22
「奥様!大変です!」
犬のように駆けてきたゼムリャが扉を勢いよく開けた。外は大雪で、部屋の中さえも暖炉があろうと寒いと言うのに。元気そうなその手に握られている封筒を渡されて開けると、内容に唖然としてしまう。
「グライフ王国で正式に、王子が私に謁見したいですって!?」
「封筒からしてとっても立派な人からのだって思いましたが、まさか奥様が翻訳大賞を取るなんて」
ゼムリャも隣から手紙を覗き込んで、嬉しそうに拍手した。寒空が広がる外の景色に滅入りかけていたけれど、もはや手はわなわなと震えていた。グライフ王国から来た一通の手紙は、私が訳した本が正式に国に認められるという報告。
今まで翻訳の仕事というのは男性がするものだった。そもそも言語学という学問は外交のために作られた部門であり、女性は男性に従属していることが礼儀とされる人間社会において、そういう教育は女には無駄である。という偏見がいまだに残っている。それが、私が女性で初めての賞を受賞することによって、大きく変わろうとしている。
「やったわ……これは、これは快挙よ!!」
興奮した私はそのまま廊下を抜け出すと、すぐに支度をする。
「えと…シンシア様?」
「ゼムリャ、早く準備するわよ。国が私を呼んでるの!」
冬の始まりは、心躍る授賞式からだ。




