同居
陽樹と付き合い始めてしばらくして、陽樹の家で同居することになった。両親には、友達の家に住む、とだけ言っておいた。あまり、迷惑かけないようにね、と母は言った。
必要最低限の荷物をまとめても、かなりの量になった。陽樹は、その荷物を見て、少し驚いていた。
「ここの部屋が、藤花………、諒太の部屋だから、自由に使っていいよ。」
下の名前で呼ばれるのは、なんだか、落ち着かないし、恥ずかしい。俺は、う、うんとしか言えなかった。
荷物を適当に分け整理したところ、陽樹が
「夜ごはん。どうする? 僕が作ろうか?」
陽樹の手料理! 夢の一つだった。
「食べたい!」
あまりに食べたくて、興奮してしまった。
「あまり、期待しないでほしいな。」
陽樹は、親子丼を作ってくれた。正直言って、絶品だった。ふわふわでとろとろのたまごに、味が染みた鶏肉、ご飯が出汁を吸って素晴らしい食感になった。美味し過ぎて、「美味しい」以外の言葉が見つからなかった。
「ありがとう。いつも一人だから褒められることなくって。嬉しい。」
陽樹は、顔を赤らめたまま言った。
親子丼を夢中になって食べていると、陽樹が突然、
「諒太郎、ごめん。」
謝り出した。少し涙を目に浮かべながら。
「ど、どうしたの? 何か嫌だった? 迷惑だった?」
俺は、陽樹を嫌な気持ちにさせてしまったのかと思って、慌てて言葉を発した。もう二度と絶交なんてしないために。
「僕が頑固だったから、今までずっと諒太郎を苦しめちゃった。なのに、諒太郎は全然傷ついていないふりして、僕の心配ばかりしてくれて。だから……。」
俺は、陽樹の唇にキスをした。全部、俺のせいだし、これ以上陽樹が自らを責めるのを、やめてほしかった。陽樹の唇は、紅色で、やわらかく、しっとりしていた。ほのかに親子丼の味がした。陽樹は最初、驚いていたが、目を瞑った。こんなにも陽樹と顔を近づけたのは初めてだろう。こういうのが幸せというのだろうか。だんだん、口の中に舌が入る。頭がぼんやりしてくる。だんだん体から力が抜けていく。