表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【改題】俺が付き合っていないはずの幼馴染と何故か同居して結婚した話

作者: 43番

「ねえ、京太郎。何も言わずにこの紙に名前を書いて」



 俺、鰐塚わにづか京太郎はテーブルの向かいに座っている女から一枚の紙切れを差し出された。紙には女の名前が書かれており、その横には空欄がある。女は空欄を指差してさっさと書くように促している。だが、俺の胸中には戸惑いしかない。何故なら…



「お、おい。リナ…これってもしかして…」

「もしかしなくても見れば分かるでしょ?」

「い、いやそういう問題じゃ…」

「いいじゃん。連帯保証人とかじゃないんだから。別に悪いものじゃないでしょ」

「いやいやいや!!よく見ろ!何て書いてある!?」



 俺は紙切れの一番上に書かれた文字を指差して眼の前の女こと、追手門おうてもんリナに訴えた。俺の訴えが理解できていないのかリナは首を傾げている。痺れを切らして俺は紙切れの文字を音読した。



「婚姻届だ!!分かるか?こ・ん・い・ん・と・ど・け!」

「うるさいな、そうだよ。それが何か?」

「いやいやいや!俺たち、付き合ってないだろ!?今の今までそんな話聞いたこと無いが??」

「今から始めれば問題ないでしょ?」

「はあああ!!?」

「大丈夫。もう証人欄は名前書いてもらったから」

「えっ……って、何で俺のお袋の名前が書いてあるんだよ!しかも、もう一人リナの親父さんだし!」

「後は京太郎だけだよ」

「だーかーらー!」



 俺は頭を抱えた。今の混沌とした状況を整理するにあたってまず一から説明せねばなるまい。


 俺とリナは幼馴染だ。お互いの両親が友人同士だったこともあり、家族ぐるみの付き合いをしていた。そのためリナとはある意味兄弟ともいえる関係であり、はっきりいってしまうと恋愛感情を抱いたことはかつて一度足りともない。


 それは俺だけではない。リナもきっと同じであろう。というのも彼女とは小中高と一緒だったが、学校にいる時は敢えてお互いに避けるようにしていた。あくまでも友人としての関係は続けていたが、それ以上は望んではいなかった。それにお互いに別々の相手とお付き合いだってしていた。


 しかしながら…幾らお付き合いできたとしても長く続けることはできなかった。最終的に俺は付き合っていた相手から振られることが多かった。その時の常套句がこれだ。



「鰐塚君には私よりも追手門さんの方がお似合いだと思うよ」



 ふざけるな。そんな訳があるかい。俺は一度としてリナに恋愛感情なんか抱いたことないっつーの。


 一方のリナはというと黒髪のボブカットでキリッとした目をした色白のクールビューティーだったこともあり、常に誰それから告白を受けてはお付き合いをしていたらしい。だがリナの方も長く続かなかったようでリナから振っていたようだった。その時の常套句はこれらしい。



「私よりもお似合いの人がいると思うよ」



 あくまでも本人談だ。どこまでが本当かは怪しい。しかしそんな態度を取りつつも人気は衰えなかったようでなんだかんだで高校卒業までは男が途切れることはなかった。


 なお語弊があるようで申し訳ないが、彼女はいかがわしいことをしていた訳ではない。あくまでも健全な範囲内でのお付き合いであることを説明しておきたい。


 さてそんな交わるようで交わらない俺たちだったが、大学進学をきっかけに大きく関係性が変わることとなる。



「お互い近くの大学に進学するなら同居しよっか」



 高校卒業間近に放たれたリナの一言に俺は飲んでいたコーラを盛大に吹き出した。動揺してむせ返る俺に対してリナは平然と物件情報をまとめたファイルを俺に押し付けてきた。この中から気に入った物件を教えてほしいのだそうだ。



「お、おい?正気か?幾ら近くの大学に通うからとはいえ、同居!?何考えてるんだ?」

「いいじゃん、家賃折半できるし。シェアハウスといえばカッコいいし」

「そういう問題じゃない!俺たちお付き合いとかしてる訳じゃないだろ?」

「それが何か?」

「いやいやいや!親御さんはいいのかよ!勝手に決めて大丈夫なのか?!」

「大丈夫。もう京太郎のお母さんとも話ついてるし、ウチの両親ともノリノリだから」

「はあああ!!?」



 思えばリナは昔から強引だ。良くわからん内に俺とリナは同居する流れになった。同居するといっても恋愛感情はないので、それ以上深い関係になることもなかった。あくまでも友人…というか熟年夫婦に近いのかもしれない。夫婦………自分で言っていて頭が痛くなってきた。とにかく俺とリナは恋人同士ではない。幼馴染であり同居人という関係だけなのだ。


 ……………



「で、何が問題なの?」



 此処で話は現在に戻る。リナはまだキョトンとしている。今の俺の動揺が分からないのか?そもそも前提からして間違っている。



「あのさぁ…幾つか確認したいんだけど」

「何?」

「どうして俺なんだ?」

「だって昔から知ってるし、悪い人じゃないし。ウチの両親とも面識あって仲良いし」

「そうだけどさぁ…だとしても俺はリナを恋人として意識したことなんて今までないぞ?」

「だから今から始めればいいって。今までプラトニックな関係だったんだから」

「いやいやいや!」

「何が駄目なの?私のことが嫌いなの?」



 リナの口調が変わった。どうやら彼女の我慢が限界を迎えたらしい。リナは突然俺の横に座ると俺の肩にもたれ掛かり、俺の胸を触った。リナのいきなりの行為に俺は激しく動揺し、全身の温度が一気に上がっていく。顔が紅潮していくのが否が応にも分かる。こんな姿をリナに見られるなんて…


 ふとリナの方を向くと目が合った。良く見ると彼女の顔も少しずつではあるが赤くなっているように見える。何ともいえない気まずい沈黙だけが部屋の中に漂う。そんな空気を打ち破ったのはリナの一言だった。



「ねえ…これでもまだ好きだって感じない?」

「えっ…?」

「何で今まで色んな人と付き合っても長続きしなかったか教えてあげるよ。京太郎も私も両思いだったからだよ。高校の時まで私は否定していたけど、色んな人と付き合ってみて分かった」

「何が?」

「やっぱり京太郎といる時が一番落ち着く。何ていうか自然になれるというのか。一番居心地がいいんだよね」

「それって家族って意味なんじゃ…」

「そうだとしても同居なんて選択しないよ」



 リナに諭されて俺は何となく今までの自分の行動を振り返ってみた。確かに思い当たる節は幾つか、いや相当ある。俺は「友人」としてリナと付き合っていたが、端から見たら恋人同士としか思えないことをしていたり、無意識の内に付き合っていた女性とリナを比べていたりもしていた。今考えると何と愚かで浅はかなことか…。

 俺は自分自身を騙していた。今のようなリナとの「友人」関係が壊れることを恐れていたんだ。でもリナは違った。今までのリナの強引な行為もあからさまなアプローチだったのだ。それに気づかず、いや俺は見ない振りをしてごまかしていた。何て失礼かつ傲慢な行為であるか。今更ながら反省すると共に顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた。



「分かった…」



 俺は覚悟を決めてテーブルに置かれた婚姻届に自分の名前を書き入れた。俺が名前を書いたことにリナは目を丸くしたが、すぐに俺の横から抱きついた。俺はバランスを崩して床に倒れそうになる。



「良かった!これで私たち夫婦だね!」

「お、おう…でも役所で受理されないとまだ夫婦じゃないぞ」

「よし今から行こう」

「おう。…え?」



 リナはとびきりの笑顔を見せるとすぐに立って外出の準備を始める。リナの表情を見た時、俺は久しぶりにリナの素直な笑顔を間近で見たような気がした。そしてリナに抱きつかれたことを思い出して、また顔が火照ってくる。



「京太郎行くよ。その格好でいいの?」

「おいおい焦り過ぎだろ。別に大安とか日を改めてからでも…」

「私婚前交渉はNGだから、今出しに行くのならすぐにできるよ?」

「ブッ!!」



 リナの大胆な発言に俺はむせ返る。いきなり何をいうのか。

 俺は深呼吸をして無理やり自身を落ち着かせると、急いで支度をしてリナと一緒に部屋を出た。そして部屋を出ると同時にリナが腕を絡ませてくる。



「いきなりこれは早すぎないか…?」

「いいじゃん、これでも待った方だよ?」

「…………すみません」

「分かればいい。これから私は鰐塚リナね」

「だから届け出は今からだって…」



 かくしてリナは俺の幼馴染であり同居人であり、恋人であり…そして嫁になった。

ご一読ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに違和感あっても内容が面白いから+-で考えると+なのでセーフ。交際期間0分とかある意味うらやましい。
[一言] 「俺が」ではなく「俺と」じゃない? もしくは「俺が」を消す 消した方が一番しっくりくるけどね
[気になる点] タイトル見て「幼馴染と同居してる子」と結婚したのかと思った
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ