文化祭
文化祭、重要なイベント。俺の大学と陽樹の大学は同じような時期に文化祭がある。どちらも大忙しだ。
ある程度の作業が終わって一息ついていたら、杉山に声をかけられた。
「なぁ、藤花。カフェやろうと思うんだけど、試飲して。」
「俺は、実験台じゃない。」
「わかってるって。危険なものは入れてないから。家帰ってから飲んで。」
渡されたのは、色がショッキングピンクの液体。明らかに飲んだらまずいとわかる。
「返す。」
「困るってお客さん。な?本当に大丈夫だから。親友に劇薬入れるわけ無いだろ。家で飲んで感想聞かしてよ。」
仕方ないか。陽樹と仲介してくれた貸しがある。
陽樹の方も文化祭で大忙しらしい。何やらメイドカフェをやるらしい。
「なんか僕男だけどメイド服渡されて……。あんまりこういうの着たことないから似合ってるか見てほしい。」
絶対似合うに決まってる。
「こんな感じだけど。」
可愛すぎる……。予想を遥かに上回ってくる。綺麗な模様をあしらった和服。頭の上に申し訳無さそうに生えている猫耳。赤らめている顔。すべてが絶妙にマッチして完成されている。メイドは彼のために作られたのではないかと思う。反則だろ、破壊力が凄まじい。流石にこれを公にさらすのは恋人として容認できない。
「に、似合ってるよ。す、すごく可愛い。で、でもちょ、ちょっとハレンチすぎるかな。俺はやめたほうがいいと思う。」
動揺を隠しきれない。
「うん、わかった。明日言ってみるよ。」
「あっ、でも俺の前だけでは見せてほしい。」
欲求が溢れてしまった。
「欲張りさんだな〜。」
そう笑って言って陽樹は振り返ると、後ろにしっぽがピンとたっていた。可愛すぎん?
そういえば、俺も杉山から飲み物をもらっていた。何も入れてないって言ってたし一様大丈夫だろう。死にはしない。ほぼ一気飲みした。やっぱり大丈夫か、と思っていたら頭がだんだんぼんやりして、体が熱くなってきた。それになんだか陽樹に抱きつきたくなってきた。
「着替えてきた。て、大丈夫?顔赤いよ。風邪引いた?」
「へ?もうわかんない。こっち来て。なんだか体が熱くて溶けちゃいそう。」
俺は何も考えられずに陽樹にハグ、キスをした。その後は覚えていない。朝起きたらまた全裸そして隣に陽樹。もしかしてまたやっちゃった?
「おはよう。陽樹。」
「おはよう。諒太。昨日何かあったの?熱は治まった?すごく熱かったよ。」
ぜんぜん記憶にないんだが。
杉山に問い詰める。
「おい、あの飲み物はなんだ!?飲んだら体がおかしくなったじゃないか。」
「でも伊月とお楽しみだったんじゃないか?」
「……なんでそれがわかるんだよ。」
「実は、藤花くんが飲んだのは超即効性の媚薬でした〜。薬学部に入っていて良かったと思った瞬間やな。」
恥ずかしさに耐えられそうになかった。俺は杉山に殴りかかろうとした。
「落ち着けって。お前は気持ちよくなった。それで俺は結果がわかった。ウィンウィンだぞ。」
「俺は十分落ち着いてる。ウィンウィンだろうが俺を騙したことに変わりはない。」
杉山は笑う。
「首のキスマーク見えてるぞ。」
俺は慌てて首を隠す。
学園祭当日。俺は学園祭実行委員のため午前中は校舎内を点検しに回っている。午後からは自由だ。
陽樹とは校門前で待ち合わせしている。
「ごめん今シフト終わった。」
「お疲れ様。じゃあ、一緒に回ろう。」
学園祭デート。こんなことが実現するとは夢にも思っていなかった。
一緒にゲームをして、展示を見て、屋台で食べ物を買う。
一人で待っていると、
「ねぇ、そこのお兄さん。一緒に回らない?」
女子大学生が話しかけてきた。髪は茶髪できれいにカールしている。
「ごめん。一緒に回っている人がいるし、俺と回ってもつまらないよ。」
「いいじゃん。その子と一緒に回りたい!」
「いや、それはちょっと……。」
対応に困っていると、
「駄目って言ってるじゃん。ね、行こ。」
陽樹がそう言って、結構強めに俺を引っ張った。
「諒太はその、イケメンなんだからもうちょっと自覚持ってよ。」
怒られているのか褒められているのかわからない。
ああ、尽きることのない幸せをを感じる。ああ、こんな時間が続けばいいのに。
「藤花先輩すいません。思ってたより来客人数が多くて色々と手一杯で。今暇でしたら、手伝ってくれませんか?」
後輩が俺に声をかけた。確かに午前中も結構な人だったけど、午後ならなおさらか。手伝ってあげたいんだが、陽樹との約束があるし。
「僕の事はほっといてもいいから。手伝ってあげて。」
陽樹は耳元で囁いた。仕方ないか。陽樹をおいていくのはなんだか嫌だったが、大学のためだし。
「いいよ。手伝う。」
後輩は向日葵のような笑顔で感謝した。
「ごめん、陽樹。」
「いいよ。」
陽樹は手を振りながら見送ってくれた。
「ちなみに藤花先輩。さっきの人って誰ですか?めちゃくちゃ親密そうでしたけど。」
「秘密だよ。」
結局、仕事が片付いたのは学園祭終了間近だった。
「お疲れ様でした。本当に申し訳なかったです。」
「いやいや、大丈夫だよ。来年は頼られる側になるようにね。おつかれ。」
さて急いで陽樹を探さなくては。
「お疲れ様。」
陽樹は校門前で待っていてくれた。
「陽樹!本当にごめん。ほとんど一緒に回れなくて。」
「大丈夫だよ。大学で頑張ってたらそれで満足だよ。あと必死に頑張ってる姿……かっこよかった。」
疲れがすべて吹き飛んだ。回復力が半端ない。
帰ってくると、俺はすぐに沈むようにソファで寝てしまった。流石に陽樹に癒してもらっても身体的な疲れは取れなかった。
どれだけ寝ていたのだろうか。深い眠りから覚めると陽樹の膝の上だった。膝枕!
「よく寝たね。」
「ご、ごめん。俺だけ寝ちゃって。」
「良いよ。ご飯もう作ってあるけど。それともこのまま堪能する?」
「……堪能する。」
陽樹の膝枕をもっと味わいたい。その後耳掃除をしてくれた。幸福の一文字。