そう思って、とりあえずレイジに聞いてみることにした。

「なあレイジ。俺って……記憶を失う前どんな感じだったの?」

「どんな感じって……まず弱かっただろ」

「反省してるのか?」

「してるって! でも事実だろ……えっと、別にでも俺に何か言われても言い返したりはなかったな。というか全然気にしてる感じなかったし……だから俺色々気づかなかったのもあるんだけど」

「気にしてないってどういうこと? 無視とか?」

「無視……というよりあしらわれてた感はあるな。かわされるというか……まぁ俺もそれにはちょーっとムカついてたのもあるけど……」

「え? そうなのか?」

 てっきり気にしていない素振りだけだと思っていたが、かわしたりしていたのか。それでも不満が溜まっていたのか……?そう考えを巡らせているうちに、担任の先生が来たので俺は慌てて席に着いた。

 ハコが肩からひょいと話しかけてきた。

「まだ探りいれてんの? 諦めればー」

 怪しまれないよう筆談で返した。

『そういうわけにもいかない。俺は俺のことをちゃんと知りたいし、記憶も取り戻したいから』

「ふーん……ま、がんばれば? 俺は今まで通り必要な時に力貸すからさ〜」

「他人事だと思って……」

 そう漏らすと前の席のやつから不審そうに見つめられたので、俺はあわてて黙った。


「……やっぱお前強いな?!」

「そーう? ありがとう」

 選抜隊での特訓をしながら、俺と湊は一息ついていた。ルイ先輩も見てくれていて、俺にアドバイスをしてくれた。

「ジン、握る拳とかに力入ってない? 一回抜いたほうが速く剣は振ることが出来るし、体への負担も少なくて済むよ」

「……あっ、確かに……」

「よし。……湊? だっけ。君すごいね。やり方も武器もちょっとこっちとは違うけど……。なんなら俺より剣扱うの上手いんじゃないの」

 ルイ先輩に話を振られた湊は、いや、と照れたように笑った。

「僕なんて全然っす。旭も桜も僕よりずっと実力があるんで……僕ABとか使えないし」

「そういえばそれって何でなの? 俺そういう人まだ見た事ないかも」

 と俺が聞くと、ルイ先輩が軽く咎めた。

「ジン。あんまりそういうのは無闇に聞かない方が__」

「あはは。いいですよ。確かに僕も僕以外で見たことないし。……まぁ体質なんでしょうね。ABがそもそもないんでしょうけど、何かと不便かな。ここにくるまでの二週間の移動のときなんか旭と桜に頼りっぱなしだったし」

 当の二人は、ちらりと別の方を見やると、リサやマリンたちと練習をしているようだ。声が聞こえてくる。マリンの声だ。

「旭さんのAB量は796で桜さんに関しては912?! すごいですね……」

「まぁ俺たちはよく三人で遊びも兼ねて戦ってたりしたからなあ。その時は加減も知らないし、本気でやらないと命狙われそうだったし」

 と旭が苦笑。桜は

「そこらの『侵略者』と戦うときよりよっぽど本気ですもんね」

 と笑う。それを聞いたリサは、はえーと間抜けな声を出して圧倒されていた。

 ルイ先輩が俺に言った。

「ジンに言うことじゃないけどさ。やっぱりそういう、戦いの経験とか記憶とかって武器になるんだよね。はやく記憶戻るといいね」

「……あの先輩」

「ん?」

「先輩はスペシアとか……」

 ルイ先輩は軽く笑って教えてくれる。

「俺は持ってないよ。腕っぷしと多少のAB量だけ。てことでジンも今からやれば俺ぐらいにはなれるから、がんばれ」

「はい……」

「大丈夫」

 ルイ先輩が言う。

「たとえ記憶がなくても、今やっていることはそのうち確実に『武器』になる。記憶を取り戻した後も、取り戻せなかったとしても」

「……ルイ先ぱ」

「てことで百本打ち込みやってみよっか。湊も」

「はーい」

湊も俺も、体勢を整え直した。ルイ先輩は口調は和やかだがその実なかなかしごいてくる。俺はきつい訓練にため息をつきながらも、ルイ先輩の言葉を噛み締めた。


 訓練を終え、応接室に全員が集まると、そこにリヒトの姿がなかった。タイガが聞く。

「リヒトは?」

 ルカが苦虫を噛み潰したような顔で答えた。

「……拗ねてるんじゃないか」

「もー、まだ喧嘩してるのー」とアリアに野次を飛ばされて、ルカはバツの悪そうな顔をする。なるほど、昨日あの後も一悶着あったのだろう。

「……と、とにかく、次の任務の話だ。次はA級だ。アリアさん、ルイさん、タイガ、リサ。それと、桜と湊。ためしに行ってみてくれないか」

 リサは呼ばれて驚いた顔をする。その表情は「なぜ私が?」とでも言いたげである。桜と湊もえ、という顔をした。旭がいないからだろう。

 対照的にタイガとアリア先輩、ルイ先輩ははい、と返事する。ルカが行かないことが意外だったが……。と思っているとルカが説明してくれた。

「まあ今回はA級だから……実力者で固めた。リサはまだ入ったばっかりだけど、援護担当だからどうにかなると踏んだ。私は少しこちらでタスクがあるから今回は行かない」

 俺、ルカ、マリン、旭、そしてリヒトが今回の留守番組ということだ。ルカが連絡事項を続けた。

「そして……急かもしれないが明日の放課後決行だ」

「明日?! 明日ってそりゃまたほんと急な……」とタイガ。ルカは続けた。

「まあ切羽詰まっているんだろうな。そういうこともある」

「月一ぐらいなんじゃないんですか?!」

 俺が聞くと、アリア先輩が教えてくれた。

「まぁ目安だものねぇ。そういうこともたまにあるの」

「そういうもんなんですか……」

「奴らは生き物だから」

 でも大丈夫、とアリア。

「私たちは死なないわ。強いから」

 そう言ってにっこりと笑った。強い先輩が羨ましくなって、ルイ先輩の時も思ったけれど、遠いなあ、と思う。ずっと遠くに、背中がある。見えてすらいない感じがしてもどかしい。ルカが言った。

「ここで解散だ」

 皆が散り散りになって行く時に、旭に呼び止められた。

「なあ、ジン」

「どうしたの? 旭」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ジンって__」

 と、リヒトが部屋に入ってきた。その場にいたのは旭、俺、そしてルカだけだった。よりにもよってなメンバーに少し戦く。彼は言った。

「……俺、選抜隊辞めたいんだけど」

「は?!」

 ルカが素っ頓狂な声を上げた。俺も旭も驚いて顔を見合わせる。ルカがちょっと、と焦ったように聞く。

「話が見えないんだけど」

「……昨日思った。この組織は俺の考えには合わないから、抜ける」

「リヒト、俺のせいか?」

 俺が慌てて口を挟むと、リヒトは苦々しい顔をした。

「……嫌な言い方だな。そういう所もお前とは合わない。……お前だけじゃない。全体的にだ」

「だからって逃げるのかよ」

「逃げるんじゃない。俺自身を守ってるんだよ」

「……ジン、いいから。……リヒト、話は分かった。本当にいい?」

「ルカ!」

 ルカがそう言ったのに俺は驚く。

 口出しをする権利などないとは分かっていながらも、それでも止めずにはいられなかった俺とは対照的にあっさりと納得するルカに俺は釈然としなかった。だがリヒトは表情を消して頷いた。

「……そうだ」

「……じゃあ書類とかはまた今度……。とりあえずもう帰ってもいい」

 じゃあ、と言って出ていこうとするリヒトを、俺は追いかけようとすると、ルカが叫ぶ。

「いいから!」

「でも!」

 ジン、と旭が俺を呼んだ。俺は悔しくて仕方がなかった。何に対してかはわからないけれど。旭は言葉を続ける。

「確かにリヒトの言う通り、リヒトの意志を優先すべきだ」

「……そんなの」

「だが俺はお前も『お前の意志』を尊重すべきだと思う」

 旭の顔をぱっと見ると、微笑んでいた。

「行きたいなら行った方がいいと思う」

「……ありがとう旭!」

 俺はとりあえずそう言って、リヒトの元へ向かうことにした。ルカはもう止めなかった。ハコはボソッと「相変わらずの人良しだな」と笑っていた。

うららです。

テスト終わってやっと書けました。

たのしい。

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